・100年に一度の大不況だそうだ。最初は日本にはたいした影響はないという予測もあったが、GDPが年率で12%も下落という事態で、対岸の火事どころではなくなった。原因をつくったアメリカでは、新大統領のオバマがさまざまな手を打ち始めている。その中に、「グリーン・ニュー・ディール」ということばがあって、ネーミングに興味をもった。
・「ニューディール政策」は大恐慌に対してフランクリン・ルーズベルト大統領がとった政策の総称で、公共事業の他に、市場主義を制限して国家が介入すること、労働時間や賃金についての法制度の整備や社会保険の制度化などが有名である。不況は実際には、第2次大戦の勃発による軍需景気で解消されているから、本当のところどの程度の効果があったのかは定かではないといわれている。けれども、市場経済に対して国家の監視が必要であること、国民の仕事や生活を守ることを主眼に置いたことなど、第2次大戦によって疲弊した西側諸国が戦後の政策に取りいれた部分も少なくない。
・国家が経済を管理すれば、自由な成長には足枷になる。社会保障や福祉制度の充実は、国の財政負担を重くする。そんな停滞状況を打破するために出てきたのがアメリカのレーガン大統領とイギリスのサッチャー首相で、そこから、国ではなく民間主導の市場主義という流れがはじまった。ここにはもちろん、ソ連や東欧の共産主義の崩壊という要因もある。日本でそれを積極的に進めたのが小泉首相だった。それで確かに、経済は活気づいた。ところが、マネー・ゲームの加熱によって起こったのが、今回の大不況である。
・経済の落ち込みによって一番影響を受けているのは自動車産業で、アメリカのGMもフォードも破産寸前の状態にあって、生き残るためには国からの財政支援が欠かせない。トヨタもここ数年の黒字から一転して大赤字で、他の自動車メーカーも同様か、もっと深刻な状況にある。輸出の柱だった家電も同じ状態だから、日本の経済状態はそれこそ、お先真っ暗という他はない。であれば、この不況を乗り越える策は、落ちこんだ消費をどうやって回復させるかということに尽きるのだが、そうとは言えない大きな課題がもう一つある。地球の温暖化や環境破壊、あるいは資源やエネルギーの問題を早急に改善させなければならないというテーマである。
・これまで、こういった議論は、省エネや循環型の再生可能なエネルギーの開発、太陽や風といった自然からのエネルギーの利用などに限定される傾向にあった。しかし、本質的な問題は、資源やエネルギーを使い放題にして消費を拡大してきた傾向や、豊かさや便利さの追求を最善の目的にするライフスタイルを変えることにあって、その意味では、消費の大きな落ち込みこそ、変革の好機といえる。少なくとも日本では、この消費の落ち込みが、必要だけど我慢するとか、買えない、というのではなく、買うのをちょっと控えようといった気持の結果であることは間違いない。「もったいない」という気持が、倫理感ではなく、素直な生活感として出ているのだから、それをまた、消費欲求や行動にもどす必要はないはずで、経済の回復とか雇用の増大は、資源や環境を考えたものとして見直していく必要があるはずである。
・不況のなかで一番の課題は、雇用を確保するということにある。しかし、さして必要ではない道路や鉄道の建設といった公共工事ではなく、また自動車や家電といったモノでもなく、流行によって消費を促進させる衣料でもないとしたら、いったい何があるだろうか。高齢化社会に必要な仕事、医療のなかでの人間的な関わり、つまりコミュニケーションを本業とする仕事、新しい農業や林業、そして環境を監視し保全する仕事………。
・今は、これらを本気になって考える絶好の機会だと思うのだが、政治家の口からはこんな発言は全く出てこない。去年北海道でやった「環境サミット」はなんだったのか、と今さらながら、白々しい思いがする。もっとも、アメリカがオバマ大統領の政策のもとで、資源やエネルギーを浪費しない国になるだろうかと考えると、それはそれでまたほとんど信じられない気になってしまう。その意味では、景気は中途半端に回復しない方がいいのかもしれない。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。