・唐突に菅内閣を不信任する動きが起こり、民主党内からもそれに賛成する発言が噴出して、一気に衆議院に提出されて決議という事態になった。震災の復興も、原発事故の対応も全部ダメだから、今すぐ内閣を変えるべきという大合唱で、一時は決議が成立して衆議院が解散するのではという方向になった。当日になって流れが急展開して、菅内閣が近く退陣することで、民主党の議員の大半が反対し、決議案は否決された。
・テレビや新聞はどこも、政局を巡って争っている場合ではないと批判をし、政策をぶつけ合う必要性を力説していた。被災地の人たちにマイクを向け、怒りやあきらめの声を聞き出して、政治家の身勝手さを叱責させるのはわかりやすいが、メディアのどこからも、今はっきりさせるべき政策について、明確な指摘は見当たらなかった。
・しかし、今、菅内閣を倒さねばならない理由は、いったいどこにあるのだろうか。復興の遅れや原発事故処理の不手際は、首相が変われば改善されるとは思えない。そもそも、次に誰を首相にしようというのだろうか。1年ごとに首相を変えて、次は6人目となる。国民がそんなことを望んでいないのは、最近の世論調査でも明らかだ。だとすると、この時期に唐突に不信任決議が出てきた裏には、出所も狙いも明らかな理由があるはずなのである。それは、5月に管首相が発言した原発や電力についての政策と、それに反発する原発推進派議員の最近の動きを確認すれば、はっきりしているように思える。
4月4日 自民党原発推進派「エネルギー政策合同会議」(朝日新聞5月5日記事)
26日 チェルノブイリ事故25周年
5月6日 菅首相、浜岡原発4.5号機停止要請
10日 菅首相、エネルギー政策見直し発言
16日 森喜朗元首相、大阪市で内閣不信任決議案について発言
18日 菅首相、発電送電分離発言
24日~29日 管首相G8サミット出席(エネルギー基本計画、原子力安全基準強化発言)
24日 小沢、鳩山、輿石3者会談で政府を批判
28日 小泉元首相、脱原発提唱
30日 小沢一郎、脱原発宣言(AERA6月6日号)
31日 地下原発議連勉強会
6月1日 自公不信任決議案提出
2日 不信任決議案否決
・世論が原発反対に向いているときに表だって政策論争はできないが、現政権が世論を後ろ盾に脱原発政策に舵を切ることは阻止したい。原発を推進してきた議員やその後ろで後押しする企業や官僚、そして研究者などが、菅首相の発言に危機感を持つのは当たり前のことだろう。興味深いのは不信任決議案で揺れている時期に、「地下原発議連」という聞き慣れない集まりの勉強会が開かれ、森喜朗、安倍晋三、谷垣禎一、平沼赳夫、石井一、鳩山由紀夫、亀井静香といった人たちが党を越えて参加したというニュースだ。人類が経験したことのない原発事故の処理にめどが立たない時に、それでもなお原発に執着しようとする政治家が、元首相や党のトップにたくさんいるというのは、もう絶望的な事態だという他はない。
・他方で、小泉元首相の脱原発の発言や、小沢一郎の「脱原発宣言」(AERA)もあるが、小泉元首相は2006年に「原子力立国計画」を策定し、1982年に建設された原発耐震研究のための多度津工学試験場を「国費の無駄」と称して廃止したとされている。また、民主党が「過渡的なエネルギー」と位置づけていた原発を「基幹エネルギー」として位置づけなおしたのは、小沢一郎が代表だった2007年である。その自分が進めた政策についての反省や検証もなしに脱原発などと発言するのは、余りに無責任というほかないだろう。
・いずれにしても、今国会で激しく議論すべきのなのは、原発の是非であり、電力政策の転換についてであって、首相の首のすげかえでないことは確かなはずだが、新聞もテレビもけっして、そのことを声高に主張はしない。だからこそ思うのだが、菅政権は「エネルギー政策の見直し」を実行し、自然エネルギーの普及や、そのために不可欠な「発電送電分離」といった政策を法制化するところまでがんばるべきなのである。鳩山元首相の普天間基地問題の二の舞だけは避けて欲しい。バカだのぐずだのといった罵声には、聞く耳を持つ必要はないのである。
P.S.この文章をアップした後に、東京新聞が3日に「菅おろしに原発のかげ」という記事を載せていたことを知った。その記事を転載してコメントしているブログ「あしたのために 活動日誌」を参照。