・この違いは第一にマスメディアの取り上げ方にあった。直接演説会場に行かなければ、ネットでアクセスしなければ、都知事選が行われていることにほとんど気づかない。しかしネットで追っかけはじめれば、演説だけではなく、さまざまな情報が飛び込んでくる。中でもにぎやかだったのは脱原発を訴える候補の一本化だった。
・前回宇都宮候補を支援した人の中には、惨敗をした人をもう一回立てても勝てるわけがないと細川支持を表明した人もいる。他方で、今回も宇都宮支持をする人もいる。この股裂き状態を改めて一本化する動きもあって、何度も試みられたが、うまくいかなかった。お互いの間に誹謗中傷合戦めいたものもあって、大きなうねりにはならなかった。
・相手が公私にわたって問題の多い桝添だった。その桝添候補については「舛添要一を都知事にしたくない女たちの会」が終盤になって落選運動をはじめたりもした。その会が作ったポスターには桝添がこれまでに発言したこと、議員や大臣として行ったことが列挙されていて、僕はこのポスターを紹介しながら「男だって知事にはしたくない」とツイートした。ネットがすごいのは、そのポスターに載っている発言がYouTubeやグーグルで見つけたブログですぐに確認できることである。街頭演説で笑顔を振りまき、福祉や介護や託児所を充実させると言っても、それが口から出任せであることはすぐわかる。
・僕は都民ではないから投票権はない。だから都が抱えている問題について、各候補者が何を言っているかについてはあまり関心がなかった。しかし、原発の再稼働の準備を進める安倍政権に対してブレーキをかける役割として、小泉元総理の脱原発宣言と細川元総理の都知事出馬宣言には、一筋の光明を見つけた思いがした。二人の元総理が立ち上がれば、原子力村を大きく揺さぶることができる。選挙を追っかけた理由は何よりそこにあった。
・結果は桝添候補の勝利だったが、政治の流れが変わりはじめるきっかけはできたのではないかと思う。最終日の新宿東口での最後の演説で、細川候補と小泉元首相は、選挙で感じた力を受けて、これからも脱原発の運動を続けると宣言した。ネットが解禁されて選挙がおもしろくなった。街頭演説会にも大勢の人が集まった。それが結果に結びつかないのは、組織票の強さ以外の何物でもない。投票率の低さはマスメディアの選挙隠しが原因だろう。もちろん、20年ぶりという大雪のせいもある。
・結果から見れば、ネットの力はまだまだだと言えるかもしれない。しかし、回を重ねれば、ネット選挙の力が増して、従来の選挙のやり方が通用しなくなる日が来るかもしれない。国政選挙までの地方選挙で、「脱原発」を争点にくり返し戦って欲しいものである。