・脱原発を全面に掲げる候補者は二人いる。前回の知事選に出馬した弁護士の宇都宮健二と総理大臣経験者の細川護煕だ。宇都宮候補は真っ先に手を挙げて、前回とほぼ同じ政策を掲げているようだ。サラ金問題などで被害者側に立った地道な活動をしてきた人で、人間的にも行動力から言っても、知事として適任だと思う。ただし、前回の選挙では大差で負けているから、今回も勝つのは難しいかもしれない。
・一方細川の出馬の噂を聞いたときには唐突な気がした。政界から遠のいて、絵を描いたり陶芸をしたりして、悠々自適な生活をしている。何と言っても高齢で76歳になる人に知事の仕事が勤まるのだろうかと疑問を感じた。ただし、細川を担ぎ出したのは小泉元総理で、彼はしばらく前から原発の怖さを訴えていたから、二人がタッグを組んで本気で戦えば、勝てるかもしれない。そんな印象を持った。
・危機感を持った自民党はさっそく、原発問題は都知事選になじまないとか、佐川急便からの借金問題を蒸し返したりして、躍起になっている。世論調査では自公が推薦する桝添候補が圧倒的にリードしているというニュースもある。脱原発を支持する人たちの中には、細川に一本化をすべきだと動いた人もいたようだが、うまくいかなかった。選挙戦に突入してからだって、その可能性が消えたわけではないが、少なくとも、お互いの中傷合戦だけはして欲しくないと思う。
・細川候補の演説を聞いて、まるで大学の講義のようだと思った。静かで、考えながら、訥々と話す。対照的に応援弁士の小泉は時に絶叫し、派手な身振り手振りで人を引きつける。小泉が候補になった方がメディアも注目して確実に票が集まるだろう。しかし、僕は細川の演説に、日本の政治家にはほとんど伺うことができない政治哲学を聞いた。現実をしっかり見据えた上での将来に向けた理想やビジョンがある。そのことに感心した。
・細川候補は「脱原発」を第一に掲げる。それを「ワン・イッシュー」だと批判する声がある。東京都にはもっとさまざまな問題があるから、脱原発だけでは知事の公約にはならないというのだが、彼にとって「脱原発」は、掲げる政策の出発点にあるもので、そこから、脱原発後の経済や社会の仕組みを考えるという発想だ。それは、100年後には人口が半減すると予測されている日本の将来像を、それに沿ったものに組み変えようという提案である。
・経済発展や物質的な豊かさをさらに求めるのではなく、経済や生活の質を重視する。そんな政策を本気になって訴えて立候補しているところに、僕は彼の本気さを感じ取った。それは、冷静に考えれば至極当たり前な考えだと言える。男の平均寿命に達しようかという彼が、50年後、100年後、あるいはもっと先を見据えた社会のあり方、そして個々人の生き方や生活の仕方といった「ライフスタイル」の変革の提案を政治の方針として掲げているのである。
・もっとも、そんな主張は悠々自適に暮らしてきた趣味人の考える絵空事だと思われているのかもしれない。しかし、景気をよくする、社会保障を充実させるといった口先だけの、目先の公約こそが、絵に描いた餅であることを、もういい加減に気づいて欲しいものだと思う。今日本の政治に必要なものは哲学と倫理を置いてほかにはない。それは、自分の生き方や生活の仕方に関わるものでもあると同時に、グローバルな問題にも関係することでもある。
・さて、こんな提案を都民はどれほど本気になって受け止めるのだろうか。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。