・ジェフ・ブリッジスは目立たないけど、渋い役柄をこなす俳優だ。その彼がアカデミーの主演男優賞を取ったのが『Crazy Heart』である。NHKのBSがアカデミーを取った映画を昼間放映していて、たまたま見た。かつては人気だったカントリー・ミュージシャンの悲哀をテーマにした映画である。主演が誰なのかもわからずに見始めたから、最初登場したときはクリス・クリストファーソンかと思った。
・主人公のブレイクはテキサスやニューメキシコの小さな町を自分の車で一人巡って、ボーリング場の一角やバーなどで歌っている。要するにどさ回りの身だ。かつてはヒット曲を飛ばしたこともあったのだが、今ではアルバムも出ない。新曲を作ればその可能性もあるのだが、彼にはもう、そんな気がほとんどない。ウィスキーを手放さず、絶えず煙草を吹かして、めちゃくちゃな生活をしているから、体調もひどく悪い。ライブの途中で吐き気をもよおして、ステージからトイレに直行したりもしている。
・そんなストーリーに光が差したのは地元の新聞記者のジーンの取材に応じたのがきっかけだった。そして、かつては自分のバックバンドの一員で、今では大スターにのし上がったトミーの前座を渋々引き受けたことだった。ジーンと恋仲になり、その幼い息子のバディとも親しくなる。ところがアルコールが原因で彼女とはうまくいかなくなり、落ち込んだなかで歌を作り始める。それをトミーが歌って大ヒットするのである。
・ありそうな話だったが見ていておもしろかった。何より気になったのは、ジェフ・ブリッジスが吹き替えなしに歌って演奏しているところだった。ネットで調べてみると、ミュージシャンでもあって何枚かのアルバムを出しているという。クリストファーソンのような完全な二足のわらじではないが、音楽活動もしているようだ。それに絵なども描いているという。今まで見た映画では感じられなかった別の側面を見た気がした。
・で、『Crazy
Heart』のサントラ盤を買うことにした。ライトニン・ホプキンスやウェイロン・ジェニングス、それにバック・オーエンスの歌も入っているが、ジェフ自身が歌っている曲が6曲あって、弟子で今はスター役をやったコリン・ファレル自身も2曲歌っている。おもしろいのは友人でバーのマスター役のロバート・デュバルが、二人で釣りをしているときに歌った鼻歌が入っていることだ。彼女が離れたのをきっかけにアルコールをやめ、生き直すことをはじめたシーンである。
いつまでも生きるつもりだ
川を横切って
明日を掴むんだ
・この映画はアカデミーの歌曲賞もとっている。歌っているのはライアン・ビンガムで、まだ若いのにトム・ウェイツを思わせるようなだみ声だ。2007年にデビューしたというから、すぐにこの映画に使われて、アカデミーを取ったということになる。その"The Weary Kind"はなかなかいい。芋づる式に、今度は彼のアルバムを聴きたくなった。