・土曜日の昼、食事の後に寝転がってテレビをつけると『ホビット 思いがけない冒険』をやっていた。昼食の後はうつらうつらするのだが、見ているうちに引き込まれた。
・『ホビット』はJ.R.R.トールキンの作で、『指輪物語』の前作にあたるものだ。映画ではそれが原題のまま『ロード・オブ・ザ・リング』として先に製作され、大ヒットした。『ホビット』は『ロード・オブ・ザ・リング』の前史として、後から作られたものである。
・見終わった後に気になったから、アマゾン・プライムで検索すると、字幕番で続きが見られることがわかった。で『ホビット 竜に奪われた王国』と『ホビット 決戦のゆくえ』を見た。この三部作は2012年から14年にかけて製作され、公開されている。見ながら気づいたのだが、僕はこの二作目をロンドンに行く飛行機の中で見ていた。ただし、ビールやワインを飲みながらだったし、字幕もなかったから、断片的に思い出す程度だった。画面も小さかったから、面白いとは思わなかった。
・テレビで、そしてパソコンの大きな画面で見ると、壮大な風景や、コンピュータ・グラフィックスの技術を駆使したシーンの見事さに驚かされた。奇妙な、あるいはグロテスクな風体の登場人物や生き物たちは、どこまでが実写なのか、メイクなのか、そんなことに感心しながら見た。ただし、あまりにたくさんのキャラクターが登場して、その名前やいわれを覚えることができないので、原作を買って読んでみたくなった。
・『ホビット』についてはずっと前から、名前になじみがあった。1960年代の終わり頃に米軍の岩国基地の前に作られた反戦喫茶の名前だったからだ。基地に配属された米兵にヴェトナム戦争に反対することを呼びかける。マスターの鈴木正穂は息子に穂人〔ホビット〕という名前をつけた。僕は原作そのものを知らなかったから、なぜ反戦喫茶や息子に「ホビット」という名前をつけたのかは、一度も聞いていない。
・竜に滅ぼされた「ドワーフ族」が、祖国を取り戻すために「はなれ山」に向かうこの物語は、「ホビット族」のビルボの家に集まるところから始まる。招かれざる客に食べ物を食べ尽くされ、怒り心頭のビルボだが、魔法使いのガンダルフに説得されて、この冒険につきあうことにするのである。改めて原作を読むと、その映画との違いばかりが気になった。
・映画は戦うシーンの連続だが、原作にはあまりない。ホビットは身体の小さい種族で、ドワーフは毛深さが特徴だ。他に美形のエルフという種族がいて、人間という種族もいる。この冒険を妨げるのは地下に住む異形のゴブリン族やオーク族だが、映画とは違ってオーク族の存在は、原作では大きくはない。映画にはオオカミに乗ったオーク族との戦いのシーンがある。しかし原作では、オオカミだけが襲ってくるのであり、そのオオカミはことばをしゃべり、その窮状から救ってくれた大鷲もまたことばを話すのである。
・映画にはまた、原作にはない恋物語も登場する。そして、原作の魅力の中心であることばのやりとりや歌が、映画ではかなり省略されている。どれも2時間半を越える長編だが、原作のかなりの部分が省略され、勧善懲悪の物語になっている。映画と原作の違いを改めて、再認識した。
・トールキンは作家ではなく、英語学の研究を本来の仕事にしてきた。古英語や中英語、北欧やケルトの神話にも精通していて、W.モリスの作品を好んだという。この物語の中心である竜退治は、古英語の時代に書かれた「ベオルフ」がモチーフになっているようだ。『指輪物語』よりは研究者として書いたものを読みたくなった。