2017年6月5日月曜日

ユヴァル・ノア・ハラリ『サピエンス全史(上下)』(河出書房新社)

 

sapiens1.jpg・話題の本だというので買うことにした。こんな世界を作りだした「ホモ・サピエンス」〔賢い人)っていったい何なのだろう。大風呂敷を広げすぎたような本だがおもしろかった。昨年読んだ『1492』や『1493』によって、現在に至る近代という世界がどんなふうにして構築されてきたかを教えられた。しかし、実は人間はそのはるか以前から、生態系に大きな力を及ぼしてきた。言われてみればその通りだが、改めて、人類の登場以後の世界の変容の歴史を自覚させられた。

・身体的には他の動物に劣っているサピエンスが、なぜ生態系の頂点に立つことができたのか。あるいは同時期に共存し、身体的には優れていたネアンデルタール人はどうして絶滅してしまったのか。著者はまず、生き物の頂点に立って好き放題にできる状態を作りだした理由に「虚構」をあげている。それは噂話に始まり、伝説や神話になり、神を創造し、宗教を作り上げた。単独では劣っても、考えや思いを共有する人々が集団で行動すれば、それは大きな力になる。他の部族との交易や情報交換をし、集団はさらに大規模なものになった。もっともDNAの解析によれば、サピエンスにはネアンデルタールのものがわずかに含まれていて、交雑の可能性も指摘されている。

・サピエンスが登場したのは7万年前で、農耕生活を始めたのは1万年ぐらい前である。狩猟採集から農耕生活への変化は、人類の歴史の中では画期的な変化だと言われている。しかし本書では、それは食の貧困をもたらしたらしい。つまり多種多様なものを食べていた人間が、農耕生活以降はきわめて限られたものだけを食べるようになったということである。にもかかわらず、農耕生活を始めた人類は一つの社会のうえにたつ支配者を生み、共有できる神話を創造し、文字を作り、時間や季節の存在に気づき、やがて貨幣を使うようになった。ここまでくれば、現在との繋がりは見えやすくなる。

sapiens2.jpg ・本書は上下2冊に分かれている。その下巻は歴史と言うよりは、サピエンスとは何かについての考察である。サピエンスは神話や宗教といった「虚構」を通して、森羅万象を理解しようとしてきた。しかし近代科学は、まず「知らない」といった前提に立って、観察結果の集計と数学的ツールを使って説や理論を作り上げる方法だった。この大きな転回は、さらにそこで得られた見地が新しいテクノロジーを作りだすことになり、それが強大な力や金を生み出す可能性を見出すことで、国家や資本家がそこに競って資金や人材を投入することになった。

・過去500年間には、驚くべき革命が相次いだ。地球は生態的にも歴史的にも、単一の領域に統合された。経済は指数関数的に成長を遂げ、人類は現在、かつてはおとぎ話の中にしかありえなかったほどの豊かさを享受している。科学と産業革命のおかげで、人類は超人間的な力と実質的に無限のエネルギーを手に入れた。その結果、社会秩序は根底から変容した。政治や日常生活、人間心理も同様だ。(下・214ページ)

・サピエンスの歴史はおおよそ、こんなふうに描かれる。とてつもない変化で、それをシンポとか発展として考えることもできる。しかし、私たちがそれで幸せになったかどうかは確かではない。にもかかわらず、科学と資本主義が進歩や成長のスピードを緩めることはない。この本のあとがきの最後は次のようなことばで締めくくられている。「自分が何を望んでいるのかもわからない.不満で無責任な神々ほど危険なものがあるだろうか。」サピエンスだけでなく、今現在の地球に生きるあらゆる生物の絶滅に向かってまっしぐらに突っ走っている。この本には何より、そんな感想を持った。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。