・首相宛にこのコラムを書くのは7年ぶりです。前回は安倍前総理で、首相の座について2年ほどで、「集団的自衛権」「秘密保護法」「TPP」「消費税増税」「年金の減額」「介護保険制度の改悪」「残業手当の廃止」、そして「憲法の軽視」と続いた暴挙に危機感を持って書いたのですが、安倍政権はその後6年も続きました。その間に、日本はずいぶんひどい国になってしまいました。後を継いだ菅政権が’、いっそうひどい状況をもたらしましたのは言うまでもありませんが、とうとう、辞任を表明しました。
・コロナ禍はオリンピック直前から第5波に入り、最大では全国で一日に25000人以上の人が感染しました。これまでで一番大きなもので、軽症者だけでなく中等症者も入院しにくい状況に陥っています。政府はそれを「自宅療養」といったことばで誤魔化していますが、それは「自宅放置」以外の何ものでもありません。ほとんど治療を受けず、ただ家で寝ているだけの人が全国で12万人を超えました。急に重症化する人、亡くなってしまう人がたくさんいるのは明らかですが、厚労省はその実態を把握できていないようです。
・今流行している「デルタ株」は飛沫ではなくエアロゾル(大気浮遊粒子状物質)で感染すると言われています。互いに飛沫が届かない距離をとりあっても、同じ部屋にいるだけでうつってしまう危険があるのです。感染例の一番は家庭内だと言われていますから、感染して自宅に放置された人が、他の家族にうつしてしまうことは避けられないでしょう。ところが政府は、このエアロゾルを公言せずに、相変わらず、人流や飲食を共にすることによる濃厚接触の危険ばかりを訴えています。しかし、外食はするな、人の集まる所へは行くな、県をまたいだ移動はするなと言っておきながら、オリンピックもパラリンピックも強行したのですから、国民が言うことを聞くはずはないのです。
・今がこれほどひどい状況なのに、菅首相は自らの政権の維持に懸命なようでした。コロナ対策のための臨時国会を拒否しながら、衆議院解散のためだけに国会を開こうとしているなどと聞くと、自分のことしか考えていないことがよくわかりました。どんなにあがいても、菅は既に国民の信頼を失い、早くやめて欲しいと思われていたのですが、そんなことはお構いなしに、権力の座にしがみつこうとしていたのです。その最後の悪あがきは、みっともないことこの上ないものでした。
・安倍前総理について、このコラムで戦後最悪で最低の政権だと書きました。しかし菅政権は、最悪・最低をさらに更新し続けたと言えます。安倍は嘘つきで、戦前回帰のアナクロニズム(時代錯誤)の持ち主でしたが、菅は権力の座につくことだけしか能のない人で、頭は空っぽの頑固者です。そもそも自分のことばで人を説得させる能力に欠けた人間がなぜ、首相にまで昇りつめることができたのか。日本の政治がなぜダメなのかを、これほど体言した政治家は、他にはいないでしょう。
・政治家とは、自分の考える理想や哲学を演説によって人びとに訴えかけて、その支持を力に政策を実現させる人のことです。残念ながら日本には、それを得意とした政治家はごく少数でした。安倍は嘘で誤魔化すことに長けた政治家ですが、菅は演説はもちろん、嘘さえうまくつけない話し下手で、官僚の書いた原稿すら読みまちがえるお粗末な人間です。
・この後誰が首相になるのか分かりませんが、安倍がキングメーカーだなどと聞くとうんざりします。オリパラで騒いだメディアが、次は自民党の総裁選びを煽って、野党の存在感がますます薄くなっています。衆議院選挙が終わった頃には、さらにひどい第6派が始まっているかもしれません。オリパラ後の不況も深刻化するでしょう。政治の無能さばかりが目立つ中で、日本は一体どうなってしまうのか。古今未曾有の厳冬の到来にならないことを願うばかりです。