2016年5月16日月曜日

おかしな世の中ですね

・機密だったパナマ文書が漏らされ、「タックス・ヘイブン」(租税回避地)を利用して資産隠しをしていた著名な政治家や大企業等々の名が明らかにされました。合法な行為とは言え、本来ならば収めなければならない税負担を軽減させるためにできている制度ですから、倫理的な意味では非難されて当然だと言えるでしょう。何しろ今の世界は、わずか67人の大富豪が所有する資産が、世界人口の下半分の36億人分と同じだというのですから

・だからこそ、アメリカの大統領選挙で無名だったサンダースが多くの支持を得ているのですし、トランプ人気も不満の憂さ晴らしが理由だといわれています。EUでも不公正を非難して大規模なデモが繰り返されています。このような富の偏在といった状況は日本でも同様で、「一億総中流」と言われた社会は,もうとっくに崩れています。斜陽の国なのに富める者がますます金持ちになる。日本にもサンダースが現れてほしいのですが、出るのはトンデモ政治家の不祥事ばかりです。

・斜陽の国日本の中で東京だけが財政的には豊かなようです。知事の公私混同は目に余りますし,そのせこさはうんざりするばかりですが、マスコミの桝添たたきにも違和感を覚えます。石原元知事はもっとひどかったのに,なぜ騒がなかったのでしょうか?甘利はどうしたの?安倍首相の外遊を無駄遣いとして問題にしないのはなぜ?そもそも自民党議員の相次いだ不祥事はどうなってしまったの?自民党を叩くと「中立公正」を欠くと批判されると自粛をしているとしか思えないのですが、どうでしょうか。

・伊勢志摩サミットの際にオバマ米大統領が広島を訪れることが決定しました。ただし原爆投下について謝罪はしないし、被爆者とも会わないようです。核廃絶のメッセージもしないでしょう。アメリカが主張しているのは核の不拡散であって廃絶ではないからです。アメリカの大統領が広島に来る。意味はそこにしかないのですが、安倍首相は「歴史的な出来事」として大騒ぎをして、参議院選挙で圧勝するシナリオを作ろうとしています。ついでに衆議院選挙もと思っているのかもしれません。そうなると改憲が現実味を帯びてきます。

・メディアの報道の自由度ランキングで、日本はさらに落ちて72位になりました。また国連による「表現の自由」についても訪日調査が行われました。政府によるメディアへの圧力が,海外から危惧されているのは明らかですが、そのことをメディア自体が問題にしないのはどうしてでしょうか。聞き取り調査をしたデビッド・ケイ(カリフォルニア大学教授)は、停波発言をした高市総務相が聞き取りに応じなかったことを遺憾としましたが、日本のメディアの問題として,閉鎖的な記者クラブの存在や放送法自体を問題視しました。

・政府の圧力に逆らえないのは大手新聞社やテレビ局が持つ既得権を手放したくないからだという指摘は新しいものではないですが、「外国特派員協会」主催で行われたケイの会見は,新聞もテレビもほとんど無視を決めこみました。メディアの危機はまさに自業自得というほかありません。

・もっとおかしいのはオリンピックです。「おもてなし」ではなく「表なしの裏ばかり」。アンダーコントロールの大嘘からはじまって、国立競技場の設計やり直し、エンブレムの選び直し、そして今度は賄賂です。電通が関与しているというニュースは、海外からは聞こえてきても,日本のマスコミはまったく触れません。予算も増えるばかりで、開催しても,その後には大不況が待っていると指摘する人もいます。ここまでけちがついたら返上した方がいいと思います。

・おかしな世の中になったものだとつくづく思います。しかも、おかしいことをおかしいと言うのがはばかられるような風潮が蔓延しています。安保法制を国会で違憲と断罪した小林節が「国民の怒りの声」という政治団体を作って参院選に立候補すると宣言しました。参議院選の野党共闘が進まないことに業を煮やしての行動のようです。さて、日本のサンダースになりうるのかどうか。

2016年5月9日月曜日

「ブラタモリ」と熊本地震

・「ブラタモリ」はタモリが古地図を手に東京周辺を散歩する番組だった。中沢新一の『アースダイバー』(講談社)を読んで,縄文時代と現在の東京の地層や地図の比較に興味を持っていたから、「ブラタモリ」も時々見ていた。ただしNHKの深夜の番組だったから,見たのはほとんど再放送で、たまたまと言うことが多かった。ところがタモリの「笑っていいとも」が終了したことによって、「ブラタモリ」が全国各地を歩く番組として,土曜日の7時半から放映されることになった。

・毎週欠かさず見ていたわけではないが、いつでもどこでもポイントになるのは地殻変動で,その痕跡を探すことと、その土地の特徴がその地殻変動と大きな関係のあることが,専門家とタモリの会話で明らかにされることがおもしろかった。特に興味を持ったのは熊本を歩いた番組だった。熊本県は「火の国」と呼ばれている。しかし番組のテーマは水で,熊本は「水の国」でもあることを、涌き水の場所や池、そして近くの特徴が見えるところを訪ね歩いて確認する内容だった。

・熊本市内には水が湧き出しているところがたくさんある。水前寺公園の池も湧き水だし、熊本市の水道も、地下水によってまかなわれている。なぜ、そのように水が豊富なのかというと,阿蘇に降った雨が地下を通って流れ下ってくるからで、そうなったのは阿蘇山の噴火によって流出した溶岩や火山灰が熊本市内までの地層を形作っているからだということだった。

・その時はおもしろいなと思っただけだったが、熊本地震があって、阿蘇山の噴火との関係の深さや中央構造線の上にあることなどから,起こるべくして起きた地震だったことを改めて実感した。阿蘇山は広大なカルデラを持つ巨大な火山だが、それができた時にはどんなことが起こっていたのか考えると、今回の地震とは比較にならない大きな地殻変動だったことは容易に想像できることである。

・富士山の麓に住んでいて,富士山にも何度も出かけているから、富士山を訪ねた放送も興味深かった。富士山は江戸時代に噴火をしていて,その宝永火口は今でも巨大な穴ぼことなっている。3.11以降、富士山の噴火の危険性が話題になることがあるが、今の形は地球の長い歴史から見れば,ほんの一瞬の姿に過ぎないのだということを実感するようになった。その意味で3回に分けて、麓(富士宮),宝永火口、そして山頂を訪ねた放送もおもしろかった。

・最新の放送は京都の嵐山を訪ねたものだった。ここも長年京都に住んで、何度も出かけたところだから、なるほどと思うところが多かった。しかし、嵐山の絶景が断層を利用して人工的に作られたものだという指摘には驚かされた。低いが急峻な山は断層によるもので、地表にはチャートの岩が剥き出しになっている。チャートは海中でプランクトンが堆積してできた地層である。プレートの動きで太平洋からはるばるやってきて、プレートの衝突でせり上がったという説明だった。

・日本列島は巨大なプレートがぶつかり合うところに位置している。だから火山があり,山脈があって、それこそ美しい風景を作り出しているし,温泉や水が豊富に湧き出している。しかしだからこそ,耐えず大きな地殻変動に見舞われる危険性を抱えてもいる。熊本の地震が阿蘇山の大噴火や中央構造線沿いの地震、あるいは南海トラフや東海地震の前兆ではないのか、といった不安は大げさな心配ではないだろうと思う。

・「ブラタモリ」はNHKの番組だから、富士山や嵐山はなぜ美しいかといった話に焦点を合わせていて、それが地殻変動ゆえであることを明らかにしても、現実的な危険性については何も話題にしなかった。だからこそ、タモリは,熊本の地震についてどんなふうに思ったのだろう、という疑問を感じた。何しろNHKは熊本の地震の直後から川内原発は通常運転を続けているとアナウンスをくり返し、地震の震源や震度を伝えるための地図から鹿児島県をカットし続けていたのだから。

p.s.今朝(5月9日)の朝日新聞で、本震後に涸れた水源が詳しく報じられていた。南阿蘇村の塩井神社、白川水源(名水百選)、内牧温泉、水前寺成趣園、嘉島町湧水で水や温泉が涸れたそうだ。一方で水量が増えた井戸もあるという。地下水や温泉の流れが大きく変化している。地震はまだまだ続いているから,これはあくまで途中経過に過ぎないのだろうと思う。

2016年5月2日月曜日

斜陽の国と認めなければ

・大戦の敗戦国だった日本は、奇跡的といわれるほどの経済成長を果たしてアメリカに次ぐ経済大国になった。その成長を支えたのは第一に家電メーカーであり、自動車産業だった。経済成長が鈍り始めてすでに20年を超えているが、ここに来て、家電や自動車企業の中に,存続が危ぶまれるものが続出している。シャープは台湾の企業に買収され,東芝も家電部門を中国の企業に売却した。ソニーにはかつての面影はなく、パナソニックも再建に懸命だ。そしてまだ元気だといわれている自動車にも斜陽の波が及びはじめている。エアーバッグのタカタに続いて,今度は三菱自動車である。

・どう考えたって,その家電が勢いを盛り返す可能性はないし、自動車だって,電気が主流になれば、現状を維持することも難しいだろう。そして何か新しい産業が起こる気配もない。大企業が抱え込んだ内部留保はこの10年に100兆円増えて300兆円を越えたと言われている。逆に正規から契約や派遣といった雇用形態の変化も著しい。サラリーマンの平均年収はアベノミクスにもかかわらず減少傾向は止まらない。日本の企業が成長や攻めではなく、守り一辺倒であることは明らかである。

・ところが当の安倍首相は今年の年頭所感で、「一億総活躍社会」というスローガンを掲げ、「GDP600兆円」、「希望出生率1.8」 、「介護離職ゼロ」に向けて三本の矢を放つとぶち上げた。この現状との落差はまさにブラック・ジョークで、GDPをあげる材料がどこにあるのかわからない。「武器輸出三原則」を「防衛装備移転三原則」と改悪して進めたオーストラリアへの潜水艦12隻の輸出が失敗したし、インドネシアへの新幹線の輸出も中国に取られている。原発の輸出などというのは狂気の沙汰だろう。

・出生率を上げるといった先から保育所不足が露呈して、政府は慌てて定員増や給与増で急場しのぎをしはじめた。「保育所落ちた日本死ね」のブログに同感する人たちが大勢いて国会でも取りざたされたが、安倍首相の「匿名だから確認できない」といった発言が、怒りを買って大問題になった。現実を知らない上でのスローガンであることは「介護離職ゼロ」でも変わらない。老人ホーム不足はいよいよ深刻化しているし、保育士同様介護士の給与の低さも相変わらずだ。

・数日前に、育児と介護を同時にしている人が25万人いるといったニュースがあった。以前から問題になっている老老介護も,介護する人が65歳以上である割合が5割を超えたようだ。認知症の人が原因の鉄道事故で、その責任を家族に負わせる 裁判があったり、介護に疲れた殺傷事件も繰り返されている。このような状況は,これからますます深刻化するものであることは明らかで、ノーテンキに「介護離職ゼロ」などと言える状況ではないのである。

・日本は経済も人口も減少期に入っている。すでに世界でも類を見ない超高齢社会なのである。他方で地震は活動期になったと言われている。東日本の大震災から5年で,熊本・大分が大地震に襲われた。この先、もっと大きな地震が続発する危険性を指摘する人も多い。このような状況を前提にしたときに出てくる政策は、成長ではなく衰退や減少、大企業優先ではなく,人びとの暮らしの充実に目を向けたものでなければならないはずである。もちろん、今からでも遅くないから東京オリンピックは返上すべきだと思う。

2016年4月25日月曜日

内田隆三『ベースボールの夢』岩波新書

 

野球の始まり

uchida2.jpg・ベースボールはアメリカ発祥のスポーツである。フットボールやバスケットボールに押され気味という傾向にあるが,歴史からいえば、アメリカを一番に代表すると言える。内田隆三の『ベースボールの夢』は、その誕生のいきさつについて、定説に疑問を投げかけると同時に,定説が誰によってなぜ生まれ定着したかを説き明かす内容になっている。

・野球発祥の地はニューヨーク郊外のクーパーズタウンということになっている。だからここには野球博物館が作られ,殿堂入りした選手や、歴史に残るゲームと選手のユニホームやグラブ、バッド、そして写真などが飾られている。野球を考案したのはダブルデーという名の南北戦争に従軍した北軍の兵士で、野球をしたのは1839年とされている。しかしダブルデーがクーパーズタウンで本当に野球らしきものをしたかどうかについては、確証はない。

・そのことを史実として強く主張したのはアルバート・G・スポルディング(スポルディング社の創設者)で、彼は野球がイギリスに起源を持つゲームの発展したものではなく,純粋にアメリカで生まれたスポーツであると考えた。そのために、開拓時代を彷彿させるスモール・タウンや、合衆国を二分した南北戦争をいわば創世神話に取り込もうとしたのである。南北に分かれて戦っていた兵士が,共に野球に興じていたことは、アメリカという国の統一にとって欠かせない物語だったというわけである。

・メジャーリーグが始まった19世紀の末はアメリカが政治的にも経済的にも,そして社会的にも大きく変貌した時期だった。自ら開拓した農地で生きてきた農民たちにかわって農業は企業による大規模な形態に変わりはじめていた。その他の産業も起こり、多くの人びとは自営ではなく,雇用されて給料を受け取る生活に変わった。当然、田舎から都市に移り住む人たちも激増した。かつての中間層が没落し、コミュニティも衰退化した。そんな変容の中で,古き良きアメリカを体験できるスポーツとして、ベースボールが国民的なものになった。プレイするのはもちろんだが,スタンドで応援することによっても実感できた。

・「産業化と進歩の時代を生きる都市の人間が求めた『田園のアメリカ』」という「理想的なイメージ」というわけだが、このように成立したベースボールやメジャーリーグは、黒人を排除した白人だけのものになり、新興のミドルクラスが楽しむものになり、男だけに限られたマッチョなスポーツになった。

・この本はベーブ・ルースが登場するところで終わっていて、そこが、これまで書かれたベースボールやメジャーリーグの本と違うところだ。野球を通して、19世紀から20世紀にかけてのアメリカ社会の変容を描き出す。そんな試みに,新鮮さを覚えながら楽しく読んだ。

・メジャーリーグの本拠地は,全米の大都市に分散されている。カンザスシティのように50万人程度の都市でも,それはけっしてスモールタウンではない。しかし、スタジアムに入って野球を見はじめれば,見ず知らずの人たちが同郷の人間であるかのようにして,ホームチームの応援をする。桁違いの年棒を稼ぎ、頻繁に移籍を繰り返す選手が多くなったとは言え、野球はフィールド(野原)で行われるゲームであり、古き良きアメリカをノスタルジーとして体感できるスポーツとして楽しまれている。

2016年4月18日月曜日

春が来た

 

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・暖冬だったとは言え,3月になっても寒暖を繰り返していたから、片栗の花がなかなか開かなかった。数えると今年は80を超えた。去年が65で一昨年が50だったから、毎年順調に増えている。ずいぶんな数になったが,一面片栗の花となるのは,まだまだ先の話だろう。我が家に春の訪れを告げるのは,この片栗の花と蕗の薹で、蕗味噌も堪能した。

katakuri2.jpg・暖冬だったとは言え、この冬の薪の消費量は例年以上で、今でもストーブをつけたり消したりしている。来冬用の薪はすでに全部割り終わった。8㎥の原木をチェーンそうで切って斧で割る。その作業がいつまで続けられるか。だんだんきつくなってきた自覚はある。



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light1.jpg・とは言え、この冬には2階の二部屋の四面に60cm幅で2m50cm前後の本棚を20も作った。仕事部屋が文字通りの書斎になって気分一新で、長年使ってボロボロになった和紙の照明器具も折り紙で張り替えた。なかなかいい環境になったと満足している。さて何を研究テーマにしようか。それが問題だ。

・大学が始まって,体調がすぐれない。その一番は頻尿だ。少しましになったが夜中に何度もトイレに起きる。授業の一時間半を持たせることに気をつかわなければならない。老化現象といえばそれまでだが、漢方やハーブの薬を試しはじめている。気になるせいか,テレビのCMや新聞広告によく見かけるようになった。

forest132-1.jpg・とは言え、暖かくなったので自転車に乗り始めた。桜が満開で快晴の日は,自転車に乗りながら,ビデオも撮った。それにしても、今年は観光客が多い。アジアの人は観光バスでやってきて、富士山や桜を撮そうとして,平気で道路の真ん中に立ったりしている。欧米から来る人たちは電車でやってきて,レンタサイクルで湖を一巡りしている人が多い。ロードバイクに乗っていると,どちらもやっかいだ。何しろペダルと靴がくっついているから,こちらは急には止められないのである。

forest132-2.jpg・カヤックも乗り始めている。しかし、お決まりの西湖にも観光客が来始めていて、わいわい来ては富士山を撮してさっと引き上げる。日本人は週末限定だが,外国人は平日にもやってくる。だから、まだ静かな奥河口湖に乗り出した。満開の桜と富士山、それに新緑に変わりはじめた山。なかなかいい。いつまでも静かでいて欲しいと思うが、そうもいかないかもしれない。

2016年4月11日月曜日

Bob Dylan at Orchard Hall

 

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Twitter @SonyMusicLegacy

2016_tour.jpg・ボブ・ディランのコンサートは6度目で,前回は1997年だったから20年ぶりということになる。最初のコンサートは1978年で、僕は20代でディランは30代、20年前はぼくは40代で彼は50代。本当に長いつきあいだとつくづく思う。
・今回は彼はもう70代の半ばだが,相変わらずエンドレス・ツアーを実践している。日本にも頻繁に来ていて、2010年と2014年に長期のツアーをしている。ただしオール・スタンディングの会場だったから行く気にはならなかった。今回はここのところ何度も行っている渋谷のオーチャード・ホールだったし、もう最後になるかも,と思ったから行くことにした。

・ディランはけっして懐メロ歌手ではない。レジェンドだのレガシーなどと言われるが、積極的にアルバムを出し続けていて、あっと驚くものが少なくない。たとえばクリスマス・ソングを集めた『クリスマス・イン・ザ・ハート』やフランク・シナトラのナンバーを歌った『シャドウ・イン・ザ・ナイト』があって、その意外性に戸惑ったりしたが、聴き慣れればなかなかいいという印象だった。
・もちろんその他にも自作を集めたアルバムも出していて、不思議なのは評判だけでなく、売り上げも最近の方が多いことだ。ディランは日本では名前ほどには売れないミュージシャンの代表だったのにである。2012年の『テンペスト』はアメリカとイギリスでともに3位になり、2009年の『トゥゲザー・スルー・ライフ』は米英で1位になっている。こんな傾向は1997年の『タイム・アウト・オブ・マインド』からで、2001年の『ラブ・アンド・セフト』、2006年の『モダン・タイムズ』も1位やそれに近い数字を出している。もっとも日本でも売れたかどうかはわからなかった。

・コンサート会場にはあらゆる世代の人が集まっていて、若い人に関心を持たれていることに,今さらながら驚いた。ディランのライブはほとんどおしゃべりがない。次から次へと曲を連ねて,終わったらさっさと帰っていく。そのサービス精神のなさは今回も一緒だったが,前半の最後に「アリガトウ」と日本語で言った。僕がはじめて聴いたディランの話す日本語だった。
・歌っているのが何なのかがよくわからない。これも毎回のことで、前半の最後の「タングルド・アップ・イン・ブルー」もこの歌詞が聞こえて初めて気づいたほどだった。もっとも、セットリストを見ると、多くは最近のアルバムからで、とりわけ『シャドウ・イン・ザ・ナイト』のものが多かった。何しろ後半の最後が「枯れ葉」だったのである。

・アンコールの1曲目は「風に吹かれて」で,これも見事にわからないようにアレンジされていたが、僕にとっては思いの深い曲だったせいか、すぐにわかって、とてもよく聞こえた。ただしピアノの前で座ってのもので,今日彼はギターを一度も手にしなかった。ハーモニカを2曲。曲にあわせて舞台の背後に映し出される照明は落ち着いたもので良かったが、ディランの顔はいつも影になっていて,よくわからなかった。
・何をとってもディランらしいいいコンサートだった。ただし、懐かしさを捨てきれない僕には今ひとつもの足りない感じもした。ダメだね、古い地図に囚われている僕の方がずっと老けていて,ディランの方がずっと若い。今の自分を演じる楽しさに徹底しているディランに、改めて敬意を払いたくなった。コンサートに来た若い人たちは,もちろん、最近のディランがお目当てだったのだろう。最後まで立ち上がる人のいない静かな客席だったが、満足顔の人が多かった気がした。

2016年4月4日月曜日

がんばれサンダース

・アメリカの大統領選挙が混迷状態化しています。共和党のトランプ候補は「冗談から駒」で,放言や暴力沙汰にもかかわらず、予備選で勝ち続けています。支持をするのは白人の貧困層のようで、口にはできない個人的な思いを公言する態度が受けているようです。この人が大統領になったら,いったいどうなるのか。アメリカはもちろん,世界がめちゃくちゃになるのではという恐れも感じます。

・他方で民主党は、クリントンがリードしているとは言え,サンダースの支持も根強いようです。直近のワシントン州(73%)、ハワイ州(70%)、そしてアラスカ州(82%)では圧勝と言っていい結果でした。支持をするのは白人の若者で,インテリ層です。貧困層ではないが学費の負債を抱えたり、就職難に直面して,現在や将来に不安や不満を持つ人たちのようです。

・サンダースは民主社会主義者を表明して、この大統領選のスローガンを「革命に参加せよ」としています。掲げた政策は弱者の立場に立ったラディカルな改革で、仮に大統領になっても,共和党多数の議会の反対にあって,ほとんど実現できないのではないでしょうか。8年前のオバマへの期待が落胆と失望に変わったように、同じことのくり返しになるのかもしれません。

・それでも「今度は」と思って期待する。そんな楽観的で前向きなアメリカ人の姿勢には半ば呆れもしますが,それ以上に感嘆もしてしまいます。理想を掲げる人に対する支持は、日本ではほとんどゼロに近いからです。もっともSEALD's以来、若い人たちの発言や行動が,日本でも目立つようになりました。保育所不足騒動で女たちも怒っています。ただし、この怒りや主張を受け止める政党が日本にはありません。民主党が民進党と名前を変えても、支持率はほとんど上がっていないようです。

・アメリカの大統領選は共和党と民主党の2大政党間で行われています。ただし今回は、トランプもサンダースも党員ではありません。アメリカでも政党不信は大きいのです。だとしたら、日本でも、誰かがはっきりとした主張を掲げて新党を立ち上げ,既成政党がそれに呼応するといった動きが出ないものかとも思います。

・そのためにも、サンダースにはがんばって欲しいです。代議員数ではクリントンに差をつけられているとはいえ、カリフォルニア、ニューヨーク,ペンシルバニアといった大きな州での予備選次第ではどうなるかわかりません。トランプとサンダースによる大統領選では,アメリカは大混乱になるかもしれませんが、安倍政権の思いのままという日本の現状には、大きな波風となってくれるのではないでしょうか。

・既成政党への不信と,左右両極の対立。そんな不満の根源には貧富の大きな格差や現状や未来に対する不安や不満があります。そしてアメリカに追従する日本もよく似た状況にあるのです。毎日がエープリル・フールのような安倍政権の言動や、プチ・トランプが続出している自民党に三行半を突きつけるために、日本にもサンダースが登場して欲しいものだと思います。