・フィオナ・アップルは今年度のMTVビデオの新人賞を取った。場違いなところにいるという気持ちをあからさまにした授賞式でのツッパリの態度が気に入った。そんなことを考えながら、そういえば去年はアラニス・モリセットで、ちょっと前にはシェリル・クロウと、同じようなシンガーが注目されつづけていることに気づいた。今年は他にもメレディス・ブルックスもいるし、グラミー賞の授賞式を見ていたら、知らない女性シンガーが何人も出てきていた。見分け、というよりは聞き分けができないほど似ている。とは言え、僕はその多くには好感を持っている。何よりいいのは、元気の良さ。それにのびのびしていて、言いたいことをはっきり言う。勝ち気な女性はぼくのタイプだが、それは今のアメリカでも求められているものなのだろうか。
・フィオナ・アップルの "Tidal"
はマッキントッシュでビデオ・クリップを見ることもできる。MTVの授賞式では「こんなところにいる場合じゃないのよ」といったことをしゃべって社会派のシンガーのような印象をもったが、レコード会社の周到な宣伝戦略のもとに売り出された新人であることに変わりはない。歌詞は恋人や父親との関係を歌ったものが多い。私小説風な世界を作り出すのは、アラニス・モリセットとも共通している。似ているのは声や歌い方や曲の感じばかりではない。メレディス・ブルックスのアルバム
"blurring the edges" には歌詞がついてないが、こちらもシェリル・クロウによく似ている。
こんな時代だから
私は何をしたらいいのかわからない
毎日、毎晩
私は建物の壁づたいにうろついて
小声で自問する
私には、飛び立つための燃料がいるってFiona Apple "Sullen Girl"
・グラミーのベスト・アルバム賞をボブ・ディランが取った。たぶん、20世紀後半のポピュラー音楽の方向を作ったミュージシャンに対する評価という意味あいだろうと思う。他にジェームズ・テイラーやジョン・リー・フッカーとヴァン・モリソンも賞を与えられた。
・ロックはずっと白人の男たちの作る音楽で、黒人たちはR&Bとして区別され、女性たちは添え物のようにして扱われてきた。ところが、ここ数年はラップを中心としたアフリカン・アメリカンたちの勢いと女性シンガー・ソング・ライターの元気さばかりが目立っている。白人の男たちでがんばっているのはクラシック・ロックというジャンルに入れられている大御所ばかりだ。去年のグラミーだって確かエリック・クラプトンだった。
・ラップはすでに一風変わった一時的な音楽とはみなされなくなってきている。それに比べると、新しい女性シンガー・ソング・ライターの続出という現象は、まだまだ一つのジャンルとして定着してはいない。シェリル・クロウの2枚目のアルバムは1枚目ほどよくはないし、アラニス・モリセットの2枚目はまだ出ていない。新人に自分の世界を先取りされた感じだが、だからこそよけいに、フィオナもメレディスも次のアルバム作りはなかなか大変だろうと思う。しかし、カーリー・サイモンやジョニ・ミッチェルが作り出したのとはちょっと違う、女たちのロックの世界が生まれはじめていることは間違いないし、ぼくはそのことに大いに関心がある。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。