1999年12月7日火曜日

黒名単工作室『揺籃曲』


rock21.jpeg・ここのところ、日本やアジアのポップやロックについての本をいくつか読んだ。おかげで、関心が欧米からアジアに向いている傾向や理由がよくわかった。たとえば『21世紀のロック』(陣野俊史編著、青弓社)。ほとんどの章はこの種の本にありがちな、わかる人にしかわからないというレトリックで、今ひとつだったが、一つだけ視野の広がりをもたらしてくれる章があった。小倉虫太郎の「越境する音楽」。中国と台湾の民主化と、同時期に現れたロックを中心にするポップ・カルチャーを紹介したものである。
・中国の天安門事件と台湾の民主化運動が新しい文化的な流れを生んだことは知っていた。たとえば中国のロックでは崔健、台湾では『非情城市』などの映画。「越境する音楽」には、二つの民主化運動の経緯とロック音楽の登場の様子が詳しく書かれていて、とても興味深かった。筆者は1990年から4年間、台湾に滞在していたようだ。


blacklist.jpeg・忘れてならないのは、単なる流行歌に終わらない実験的な音楽を作っていたグループによって、台湾語のポピュラーソングがラディカルな社会批評の手段となり、なおかつ、中華圏においてはじめてと言っていい、音と言葉の結びつきにかかわる新たな実験の領野を開くことになったということである。そのグループの名前は「黒名単工作室」、直訳すれば「ブラックリストに載った者たちによる実験室」というパンチのきいたものだった。pp.204-205

・ぼくは興味を感じてさっそく探したが、残念ながら、ここで紹介されていた『抓狂歌』は見つからなかった。しかし、手に入れた1996年に発表された『揺籃曲』からも、たとえば、プログレがあったかと思うと、郭英男のような台湾先住民族風のもの、あるいは、歌謡曲とさまざまで、ことばも中国語や英語などがまじっていた。英語で歌われている「新聞時間」(News Time)には、戦争に巻き込まれる若い人たちの苦悩や世界の警察を自認するアメリカへの批判、嘘に満ちた世界への否というメッセージが率直に表されている。サウンドも含めて、中国の崔健や黒豹とはまた違う独特の世界を作り上げていておもしろいと思った。

asia1.jpeg・松村洋の『アジアうた街道』は雑誌に連載したエッセイを集めたものだが、中国はもちろん、タイやマレーシアやイランやインド、そしてインドネシア、あるいは沖縄や在日のなかに新しく生まれた音楽を紹介していて、ここでも、聴いてみたいミュージシャンを何人も教えられた。その多くが日本でもコンサートをやっていることなどを知ると、今さらながらに、ぼくのアンテナが太平洋の向こうばかりに向けられていたことを思い知らされる。
・ たとえば沖縄のラテン・バンド「ディアマンテス」。ボーカルのアルベルト城間はペルー生まれの沖縄三世で、東京では相手にされずに、沖縄で音楽活動をはじめた。他にも、在日コリアンを中心に結成された「東京ビビンパクラブ」、タイの社会派ロックバンド「カラバオ」、マレーシアのザイナル・アビディン........。
・松村洋は、日本にいながらにして手に入る世界中の歌と、欧米以外の外国(人)に関心を向けない日本人の対照を指摘する。テクストとしての一つの歌と、一人のミュージシャン。そこから、彼や彼女が背負うさまざまなコンテクストへと向けるまなざしの大切さを主張する。まだまだぼくには知らない世界が多い、とつくづく感じてしまった。さっそくまたCDを探しに行こうと思う。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。