・NHKがBSの番組に力を入れている。キャッチフレーズは「BSがうごく」である。NHKにはBS放送チャンネルが3つある。今までは定時のニュースや大相撲など、地上波とおなじ番組を流していることがよくあったが、4月からはその数が減少した。その代わりに、独自の番組を増やしたというわけだ。NHKのチャンネル数が多いという批判に応えて独自色を出そうとししたもので、地上波の映りが悪く、地デジも映らないわが家では、BS放送を見る機会がますます多くなった。
・BSハイビジョンで14日に放送した「エリックとエリクソン〜ハイチ・ストリートチルドレンの10年〜」は見応えのあるドキュメントだった。朝家をでて大学に行き、夕方授業を終えて帰宅。ぐったり疲れて居眠りしながら見はじめたのだが、眠気も覚めて1時間半、釘付けになって見てしまった。
・ハイチはカリブ海にある国で、西インド諸島のイスパニヨーラ島の西半分を占めている。東半分はドミニカで、西にはジャマイカやキューバがある。フランスの植民地だったが200年前に独立している。世界で初の黒人による共和国だが、内戦やクーデターのくりかえしで、今なお政情不安がつづいている。失業率は7割を超え、職のない人で溢れた、世界でもっとも貧しい国である。街にはストリート・チルドレンの群れ。ドキュメントはその中の双子の兄弟に視点をあわせて、生活ぶりを追ったものだ。この取材は10年前にもおこなわれていて、その時少年だった二人は、今20代の前半になって、弟には生まれたばかりの赤ちゃんがいる。
・失業率が7割を超え、身寄りのない子どもたちがストリートで暮らしながらも成長できるのは、一部の富裕層がいるためだ。物乞いをし、洗車やその他の小間使いをする。しかし、彼や彼女たちがそんな境遇におかれるのもまた、政治や経済が一握りの富裕層に牛耳られているためである。ハイチはフランスから独立したときに、およそ4兆円の賠償金を要求され、3兆円を分割で払ったそうだ。コーヒー以外には外貨を稼ぐ産物はなく、政情不安を理由に介入したアメリカが、国情をいっそうを不安定にもしてきた。
・「最悪の国に生まれた」とつぶやくエリックは、しかし、夢を捨ててはいない。子どもたちの間でお金や食べ物をめぐる諍いは絶えないが、逆に、相互扶助の精神も育っている。食べ物や着るものを分け合い、現状への不満や絶望の気持ちだけでなく、自分の将来を何とかしようとする気持ちも持ちつづける。そんな兄弟の10年前の暮らしや発言が、10年後の現状とオーバーラップされる。
・二人に相変わらず定職はない。兄は暴漢に襲われて足が不自由になり、心臓近くに弾丸が残る体で、ほとんど仕事はできない状態である。弟は空港近くで車をつかまえては洗車をして、日々の生活費を稼ぎ出している。そんなふうにして稼ぐ彼には、妻と子だけでなく、その母親と義理の兄弟がぶらさがっている。二人を捨てた父親には、別の母親との間に10人以上の子どもがいる。木彫り細工をして生計を立てている父親とは絶交状態の弟は、子どもの洗礼式に父を呼んで「ゴッドファーザー」になってもらった。
・ストリート・チルドレンがいる街の沖合に、豪華な客船がやってきた。乗っているのはマイアミからのカリブ海周遊クルージングを楽しむ白人のアメリカ人たちだ。彼や彼女たちは街から離れたビーチに下船して、日光浴をし、買い物をし、バーベキューを楽しむ。このシーンを街から見ると、街の汚さ以上に、アメリカ人が醜悪に見えてくる。けれども、見ながら容易に想像できるのは、その船に乗っているぼくの姿だ。ぼくがカリブ海に出かけるとしたら、やっぱりクルーズ船に乗るか、空港とホテルと観光地をめぐるだけだろう。
・ハイチの音楽を、ぼくはよく知らない。けれどもとなりの島のジャマイカからは「レゲエ」が生まれ、ダンス音楽として世界中に広まっているし、独特の髪型なども流行した。その音楽のリーダー的な存在だったボブ・マーリーが歌ったのも、貧困と政情不安と白人の支配、それに大国の干渉に対する攻撃だった。と同時にかれは「夢を持て」とくりかえす宣教師でもあった。
見回すかぎり、人びとは
どこでも、ひどい被害を被っている
だけど、俺たちは生き延びる
すべてを手にしたやつと、何も持たない者
夢と希望を持つ者、手段と方法を手に入れる者
事実と主張、誇りと恥、企みと計画、そして、何も目的のない者
いったいどっちを選ぶ?
"Survival "
・見終わって、このドキュメントについてネットで調べると、2004年に制作されて、すでに放送されたことがあるものだった。しかもその年のギャラクシー賞にも選ばれている。テレビ部門の最優秀番組に与えられるものだが、いったい何人の人が見たのだろうか。このドキュメンタリーはNHKではなく独立制作プロダクションの「ドキュメンタリー・ジャパン」がつくっている。ここのサイトを見ると、ぼくがこれまでNHKで見たかなり多くの番組をつくっていたことがわかる。NHKが放映したとはいえ、この種の番組が小さなプロダクションによってつくられていることに、あらためて気づかされた。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。