2008年8月17日日曜日

国家とメディアと企業の五輪

 

・オリンピックを特に楽しみにしていたわけではないが、それでも、夏休みだから、午前中からテレビを見ることがある。で、まず気になったのは、水泳などの決勝が午前中に行われたことだ。北京との時差は1時間だから、それは現地でも同じだ。予選が夜で、準決勝が翌日の午後、そして決勝がその翌日の午前という何ともおかしな日程だから、選手たちも体調の管理に苦労しているようだ。なぜ、そうなるのか?理由はテレビ中継にある。

・今度のオリンピックの放映権は総額で2000億円にもなる。日本はその1割を負担しているが、半分はアメリカが支払い、EUは2.5割ほどで、オリンピックが先進国向けのメディア・イベントであることがよくわかる。中でもアメリカ優先で、アメリカ人が活躍する種目は、アメリカのゴールデン・タイムに生中継ということになるわけだ。当然、EU諸国からは批判があったのだが、金の力で押し切られたようだ。アメリカのエゴがあまりに露骨で、こういうことの積み重ねが、アメリカに対する不信や嫌悪感を増すことになる。もっとも野球では、日本がいつも夜のゲームで視聴率を稼いでいる。1割負担の力という他はない日程だろう。

・オリンピックがテレビの放映権を財源にするようになったのは1984年のロサンゼルスからだ。それまでの開催国の負担という形から、一つのビジネスとして開催する方式への変更で、これ以降、オリンピックは開催ごとに大規模で派手なものになった。ちなみに、ロス五輪の放映権は300億円ほどだったから、北京では7倍にも膨れあがったことになる。この傾向はますます激化して、次回のロンドン五輪では、冬のバンクーバー(2010年)とあわせて、4000億円をこえるといわれている。まさにオリンピックはテレビのためのものなのである。

・その北京五輪の開会式を世界中で30億人の人が見たそうだ。お金がかかっていることはつぶさに見て取れた。遠くで打ち上げられた足形の花火が一歩ずつ競技場に近づいて、それが空撮される。それは競技場にいる人には直接は見えない、まさにテレビ用のパフォーマンスだが、実際に打ち上げられたものではなく、CGで作られ合成されたものだった。開会式でのイベントには、他にも、CGとの合成だと思われるものがたくさんあった。もちろん、そのすごさには驚いた。けれども、200をこえる国の入場行進をだらだら見せられて、途中で見るのをやめてしまった。ずっと待たされた選手たちはくたびれたろうし、トイレはどうしたんだろう。

・オリンピックに必要な金は大企業からも調達されている。公式スポンサーはパソコンや時計から飲料水まで多岐にわたるし、スポーツ用具のメーカーは、有力選手の囲い込みに懸命だ。競泳の水着問題があったように、選手の多くは特定メーカーと契約をしていて、そこの製品を使うことになっている。金をとった北島選手はミズノと契約しているが、やっぱりスピード社の水着を着用した。彼はアテネ以降コカコーラから毎年1億円のスポンサー料をもらっているという。強化合宿をしたり、専属のトレーナーをつければ、当然、有力選手が使う費用には年間で億単位の金がかかる。

・それは投資だから、有力選手はそれをプレッシャーに感じることになる。国のため、国民のためだけでなく、スポンサー企業のためにも、必ずいい結果をのこさなければならない。マラソンの野口選手の故障は、そんなプレッシャーが原因だったのかもしれない。単純に、日本がんばれとは言いにくいのだが、テレビはお構いなしに、選手にメダルを要求する。レースや試合を終わった直後にインタビューをうける選手を見ていると、結果が残せなくて落ちこんでいる人を晒し者にしているようで、たまらなく気分が悪い。他方で、北島選手の活躍で、彼がこの後稼ぐだろうCMの出演料が60億円になるといった記事もあって、これはこれでまた、うんざりするような話である。

・オリンピックは何より、国家とメディアと企業のもの。そんな印象をいつにも増して強く持った大会で、次々回が東京にだけはならないようにと願うばかりだ。

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