・ウッディ・ガスリーが何かと話題になっている。スーパーボールのイベントでレディ・ガガが"This Land is Your Land"を歌ったとか、ガスリーがトランプ大統領の父親を歌にしているとか、オバマの就任式にはピート・シーガーやスプリングスティーンなどが大聴衆を前に"This Land is Your Land"などを歌ったのに、トランプの時にはミュージシャンのほとんどに断られた等々である。
・ガスリーは1950年代初頭に2年ほどトランプの父親が所有するアパートを借りていたようだ。この父親は公営住宅への黒人の入居を邪魔した人で、ガスリーは、そのことを批判して歌を作ったのである。まさに、この親にしてこの子ありを証明するような歌詞である。なおこの歌は、ライアン・ハーヴェイが歌っている。
・ウッディ・ガスリーの歌の多くはレコードとして残されていない。この歌も、オクラホマ州タルサにある「ガスリー資料館」で、イギリス人の研究者が歌詞を見つけたということである。実際、彼の肉声で歌われているものの多くは、民族音楽の収集家でアメリカ議会図書館に務めていたアラン・ロマックスが録音したものだった。
きっと トランプの親父は知っている
どれほど 人々の心の奥底に
人種的憎悪を引き起こしたのか
………
黒い野郎は誰もうろつかない
・"Roll Columbia: Woody Guthrie’s 26 Northwest Songs"はガスリーがコロンビア川のダム完成にあわせて、水力発電のメリットを宣伝するために国から依頼されて書いたものを中心に26曲集めたアルバムである。コロンビア川はカナダのロッキー山脈を源流としてアメリカのワシントン州とオレゴン州を流れて太平洋に注ぐ全長2000kmの大河である。その川を堰き止めるグランドクーリーダムは1941年に完成したが、横幅が1.6kmで高さが168mもあり、現在でも北アメリカ最大のものである。このダムは、フーバーダムとともに、大恐慌を乗り越えるための国策として建設されたものである。
・このアルバムは、歌が作られてから75年経ったことを記念して作られた。歌っているのはガスリーではなく、現役のミュージシャンたちだが、僕は一人も知らない人ばかりだ。大恐慌の時代に、失業した人たちや低賃金で酷使された人たちの代弁者として、多くの歌を作り、争議の場や集会などでも歌ったガスリーが、国に雇われて多くの歌を作ったというのは、これまであまり知られていなかったことである。また26曲の中にも、ほとんど公表されなかった歌もある。
・26曲にはコロンビア川を中心にオレゴンやワシントン州の魅力を歌ったものが多い。もちろん、ダムを賛美する歌もある。「屈強な男たちが日夜働いて、ワイルドな川に負けない強さを備えた。」アメリカ中を放浪したガスリーには、この大陸の自然を賛美する歌、自然の恐ろしさを伝える歌、開拓の歴史を語る歌、さまざまな不正や、政治に押さえつけられる人たちの歌など、数多くの作品が残されている。
・もちろんダム建設によって起きた問題も多かったようだ。鮭の遡上ができなくなったことや水没によって移転を余儀なくされた人たちも出た。しかし彼がそこに気づかなかったのもまた、40年代という時代であればこそだったように思う。ガスリーの自伝『ギターをとって弦をはれ』(晶文社)を久しぶりに読み返したが、トランプもコロンビア川についての記述もなかった。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。