2019年8月26日月曜日

『新聞記者』を観た

 

sinbun1.jpg・『新聞記者』がやっと甲府に来た。話題になったのは参議院選挙の時で、東京まで見に行こうかどうか迷ったほどだった。もう諦めていたがマイナーの映画をよくやる「シアターセントラルB館」が上映した。我が家はもう一時ほどの暑さではなかったが、甲府に行くとさすがに暑い。駅前通も人通りは少なかったが、映画館にいたのもまた10数名で、しかもほとんどがシニアだった。この映画館いつまでつづけられるのだろうか。いつ来てもそんな心配が感じられるほど観客は少ない。

・ 映画では、政権にまつわる現実の問題を想わせるレイプ事件や大学認可が取りあげられ、原案となった東京新聞記者の望月衣塑子や元文科相事務次官の前川喜平がテレビ画面として登場するなど、きわめてシリアスに作られていた。主演女優のシム・ウンギョンの勝ち気さと、男優の松坂桃李の真面目さが対照的で、ジャーナリストと官僚の違いを人間性として際立たせてもいた。

・ しかし、ぼくがこの映画を見て一番恐ろしく思い、実際にもそうなんだろうなと感じたのは、内閣情報調査室という機関と、そこで実際にも行われているだろうと容易に想像できる光景だった。いわゆる「内調」は、この映画では政府主導のスパイ機関で、マスコミをはじめとしてありとあらゆる情報を集め、都合が悪ければもみ消したり、誤報だと触れ回ったりするし、自ら積極的にフェイク・ニュースを流して情報操作もやっているところとして描かれている。政府に批判的な官僚や政治家、ジャーナリスト等々の情報を集め、素行調査などもしてスキャンダルを作りだす。これが信憑性があるのは、伊藤詩織や前川喜平の件でも明らかである。

・ もちろん「内調」は現政権が作り出したものではない。しかし、政権を保持することを目的に、スパイ活動や情報操作に露骨なほどにエネルギーを注ぐのは、現政権が段違いに強いだろう。SNSを駆使してフェイク・ニュースを流したり、ネトウヨまがいの誹謗中傷を流しているとしたら、これはもう犯罪といってもいいのだが、そこには警察関係者も多数送り込まれているし、実態がつかめないから、やりたい放題なのだろうと思う。映画を見て、そんなことを考えたが、政権はこの映画での内調の描き方に抗議をしていない。

・ この映画が公開されたのは参議院選挙の期間中だった。ずい分話題になったが、選挙結果に何か影響があったとは思えない。何しろ投票率が50%を割って、自公はほとんど議席を減らさなかったのである。テレビでの選挙報道を抑え、選挙に対する無関心を作りだすことに成功したのだから、マイナーな映画が予想以上にヒットしたからと言って、「内調」自体が強く動く必要もなかったのかもしれない。それだけ、現政権の情報操作の効果は圧倒的なのである。

・ それにしても、官僚もジャーナリストも、今はやりたいことができず、やりたくないことばかりを半ば強制的にやらされている。不満があっても口にも出せず、ただ言いつけに従うのみ。それはもちろん、企業にしても似たようなものなのかもしれない。組織の中で働くことが、これほど、個人の思いややる気をそいでしまっている社会は、少なくとも戦後の日本では初めてのことだろう。一体、このままどこに行ってしまうのだろうか。映画を見ながら何とも憂鬱な気分になってしまった。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。