・ ルー・リードの"Animal Serenade"は久しぶりのライブ盤だ。2003年6月で、場所はロサンジェルス。しかし、歌われている曲はほとんどニューヨークに関連している。静かに、じっくりと歌われていて、明るく陽気なロスの聴衆には受けない気がするが、リードと客とのやりとりもおもしろくて、彼の充実した気持ちが伝わってくる。2枚組みでたっぷり2時間のライブ盤だが、僕はくりかえし何度も聴いている。
・アンディ・ウォホルのことを歌った"Small Town"から始まって、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド時代の曲、ビートニクの詩人ウィリアム・バロウズにまつわる歌、ニューヨークの風景や人の様子を描いたもの、そしてエドガー・アラン・ポーをテーマにした 前作の"The Raven"。まるで、自分の足取りや心の軌跡を辿るように構成されたステージで、彼のアルバムを全部聴きなおしてみたい気になってしまった。
・"Small
Town"はアンディ・ウォホルの故郷であるピッツバーグを歌っている。ピカソともミケランジェロとも無関係な町。そんな町とそこに住む自分から逃れたくても逃れられなくて神経衰弱になってしまったウォホルの歌だが、リードは歌いながら客席に「ここはスモール・タウンか?」とくりかえし聞いている。聴衆の反応は圧倒的に「ノー」。何しろロサンジェルスなのだからあたりまえだが、その後で、彼は「この町を離れなきゃって思うだろう」とくりかえし、「離れろ!」とくりかえす。続けて歌った曲と合わせて、若い聴衆に対して皮肉な目と叱咤激励したい気がないまぜになっているようで、笑ってしまった。
金持ちの息子は父親が死ぬことを待ち望んでいる
貧しい奴はただ飲んで泣くだけ
で、おれはというとまったく無関心
運のいい男は得てして何もしないが
恵まれないヤツがしばしば、何事かをし始めるものだ
"Men of Good Fortune"
・ニューヨークの風景や人模様を歌う曲を聞いていると、知らない場所や知らない人なのに、その景色や有様がまるで一枚の絵を見るように浮かんでくる。豊かさと貧しさ、虚飾とゴミ、若さと老い、喧噪と沈黙………。特に"Dirty BLVD"はいい。あるいは、そこにリード自身が登場する歌。
夜のハドソン川の畔に立っている
向こう岸に見えるのはジャージー
ネオンライトがコーラの名前を綴っている
タイムズスクエアのどんな広告塔よりも大きく
君の名前が光り輝いて踊ってもいいはずじゃないか
(Tell It to Your Heart")
・
歌う詩人といえばもう一人。パティ・スミスの"trampin'"は久しぶりに出たニュー・アルバムだ。前作の"LAND"はベスト・アルバムで、デビュー以来の総括といった内容だったから、今度のアルバムは2000年に出た"Gan
Ho"以来ということになる。静かな歌と激しい歌、自分を見つめる詩と政治に向けたメッセージが混在していて、パティの世界は健在だ。
太陽に向かって散歩をしても、けっしてたどりつけない
円を描くような夢を追いかけても、けっしてつかまえられない
左に左に左に踏み出し、右に右に右に踏み出す
心の心の一歩のために、手がかりを探し続ける
(Stride of the Mind)チグリスとユーフラテス川の土手
メソポタミアには深い無関心が漂っている
足下の大地に穴をあけて地球の血を絞り出す
小さな宝石のブレスレットのために石油を一滴
涙を流しながらルビーを差し出す
まさにアラビアの悪夢 (Radio Baghdad)