"The UFO Has Landed"
"Down At The Field - The 1974 Broadcast"
”The Slide Area" ”Chicken Skin Music”
・ライ・クーダーのアルバムはかなりもっているが、初めてのアンソロジーだというので"The UFO Has Landed"を買った。二枚組で1970年のデビューから2008年まで34曲が納められている。もちろんもっているもの、聴いたことがあるものが多いが、通して聴いてまず思ったのは、40年近い時間の経過が全く感じられないことだった。確かに、声も最初からしわがれていて老けた感じだったし、ギターのうまさもデビュー当時から頭抜けていた。しかし、改めて思うのは彼の音楽が一貫して変わっていないという点だ。もちろん、それはワンパターンとはちがう、音楽に対する彼の姿勢からくるものだ。
・彼はもちろん、自分でも歌を作る。しかし、彼の仕事で評価されているのは、何より、アメリカはもちろん世界中の埋もれた音楽を発掘して、紹介し続けていることにある。このアルバムもジョニー・キャッシュの「ゲット・リズム」で始まり、カントリー、フォーク、ブルースと多様だが、彼の聴覚や嗅覚はもっと敏感で、彼が見つけて自分の作品にしてきたのは、ヨーロッパからアメリカにやってきた移民たち、アフリカから奴隷として連行されてきた黒人たちが持ち寄った楽器や歌が、地域によって微妙に異なる発展をした音楽だった。
・たとえば、テキサスに住むメキシコ人の音楽は「テックス・メックス」と呼ばれるが、ドイツ系移民の音楽が混じって、アコーディオンが使われることがある。メキシコからは北の音楽と呼ばれて区別されている。そんな音楽に興味を持って紹介したのは1976年に発表された"Chciken Skin Music"(鳥肌の立つ音楽?)で、このアルバムでは他に、ハワイの音楽も取り上げられていた。キューバの市井のミュージシャンたちを取り上げて作った「ブエナ・ビスタ・ソーシャル・クラブ」は1996年の作だったから、彼の関心が、ワールド・ミュージックなどという流行とは無関係だったことがよくわかる。2010年に発表されたアイルランドのチーフタンズとの合作「サン・パトリシオ」はメキシコがアメリカと戦争をした時(1846)に、メキシコ政府に雇われたアイルランド人が残した音楽を集めたものだった。そのアイリッシュともメキシカンとも決めがたい音楽はチーフタンズにとっても新鮮な発見だったようだ。
・アンソロジーの最後から二曲目に"Going back to Okinawa"という曲が入っている。この歌には「沖縄では俺は王様扱いだから、もう二度と帰らない」といった歌詞がある。さらには「砂浜にはかわいいママが寝そべっていて、彼女は男の扱いをご存じだ」と続くから、沖縄に駐留した米兵を想像してしまう。彼は喜納昌吉のアルバムにも参加していて、僕はその1980年に発売された"Blood Line" で初めて、ライ・クーダーというミュージシャンを知った。沖縄の音楽にも早くから関心を持っていて、その音楽のできかたがアメリカの占領政策と基地に深く関連していることも熟知しているはずだから、この底抜けに明るい"Going back to Okinawa"には彼の強いメッセージが感じられる。
・このアルバムを聴いて、若い頃のライブ盤を聴きたくなって"Down At The Field - The 1974 Broadcast"も買った。ジャケットの写真は声やギターのうまさとは対照的に、まだ少年の面影が残っているものだ。僕より二つだけ年上だから、同世代では一番好きな、信頼できるミュージシャンだと言える。