・御嶽山は3000mを越える山だがクルマで2000mを越えるところまで行くことができるから、比較的楽に登れる山だと思われている。僕もそんな気持ちで出かけたのだが、風が強く、がれきが多くて登りにくかったし、山頂近くになると高山病の症状が出て頭が痛くなった。それでも、南アルプスの山脈の向こうに富士山が見えたし、紅葉で赤く染まった斜面の美しさに見とれて、何とか頂上にたどり着くことができた。
・下山ももちろん、足場が悪くて苦労をしたし、寒くて手もかじかんだ。そんな記憶を思い起こしながら、噴石や火山灰に追われ、取りまかれた人たちがどんなふうに逃げたのか、と考えると、大勢の犠牲者が出ただろうことは容易に想像ができた。噴火から1週間が過ぎて、死者は50人を越え、不明者がまだたくさんいると言われている。雲仙普賢岳の噴火による死者数を越えた戦後最悪の火山災害だとも言われている。しかし、犠牲者は登山者だけだから、やはり、特異と言わざるを得ない。
・山登りは今、ブームだと言っていい。中高年から始まって、ちょっと前から「山ガール」といったことばがよく使われるようになった。確かに、お決まりのファッションで登り、頂上に着くと珈琲をたてたり、料理をしたりする若い女性をよく見かけるようになったし、小さな子どもを連れた親子も増えたようだ。僕を含めて、山をよく知らない人たちが、気軽に登るようになったことは間違いない。御嶽山の噴火は、そんな風潮に警鐘を鳴らす出来事だったと言われても仕方がないことかもしれない。
・今回の惨事をきっかけに、日本の火山はすべて登山禁止にすべきだといった発言も出ている。確かに、いつ噴火するかわからないのだから、危険性はいつでもあることは間違いない。ただし、御嶽山でも9月に入って火山性微動が記録されたり、硫黄(硫化水素)の臭いがしたといった報告もあった。あるいは頂上の地震計が壊れて作動していなかったとも言われている。注意を促して登山を控えるようにすることはできたはずで、そうすれば登山者の数はずっと少なかったのではないかと思う。
・それをしなかった理由としては、紅葉の観光シーズンなのに客足が鈍っては困るという経済的な理由があったのかもしれない。近くの開田高原では名物のそば祭りが予定されてもいたのである。同様の理由は、夏の富士登山などにはもっと強く影響するはずで、命よりお金といった発想が、この惨事の一番の原因などではないかと疑いたくなってしまう。川内原発再稼働を進める人たちは、御岳の噴火が再稼働に影響しないよう、無関係を装うことに懸命だった。
・火山には登るなという考えは、当然、火山の多い日本には原発は危険だというところに繋がるはずだし、そもそも火山の近くに住むことだって危ないということになるだろう。富士山の麓に住んでいる者としては、山に登らなくたって、こんなところで生活していること自体が無謀だということになるのかもしれない。実際、噴火したらどう対応するのか、自治体からの具体的な方策や指示は何もないのが現状だから、ドカンときたら、勝手に逃げろというのは、登山者だけに限らないことなのである。
・P.S.大型の台風18号が東海から関東地方を襲って、あちこちの自治体が緊急避難勧告を出した。この大雨や強風の中をどうやって避難しろというのだろうか。しかも、特定の危険な地域というのではなくて、市内全域だったりもした。広島市の災害での批判から、今度は横並びで一斉にといった態度がありありで、出せばいいというのではないだろうと、余計に不信感を感じてしまった。