・この名前で取り上げるのは2回目だ。ジャクソン・ブラウンがコロナに感染して、アルバム制作が中断したために、2曲だけのシングル盤が先に出たためだった。アルバムだと思って購入してがっかりしたが、その後アルバムが出て、やっぱり買うことにした。すでにメインの曲は紹介しているから、また取り上げるのは止めようと思っていたが、来年三月に日本で公演をやると言うニュースを見て、やっぱり書くことにした。
・アルバム・タイトルの「Downhill from
Everywhere"」については前回、次のように紹介した。「海に流れ込む、プラスチックその他の人間が捨てたゴミを歌ったものである。ゴミは学校から、病院から、ショッピングモールから等々、あらゆるところから流れ下る。歌詞の大半はその「~から」を列挙したものになっている。引力に従って行き着く先である海を、私たちはどこまで自分のこととして考えているのだろうか。私たちが生きていくのに、海がいかに大切かということを。プラスチックは海に流れ下ることで細かく粉砕される。それを魚が食べて、また人間に返ってくる。この歌はドキュメンタリーの"The
Story of Plastic"でも使われている。」
・その他の曲も強いメッセージが込められているものばかりだ。トランプ前大統領の移民政策に抗議した"The
Dreamer"、地震に襲われたハイチ復興支援として作られた"Love is
Love"、人種差別を抗議し、公平であることの大切さを訴える"Untill Justice is
Real"、エイズ病棟をドキュメントした映画『5B』に提供された”A Human
Touch"などだ。ジャケットには巨大なタンカーが写っているが、これは原油流出事故後にバングラデシュに移送されて解体されたものだという。
・他方で、彼本来のものである自省的な歌もある。シングルカットされた"A Little Soon To
Say"については、前回次のように紹介した。「今の状況に対する自分の戸惑いを歌っている。地平線の向こうが見えない、明かりに照らされた道の向こうが見たいんだけど、とつぶやき、すぐに決断しなければならないのに、情報があまりに少なすぎる、とつづく。今の病を乗り越える道を照らしたいし、できると思いたいが、そう言うにはまだ早すぎる。」
・人工心臓を手術して無敵だと歌う"My Cleveland Heart"と、心が裂けるようだと歌う"Minutes to
Downtown"など、自分の揺れ動く心を描く姿勢も健在だ。で最後はバルセロナ讃歌の"Song for
Barcelona"。ここでも自分の魂に火をつける街と歌う反面で、愛する世界が見つけられなくなってしまうと揺れている。
・ジャクソン・ブラウンのコンサートには2015年に出かけた。その時の様子は「ジャクソン・ブラウンのコンサート」に書いている。また聴きたいと思うのだが、コロナ禍で人混みは避けているから諦めている。
2022年11月14日月曜日
Jackson Browne, "Downhill from Everywhere"
2022年11月7日月曜日
村瀬孝生『シンクロと自由』(医学書院)
・僕の両親は10年前に老人ホームに入り、父は数年前に亡くなって、母はまだお世話になっている。コロナ以降会えずにいて、直近の記憶が怪しくなっていたから、今会っても、僕のことはわからないかも知れない。淋しい思いをしているのではと考えたりもするが、子どものことがわからなくなっているなら、それも感じないのかもしれない。いずれにしても、老人の介護は大変で、それを免れているのは、正直なところ助かっている。 ・村瀬孝生の『シンクロと自由』は介護の現場におけるレポートだ。介護現場では、どうにもならない認知症の老人に対して、我慢の限界を超えて暴力を加えてしまうことがあるようだ。犯罪のように扱われるが、そうなることはあるだろうな、と思うことが少なくなかった。そうならないために、介護する人はどうしたらいいか。この本に書かれているのは、介護する人とされる人が右往左往しながらも、やがて互いの心が通じ合う瞬間に出会うという物語だ。それがまるで漫才のぼけと突っ込みのようにして語られていて、面白いと思った。 ・食事を食べてくれない。どこにでも排泄してしまう。身体を触られるのを拒絶する。預金通帳が無くなったとくり返し言う。夜中の徘徊。家に帰ると言って聞かない。それを無理やり強制したり、叱ったりするのではなく、なぜそうするのかを探り当てようとする。そうするとその原因が分かり、改善する方法が見えてくる。何かを教えるのではなく、逆に教えてもらう。そんな発想の大切さが「シンクロ」ということばでくり返し語られている。 ・そんな発想は「自由」と言うことばにも及んでいる。不自由な身体には新たな自由がもたらされているはずだし、時間や空間の見当がつかなければ、そこから解放されてもいるはずだ。子どものことがわからなければ、親の役割も免じられているし、忘れてしまえば毎日が新鮮になる。「それらは私の自己像が崩壊することであり、私が私に課していた規範からの解放でもある。私であると思い込んでいたことが解体されることで生まれる自由なのだ。」 ・この本を読んで、この欄で紹介しようと思っていたら、たまたまアンソニー・ホプキンス主演の『ファーザー』をAmazonで見た。認知症が進んで、徐々に昔の記憶が薄れ、娘や近親者との関係があやふやになっていく。その過程を、主人公と周囲の人の両方の立場から描いていて、そのリアルさに引き込まれた。老人はやがて自分が誰だか分からなくなっていくが、映画ではそれがつらいこととして結論づけられる。 ・『シンクロと自由』と『ファーザー』は、心や身体の解体をまったく異なる視点で捉えている。心や身体がまだ正常だと思っている立場からは、映画の方にリアルさを感じるが、実際にそうなった時の自分を想像した時には、それが新たな自由に思える心持ちになりたいものだと感じた。 |
2022年10月31日月曜日
秋の恵みと冬の準備
・薪ストーブを燃やす時期が近づいたからと原木を注文した。ところが一昨年と同様また品切れだと言う。これは困ったと思ったが、野ざらしになったやつでもよければと四立米だけ届けてもらった。例によってチェーンソウで玉切りし、斧で割って積み上げた。これだけあれば、何とか次の冬まで持つかも知れないが、節約して使わなければならない。来年の春までに次の原木が手に入ればいいのだが、手に入りにくい傾向が続くと、入手法方を探さなければならなくなる。
・天気がいい日は薪割り優先なので、自転車にはあまり乗っていない。この作業が済んだらと思っているが、紅葉の季節になって平日でも観光客の車が走っている。いろいろ割引があるせいか久しぶりの混雑だ。
・たまには山歩きもしようと、精進湖のパノラマ台に行った。往復3時間ほどだが、久しぶりできつかった。西湖の紅葉台は往復一時間ほどだから楽勝だ。ちょうど富士山に雪が降った後だったから、いい写真が撮れた。やっぱり富士には雪が似合う。この季節になるといつもそう思う。
2022年10月24日月曜日
能登半島小旅行
・今年はどこにも出かけなかったが、パートナーの誕生日だけはと能登半島に行くことにした。出発時は雨で、八ケ岳に近づく頃には晴れてきた。アルプスは雲に隠れていたが、手前の山は紅葉が進んでいた。やっぱり晴れ男・女だと思ったのだが、糸魚川が近づくあたりから雲行きが怪しくなり、日本海沿いを走ってる時は土砂降りの雨になった。親不知の海岸で翡翠を見つけはじめたのだが、雨で諦めた。どこにも寄れないと思ったが、魚津の埋没林博物館を見つけて立ち寄った。和倉温泉のホテルから向かいの能登島を眺める。天気は回復して夕焼けが鮮やかだった。
・二日目は能登半島を一回りした。まず能登島に渡り、そこから半島の先端に向けて走った。能登に来たのは大学生の頃以来で半世紀ぶりだった。半島最先端の狼煙集落にある禄剛崎灯台にはその時にも来たのだが、きれいに整備されていて、あまりの様変わりに驚いた。その後は塩田と千枚田に寄り、時間が遅くなったので、輪島はパスして金沢まで走らせた。途中、千里浜なぎさドライブウェイを走って金沢へ。 ・三日目は金沢のホテルを出てすぐ高速に乗った。東海北陸道から高山に行って、安房峠から松本に抜けるつもりだったのだが、白川郷で降りて、そのまま下道を走って御母衣湖を過ぎたところで高速に戻ったために、おかしいと思った時には郡上八幡まで来てしまった。仕方がないので東海環状道から新東名経由で帰った。大回りしたために、全行程は1100kmにもなってしまった。久しぶりの長距離運転でぐったり。 |
2022年10月17日月曜日
『MINAMATA ミナマタ』
・ジョニ・デップが主演する『MINAMATA
ミナマタ』は、制作をするというニュースを聞いてから、是非見たいと思っていた。それを見たのはもちろん、Amazonでだ。普段なら無料で見られるものしか見ていないが、これは別。水俣病にはずっと関心を持っていたし、ユージン・スミスと活動を共にしたアイリーンは、ユージンの死後京都で暮らしていて、ちょっと知っている人だったからだ。
・『MINAMATA
ミナマタ』は、熊本県水俣市に発生した「水俣病」をテーマにしている。高度成長期に起きた公害で日本の四大公害病と言われている。「チッソ水俣工場」による排水が不知火海を汚し、そこで取った魚を食べた人や産まれた子どもが発症した病気で、身体の痙攣や変形が症状として起きるものである。「チッソ」はその関連性を否定し続けてきたが、公害を告発し追及する運動が根強く続き、裁判で認定されたのは、ユージン・スミスが水俣に住み着いて写真を撮り続けて来た時期に重なっている。
・ユージン・スミスが水俣で撮った写真は「入浴する智子と母」が有名だ。1972年の『ライフ』に「排水管からたれながされる死 ―水銀中毒が日本の村を破壊する―」と題されたエッセイとともに発表され、水俣病が世界中に知られるきっかけになった。その写真も含めて『写真集
水俣』(三一書房)が出版されたのは、スミスが死んだ2年後の1980年だった。なお、この写真集はその後も普及版などが出されたが、映画の公開に合わせて『MINAMATA』(Creviis)が出版されている。
・『MINAMATA
ミナマタ』は水俣ではなく、日本の他の地でもなく、セルビアとモンテネグロで撮影されている。水俣市やチッソが反対したのかと思ったが、1970年代とは様変わりした水俣市には撮影に適した場所がなかったというのが理由のようだ。また映画には当然、多くの日本人が登場するが、一部の俳優以外はヨーロッパに在住したり滞在していた人たちを募って集めたということだった。そのモンテネグロのティヴァトの町に再現された舟小屋や居酒屋、そしてユージンの使った暗室は、そう言われなければわからないほど自然なものだった。
・で、肝心な映画だが、かつては報道写真家として活躍していたスミスがニューヨークで酒に溺れた孤独な生活をしているところから始まっている。そこにアイリーンが来て、水俣病の話をして、二人で水俣に行くことになる。人生にもカメラにも絶望していたスミスが、水俣の人たちと親しくなり、病気の残酷さやチッソや日本政府の冷淡さに直面して、実情を写真で世界に伝えることを決心するのである。
・『MINAMATA
ミナマタ』はまるでドキュメントのように作られている。病に苦しむ人たちが入院している病院に潜入して、その変形した身体や痙攣している様子を写真に収め、チッソ工場前での抗議の座り込みでは、スミス自ら暴行を受けて負傷してしまう。写真の公表を抑えるために金を持ちだすチッソの社長とスミスとのやり取りもあって、ジョニ・デップはすっかりユージン・スミスになりきっていて、デップのすごさを改めて見た気がした。
・映画はもちろん、日本でも公開されたが、それほど話題にもならなかったようだ。正確な数字は分からないが、ジョニ・デップの他の映画に比べたら、観客動員も桁違いに少なかっただろう。ただ、ネットでは見られるから、ぜひ見て欲しいと思う。何より大事なのは、水俣病は過去の話ではなく、現在でも国やチッソを相手に闘われている問題なのである。
2022年10月10日月曜日
大谷選手のMLBが終わった
・コロナ禍でどこにも行けなかったから、一日の中心は大谷選手の試合を見ることだった。期待以上の活躍で、投手としては166イニング投げて15勝9敗(4位)、防御率2.33(4位)、219三振(3位)、奪三振率11.87(1位)であり、打者としては打率.273(25位)、35本塁打(4位)、95打点(7位)、ops.875(5位)であった。今年もMVPをもらって当然という成績だが、62本のホームランを撃ったジャッジ選手の方だという声が大きいようだ。
・打者としての規定打席数はもちろん、投手としても規定投球回数をクリアしたのは20世紀以降のMLBの歴史上初めてのことである。ホームランのアメリカンリーグ新記録よりはるかに価値のある成績だと思うが、アメリカの世論はジャッジにMVPを取らせようとしている。代わりに別の賞を作ったらという意見もあるが、それなら投手にサイヤング賞があるのだから、打者の方に新設したらいいのだと思う。もっとも、今年もMVPが大谷なら、これからしばらくは大谷ということになってしまうから、今年は避けたいと言う人が多いのかもしれない。
・エンジェルスは今年も負け越しでプレイオフには行けなかった。高給取りがケガで出場できなくて、マイナーから挙がった選手や未契約のベテラン選手を獲ってやりくりしたのだから、勝てるわけはなかったのである。腹が立って途中で見るのを止めたこともあったが、必死にプレイしても、成績が悪ければ落とされたり、首になったりする厳しさはよくわかった。
・メジャーに初登場した選手の多くは親や兄弟等々を呼ぶが、そのプレイに一喜一憂する様子が映されたのはほほ笑ましかった。もちろん、最初は頼りなかった選手が徐々に活躍して、メジャーに定着したというケースもあって、来年のエンジェルスは、今までよりはかなりましになるのでは、と思ったりしたが、去年の今頃もそんなことを思ったような気がする。
・ところで、大谷選手は3000万ドルで来年度1年だけの契約をエンゼルスと交わした。今年が550万ドルだから445%増ということになる。ソフトバンクの選手全員に匹敵するというからすごい額だと思う。ただし、これでも安くて実質価値は5000万ドルを超えるという人もいる。他方で大谷がそうだったように、メジャーに挙がった選手は、どれほど活躍しても6年間は低い額でおさえられてしまうという現状がある。そしてマイナーの選手は、家を持つことはもちろん、食事も十分とれないほどの低賃金でプレイしなければならない。格差社会の露骨な見本と言えるだろう。
・エンジェルスはオーナーが売却することを発表した。現オーナーがディズニー社から買った時の額は1億8400万ドルで、現在の価値は30億ドルを超えると言われている。所有しているだけで15倍以上に膨れ上がったのだが、スタンドが満員になることが稀だったのになぜ儲かるのか、不思議な感じがした。テレビの放映権が大きいと言われているが、エンジェルスの試合をほぼ毎試合中継したNHKやABEMAは一体いくら払ったんだろう。お金にまつわる話は、気分のいいものではなかった。
・ともあれMLBが終わって、これから来年の春まで、一日をどう過ごすか。僕にとっては小さくない問題である。
2022年10月3日月曜日
やめられない、とまらない!?
・大多数の反対にもかかわらず安倍の国葬が強行された。反対が多くて国葬を国葬儀と変えたりしたが、これを国賊葬だと思った人は少なくなかっただろう。もちろん僕もその一人だ。だからテレビ中継などは見ていないし、新聞記事もいっさい読まなかった。腹が立つより反吐が出る。反対が多かったら止める。それができないのは今度も一緒だった。これを日本人が持つ精神性として理解する人もいるが、そうではない理由も、オリンピックにまつわる利権で明らかになりつつある。 ・安倍の蓋が外れたせいで、検察がオリンピックにまつわる疑惑を追及しはじめている。オリンピック委員会理事の高橋治之が五輪スポンサーの選定をめぐって衣服のAOKIや角川書店等から賄賂を受け取っているという疑いだ。すでに1ヶ月半も拘留されているが、疑惑はさらに広がりを見せている。オリンピックを支援するスポンサーには4ランクあって、問題になっているのは一番下の「オフィシャルサポーター」である。ここに入るためには10億円程度の支援金が必要とされているが、高橋は、それを安くする見返りとして賄賂を要求したというのである。 ・もちろんこれは高橋一人に留まるものではない。委員長であった森喜朗やJOC会長だった竹田恆和の名前が取りざたされている。そもそも竹田はオリンピックの招致活動の際にアフリカ諸国の票を集めるために賄賂を使ったとして、フランス検察から疑惑を投げかけられてJOC会長を辞めているのである。そしてここには、買収資金をめぐって菅義偉や嘉納治五郎財団の名前も挙がっている。さらに、招致活動の裏には神宮外苑再開発にまつわる利権の話もあって、それを実現させるためにオリンピック招致を口実にしたのでは、といったうがった見方もする人もいる。オリンピックをだしに使って利権を手に入れようと画策したとしたら、これはとんでもない大疑獄事件になるだろう。 ・こんな話を耳にすると、たとえコロナがひどいことになっても強行せざるを得なかったはずだと納得させられてしまう。止められないのは利権のせい。そう考えると、原発政策も、コロナに対する対応のまずさもストンと腑に落ちる。地震と津波であれほどの被害が出たのに、再生可能エネルギーに大転換できなかった。コロナについてもワクチンや治療薬の開発ができていない。日本のIT開発の遅れは致命的だと言われているが、これも大企業と官が繋がって、新しい開発や流れを押さえ込んだからだとされている。輸出を牽引した自動車産業も、ハイブリッドや水素にこだわるトヨタのせいで電気自動車が開発できていない。 ・最近の円安と物価高の原因がアベノミクスの失敗にあるのは明らかだが、何の手だてもない日銀には、もはやどうすることもできない。円安と物価高はますます嵩んでいくし、日本の財政破綻といった危機的状況だって考えられないことではない。政治も経済も社会もめちゃくちゃにした安倍は国賊ものだ。そう言ったのは自民党議員の村上誠一郎だが、そんな声はわずかで、メディアの多くも押し黙っている。やめられない、とまらないの先に何が待っているか。末恐ろしい限りである。 |
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12月 26日: Sinéad O'Connor "How about I be Me (And You be You)" 19日: 矢崎泰久・和田誠『夢の砦』 12日: いつもながらの冬の始まり 5日: 円安とインバウンド ...
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・ インターネットが始まった時に、欲しいと思ったのが翻訳ソフトだった。海外のサイトにアクセスして、面白そうな記事に接する楽しさを味わうのに、辞書片手に訳したのではまだるっこしいと感じたからだった。そこで、学科の予算で高額の翻訳ソフトを購入したのだが、ほとんど使い物にならずにが...
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・ 今年のエンジェルスは出だしから快調だった。昨年ほどというわけには行かないが、大谷もそれなりに投げ、また打った。それが5月の後半からおかしくなり14連敗ということになった。それまで機能していた勝ちパターンが崩れ、勝っていても逆転される、点を取ればそれ以上に取られる、投手が...