2026年1月12日月曜日

黒川創・滝口夕美編『加藤典洋とは何者だったか?』SURE

kato1.jpg 高市早苗が首相になって、急に怪しい状況になってきた。台湾有事で中国を激怒させ、トランプべったりでアメリカ依存をよりはっきりさせた。トランプの傍若無人ぶりはエスカレートするばかりだから、このまま行ったら世界が壊れてしまうのではといった恐怖さえ感じてしまう。こんな時に思ったのは加藤典洋だったらどう発言するかといった思いだった。彼が書いたものの中で一番記憶に残っているのは、1999年に書かれた『日本の無思想』(平凡社新書)の中の敗戦による戦前と戦後の「切断」についての次のようなことばである。
一つは天皇との関係における「切断」です。もう一つは憲法との関係における「切断」です。また三つ目は、戦争の死者との関係における「切断」です。そして最後は、旧敵国との関係における「切断」ということになるでしょう。 『日本の無思想』pp.67-68
黒川創・滝口夕美編『加藤典洋とは何者だったか?』は、こんな主張も含めて、加藤典洋が書き残したすべての著作に触れて、改めてその実像に迫っている。驚いたのはその著作が主だったものだけで50冊を超えているということだった。僕もかなり読んでいるつもりだったが、その2割ほどに過ぎなかったからである。さらにもっと驚いたのは、この本に関わっている人たちの多くが、加藤典洋とかなり近い距離にいた人たちで、生身の彼を良く知っていたということだった。

編者の黒川創は雑誌『思想の科学』で長い間加藤と一緒に編集の仕事をしてきたし、鶴見太郎は加藤が明治学院大学で初めて教鞭をとった時に学生だった。共編者の滝口夕美は黒川のパートナーだが、彼女もまた明治学院大学で加藤の講義を受けている。そんな関係の中から出てくるのは、個人的に良く知っているからこその発言の数々で、著作でしか知らない僕の加藤に対する印象とはずいぶん違ってもいておもしろかった。

加藤は2011年の東日本大震災の時にはアメリカにいて、その揺れを経験しなかった。ところが帰国してすぐに福島に行き、何度も通って『3.11 死に神に突き飛ばされる』(岩波書店)を書いた。政府や原子力の専門家、そしてメディアに対する強烈な批判に対して、僕は納得して読んだが、その時期の加藤がずいぶん変わった印象を持たれたようだった。それまでは発言することはあっても直接行動することが少なかったのに、震災と原発による被害に対しては血相を変えて行動したからである。

加藤は一貫して、日本の戦前と戦後、そして現在における問題や矛盾を突いてきた。僕はその主張に微妙な変化があったことに無頓着だったが、この本では、加藤が見せたブレや変化が指摘されている。安部政権時における憲法と自衛隊、対米従属と戦前復帰型の国家主義の台頭といった矛盾に対して、まるで絡まりあってほどけない糸を必死にほどこうとしていたというのである。

であれば、彼が生きていたならば、現在の高市政権や、トランプ大統領に対してどんな批判をしたのだろうかといったことを想像したくなった。僕はもう半分絶望した気分になっているが、それでも、現状からは目をそらさないでおこうと思っている。いや、そんなんではダメで、今こそ声を大にして批判する必要があるのだ。そんな声も聞こえてくる気がするが、果たしてどうなんだろうか。

目次 2026

 

1月

12日 黒川創・滝口夕美編『加藤典洋とは何者だったか?』SURE

5日 ニール・ヤングの反トランプ宣言

1日 今年もよろしくです

2026年1月5日月曜日

ニール・ヤングの反トランプ宣言

neil2.jpg ニール・ヤングが"as time explodes"と名のついたビデオをYouTubeにアップした。歌わないが楽器演奏をバックにホワイトハウスの解体工事が映されるところから始まる。壊されたのは東側部分で、ここに新たに大宴会場を作ろうというのである。ホワイトハウスが歴史的建造物で、大統領に解体する権限があるのかどうか問われている。そもそも工事前には建物自体には手をつけないといっていたのである。

このビデオが次に攻撃するのはトランプにしっぽを振っているAmazonやFaceBookの創業者やテスラのイーロン・マスク、それにAppleのCEOといった人たちだ。「1%が世界を台無しにする」と書かれた横断幕が掲げられている。王様はいらないという反トランプデモや、不法移民追放に抗議するデモには、州兵が動員され、激しい暴力が加えられる。2分ほどのビデオだが、彼の主張は極めて真っ当だ。

このビデオには"as time explodes 2.0"と"as time explodes 3.0"の続編がある。2.0では農作業に従事する不法移民を取り締まる様子や、働き手がいなくなって収穫できずに転がる作物が映し出される。逃げる者には催涙弾が撃たれ、捕らえられた人たちの足には鎖が巻き付けられてる。大規模経営の農場では違法入国かどうかにかかわらず、大勢の労働力が必要なのである。野菜や果物、卵などは当然、品不足になっているはずだ。

3.0は視点を広げて、ヒトラーのユダヤ人虐殺の実写フィルムで始まり、アメリカの開拓時にあった先住民に対する残虐行為が映される。それに続くのはイスラエルのパレスチナでの暴挙である。トランプとネタニヤフが握手をして、ガザへの空爆となる。きれいな町並みが次々と廃墟になり、逃げ惑う人たちにはイスラエル兵が銃を向ける。その他にも世界中で起きた惨劇が登場し、突然、ニューヨーク市長に当選したマムダニが映し出される。

ニール・ヤングはこれまでにも、歌はもちろん活動として、政治批判は行ってきた。で、現在でもその姿勢は変わらない。メタを批判してフェイスブックやインスタグラムのアカウントを停止したし、イーロン・マスクのX/Twitterも辞めている。さらにはAmazonから自分のディスコグラフィーを削除することを表明し、これらのSNSやネットビジネスへのボイコットを呼びかけている。

もちろん、メッセージは音楽でも行っている。新作の ‘Big Crime’ は正面からのトランプ批判の歌である。MAGA(アメリカを再度偉大に)はいらない。町に兵士などいらない。ホワイトハウスで犯罪が起きている。億万長者のファシストが独占するシステムを停止しろ。と、極めて直接的なトランプとその周辺に対する抗議のメッセージである。こんな主張を掲げたコンサートも行っている。

ニール・ヤングはもう80歳だ。しかしその反骨精神は全く衰えていない。多くのミュージシャンが亡くなっていく中で、まさに孤軍奮闘である。彼は2020年にアメリカ国籍を取得して、カナダとの二重国籍になった。二つの国を頻繁に行き来しているのだが、トランプ批判をすることで入国を拒否されるのでと心配されている。 公式サイトには最近の活動が詳細に書かれている。

2026年1月1日木曜日

今年もよろしくです

 

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明けましておめでとうございます。と言いたいのですが、何とも不安の多い年明けです。政権が石破から高市に代わって、急にキナ臭くなりました。台湾有事は日本有事。国会でのこんな発言に中国が激怒しています。その影響が様々なところで出ていますが、首相は失言だったとは認めていませんし、謝罪もしていません。にもかかわらず、政権支持率は高止まりしたままですし、良く言ったなどと絶賛する声も聞こえるようです。

中国は一党独裁の国ですが、日本はどこよりも貿易額が多い国ですから、もっとうまくつき合う必要があるのです。他方で、アメリカにはますます近づいて、親米反中の姿勢が鮮明になりました。しかしトランプ大統領は中国とはうまくつきあいたいようで、台湾有事などは想定していませんから、日本ははしごをはずされることになるかもしれません。

防衛費を増額するために国債に依存した大規模な予算を組むようです。物価が上がり貧困家庭が増え、社会福祉や医療費の国民負担も増えています。首相は積極財政でもっと豊かな国にと言いますが、失敗したアベノミクスの再現では、ますます経済もひどいことになるでしょう。そもそも防衛費の増額を国債で賄うのは、戦争に突入した戦前の政策と同じなのです。

政治や経済、そして社会についての識者の多くが批判しているにも関わらず、高市人気に衰えは見えません。若い世代の支持は特に強いようですが、どこまで歴史や現在の事実を知り、将来を考えているのでしょうか。「日本人ファースト」で支持を急成長させた参政党同様に、真偽不明でも目先の目立つことを大声で主張すれば、それについてくる人が大勢いる。そんな風潮がますます強くなっています。パレスチナやウクライナの惨状を含めて、少しでも光明が差す一年になってほしいと願うばかりです。

私的なことで言えば、77歳になって80代もすぐそこまでやって来ました。ここまでまあまあ健康でこれたことに感謝ですが、身体の衰えを感じることも多くなりました。右まぶたが重たく下がり医者に行くと副鼻腔炎と診断されました。それは治ったと言われたのですが、まぶたはまだ少し重い感じがしますし、鼻がつまることも多いです。

この冬は11月から寒くて、薪ストーブを早くから燃やしましたから、薪の消費量が増しています。であれば、新しい薪を作るために薪割りに励まなければなりません。老骨にむち打って斧を振り上げる。そんな毎日を春先まで続ける必要がありますから、体調に気をつけてと思う今日この頃です。

2025年12月22日月曜日

国会議員の定数より歳費の削減を!

臨時国会が終わった。公明党の政権離脱と日本維新の会の連立によって始まったのだが、何ともひどく危ない国会だった。高市首相の発言によって中国が硬化して、様々な圧力を加えてきている。首相は発言を訂正しないから、圧力はますますエスカレートするだろう。ところが政権支持率はほとんど下がらないから、彼女は突っ張ったままである。中国には貿易でアメリカ以上に依存しているからどこより重視すべきなのだが、一体どういうつもりなのか疑問に思う。香港の現状を見ても独裁色の強い国家であることは明らかだが、それだけに、もっと慎重な対応が必要なはずなのである。そのことは、横暴に振る舞うトランプ米大統領もよくわかっていて、高市発言を直接戒めたようである。

ところで、自民党総裁にはなれたが総理にはなれないかもしれないと泣き言を言ったのに、維新が連立に加わることになった途端の右旋回である。公明党のブレーキが無くなったのだから当たり前だが、防衛予算のGDP比2%の今年度中の実現をさっそく公言した。財源をどうするかはもちろん、曖昧なままである。何が必要かを精査して決めるといった石破政権の方針は問答無用に反故にされたのである。反故にされたのは他にも米の生産増にも及んでいて、お米券などというばらまきで誤魔化そうとしている。

維新は連立に参加する条件として唐突に、衆議院の議員定数削減を言い出した。何より政治資金規正法の改正こそが重要なのに、高市首相は立憲民主党の野田代表に、そんなことより議員定数について議論しましょうと言い放った。結局、政治資金規正法を優先して議員定数は次の通常国会に持ち越しになったのだが、とんでも国会を象徴する案件だった。

維新は「身を切る改革」を党のスローガンにしている。議員定数削減はその主張に沿うものだが、連立政権に入った途端に、議員の政治資金の使い道についての疑惑が暴露された。印刷費を秘書が経営する印刷所に払ったとか、政治資金をキャバクラなどでの飲食費に使ったなどである。維新の不祥事はこれまでにも、地方議会の議員を含めて多発していて、身を切るなどがまやかしであることは明らかなのである。

そんな実情を見て思うのは、今必要なのは議員定数の削減ではなく、議員報酬の見直しにこそあるということだ。国会議員は年額で2100万円超の歳費をもらう他に、「文書通信交通滞在費(月100万円)」や「立法事務費(月65万円)」と秘書給与やJRの無料パスも交付されている。ところがそれらを何に使っているかが不透明だから、いろいろと怪しい金の使い道をしたことが暴露されるのである。国会議員の定数は他国と比べて決して多くはないが、議員が手にする報酬こそが圧倒的に多額で、しかも使い道が不明瞭なままなのだ。

日本の国会議員はアメリカやイギリスの1.5倍以上の報酬を手にしている。しかも日本人の年収は逆に米英の半分かそれに近い数値だから、いかに日本の国会議員が優遇されているかがよくわかる。議論すべきはここのはずだが、自分の懐に入るお金を減らすことなどは、ほとんどの政党も議員も考えてはいない。「身を切る」などとはちゃんちゃらおかしい政策なのである。

目次 2025

12月

22日 国会議員の定数より歳費の削減を!

15日 鉄道旅に見る中国の変容

8日 紅葉が終わった

1日 工藤保則『野暮は承知の落語家論』青弓社

11月

24日 『スプリングスティーン 孤独のハイウェイ』

17日 仕事を辞めて8年も経った?

10日 ドジャース中心の生活が終わった

3日 トランプ来日報道の愚かさ

10月

27日 冬の支度を始めようか

20日 霧の穂高

13日 田村紀雄『コミュニケーション学の誕生』社会評論社

6日 CDがカビだらけ

9月

29日 世界陸上と日本人ファースト

22日 WBCはテレビでは見られない?

15日 石破が辞めてどうなるのか

8日 収穫の秋?

1日 沢木耕太郎『暦のしずく』 朝日新聞出版

8月

25日 メディアに対する疑問、不安、そして怒り

18日 避暑地の暑さ対策

11日 石破辞めるなにちょっとだけ賛成!

4日 暑い! 暑い!!

7月

28日 鶴見太郎『ユダヤ人の歴史』中公新書

21日 差別が大手を振る世界になった

14日 ブライアン・ウィルソンについて

7日 加湿と除湿

6月

30日 大相撲について気になること

23日 丸太富士と野鳥の巣箱

16日 鈴木俊貴『僕には鳥の言葉がわかる』小学館

9日 プログレを聴きながら

2日 『アプレンティス:ドナルド・トランプの創り方』

26日 観光客はありがた迷惑です

19日 米の値段について

12日 庭の野花と野菜畑

5日 ポール・オースター『4321』新潮社

4月

28日 あまりにお粗末な万博について

21日 補聴器で音楽を聴く

14日 広告は神話にすぎないのでは?

7日 MLBが始まった!

3月

31日 冬の仕事がんばった!!

24日 吉見俊哉『東京裏返し』集英社新書

17日 無理が通れば道理が引っ込む

10日 『名もなき者』(A complete unknown)

3日 ネットの変貌

2月

24日 喜寿を身体で実感する

17日 松を片づける

10日 マリアンヌ・フェイスフルについて

3日 稲村・山際他『レジリエンス人類史』京都大学学術出版会

1月

27日 トランプのゴーマニズム宣言に呆れと恐れ

20日 民放テレビの終わりの始まり

13日 MLBのストーブリーグについて

6日 この冬は寒い

1日 Happy New Year !

2025年12月15日月曜日

鉄道旅に見る中国の変容

chinarail1.jpg 俳優の中山卓也が鉄道で旅する番組をよく見ている。シンガポールを出発して東南アジアを北上し、ラオスから中国に入って西に進み、中央アジア、東欧から最後はスペインのジブラルタル海峡まで行くという長い旅行である。番組タイトルは「地球旅」だが、もちろん一挙に旅するというわけではない。最初はシンガポールから中国の昆明までで4月から始まったが、11月からは中国をあちこち巡っている。このペースでは、辿り着くのは何年も先になるだろう。もちろん、中山にとっても、旅は細切れで進むということになるはずだ。

この俳優の気さくさが功を奏しているのか、鉄道の中でも街中でも、良く話しかけてその土地の様子をうまく聞きだしている。しかし話しかけることばは日本語で、返ってくるのが現地語だから、やっぱり違和感がある。なぜこの種の番組は通訳を登場させないのかといつも不思議に思うところである。

そんなふうにして、シンガポールからマレーシア、タイと北上してラオスに入ったのだが、昔ながらの鉄道に交じって新幹線に似た高速の長距離電車が走っているのに驚いた。しかしその驚きはラオスでさらに高まることになる。ラオスの首都のヴィエンチャンからは中国に通じる高速鉄道が敷かれていて、その建設資金は中国によってもたらされているというのである。まさに一帯一路である。

今は中国の主に内陸部を走る鉄道に乗って旅しているのだが、その大半は高速鉄道である。中国の高速鉄道は2007年以降に本格化したというからまだ20年も経っていないのだが、すでにその路線は中国全土に張り巡らされ、25年時点では5万キロに達しているそうだ。中国の鉄道網の総距離は15万キロと言われているから、その三分の一が高速化したということになる。中国が日本のGDPを抜いたのは2009年だが、現在ではほとんど停滞している日本の5倍に成長している。その急速な発展は、中山卓也が高速鉄道に乗って降り立ったどんな中小都市にも林立する高層ビルによってもよくわかるのである。ちなみに日本の新幹線の総延長は3300キロである。

chinarail2.jpg 中国の鉄道を旅する番組は以前にも関口知弘が2007年に行っている。「関口知宏の中国鉄道大紀行」という名で2007年に、チベットのラサから西安までの春と西安からカシュガルまでの秋の2回にわけて放送された。そこで乗った36000キロにもなる鉄道旅のほとんどは電気かディーゼルの機関車が引っ張る列車で、乗客の中には人民服を来た人もいたし、降り立った町には昔ながらの風景が当たり前だった。経済成長の恩恵はまだ全土に行き渡るほどではなかったのである。その番組はNHKのアーカイブではもちろん、YouTubeでも見ることができる。

この二つの旅番組を比較して見て驚くのは、GDPが日本の5倍になった、この20年あまりの中国の変貌ぶりである。それを目の当たりにして思うのは、高市首相の発言とそれを支持する世論の浅はかさである。中国なんてやっつけちまえといった威勢の良さは、鬼畜米英と叫んで戦争に突き進んだ愚行の再現を感じさせるものでしかない。そんな不安すら覚えてしまいかねないのである。

中国は日本にとって最大の貿易国だが、そうなったのはやはり2007年だった。現在では輸出入総額の20%以上を中国が占め、アメリカは15%に留まっている。にもかかわらず日本はトランプの関税政策にはへつらった態度を取っているのに、中国には高飛車なのである。中国が本気になって貿易を制限しはじめたら、日本経済はどうなるのか。中国の現在の国力と、その関係の重要さについて、もっと冷静になって考えなければダメだな、と思わされた番組だった。ちなみに中国の輸出入総額に占める日本の額は7%に過ぎないのである。