2003年12月8日月曜日

日本テレビとテレビ東京

 

・日本テレビの視聴率買収事件があって、あらためて視聴率の意味などが問われている。テレビがついていれば見ていなくても、視聴したことになる。サンプル数がきわめて少ない。そんな調査にどれほどの有効性があるのか。この疑問は調査の開始時からいわれつづけてきたことだが、とにかくテレビ局にとっては、ほかに客観的な評価基準はない。民放の収入はコマーシャルによるし、その値段は、曜日や時間帯毎のこまかな視聴率によって算定されるから、1、2パーセントの違いでも、収入差は莫大なものになってしまう。番組制作スタッフが視聴率を上げることに血眼になるのは当然のことで、中でも日本テレビは社をあげて視聴率競争に邁進してきた。その意味では今度の事件は起こるべくして起きたものだといってもいい。
・東京のテレビ局はどこも巨大な新社屋を造ってきわめて景気がいい。周辺を新名所にして、電波だけでなく、実際に人をたくさん集めようともしている。まさにテレビの時代で、情報と人と金の流れを考えると空恐ろしい気がしてしまう。しかも、その中身、つまり番組がまた、高視聴率なものほどくだらないから、その落差に唖然とせざるをえない。日本テレビはまぼろしの伊勢エビを騙ってやらせ番組をつくったそうだ。それがまた問題になっている。虚業もここまでくれば救いがたいが、影響力を考えれば、そう突き放すわけにもいかない。テレビはもっとましなものにならないものか。
・一つの可能性はCSやBSデジタル放送によってある程度見えてきた気がする。大勢の人にではなく特定の人たちに好まれる番組作りが必要になったからだ。映画やスポーツなどの専門局の登場がいい例だし、NHKは早くから3チャンネル態勢で多様な番組作りをしてきた。さまざまなドキュメントや長時間のトーク番組など、興味深く見ることのできる番組も少なくない。民放のデジタル番組はまだまだスカスカの感じで、工夫の余地はずいぶん残されているが、今月からは地上波のデジタル化もはじまった。ひとつの局がいくつものチャンネルで多様に番組を提供しなければならない状況が、ハードの面でどんどん先行している。
・にもかかわらず、局の方針はアナログ地上波の視聴率に固執する。これはどう考えても後ろ向きで、積極的な番組作りや宣伝をしない姿勢が BSの視聴者を増加させない原因にもなっている。たとえば、高視聴率を上げるスポーツ番組の多くは、BSで同時に中継されることが少ないし、そのほかの人気番組のほとんども放送されない。デジタルの方が映像も音も綺麗だから視聴者数は増えるはずだが、視聴率を地上波でカウントするためなのだろうか。だとしたら何ともせこい発想だと言わざるを得ない。
・その点で一番積極的なのがテレビ東京だ。地上波の番組を少し遅れてBSで放送している。もっともこれは地上波での視聴率競争で恒常的に劣性だという問題を抱える弱小局の苦肉の策なのかもしれない。ただし、僕はこのテレビ東京の番組が好きで、地上波でも一番よく見ている。「いい旅夢気分」「ポチ・タマ」「テレビチャンピオン」「田舎に泊まろう」「デブ屋」「お宝鑑定団」「ガイアの夜明け」などなど。
・テレビ東京の番組を見ていると、予算が少ないことがありありとわかる。その番組作りには涙ぐましいほどの努力を感じる気がする。たとえばよく見る番組のほとんどはロケか素人を使ったものばかりだ。映画に「ロード・ムービー」というジャンルがあるが、テレビ東京はさしずめ「ロード・テレビ・チャンネル」といってもいいかもしれない。
・その最たるものは「田舎に泊まろう」で、毎回タレントが日本のどこかに出向いて、そこで泊めてもらえそうな家を探して交渉する。うまくいったりいかなかったり。タレントの素顔が覗いたり、その土地の様子、かかえる問題、泊まった家の事情や歴史が垣間見えたりしてなかなかおもしろい。ぼくのところに来たら「何アホなこと言ってんだ!」と取り合わないと思うが、世の中には親切な人がまだまだ多い。この番組が描きだすのは、そんな日本人の人情だが、少ない予算で知恵を絞って考え出した番組だな、とつくづく思う。「田舎へ泊まろう」でいつも思うのはディレクターやカメラマンは、いったいどこで何時間眠れるんだろう、という心配で、この番組作りはけっこうつらいんじゃないかと心配してしまう。
・テレビ東京のBS放送では毎晩映画を放送していて、これがまた、なかなかおもしろい。劇場公開されなかった話題作やマニアックなものが放映されるから、僕は毎日チェックして見たり、録画したりしている。同じ映画をくりかえし再放送、なんていう横着もしないから、かなり力を入れて番組作りをしているのだと思う。日本テレビのおごりと比較するとテレビ東京のマイナーさには、一つの光明が見える気もする。今日のマイナーは明日のメジャー。多様化するチャンネルでは、大きな視聴率は稼げない。少ないが熱心な視聴者をどれだけつかまえるか。BSや地上波のデジタル化は、そういう番組作りへの変更を余儀なくさせるもので、そのことに対応できるのは、巨大化した浪費局ではむずかしいだろうと思う。

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