・スペインの音楽といっても、チェロのパブロ・カザルスとフラメンコしか知らなかった。カザルスが1961年にホワイトハウスでケネディ大統領を前に演奏をしたCDには「鳥の歌」が入っている。80歳を過ぎていたが、息づかいが聞こえる演奏には思わず聴き入ってしまうほどの迫力がある。ソフトな演奏のミーシャ・マイスキーとは対照的に荒々しさを感じるサウンドには、80歳を過ぎているとは思えないすごみがあった。
・「鳥の歌」はカタルーニャの民謡で、クリスマスの祝い歌だという。しかし、その哀しみにあふれた旋律を聴くと、どうしてもスペイン市民戦争やフランコの圧政に苦しんだ人たちのことを連想してしまう。
・スペインに出かける前に入手していたフラメンコはカマロン一人だけだった。既に死んでしまっているが、現在でも強い人気で、バルセロナの CDショップのフラメンコのコーナーには彼のCDがたくさんあった。フラメンコをポップにしたジプシー・キングスに似ているが、もっとずっと泥臭くて、激しく、なおかつ哀切感がある。バックのギターがトマティートであるものを何枚か買い足したが、どれもいい。しわがれた声、演歌を思わせる小節、それに独特の手拍子。旅行中も、家に帰ってからも繰り返し聴いて、一緒に手拍子を叩いたりしている。
・フラメンコにももちろん、ニュー・ウェイブはある。マイテ・マルティンはバルセロナ出身の女性の歌手(カンタオーラ)だが、カマロンとは対照的に泥臭さがまるでない。中身も確かめずに購入した"Querencia"にはギターの他にチェロのバックもついていて、フラメンコとは違う曲風の歌もある。クラシックやジャズとのフュージョンなどもやっているし、詩に対するこだわりもあるようだ。気に入ったのでAmazonで調べたが、手にはいるのは1枚だけ。もうちょっと買っておけばよかった。
・スペインではフラメンコ以外にどんな音楽が流行っているのか。ネットで調べてチェックしていったのがアントニオ・ヴェガだ。マドリード出身でもうすぐ50歳になる。建築家を目指し大学にはいるが中退、パイロットや社会学者に方向転換をするが、結局音楽の道へという経歴を持っている。78年にバンドとしてデビューして90年代になってからソロ・ミュージシャンになったようだ。3枚のCDを買ったが、サウンドしてはフォーク・ロックでことば以外には、あまりスペインを感じさせるものはない。聞き慣れている音だから、何の違和感もなく聴ける。歌はどれも自作だと思うから、マイテとともに、ことばがわかればとつくづく思う。
・バルセロナのカタルーニャ音楽堂はガウディのライバルだったモンタネールが造った建物だ。名所になっているがガウディびいきとしては比較にならないと感じたが、作られた当時はモンタネールの方が評価が高かったそうだ。しかし、後になって気づいたのだが、ここで10日にヴェガ、そして16日にトマティートのライブがあった。10日は無理だが16日はバルセロナに着いた日で、本当に近くをうろついていたから、何とも悔しい思いがした。入り口をもう少し丁寧に見ておけばなー……。
・代わりにというわけではないが、うろついていたところで聴いたストリート・ミュージシャンのギターが気に入った。二人組のフラメンコ・ギターだが、そのうちの一人でEl Gleoという名の人のCDを買った。ちょっとはにかんだような顔をして、「グラシャス」と言ったような気がした。CD-Rに焼きつけた自家製版だが、ホテルに帰ってパワー・ブックで聴いてみると、驚くほどギターがうまい。スペインにはこんな人がごろごろいるのかもしれない。
・もっとも、スペインの街にフラメンコが流れているというわけではない。タクシーやカフェで耳にした音楽はU2だったりREMだったりで、世界中どこに行っても同じ音楽が溢れているのだ、と改めて実感した。バルセロナの地下鉄ではローリング・ストーンズのコンサートの宣伝をやっていたから、日本とまるで同じで、彼らが世界中を飛び回って金稼ぎしていることがよくわかった。そんな意味でも、ロックに愛想がつきかかっている気持ちがますます増幅してしまった。去年の夏のアイルランド、そしてこの冬のスペイン。どこに行っても生きている音楽がある。ロックがそれを駆逐しないことを願うばかりだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿
unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。