・今年のMLBの公式戦が終わった。以前、ということは野茂が先発投手として出ていた頃と比べると、すっかり熱が冷めた感じだが、松坂の投げる試合はちょっと気になった。1億ドル投手、魔球のジャイロ、20勝、新人王に三振王、あるいはオールスター出場とにぎやかにはやしたてられたが、終わってみて、とても華々しい活躍といえるほどではなかった気がする。成績はまずまずだが、テレビを見ていて途中でやめることが多かった。突然崩れてゲームを壊すシーンが何度もあったし、球数が多くて時間がかかる試合ばかりだったからだ。
・日本のジャーナリズムはあまり注目していないが、アメリカのサイトでは、野茂と松坂を比較する記事をシーズン途中からいくつか見かけた。で、その結論は、野茂には及ばないというものだった。たしかに印象としてはそう感じたが、実際の成績はどうだろう。ネットで探すと、メジャー・リーグのあらゆる記録を載せているサイト"Retrosheet
Official Web
Page"を見つけた。ここでNomoのページを検索すると、彼の投打や守備にわたるすべての成績がわかる。で、1年目の1995年の成績と今年の松坂を比較してみた。今年の成績は例えば、YahooのMLBなどで見ることができる。
年 | 名前 | 試合数 | 勝 | 負 | 完投 | 完封 | 投球回数 | 奪三振 | 四死球 | 自責点 | 防御率 |
1995 | 野茂 | 28 | 13 | 6 | 4 | 3 | 191.1 | 236 | 78 | 54 | 2.54 |
2007 | 松坂 | 32 | 15 | 12 | 1 | 0 | 204.2 | 201 | 80 | 100 | 4.40 |
・マイナーで開幕を向かえた野茂のメジャー・デビューは、5月になってからだった。登板数の違いはそのせいで、どちらもローテーションをはずさずに、シーズンを終えている。まず勝ち星は松坂が2つ多い。しかし、松坂は野茂の倍も負けている。これは、防御率の2点近い差をみれば当然な結果だろう。ちなみに自責点も倍近い。松坂は長いイニングを投げたがって監督を手こずらせたが、完投はわずかに1回で完封はしていない。一方で、野茂は完投が4つでそのうちの3試合に完封勝利している。その差は投球イニング数になってもあらわれている。
・印象の違いとしてもっとも目立つのは、1試合の三振数の違いだろう。4試合少ないのに、野茂の方が35も多い。野茂はデビュー4試合目に 14個の三振を奪い、最高で16個、13個を3試合、それらを含めて二桁奪三振の試合を11試合も記録した。一方松坂は、10個の試合が3つだけだ。どちらも、日本を代表する奪三振王だが、今年の松坂の成績と比較すると、ドクターKと名のついた野茂の活躍がどれほど鮮烈だったかがはっきりする。反対に四球の数は意外な数字といえるかもしれない。野茂の四球は日本で投げていた頃からおなじみだったが、松坂のコントロールは悪くないはずだった。しかし、ここでは松坂の方が上まわっている。しかも、野茂は四球からピンチになっても持ちこたえて、それがはらはらどきどきの要素になったのだが、松坂はそこから四球を連発して、大量点につながることが多かった。
・そんな野茂の活躍は、日本のプロ野球機構や近鉄とのいざこざがあり、マイナー契約で年俸が11万ドル(約1300万円)だったことなどによって余計に増幅して受けとめられた。日本を代表する投手ではあっても、メジャーでは通用しないだろう。第一に、日本を捨ててアメリカで野球をしたいなどというのは生意気だ。そんな風潮が野球関係者やスポーツ・ジャーナリズムには強かった。
・ところが、それから12年たって、日本を代表する選手には、メジャーでもトップクラスの評価がなされるようになった。だからその分、マスコミの論調は、松坂についた1億ドルの値段に反応して、期待を過度に増幅させたといえるかもしれない。もちろん、1億ドルの半分は西武に払われたものであって松坂にではない。しかし、彼はメジャーでの実績なしに、600万ドル+出来高という年俸を5年契約で獲得した。今年の成績がその額に見あうものかどうか、判断するのは難しい。野茂がメジャーでいくら稼いだのかはわからない。しかし、彼が残した成績と彼が稼いだお金を考えたら、戦う前にほぼ同額か、野茂が稼いだ以上のお金を保証されるという待遇は、実力を遙かに越えたものだったといわざるをえない。松坂の1年を見て、まず感じたのはそのことである。
・メジャー・リーグのインフレは、多分、極限にまで来ている。そして日本のプレイヤーに対する評価は、今年の松坂の成績で、少し冷やされることになるかもしれない。松坂を取り損なったヤンキースが、代わりにととった井川は、2勝しかあげられずに、マイナーに何度も落とされた。彼程度のクラスのピッチャーなら、大金をはたかなくてもマイナーにごろごろいる。ヤンキースやレッドソックスから次々台頭した新人選手を見ていて、そんなことを感じたが、そのことを誰より悔いているのはヤンキースの首脳陣かもしれない。
・ともあれ、シーズンは終わったがポスト・シーズンがある。松坂は、大舞台になればなるほど本領を発揮するから、ワールドシリーズのヒーローになるかも知れない。その可能性は彼には十分あると思う。野茂が憧れつづけてかなわなかったワールドシリーズめざして、ぜひがんばってほしいと思う。