・NHKがひどい。ニュースに関するかぎり、もう中国や北朝鮮と変わらない、国営放送そのものだ。『安倍官邸VS.NHK』(文藝春秋)を書いた元NHK記者相澤冬樹が、「大竹まことゴールデンラジオ」(文化放送)に出て、NHKが変節したポイントに、ニュース番組から大越健介を交代させ、「クローズアップ現代」から国谷裕子を降ろしたことをあげていた。2015年から16年にかけての頃で、古賀茂明が「報道ステーション」(TV朝日)、岸井成格が「ニュース23」(TBS)を辞めさせられたのもほぼ同時期だった。安倍首相がメディアに積極的に介入し始めた時で、この後も、辞めた人、辞めさせられた人、なくなった番組などは少なくなかった。ついでに言えば、最近問題になった統計不正が頻繁に行われ始めたのも、この頃からのようだ。
・安倍政権がどんなにひどいものか。テレビはそれをほとんど取りあげない。だからだろうか。政権の支持率は五割を超えたままだ。しかし、対照的に、ラジオには、キャスターやコメンテーターが日々の政治状況を強く批判する番組がいくつもあった。ぼくの家では東京のラジオは受信できないが、ネットからなら聞くことができる。TBSには「ラジオCLOUD」があり、文化放送には「ポッドキャスト」がある。さらにYouTubeにはさまざまな番組の全部や一部を聞くことができるチャンネルが数多くある。
・よく聞いている番組には「荒川強啓デイキャッチ」と「大竹まことゴールデンラジオ」がある。コメンテーターやパートナーによって聞かない日もあるが、夜にチェックするのが日課になっている。ところがその「デイキャッチ」が3月で放送を終了することになった。1995年以来24年も続いた番組で、今でも聴取率は高かったという。もちろんやめる理由は荒川本人のものではない。終わるのは「番組としての役目が終わった」ということだが、おもしろいとか役に立つと思って聞いている聴取者がたくさんいるのだから、終わってなどいないはずである。いよいよ政権の圧力がラジオにまで及んできたか。そう思わずにはいられない出来事である。
・もう一つ、よく聞いている「大竹まことゴールデンラジオ」は大竹本人の腰痛で、昨年から今年にかけては本人不在で放送されることが度々あった。荒川より若いとは言え、彼も今年70歳になる。コメンテーターにお笑い芸人を多数使っていることもあって、下ネタで笑いをとることも多いが、その話題が大竹自身の老化現象であったりするから、ぼくにも思い当たる節があって、笑いながらも、共感することが少なくない。
・ただし、政治や経済の問題については、テレビはもちろん、ラジオの他局よりも先鋭的で、一部で話題になってもメディアではあまり取りあげない人や事件を登場させることが多かった。たとえば、元文科省次官の前川喜平、TBS記者に強姦された伊藤詩織、不当逮捕され、裁判で無罪になった官僚の村木厚子等々で、他にも、大竹本人が本気で怒りをぶつけるような発言があって、これについても共感することが多いのである。体力や気力を理由に辞めたりしないようにと思うばかりである。
・この番組に限らず、ラジオにはテレビとは違って、政治問題を正面から取りあげて、批判的なコメンテーターに歯に衣着せぬ発言をさせる番組が少なくない。テレビとラジオは同じ系列下にあって、TBSは言うまでもないが、文化放送と日本放送はフジテレビである。フジテレビは産経新聞の系列で、朝日新聞とテレビ朝日、読売新聞と日本テレビ、日本経済新聞とテレビ東京など、日本ではアメリカでは禁止されている「クロスオーナーシップ」が当たり前になっている。
・系列化していれば当然、新聞とテレビは政治に対して似たようなスタンスをとる。読売新聞と日本テレビ、産経新聞とフジテレビ、朝日新聞とテレビ朝日、毎日新聞とTBSだが、ラジオの文化放送には同系列の日本放送以上に、産経やフジのスタンスとは違うものを感じている。ネットで調べると、フジサンケイグループでありながら独自色を強く出す方針があって、それは開局以降の歴史にもよるようだ。もともとはカトリック布教を目的に開局され、その後の労働争議などによる混乱時に旺文社や講談社といった出版社が参加して再建して「文化放送」という名になったようだ。だから、テレビ朝日や日本テレビとも野球やマラソン、駅伝などのスポーツ番組で連携する場合がある。
・ラジオはテレビに比べて聴取者の数が少ないし、年齢層も高いといわれている。音声だけのメディアだということもあって、その影響力はテレビの比ではないだろう。しかしそれ故に、テレビではできない放送も可能になる。そんなラジオの特性に魅力を感じて、死ぬ間際まで登場していたのが永六輔だった。そしてその姿勢を受け継いでいるのが久米宏である。彼が毎週土曜日に登場している「久米宏ラジオなんですけど」も、ぼくが欠かさずネットで聞いている番組だ。彼もまた70歳を超えていて、大竹同様、いつまで続けられるのか心配だが、本人はまだまだやる気があった荒川強啓のように、番組自体を終了させられたりしないように願うばかりだ。