2019年8月26日月曜日

『新聞記者』を観た

 

sinbun1.jpg・『新聞記者』がやっと甲府に来た。話題になったのは参議院選挙の時で、東京まで見に行こうかどうか迷ったほどだった。もう諦めていたがマイナーの映画をよくやる「シアターセントラルB館」が上映した。我が家はもう一時ほどの暑さではなかったが、甲府に行くとさすがに暑い。駅前通も人通りは少なかったが、映画館にいたのもまた10数名で、しかもほとんどがシニアだった。この映画館いつまでつづけられるのだろうか。いつ来てもそんな心配が感じられるほど観客は少ない。

・ 映画では、政権にまつわる現実の問題を想わせるレイプ事件や大学認可が取りあげられ、原案となった東京新聞記者の望月衣塑子や元文科相事務次官の前川喜平がテレビ画面として登場するなど、きわめてシリアスに作られていた。主演女優のシム・ウンギョンの勝ち気さと、男優の松坂桃李の真面目さが対照的で、ジャーナリストと官僚の違いを人間性として際立たせてもいた。

・ しかし、ぼくがこの映画を見て一番恐ろしく思い、実際にもそうなんだろうなと感じたのは、内閣情報調査室という機関と、そこで実際にも行われているだろうと容易に想像できる光景だった。いわゆる「内調」は、この映画では政府主導のスパイ機関で、マスコミをはじめとしてありとあらゆる情報を集め、都合が悪ければもみ消したり、誤報だと触れ回ったりするし、自ら積極的にフェイク・ニュースを流して情報操作もやっているところとして描かれている。政府に批判的な官僚や政治家、ジャーナリスト等々の情報を集め、素行調査などもしてスキャンダルを作りだす。これが信憑性があるのは、伊藤詩織や前川喜平の件でも明らかである。

・ もちろん「内調」は現政権が作り出したものではない。しかし、政権を保持することを目的に、スパイ活動や情報操作に露骨なほどにエネルギーを注ぐのは、現政権が段違いに強いだろう。SNSを駆使してフェイク・ニュースを流したり、ネトウヨまがいの誹謗中傷を流しているとしたら、これはもう犯罪といってもいいのだが、そこには警察関係者も多数送り込まれているし、実態がつかめないから、やりたい放題なのだろうと思う。映画を見て、そんなことを考えたが、政権はこの映画での内調の描き方に抗議をしていない。

・ この映画が公開されたのは参議院選挙の期間中だった。ずい分話題になったが、選挙結果に何か影響があったとは思えない。何しろ投票率が50%を割って、自公はほとんど議席を減らさなかったのである。テレビでの選挙報道を抑え、選挙に対する無関心を作りだすことに成功したのだから、マイナーな映画が予想以上にヒットしたからと言って、「内調」自体が強く動く必要もなかったのかもしれない。それだけ、現政権の情報操作の効果は圧倒的なのである。

・ それにしても、官僚もジャーナリストも、今はやりたいことができず、やりたくないことばかりを半ば強制的にやらされている。不満があっても口にも出せず、ただ言いつけに従うのみ。それはもちろん、企業にしても似たようなものなのかもしれない。組織の中で働くことが、これほど、個人の思いややる気をそいでしまっている社会は、少なくとも戦後の日本では初めてのことだろう。一体、このままどこに行ってしまうのだろうか。映画を見ながら何とも憂鬱な気分になってしまった。

2019年8月19日月曜日

真夏の騒動

 

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forest160-2.jpg・河口湖も連日30度超えで、午後はじっとしていても汗が出るほどだった。当然、窓はすべて開け放っていたのだが、時折嫌な臭いが漂うようになった。最初に気づいたパートナーが家の周囲を見回ると、川の土手に埋められた下水管から汚物が吹き出していた。急いで管理会社に電話をして、状況を説明したが、清掃会社がやってきたのは4日ほど後で、下水のつまりを直したのは6日後だった。
・対応の遅さに我慢ができずに、吹き出した汚物をスコップですくいとり、川に流れるように水を大量にまいた。悪臭にもめげず、噴き出す汗をぬぐっての格闘だった。綺麗にというわけにはいかなかったが、臭いは大分軽減された。詰まった下水管は我が家のものではなく、付近の下水を集めて処理場まで流れる本管だった。道路下などと違って、隙間から土や草木が入り込んでのつまりだったようだ。もっとも、流れ出した汚泥はまだ、少し残っている。お盆を挟んでいるとは言え、対応の遅さにはうんざりした。

forest160-3.jpg・それでやれやれと思ったら、iPadのタッチパネルが突然反応しなくなった。iPadはタッチパネルが動かなければ、何も操作はできない。パソコンで調べて、強制終了を試みたが、すぐに再起動をしてオフにすることもできない。APPLEに連絡をして、電話での指示によっていろいろ試みたが治らないので、修理に出すことにした。クロネコでケースが届いて発送すれば1週間ほどで戻ってくると言われたが、お盆での高速道路の渋滞のせいか、取りに来たのが1日遅かった。

・しかし、着いたという連絡からしばらくして、交換作業が終わったので出荷しましたという連絡が入った。修理ではなく新品交換だったのかと、その時わかった。使い慣れて愛着もあった機器ではなく、新しいものがやってくる。さみしいような、嬉しいような、複雑な気持ちになった。いずれにしても、APPLEには製品を大事に使ってもらうという発想がない。60年代のカウンター・カルチャーを出発点にもつはずなのに、「もったいない」などという発想がない会社に変質してしまったことを実感した。

forest160-4.jpg・ところで、こんな時期に次男のところに2番目の子どもが生まれた。暑いさなかで大変だったと思うが、お盆の長期休暇で次男のサポートが”十分にできたようだった。驚いたのは、数日前にあった富岡八幡宮の祭りに出かけて、彼女が子どもの様子を長時間、ビデオに撮り続けていたことだった。熱い中、立ちっぱなしでよくそんなことが出来たものだと感心するやら驚くやら。赤ちゃんは男の子だから男二人だ。長男のところは女の子が二人だから、うまくいかないものだと思う。週末、病院に赤ちゃんを見に出かけた。

forest160-5.jpg ・長い梅雨の後の猛暑や台風で、自転車に乗る日がなかなかなかった。記録を見ると、去年はほぼ毎日走っているのに、今年は週に2日といった程度だ。ただ河口湖1周20kmを45分前後で、タイムは落ちていない。筋力の衰えがないのはいいが、体重がちっとも減らない。走る前に撮った写真を見て、ふっくらした姿にがっかりした。やはり食べすぎが原因だろう。しかし、食事制限してまで減らす気はないから、せめて増えないように気をつけようと思う。


2019年8月12日月曜日

猛暑はもう異常ではありません

 

・長い梅雨がやっと明けたと思ったら、いきなりの猛暑です。前回のコラムでも書きましたが、東北旅行は散々で、一日早く切り上げて帰って来ました。その河口湖も、連日30度を超えています。河口湖周辺ではエアコンをつけずに車に乗っていたのですが、去年からはつけずにはいられない温度になりました。気象台が発表する温度は、日陰で下に芝生を敷き詰めた所で測ります。ですから日なたではもっと上がりますし、アスファルトの上ではさらに上がります。先日東北の帰りに、車の温度計は何度も40度を超えました。

・テレビの気象予報では、猛烈な暑さになりますから、外出やスポーツは避けるようにと警告しています。もっともだと思います。ぼくは連日自転車に乗っていて、24、5度の朝の6,7時台と決めていますが、それでも、汗びっしょりになります。30度になる日中にはとても走れたものではないでしょう。クーラーのない我が家でも、去年からは欲しいなと思うようになりました。

・ところがテレビでは夏の甲子園野球を中継していて、相変わらず熱闘甲子園と連呼しています。35度を超える甲子園で高校生が全力で野球をやるというのは、どう考えたって異常です。日程を8月の後半にずらすとか、午前中と夜間だけにするなどの方策を考える必要があると思いますが、そんな声はどこからも聞こえてきません。そもそも甲子園野球は新聞が始め、テレビが人気にしたものですから、批判は封じ込められてしまうのかもしれません。

・投手の連投について、大船渡高校の佐々木選手をめぐって議論が起こりました。監督は準決勝で投げたので決勝では出場させなかったのですが、その事で高校には抗議の電話が殺到したようです。自分勝手もいい加減にしろと言いたくなりますが、プロ野球の解説者には相変わらず、根性論や甲子園を理想化する発言が目立ちます。しかし、高校生に連投を強いるのは日本だけの悪習で、成長過程にある高校生に過度の運動をさせては駄目だというのが、最近の健康医学の常識になっているのです。

・160kmを越える球速を出した佐々木投手は来年にはプロ野球入りし、数年後にはメジャーに行く素質を持った選手です。高校の監督はそのことを考えて、壊してはいけないと判断したようです。きわめて当たり前だと思うのですが、甲子園は高校生球児の夢だからとか、佐々木が出ないのではつまらないといった発言を平気でする神経が、信じられない気がします。

・ところで、東京オリンピックが1年後に迫りました。テレビにはその事をはやし立てる番組が目立つようになりました。もっぱらメダルが有望の日本選手に注目しています。しかしこの暑さでほんとうにできるのか。熱中症で倒れる選手が続出し、観客も含めて死人まで出たら、一体誰が責任をとるのでしょうか。すでにチケットも販売され初めていて、当たった、外れたと騒ぎになっています。またホテルの予約も行われていて、すでに大会期間中は満室となっているところが多いようです。チケットは取れたけど宿泊先がない、ボランティアに応募したけれど泊まるところがない。こんな混乱が起こるのは明らかでしょう。一体どんな「おもてなし」をするというのでしょうか。

・政府やメディアが一体となって熱く盛り上げようとしているオリンピックも、大会が終われば深刻な経済不況に襲われるという予測が出されています。米中の経済摩擦などにより、世界不況はすでに始まっているという見方も、すでに出されています。ここのところの株価の急落は、猛暑の中の寒々しい話しで、怪談話どころではないのです。このまま行けばオリンピック前に、日本は大不況に見舞われる危険性もあるのです。異常なのは猛暑ではなく、この国の政策とメディアのはしゃぎようにこそあるのです。

2019年8月5日月曜日

東北も酷暑だった!

 

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・夏には東北旅行というのが2年続いて、今年もと計画した。しかし、いつまで経っても梅雨明けしないので2週間遅らせることにした。どうせ行くなら雨ではなく天気がよくなってからと思ったのだが、とんでもない間違いだった。暑くて何もできなかったからだ。4泊5日の予定を1日切り上げて帰って来た。

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・今回はあちこち行かずに猪苗代の磐梯山の麓で過ごす予定だった。磐梯山には5年前に登った。(↑)パートナーが脳梗塞で倒れる前で、最後に登った山らしい山だった。9月だったせいもあるが。天気がよくて頂上からの眺めも素晴らしかった。山登りのベテランの義兄と一緒だったが、今回はその義兄の別荘を借りての滞在だった。

・東北に行く時にはいつも関越道を使っている。今回もそうで、まだひんやり涼しかった河口湖を出発すると、外気がみるみる上がって圏央道に入る頃には30度を超え、谷川岳下の関越トンネルを過ぎて新潟に入ると、34度、35度とみるみる上がった。PAによるとどかっとした感じでまるでサウナ風呂に入った時みたいだった。新潟から阿賀野川沿いに会津まで走ったが温度は下がらない。600Mほどの高地なのに別荘も33度で、しばらく使っていなかったせいか、家の中は猛烈な暑さで、かび臭かった。暗くなった頃にはさすがに涼しくなったが、早くも、夏ばて状態になった。

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・とは言え、少し歩こうと、安達太良山の麓にある自然植生観察園「万葉の里」と近くの「不動滝」に行った。真っ黒い岩石の滝で、水しぶきがかかって、ここは涼しかった。あとは裏磐梯の檜原湖をまわり、磐梯山をぐるっと一周した、もっていった自転車にはとても乗る気にならなかった。

・猪苗代は2泊で切り上げて那須で一泊。帰りにいきたいと思っていた足尾の銅山跡に立ち寄って、帰宅した。精錬所から出る亜硫酸ガスではげ山となった所が、今は植林活動で鬱蒼とした森になっていた。田中正造に関連した場所が見つからなかったのは残念だった。世界遺産登録を目指しているようだが、さてどうか。山の緑を復活させただけではなく、日本の反公害運動の原点であることに、もっと注力すべきだと思った。

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2019年7月29日月曜日

テレビからジャーナリズムが消えた

 


・参議院選挙の結果は各新聞がそろって予測した通りだった。つまり事前の世論調査の数字が、選挙期間中も動かなかったということだ。確か世論調査では、まだ投票先を決めていない人が5割以上いるとされていた。実際の投票率は5割に充たなかったから、結局、決めていなかった人が投票に行かなかったということになる。二週間の選挙活動期間は何だったのかと言いたくなるが、もちろん、候補者や政党は連日精一杯の活動をしてきたのだろう。しかし、選挙活動が行われている場所に行かなければ、家の近くに選挙カーが来なければ、選挙中であることを感じることもない。テレビがほとんど、選挙の動向や、争われるべき争点について、特番を組むことはもちろん、ニュースでも取りあげなかったからだ。

・テレビ局の言い分は、どこも、今度の選挙は話題に欠けるから視聴率が稼げないというものだった。しかし、今回の選挙には、実際、日本の現状や、将来の方向性を左右する大きくて複雑で、しかも深刻な問題がいくつもあった。それらを本気になって取りあげれば、視聴者の関心を集めて、選挙の重要性を自覚させるきっかけや弾みにもなったはずである。そうしなかったのは、政権の圧力に屈したか、忖度をして、争点隠しの片棒かつぎに加担したからにちがいない。テレビ局にわずかでも、ジャーナリズムの媒体でもあるという自覚があれば、そんな言い訳はできなかったはずで、すでにそのような使命や矜持は捨ててしまったと思えるからである。

・選挙期間中にテレビが好んで取りあげたのは、吉本所属のタレントが起こした反社会的集団との闇商売であったり、ジャニーズ事務所の創立者の死だったりした。テレビにとっては芸能界こそが注目すべき世界であることを如実に示すものだが、それはまた、テレビが芸能界にあまりに依存しすぎていることの結果でもある。吉本やジャニーズといったプロダクションがなければ、テレビ局は番組を作ることはできないし、電通といった広告会社がなければ、スポンサーを集めることもできない。そのどちらも現政権に強く繋がっているから、政権にとって都合の悪いこと、選挙を不利に導くようなことは、絶対にできないことになっているのである。

・久米宏がNHKの「あさイチ」に出て、NHKが「人事と予算で政府や国会に首根っこつかまれているのは絶対的に間違っている。完全に独立した放送局になるべき」と批判をした。NHKはすでに何年も前から、ニュースなどでは完全に「安部チャンネル」と化していて、北朝鮮の放送を笑うことができないほどひどいものになっている。ニュースや報道にさく時間がなまじ多いから、選挙を無視した民放テレビよりもっと罪が重いと言えるだろう、何しろ、全国津々浦々に電波を届けられるのはNHKしかないのである。「NHKから国民を守る党」が1議席をとった。NHKにとってはやっかいな存在だろうが、そのいかがわしさを知らずにNHK批判にと投じた票がかなりあったことに、NHKは自覚すべきだろう。

・そんな中で、政党要件を充たさないからと無視された「れいわ新撰組」から二人の議員が生まれた。二人とも重度の障害者で、車椅子での国会活動が避けられないから、国会が始まる前に、いろいろ直さなければいけないところがあって、大変だと思う。しかし国会が、健常者だけの世界であってはいけないことがやっと認識されるから、たった二人とは言え、大きな変化になると思う。残念ながら山本太郎は当選できなかったが、カンパを4億円も集めたことや、演説会場を人で埋めたことなど、新しい政治のやりかた、政党のあり方を提案した、大事な行動だったと思う。

・選挙に無関心だったテレビも、選挙結果には大はしゃぎで、どのチャンネルも特番を組んでいた。ぼくはネットで山本太郎の選挙事務所のライブを見ていたが、そこでテレビの取材に対して、「初めまして」と皮肉を言って話し始めたことには笑ってしまった。番組を見ていないからわからなかったが、レポーターはばつが悪かったに違いないと思う。もちろん、ばつの悪さはテレビ局自体にこそ感じて欲しいものである。ほんのわずかでもジャーナリズムの一翼を担っているという自覚があればの話だが………。

2019年7月22日月曜日

田村紀雄『移民労働者は定着する』ほか

 

『移民労働者は定着する』(社会評論社)
『カナダに漂着した日本人』(芙蓉書房出版)
『日本人移民はこうして「カナダ人」になった』(芙蓉書房出版)

・移民、難民、そして外国人労働者は、世界大の大きな問題である。圧政の苦しみや戦争の惨禍から逃れるために、貧困から豊かさを求めるために、アフリカや中南米からヨーロッパやアメリカに多くの人びとが押しかけている。人道的に受け入れるべきという立場と、国家の揺らぎや混乱の原因だと排除を主張する側の対立が、世界の政治を危うくさせている。またここには、外国人を労働力として補充しなければ、人口減による労働不足を解決できないという先進国の問題もある。この問題は多様で複雑だから、解決策を見つけ出すのは簡単ではない。しかし、移民や難民にはすでに長い歴史がある。現在の日本は、外国人労働者を欲しながら、移民は認めないといった矛盾した政策を打ち出しているが、かつては移民として多くの人を他国に送り出してもいたのである。


tamura2.jpg ・田村紀雄さんは前回のこのコラムで書いたように、ぼくにとって先生の一人だった。すでに80代のなかばだというのに、『移民労働者は定着する』という新著を書き下ろした。カナダに移住した日本人が、第二次世界大戦によって定住した地(主にバンクーバー)から移動を強制され、キャンプ生活を余儀なくされた。その数年間についてのフィールドワークである。しかしこの本に触れる前に、ここではまず彼の既刊書である『カナダに漂着した日本人』から、前史である日本人のカナダ移住の歴史を振りかえることにしよう。

・日本人が初めてカナダに辿り着いたのは1870年頃のようだ。そこから森林の伐採や製材、漁業、農業、そして鉄道敷設の労働力として移住していくようになる。最初は金を稼いだら日本に帰ると思っていた人たちも、結婚したり子どもができたりすれば、定住を考えるようになる。バンクーバーにはそんな日本人たちが多く住む地域が生まれた。さまざまな商いを営み、病院や学校の設立に努力する。たがいに競い、反目するばかりだった日本人の中に協力し合う余地や必要性が生まれ、コミュニティができるようになる。その中で大きな役割をしたのが、いくつかの日本語の新聞だった。『カナダに漂着した日本人』は、そんな定着までの過程を物語のように綴っている。

tamura1.jpg ・カナダは移民によってできた国である。しかし、日本人が移住し始めた頃にはまだイギリス連邦にあって、バンクーバーも小さな町に過ぎなかった。その意味では日本人の移住は、バンクーバーという町の都市化やカナダという国の発展にとって欠かせない存在だったと言っていい。また林業や漁業にしても、その主な輸出先は日本だったのである。しかし、日本とアメリカの戦争が勃発すると、カナダ在住の日本人は、日本に帰国するか、西海岸から100マイル以上東に移動することを強制された。それもほとんど時間的余裕のないものだった。

・移動させられた場所はロッキー山脈の西にある谷間の地で、かつては鉱山や森林伐採で栄えたゴーストタウン化した小さな町ばかりだった。そこで空き家や新たに作った掘っ立て小屋やテントでの生活が始まったのだが、それはまた無からのやり直しだった。日々の生活、仕事、学校、病院など、人びとの間には助け合い、協力し合う気持ちが生まれたが、ここでもまた、新聞の力は大きかった。日本人の動向を把握するためにカナダ政府が援助した『ザ・ニュー・カナディアン』は英語と日本語の二本立てで構成されたが、日本語は一世、英語は二世向きで、内容も同じではなかったようだ。戦争が終わると多くの日本人たちは、その地を離れてさらに東へと移動して散在していくことになる。

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・田村さんはメディアやジャーナリズムの研究者だから、当然、研究の視点、対象に対する姿勢、そして素材となる資料も新聞や雑誌が中心となる。『日本人はこうしてカナダ人になった』は、梅月高市を中心に1924年に創刊され、大戦によって禁止される1941年まで発行された『日韓民衆』の推移を軸に日本人の移民の動向をフィールドワークしたものである。カナダにおける日本語の新聞について、田村さんが関心をもつきっかけは、梅月が残した『日韓民衆』そのものや、彼が克明に書き残した日記など、膨大な資料との出会いにあった。その資料や現地でのフィールドワークをもとに本を書くことを約束したのだが、実際の作業は退職後になり、約束を果たすのに何十年もかかってしまったのだという。改めて読み直してみて、その努力にほんとうに頭が下がる思いがした。

2019年7月15日月曜日

「れいわ新撰組」がおもしろい

 

・参議院選挙が始まった。新聞社の選挙情勢調査では、自公の勢力が過半数をとると予測されている。これほどお粗末な政権、これほどひどい政党が国民の審判によって支持されつづけるのだという。年金問題が明るみに出ても、トランプの言いなりで、ハワイやグァムを守るイージスアショアを買ったり、墜落したF35戦闘機を爆買いしても、アベノミクスの失敗が明らかになっても、消費税がさらに上がると言われても、外交の安部がことごとく失敗だったとしても、そしてもちろん、森友加計問題が闇に葬られてしまっていても、消極的にせよ、相も変わらず支持する人が多数派を占めている。信じられないし、絶望的にもなるが、諦めてはいけないと、すでに期日前投票に行ってきた。

reiwa1.jpg ・注目したのは「れいわ新撰組」。しかし、この政党ははテレビではほとんど無視されている。党首の山本太郎はテレビの討論にも呼ばれていない。寄付が短期間で3億円を超え、選挙演説に集まる数はダントツに多く、ネットでも話題になっているのに、泡沫候補扱いするのは、自粛ばかりの保守的なメディアにとっては危険な考えをもつ候補の集まりに見えるのだろうか。政党要件を満たしていないとは言え、山本太郎はもちろん、10人の候補者の顔ぶれを見れば、テレビ的には大きな話題を呼んで視聴率を稼げると思うのだが、政権の逆鱗に触れると恐れているのかもしれない。もっともテレビは選挙そのものに後ろ向きで芸人の闇仕事ばかりを取りあげている。選挙に無関心のままでいさせようとしているとしか思えない。

・「れいわ新撰組」という名前は好きではない。というより新年号の「令和」も、幕末の新撰組も嫌いだといった方がいい。しかし、「れいわ」は安部、「新撰組」は「大阪維新」を皮肉ってつけたとすれば、それはそれでおもしろいとも思った。「れいわ新撰組」に集まった人たちはユニークだ。全員が現在の日本が抱える大きくて深刻な問題の当事者であるからだ。蓮池透は元東京電力社員で、元北朝鮮による拉致被害者家族連絡会事務局長だ。そこから、日本の原発政策と、拉致問題に対する政府の対応を厳しく批判してきた。安富歩は東京大学東洋文化研究所教授で東洋経済史の研究者だが、女装をして、LGBTやハラスメントの問題にも発言をする人である。木村英子は生後8ヶ月で障害を負って以来、車椅子生活をしていて、重度障害者が生きにくい現在の社会について積極的に発言してきた人である。三井義文は元コンビニオーナーで、名ばかりの事業主という契約形態の不当さを訴え、会社や仕事に殺されることを社会問題として訴えてきた。

・辻村千尋は環境保護NGO職員として、小笠原諸島の自然保護やリニア新幹線による自然破壊、そして辺野古の埋め立てなどの問題について活動してきた人である。環境問題は票にならないと冷たい議員に代わって、自ら政治家として活動することを目指している。大西恒樹は元J.P.モルガン銀行のディーラーだが、その経験から現代の金融資本主義における巨大な搾取構造を問題視し、その根本的な変革を唱えて活動してきた人である。船後靖彦は41歳以降全身麻痺のALSを患いながら介護サービス事業を営む会社で働いている。歯で噛むセンサーを使ってパソコンを操作して、仕事のほか、文筆や講演活動もしている。渡辺照子はシングルマザーの派遣労働者として生きてきた。そのどん底の暮らしの中で味わった経験や出会った人たちと、格差社会の是正を目指している。

・何よりおもしろいのは、山本太郎に変わって東京選挙区に沖縄在住で創価学会員の野原義正を立てたことだ。彼は沖縄県知事選で公明党に反旗を翻して玉城デニーを支持し、今回は代表の山口那津男と同じ選挙区で争っている。平和と福祉の党であったはずの公明党の原点回帰を呼びかけている。そして比例区では特定枠に車椅子の二人が入り、山本太郎は3番目ということになっている。つまり3人当選できるだけの得票数が得られなければ、山本太郎は落選ということになるのだ。一人当選させるためにはおよそ100万票が必要だと言われている。

・大手のメディアに無視されたのでは、「れいわ新撰組」を全国的に名前を知らせることは難しいだろう。山本太郎は落選ということになるのかもしれない。しかし、車椅子の議員は初めてだから、国会議事堂の改築が必要になるし、発言やら投票の仕方も変えなければならなくなる。弱者無視の国会に、初めてメスが入るのである。さらに、山本太郎は「れいわ新撰組」の飛躍の照準を次の衆議院選挙以降に合わせている。だから、どうしても当選しなければならないわけではないと考えての処置だと思う。それだけに、今後飛躍するためにも、今回の選挙結果が大事になるはずである。