2002年12月9日月曜日

「ベスト」というアルバム

 

"Queen;Greatest Hits I, II"
"Talking Heads; Popular Favorites 1976-1992 Sand in the Vaseline"

・最近、ベストと名がつく、あるいはそれに類したアルバムがよく発売される気がする。もちろん、デビューして人気になって、何年かのうちに数枚のアルバムを出せば、コンサート盤を出して、それからベストをというのはありふれたパターンではある。しかし、それにしても目立つな、と思う。 
・何度もふれているが、音楽の状況は、その商品としての市場はもちろん、サウンドやリズム、あるいはファッションやメッセージにしても沈滞が続いている。日本では特に、若い世代が内向き志向になって久しいから、洋盤のCDの売り上げ不振は深刻なようだ。だから、有名なミュージシャンのベスト・アルバムが高額な宣伝費を投じて売り出される。U2、ポール・マッカートニー、エリック・クラプトン、あるいは今年死んだジョージ・ハリスンの遺作(息子による編集)、中にはMTVのアンプラグドのベストなどというものもある。ぼくは日本のミュージシャンには詳しくないが、坂本龍一が映画やTVのテーマ曲、あるいはCM等々をまとめた何枚ものCDを一挙に発表した。
・ポピュラー音楽は何よりビジネスだから、売上げを伸ばすために企業もミュージシャンも工夫を凝らす。これは当たり前の話だ。ぼくは既発表の作品を編集しなおして再発売というやり方には積極的に賛成しないが、時にはありがたいと思うこともある。
・たとえば、最近クイーンのベストアルバムを聴いた。ぼくは70年代のイギリスのロックは食わず嫌いであまり熱心に聴かなかった。とくにデビッド・ボーイなどのグラム系は化粧やチャラチャラしたコスチュームを見ただけで聴く気にもならないという感じだったが、クイーンもそのなかの一つだった。で20年以上たってあらためて、その代表作の大半を聴きなおすとこれがなかなかいい。今さらと笑われてしまうが、ぼくにとっては大発見だった。なかでもやっぱり「Bohemian Rhapsody」がいい。これはイギリス人が20世紀で一番好きな歌に選んだ一曲だそうだ。


queen.jpeg ママ、人を殺しちまった
ヤツの頭に銃をつきつけて
引き金を引いたら、死んじまった
ママ、ぼくの人生は始まったばかりなのに
もう駄目だ、放り出しちまったんだ
ママ、泣かせるつもりだったんじゃない
明日この時間に戻って来なくても
何もなかったように暮らしていって

・ぼくはCDを90年代になってから買い始めている。それ以前はもちろんLPだった。『アイデンティティの音楽』を書いたこともあって、そのLPの大半をCDで買い直した。今となってはさほど聴きたいと思わないのはベスト・アルバム一枚だけという場合もある。で、逆にレコードでは買わなかったけど、再認識というミュージシャンもやっぱり、まずはベストからということにしている。クイーンはそんな中の代表的なものだ。
・ぼくのところには音楽好きの学生が多く集まる。しかし、彼らの好きなミュージシャンは日本人だから、その名を聞いても、ぼくにはほとんどわからない。「日本人のラップなんてダメだ」と言えば、そうでないのもあると言ってCDを持ってくる。今はインディーズ系ががんばっているようで、それを得意になって説明してくれる学生もいる。あるいはもっと目立たないミュージシャンについても。学生が勧めるものを聴くと、なるほど悪くはない。テレビやラジオから流れてくるものばかりが最近の傾向ではないことはよくわかる。
・けれども、それはそれとして、ロック、あるいはポピュラー音楽には時間的にも空間的にも、もっとさまざまな音楽や歌がある。しかもそれはCDとしてたやすく手に入る環境にある。だからもっと時間をさかのぼって、あるいは日本から出て音楽の旅をしてほしいものだと思う。
・そういったときに、勧めるのはベスト・アルバム。有名なミュージシャンは何十枚もアルバムを出しているから、興味をもってもどれを選んだらいいかわからない。その時に確実で失敗がないのがベスト・アルバムだ。昔のロックというとビートルズ、といったステレオタイプではなくて、もうちょっと違ったところにも目を向けてほしい。
talkingheads.jpeg ・そんなお勧めは、それぞれの時代に新しい流れを作り出した人たち。特にCD以前に活躍したミュージシャンは、力を入れてCD化しているものが少なくない。たとえば、トーキング・ヘッズの"Popular Favorites 1976-1992 Sand in the Vaseline" は出色。パティ・スミスの"Land(1975-2002)"はすでに紹介済。ボブディランの"Live 1961-2000"も同様。レッド・ツェッペリンの"Remasters"、ジョン・ケールの"Seducing"………
・そうやって見ていくと、ロバート・ジョンソンとかライトニン・ホプキンスといった源流のブルースから現代まで、これといったミュージシャンでベストやコレクションのアルバムを出していない人はいないことに気づく。これは何ともいい時代だと思うけれども、だからこそ、いっぱいありすぎてわからないということになってしまうのかもしれない。
 

0 件のコメント:

コメントを投稿

unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。