ジャック・アタリ『1492』ちくま学芸文庫
チャールズ・C.マン『1493』紀伊國屋書店
・1492年当時の地球には約3億人の人間が生きていた。その半分以上はアジアで、4分の一がアメリカ大陸、そしてヨーロッパにいたのは5分の一にすぎなかった。ジャック・アタリの『1492』はこんな書き出しで始まっている。
西ローマ帝国が崩壊すると、ヨーロッパは多くの支配者によって鎖に繋がれほぼ1千年の間眠る。それから偶然とも必然とも言えようが、あるときヨーロッパは自分を取り囲む者たちを追い払って世界征服に乗り出し、手当たり次第に民衆を虐殺し、彼らの富を横領し、彼らからその名前、過去、歴史を盗み取る。(p.12)
・イスラムの王国を崩壊させ、ユダヤ人を追放し、キリスト教を浸透させる。活版印刷術が発明され、聖書をはじめさまざまな書物が出版される。武器や道具、そして船の技術革新が進む。かつてはシルクロードを経由して細々と届いていたアジアからの産物が、ビザンチン帝国の崩壊によって、海上ルートを探さざるを得なくなった。アフリカへの探検競争と大西洋を西に向かってインドへ辿るルートの探索が始まる。そして、ヴェネチア、ジェノヴァ、ナポリ、リスボン、セヴィーリヤといった港町が栄えるようになる。「ルネサンス」が起こり、「個人」「芸術」「自由」「責任」「創造」といった新しい考えが登場する。
・『1492』は三部構成になっていて、I部が1492年に至るまで、II 部が1492年の一年間、そしてIII部がその後となっている。どの章も現在形で書かれていて、物語のようにして読める。1492年はキリスト教ヨーロッパによる世界の植民地化の始まりの年で、アメリカ大陸やアフリカ大陸の植民地化を巡って各国がしのぎを削り、また争うことになる。またプロテスタントが新興勢力としてカトリックに対抗するようになり、近代化が進展し、産業革命が起こることになる。
・チャールズ・C.マンの『1493』は、コロンブス以後の世界の変容について、主に「交換」をキイワードに詳細に分析をしている。この本も同様に物語風に現在形で書かれていて、小説を読むように読み進むことができた。コロンブス以後にヨーロッパとアメリカ、そしてアジアやアフリカの間で「交換」されたものは貴金属や作物ばかりでなく、動植物や細菌にまで及ぶ多様なものである。
いまやイタリアにトマトがあり、フロリダにオレンジが育ち、スイスでチョコレートがつくられ、トルコやタイでトウガラシが使われている。生態学者にとってコロンブス交換は、恐竜の絶滅以来最も重大な事件なのだ。(p.34)
・交換された作物はもちろん他にもたくさんある。南米からジャガイモ、中米からはトウモロコシがヨーロッパにもたらされ、サツマイモが中国に伝わる。これらは主に貧民層の食料として必需品になっていく。タバコが伝わると多くの人を虜にして、大規模な生産がおこなわれるようになった。サトウキビはアジア原産だが、適した土地がアメリカ大陸で探された。その他にコーヒー、カカオ(チョコレート)、あるいは牛や馬、羊、山羊といった家畜など……。
・「交換」はアジアとの間でも起きた。フィリピンのマニラを中継地にして明(中国)との間にも貿易が盛んになり、大量の銀の他に、サツマイモやトウモロコシ、トウガラシ、ピーナッツ、そしてたばこなどが、太平洋を渡って明に送られ、逆に絹や陶器、そして香料などが明から輸出された。
・このような「交換」によって世界の人口は1700年代には10億人を超えた。しかし、ヨーロッパやアフリカからアメリカ大陸に持ち込まれた病原菌(マラリア、天然痘、インフルエンザ、黄熱病など)が多くの先住民を死に追いやった。たとえば中米を侵略したコルテスの残忍ぶりはひどいものだったが、天然痘によって人口は3分の一に減ったという。またアフリカから奴隷としてアメリカ大陸に送られた人は1170万人でヨーロッパから移住した人の3倍にもなった。そして現在地球の人口は70億人に達している。520年で23倍になったのである。
・この本の帯にあるように本書を読むと「この世界のありようは欲望の帰結だ」ということがよくわかる。欲のためには殺人はもちろん、自らの死も恐れない。ひどい話だと思ったが、それは現在の「グローバル化」の状況下でまた繰り返されていることでもある。ヨーロッパやアメリカは近代化を達成したが、中南米やアフリカは今でも貧しい状態が続いている。リオ五輪の様子を横目で見ながら本書を見たせいか、人種の混交や貧富の格差の原因と結果を目の当たりにした気がした。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。