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2020年6月22日月曜日

テレビ中継とスポーツ

 

・プロ野球がやっと始まった。とは言え、しばらくは無観客で、試合はテレビで観戦するしかない。台湾は既に客を入れて試合が行われているし、韓国でも1ヶ月以上前に始まっている。日本よりも感染者数も死者数も多いヨーロッパでも、既にサッカーのドイツのブンデス・リーグやスペインのラ・リーガ、そしてイタリアのセリアAも行われていて。イングランドのプレミア・リーグも始まったが、それらももちろん無観客だ。

・無観客でも試合ができるのは、テレビで大勢の視聴者が観戦して、リーグやチームには放映権料が入るからだ。ヨーロッパのサッカー・リーグは世界を市場にしているから、収入の多くがテレビの放映権になっている。日本のプロ野球は、最近では、地上波ではめったに中継されていなかった。BSやCSで多くの試合を中継していたが、その放映権料は決して高くはないだろうと思う。試合数も少なくなったから、当然、収益減になるのだが、選手への報酬をどうするかという話は進んでいないようだ。とりあえず試合を始めて、お金については、後から決めようというわけだが、選手はいったい、どこまで納得しているのだろうと疑問に感じている。

・他方で、アメリカのMLBは選手会との交渉が難航して、開幕出来るかどうか危ぶまれている。当初は7月4日の独立記念日からシーズンを開始するといわれていたが、それ以前のキャンプや練習試合の期間を考えると、既に不可能になっている。一体、シーズンを何試合にするのか。選手の報酬をどうするのか。感染を恐れて出場を辞退する選手をどう扱うのか。そういったことがなかなか決まらないのである。MLB、各チームのオーナー、そして選手にとって、何より大事なのは、どれほどの収入が確保できるかだから、銭闘などと皮肉られてもいる。もちろん、経済的な事情はチームによってさまざまだし、選手がもらう報酬も、格差はあまりに大きなものである。

・MLBの各チームはそれぞれ、全米各地の小都市に4つか5つのマイナーチームを持っていて、若手の育成や、地域のファン獲得に努めている。経済的な負担から、その球団を縮小しようという動きがあったのだが、コロナ禍で、マイナーの選手を解雇した球団が続出した。あるいは解雇はしないまでも、報酬を払わないところもいくつかあった。マイナーの選手の年俸は100万円にも満たなかったりするようだが、それさえ払わないというのは、あまりに現金だというほかはない。

・他方で、一流選手の年俸は高騰が続いている。たとえば大谷選手が所属しているエンジェルスのトラウト選手は昨年、12年で479億円の契約をした。毎年40億円というのは。試合数で割れば2500万円になる。同じ野球なのに、シーズン通して100万円しかもらえない選手との格差には驚いてしまうが、野球にかぎらず、一部のエリート選手にお金が集中する傾向は、どんなスポーツでも変わらないようだ。もちろん、多くのスター選手がマイナーの選手やスタッフ、あるいはコロナ関連で多額の寄付をしている。しかし、格差そのものを疑問視する声は少ない。

・プロ・スポーツが無観客でもシーズンを開始できたのは、テレビの放映権料が入るあてがあったからである。実際それは、入場料収入よりもはるかに大きな額になっている。ただし、MLBのマイナー・リーグでは、入場料以外の収入は得られないから、今シーズンはなしということになった。そこは1部、2部を入れ替え制にしている世界中のサッカーリーグとは違うところである。小都市にある小さな球場で、将来、メジャーに上がるかもしれない選手を応援する。我が町の我がチームを支えているからこそのメジャーなのだが、それが壊れてしまいかねない状況なのである。

・コロナ禍でプロスポーツとテレビの関係が改めて浮き彫りにされたが、スポーツがテレビに左右されるのは、オリンピックの真夏開催でも明らかになっていて、そこにも巨額な放映権料という問題が立ちはだかっている。テレビでいろいろなスポーツを楽しむことができるのはいいことだが、テレビによってスポーツがむしばまれていることを目の当たりにすると、何とも矛盾した思いに捕らわれてしまう。スポーツを金のなる木に変えたのはテレビだが、そのスポーツをダメにしてしまうのもテレビなのである。

2020年2月3日月曜日

駅伝とピンクの靴

 ・年末から正月にかけて一番人気のあるスポーツ番組は駅伝だ。高校、大学、実業団、そして都道府県対抗といろいろあって、京都や箱根、広島や群馬などで行われている。もちろんこれはテレビで中継されていて、どれも視聴率を稼いでいる。中でも箱根は大晦日の紅白歌合戦に続く、正月番組の目玉になっている。それらのすべてではないが、僕もその競走を楽しんで見た。今年はどれも大会新記録続出で、その理由の一番が履いている靴にあることに、大きな疑問を持った。

pink2.jpg・ 選手がはいていた靴はナイキ製で底が厚く、カーボンが入ったものである。それで弾力が増してスピードが出るそうで、この靴によってマラソンでも2時間を切る記録が出たし、設楽や大迫選手が日本記録を出したときも履いていたようだ。そして、この靴が使用禁止になるのではというニュースも流れた。スポーツと用具の関係は、その善し悪しを判断しにくい難しい問題だが、僕は駅伝を見ていて、このピンクの靴はダメだろうと感じた。底の厚さはともかく、弾力を増すカーボンを入れて記録を出しても、それは用具によって出たものにすぎないと思ったからである。

・ 禁止された用具には、これまでにも競泳の水着やスキー・ジャンプのユニフォームなどがあった。その理由は不公平になることと、人間の身体能力を超えた記録に対する不信感だったと思う。記録は用具によって超えられてはならない。日本や世界の記録が意味を持つのは、それが鍛練や練習方法、あるいは栄養などの改善によって更新されてこそ価値があるのであって、用具に頼るのはドラッグと同じだと考えられるからである。

・もちろん、記録が重視されないもので、公平さが求められれば、用具の改善には、それほどやかましく言わなくてもいいのかもしれない。たとえば自転車は70年代までは鉄製であったが、それがアルミになり、今はカーボンになっている。それによって自転車の重さは半減して、スピードが飛躍的に増し、選手の負担も軽減された。しかし自転車競技の多くは記録を競うものではないし、大会によって距離も高低差も道路状況もまちまちである。そして勝負を左右する用具の技術革新が、この競技の魅力の一つだったりもする。用具メーカーがチームを作り、競い合う。それはアルペン・スキーやモーター・スポーツにも言えることである。

・記録を争う陸上競技でも、用具によって記録が著しく伸びたものはある。たとえば竹の棒からグラスファイバーに変わった棒高跳びがいい例だが、逆にやり投げは飛びすぎて重心の位置を変えたりもした。あるいは、踵が離れるスピード・スケートのスラップ・スケートなどもある。スケートの記録はリンク・コンディションでずいぶん違うから、選手全員が履けば問題ないとされたのかもしれない。そう言えば、陸上のトラックも土からアンツーカー(レンガをくだいたもの)、タータン(合成ゴム)と変わり、今ではポリウレタンガ使われている。水はけと弾力性に優れていて、選手の記録更新には大いに寄与している。

・そんなふうに見てくると、厚底でカーボンを入れた靴もいいのではないかと、考えを改めたくなる。しかし、何の規制もなく、メーカーの競争に任せたのでは、やっぱり公平さに欠ける。靴の違いで勝ち負けが決まるのはおかしいし、新記録を出しても靴のせいだと思われては選手はもちろん、見るほうも評価が半減してしまう。そう言えば、メジャー・リーグでも昨年はホームランが飛躍的に増えて、ボールのせいだと疑問が出た。サイン盗みの問題などもあって、大騒ぎだが、ドーピング同様に基準を明確に決めるべきだと思う。

・ここまで書いて終わりにしようと思ったら、世界陸連が現在市販されているナイキの靴を認めたというニュースが流れた。すでに大量に売れ、多くの選手が履いているのだから、もう禁止できないと判断したのかもしれない。開発段階で陸連に判断を委ねるべきだったと思うが、開発競争は極秘で行われるものであるから、難しかったのだろう。しかしあらかじめ明確な規制基準を設けなければ、また新しい靴が開発されて、あっという間に広まってしまうことにもなりかねない。新記録の意味がなくなったのでは、元も子もないのだから。

2019年9月30日月曜日

久しぶりのラグビー観戦

 

rugby1.jpg


・ラグビーのワールドカップが始まった。ラグビーをテレビで見るのは久しぶりだが、その面白さに惹かれている。日本を応援するというのではなく、どの国の試合も見ている。いかつい男たちが身体をぶつけ合う、その激しさに思わず興奮してしまっているのだ。サッカーとも違うし、格闘技とも違う。もちろんアメリカンフットボールとも大違いだ。

・ ぼくはもともとラグビーファンだった。特に大学院を出た頃には同志社大学が全盛期で平尾や大八木といったスター・プレイヤーもいた。他にも釜石の松尾など、ラグビーはアマチュア・スポーツの花形だった。年末から正月といえばテレビでのラグビー観戦。それは箱根駅伝以上に人気番組だった。それがなぜ、マイナーなスポーツになってしまったのか。一番はサッカーのJリーグだろう。やがてワールドカップにも日本が出場するようになって、ラグビーとサッカーの位置は逆転して、その人気は桁違いに大きな差になった。何しろ日本のラグビーは世界に歯が立たないほど弱かったのである。

・そんなラグビーが復活するきっかけになったのは、前回のワールドカップだった。優勝候補の南アフリカに勝ち、キックをする時の五郎丸の仕草が流行になった。そして次回の大会が東京で開催されることになった。東京オリンピックは誘致活動から始まって、国立競技場の建設の不手際、猛暑の中での開催という日程、予算の大幅な増加等々問題ばかりで、今でもぼくは反対だが、ラグビーは楽しみにしていた。

・いくつのも試合を見ていて気づいたのは、ぼくが見ていた頃とはルールがずいぶん変更されたということ、試合運びも違うし、何よりユニホームがまったく変わってしまったことである。ぼくは今でも白い襟のついたラガー・ジャージーを愛用しているが、今のユニフォームには衿がないし、身体にぴったり密着している。だから選手の体型がそのまま出るのだが、筋肉隆々の巨漢ぞろいで、その選手が激しくぶつかり合うから、まるで格闘技のようになってしまった。バックスが球をつなぎ、華麗にステップをしてトライをする。そんなシーンが少なくなったように思った。

・しかも激しくぶつかっても、大げさに痛がる選手が少ない。ちょっと交錯しただけで悶絶するサッカー選手とは大違いである。もともとは同じスポーツで枝分かれしたものだが、今ではまったく違うものになっている。そんな感想を改めて持った。とは言え、どのチームも負傷者続出のようだ。ラグビーはサッカーと違いプロ化が遅かった。アマチュア・スポーツであることに誇りを持っていたからだが、ワールド・カップに参加した国の選手のほとんどは、今ではプロである。ただし、サッカーに比べたら、選手がもらう報酬は桁違いに少ないだろう。

・ワールドカップの試合会場はほとんどJリーグで使われているところである。収容数の多いスタンドは立派で、綺麗な芝生が敷き詰められているが、スクラムを組めばすぐに芝がめくれ上がってしまっている。会場の管理者はラグビーには使わせたくないだろうな、などと心配したくなるほどだ。そう言えば正月に国立競技場でやっていた大学や全日本の選手権試合では、黄色い芝がどろんこになり、選手も真っ黒になって、誰が誰やらわからなくなるほどだった。今は大雨が降る試合でも、選手が泥だらけになるなどということは全くない。

・そんなことをいろいろ思いながら観戦していたら、日本がアイルランドに勝ってしまった。アイルランドは北アイルランドとの連合チームで、それはアイルランドが独立する前からだったようだ。激しい紛争があって、テロなども頻発にあった。そんな中でもラグビーだけは統一チームだったという。番狂わせだがランク2位のチームだから、決勝には残るだろう。日本も決勝トーナメントに進む可能性が生まれてきた。日程は長丁場で決勝戦が行われるのは11月に入ってからだから、しばらくは目が離せない。

2019年9月23日月曜日

大谷翔平選手に

 

・大谷翔平選手の今シーズンは5月中旬に復帰して、9月中旬に終わるというものでした。成績は打率.286、18本塁打、62打点、12盗塁。悪くはないですが、少し物足りなさを感じました。何しろぼくにとって彼の出現は、野茂英雄以来に興奮する出来事で、去年も今年も彼の出場する試合のほとんどを見てきたのです。きっかけは何といっても去年のアニメマンガを思わせるような華々しい活躍でした。肘の靱帯損傷で投手としては不満足なシーズンでしたが、「ビッグ・フライ・オオタニサン!」とアナウンサーが叫ぶホームランは圧巻でした。今年は打者に専念するということで、その登場を首を長くして待っていたのです。

・今年はぜひ、彼の打つ姿を生で見たい。そう思ってアメリカ旅行を計画して、シアトルで試合を見ることができました。残念ながらホームランは出ず、エラーばかりで3度出塁という結果でしたが、準備運動をするところからじっくり見た満足できる経験でした。そして彼はこの後、6月だけで9本ものホームランを打って、この調子では30本以上打てるのではと思わせる活躍をしたのです。

・ところが、オールスター明けからさっぱりホームランが打てなくなって、7月は3本、8月1本、そして9月が2本という尻すぼみの結果になってしまいました。打球に角度がつかないとか、データを読まれて弱点を突かれているとかいろいろ解説されましたが、9月中旬に突然、左膝の二分膝蓋(しつがい)骨の手術で今シーズンは終わりというニュースが流れて、体調が万全ではなかったことを知らされました。ホームランが出ないことに、「しっかりしろよ」などとぶつぶつ言いながら見ていた自分を反省するニュースでした。

・故障カ所は先天的なもので、スポーツ選手が過剰な負担をかけると痛みが出るというもののようです。2月のキャンプから自覚していたと報道されましたが、日ハムの栗山監督によれば、以前から出ていた症状だったようです。すでに手術は終わっていて、投手としても打者としても来年はキャンプから普通に練習できるということです。そうなると二刀流での大活躍を期待したくなるのですが、彼は日ハム時代から毎年のように負傷をしていて、シーズン通して出場できた年はなかったようですから、投打に渡る華々しい活躍を期待するのはよくないなと思うようになりました。

・彼は投手として160kmを越える速球を投げるところが一番の魅力です。しかし、メジャーリーグでは速球投手の多くが、今年も靱帯の負傷でトミー・ジョン手術をしています。靱帯は鍛えることができない部分ですから、速球が負担になるわけですから、何キロ出たと言って大騒ぎするのはよくないことだなとつくづく思い知らされました。同じことはホームランについても言えます。フライボール革命で、打者は大振りしてボールを高く打ち上げることに精出しています。自打球で足の骨を折る選手も増えているようです。

・ホームランは派手ですが、犠打の少ないメジャーの試合がさらに大味なものに感じられるようになりました。イチローの活躍で、一時スモール・ベースボールがはやりましたが、今はとにかくホームランということになっています、一方で、大振りすれば空振りにもなるわけで、三振の数も増えています。そんな傾向は、見ていてつまらない試合を増やしていると思います。出塁すれば次の打者は決まってバントといった高校野球や日本のプロ野球もあまりに型どおりですが、もう少し多様な戦術があってもいいように思います。

・ところでエンジェルスは今年も5割に充たない成績でした。エース格のスキャッグスが薬物摂取が理由で急死しましたし、補強した選手がことごとく不調だったこと、マイナーから上がった選手が期待通りに成長しなかったことなど、原因はいくつもありました。おかしな投手交代をする監督や、補強策に失敗したGMの責任などを並べると、エンジェルスを強いチームにするためには、しなければならないことがたくさんあると思います。タラウトと大谷二人だけでは来年もまた、厳しいシーズンになるでしょう。

2019年9月9日月曜日

音楽とスポーツ

 

宮入恭平『ライブカルチャーの教科書』(青弓社)
浜田幸絵『<東京オリンピック>の誕生』(吉川弘文館)

・今回紹介するのは大学院で長年一緒に勉強した、二人の若手研究者の作品である。宮入恭平さんはすでに多くの著作を公表している。ぼくと一緒に『「文化系」学生のレポート・卒論術』(青弓社)を編集したし、単独で編集した『発表会文化論』(青弓社)もある。『ライブカルチャーの教科書』は以前に出した『ライブハウス文化論』(青弓社)を大幅に改訂したものだ。もう一人の浜田幸絵さんが出した『<東京オリンピック>の誕生』は、前作の博士論文をもとにした『日本におけるメディア・オリンピックの誕生 』(ミネルヴァ書房)の続編である。

kyohei1.jpg・「ライブカルチャー」とは録音や録画されたものではない、生で行われる文化全体をさしている。この本では主に音楽を扱っていて、レコードやラジオが登場して以降に一般的になった記録され、再現されるものに代わって、最近ではライブハウスから野外フェスティバルに至るまで、音楽(産業)の主流になりつつあることに注目している。音楽はレコードやテープ、そしてCDとして購入するものではなく、ネットを介してダウンロードをしたり、課金を払って聴き放題が当たり前になっている。

・この本は、そんな現状を歴史的にさかのぼり、また理論的に裏付けて、大学の講義に使う教科書に仕立て上げている。昨今論争になった音楽と政治の関係やストリート・カルチャーと法規制、アイドルばかりが売れる傾向と音楽の産業化、そしてアニメとテーマソング等々の多様化など、時事的な問題や流行も取り入れていて、学生にとっては興味を持ちやすい内容になっていると思う。講義内容準拠のテキストは、ぼくと一緒に何冊も作ったから、お手の物だ。

sachie1.jpg・『<東京オリンピック>の誕生』はやや硬質な専門書という内容である。東京オリンピックといっても1964年に開催されたものではなく、1940年に開催が決まったが、第二次世界大戦によって中止になった「幻の東京オリンピック」が主題になっている。明治維新以降、西洋に追いつき追いこせをモットーにしてきた日本にとって、東洋でのオリンピック開催は、その国力を世界に誇示する希有の機会だった。活発な招致活動をやり、国民に一大イベントへの期待を植えつけ、もうすぐ開催というところで中止になった大会である。

・1964年のオリンピックは、この中止になった40年から敗戦を経て、経済成長が本格化した時期に行われた。高速道路や新幹線を開通させ、東京の町を整備して、敗戦からの復興を短期間で成し遂げたことを世界に向けて発信する大きな機会になった。この本は最初の招致活動から中止、そして戦後の再招致活動から開催までを、新聞記事などを丹念に調べながら追っている。

・前著の『日本におけるメディア・オリンピックの誕生 』は日本が戦前に参加したロサンジェルスやベルリン大会について、主にラジオと新聞による報道を分析したものだった。それこそライブ中継ができなかった時代に、どうやって臨場感のある中継をするか。そんなことも含めて、日本という国の盛衰や、さまざまなメディアの発達とスポーツの関係がよくわかる内容になっている。

・映像や音声の技術がデジタル化して、いつでもどこでも好きなものを楽しむことができるようになったのに、音楽にしてもスポーツにしても、ますますつまらないものになっている。ぼくはこの2冊を読みながら、そんな皮肉な現象を再認識した。来年の東京オリンピックなどは愚の骨頂だろう。


2019年8月12日月曜日

猛暑はもう異常ではありません

 

・長い梅雨がやっと明けたと思ったら、いきなりの猛暑です。前回のコラムでも書きましたが、東北旅行は散々で、一日早く切り上げて帰って来ました。その河口湖も、連日30度を超えています。河口湖周辺ではエアコンをつけずに車に乗っていたのですが、去年からはつけずにはいられない温度になりました。気象台が発表する温度は、日陰で下に芝生を敷き詰めた所で測ります。ですから日なたではもっと上がりますし、アスファルトの上ではさらに上がります。先日東北の帰りに、車の温度計は何度も40度を超えました。

・テレビの気象予報では、猛烈な暑さになりますから、外出やスポーツは避けるようにと警告しています。もっともだと思います。ぼくは連日自転車に乗っていて、24、5度の朝の6,7時台と決めていますが、それでも、汗びっしょりになります。30度になる日中にはとても走れたものではないでしょう。クーラーのない我が家でも、去年からは欲しいなと思うようになりました。

・ところがテレビでは夏の甲子園野球を中継していて、相変わらず熱闘甲子園と連呼しています。35度を超える甲子園で高校生が全力で野球をやるというのは、どう考えたって異常です。日程を8月の後半にずらすとか、午前中と夜間だけにするなどの方策を考える必要があると思いますが、そんな声はどこからも聞こえてきません。そもそも甲子園野球は新聞が始め、テレビが人気にしたものですから、批判は封じ込められてしまうのかもしれません。

・投手の連投について、大船渡高校の佐々木選手をめぐって議論が起こりました。監督は準決勝で投げたので決勝では出場させなかったのですが、その事で高校には抗議の電話が殺到したようです。自分勝手もいい加減にしろと言いたくなりますが、プロ野球の解説者には相変わらず、根性論や甲子園を理想化する発言が目立ちます。しかし、高校生に連投を強いるのは日本だけの悪習で、成長過程にある高校生に過度の運動をさせては駄目だというのが、最近の健康医学の常識になっているのです。

・160kmを越える球速を出した佐々木投手は来年にはプロ野球入りし、数年後にはメジャーに行く素質を持った選手です。高校の監督はそのことを考えて、壊してはいけないと判断したようです。きわめて当たり前だと思うのですが、甲子園は高校生球児の夢だからとか、佐々木が出ないのではつまらないといった発言を平気でする神経が、信じられない気がします。

・ところで、東京オリンピックが1年後に迫りました。テレビにはその事をはやし立てる番組が目立つようになりました。もっぱらメダルが有望の日本選手に注目しています。しかしこの暑さでほんとうにできるのか。熱中症で倒れる選手が続出し、観客も含めて死人まで出たら、一体誰が責任をとるのでしょうか。すでにチケットも販売され初めていて、当たった、外れたと騒ぎになっています。またホテルの予約も行われていて、すでに大会期間中は満室となっているところが多いようです。チケットは取れたけど宿泊先がない、ボランティアに応募したけれど泊まるところがない。こんな混乱が起こるのは明らかでしょう。一体どんな「おもてなし」をするというのでしょうか。

・政府やメディアが一体となって熱く盛り上げようとしているオリンピックも、大会が終われば深刻な経済不況に襲われるという予測が出されています。米中の経済摩擦などにより、世界不況はすでに始まっているという見方も、すでに出されています。ここのところの株価の急落は、猛暑の中の寒々しい話しで、怪談話どころではないのです。このまま行けばオリンピック前に、日本は大不況に見舞われる危険性もあるのです。異常なのは猛暑ではなく、この国の政策とメディアのはしゃぎようにこそあるのです。

2019年6月17日月曜日

DAZNをはじめた

 

dazn.jpg・スポーツには見たいもの、気になるものがいくつかある。そのうちテレビで見ることができるのはごくわずかだ。たとえばメジャー・リーグは毎日中継しているわけではないし、見たい試合をやっているわけでもない。日本のプロ野球(NPB)やJリーグにはそれほど興味はないが、それでも見たくなる時はたまにある。サッカーの国際試合は我が家では映らない民放が中継することが多いから、見られないことがしばしばある。ましてや自転車やF1などは、テレビではほとんどやっていない。そんな物足りなさを感じていたら、ブラウザーにしきりにDAZNの広告が載るようになった。

・DAZNはダズンではなくダゾーンと呼ぶ。各種スポーツを提供するインターネット・テレビで、イギリスに拠点を置いているようだ。日本では2016年からサービスを始めている。野球やサッカーはもちろん、モーター・スポーツや自転車、ラグビーやアメリカン・フットボール、さらには格闘技などのライブや動画を配信している。ぼくはたまたま自転車の「ジロ・デ・イタリア」の様子をYouTubeで見て、DAZNがライブを配信していることを知った。DAZNに行くとメジャー・リーグも毎日数試合やっている。自転車が気になったし、NHKのBSではMLBは限られているから、契約することにした。最初の1ヶ月は無料で、継続したければ月々税込みで1890円払うことになる。継続するかどうかはわからないが、今は1ヶ月のお試し視聴を楽しんでいる。

・スポーツならライブが一番だが、そうでなければ、視聴する時間を自分で決められるインターネットは、自分にとっては好都合だ。だからますます地デジからは遠のくようになった。そんな傾向に対応するためかNHKもネット配信を予定しているようだ。広告費がネットに移動して収益が落ち込んでいる民放も追随することだろう。しかし、同じ番組をただネットに垂れ流しても、それで視聴者数を維持したり、増やしたりできるわけではない。バラエティばかりのテレビは飽きられているし、政府にべったりの報道姿勢にも批判は高まっている。

・大体、政権に批判的な報道番組がここ数年でずい分減ってしまっていて、そのうちのいくつかはネットで放送されたりしている。ぼくは愛川欽也が「朝日ニューススター」で放送していた「愛川欽也パックインジャーナル」を楽しんでいたが、それが廃止になり、2012年に欽也自身が開局したkinkin.tvの「愛川欽也パックインニュース」を視聴するようになった。彼が亡くなって、2013年に「デモクラTV」として再開されてからずっと視聴しつづけている。月額525円ですでに6年が経過した。最近の政治や経済、社会について、意見や認識を共有できる論客やジャーナリストがいる番組になっている。こことは別れてYouTubeで「デモクラシータイムス」という名のチャンネルを提供しているところもあって、前者は東京新聞、後者は日刊現代と提携している。

・インターネットではすでにAmazonプライムに契約して、映画視聴を楽しんでいる。YouTubeでテレビやラジオの番組を見たり聞いたりすることも多い。YouTubeはCMで中断して不快に感じることがあるが、お金を払ってCM抜きにする気はない。他にも映画、スポーツ、音楽など、お金を払えば見放題、聞き放題のサイトが乱立しているが、今のところ、これ以上に増やすつもりはない。

・ところでDAZNだが、アメリカ旅行中にはMLBのライブを楽しむことができなかった。配信しているのはアメリカ国外であることがわかって、帰国するまで見ることができなかった。MLBのライブ配信はMLB自体がやっているから、アメリカではここと契約する必要があるのだろう。しかしDAZNは日本のプロ野球を毎日ほとんど全試合、ライブ配信している。ライブ配信によるMLBの収入はかなりの額になると思うが、NPBはライブ中継からどれほどの収入を得ているのだろうか。そんなことが気になった。

・放送はNHKなら受信料の徴収、民放なら広告収入で成り立っている。NHKはなかば強制的だし、民放には見たくないCMがたくさん入る。だから、見たいもの、聞(聴)きたいものだけをお金を払って楽しむという方式は、ぼくにとってはずっと好ましい形態に思える。とは言え、既存の放送局もネットに本格的に進出しようとしていて、視聴者の奪い合いがますます熾烈になっていくことに、DAZNを見始めて改めて気がついた。

2019年4月29日月曜日

今年のMLB

 

・今年のMLBはイチローの引退セレモニーから始まった。イチローは去年開幕して間もなく、メジャーのロースターから外されて、チームに帯同するけれども試合には出ないという中途半端の立場になった。引退させずにおいて、日本でやる開幕ゲームを引退セレモニーにして盛り上げる。そんな演出は去年からわかっていたが、そのテレビ中継も、メディアの反応もあきれるほどのバカ騒ぎだった。救いはイチローが国民栄誉賞を辞退したことだが、なぜそうしたのかは、よくわからない。政治に利用されたくなかったのか、松井程度の選手が先にもらったことに対する反発か。あるいはパイオニアの野茂がもらっていないのに、自分がもらうわけにはいかないということなのか。

・イチローが辞めたマリナーズには菊池雄星が入った。そこそこのピッチングをしているのに、勝ち星に恵まれない試合が続いた。父親が亡くなっても帰国せずにがんばって、やっと一つ勝ったが、このこともまた、メディアは美談として大騒ぎした。今年は無理をせずに使うという球団の方針のようだ。マリナーズは主力を放出して、若返りをはかったが、出だし好調で優勝争いになればフル回転ということになるかもしれない。ムダ球が多くて中盤で100球近くなってしまうのが気になる。

・しかし、四球の多さではダルビッシュが一番だろう。スピードはあるし勢いもある。球種も豊富だから力でねじ伏せる投球ができるはずなのに、四球を連発して長打を浴びている。身体よりは精神面が問題で、投げる時にいろいろ考えすぎているのではないかと思う。力はあるのに自滅する試合を何度も見せられてきたから、彼の試合が見たくない気がしていたが、今年はNHKも見限ったのか、ほとんど中継をしていない。ピンチになっても動じないで飄々として投げる。そんな野茂のビデオでも見たらどうかと思う。

・対照的に田中将大はコントロールがいい。きわどい所にぴしゃりと投げて三振を取る。だから終盤に来ても球数が少ない。ただしヤンキースはレギュラーの多くが故障者リスト入りしていて、好投しても勝てない試合がいくつかあった。球に威力がないせいか失投してホームランを浴びることも少なくない。彼が投げる試合をもっと見たいのだが、どういうわけかデイゲームに投げて、中継が明け方なんてことが多いようだ。

・そんな中で一番好調なのが前田だろう。すでに三勝してドジャースの勝ち頭になっている。しかし、NHKは前田の試合をほとんど中継していない。それは去年も一昨年もそうだった。なぜ無視するのか。地味で話題性に乏しいから視聴率が上がらないのかもしれないが、前田が登板しているのに日本人選手の出ない試合を中継したりするから、担当者が前田嫌いではないかと勘ぐりたくなってしまう。

・日本人の誰もが待ち望んでいる大谷翔平は、まだ復帰していない。ただし復帰間近と言うことで練習風景が連日報道されている。去年の今頃は投げて打って大活躍で、メディアは大騒ぎだった。さて今年はどうか。DHで打つだけのシーズンだが、去年の成績を越えられるのだろうか。実はぼくは6月初めにアメリカに行く予定で、シアトルで見ることにしている。菊地対大谷とはいかないかもしれないが、彼が打つ姿を楽しみにしている。

・というわけで、今年もMLBを追いかけているが、シーズンオフの動向に強い疑問も感じた。ハーパーやマチャドといった選手が長期間で高額な年俸をもらう契約をした反面、何人かの選手が契約できずに浪人生活に入ってしまっているのである。それは去年もあって、年齢的にピークを過ぎた選手が敬遠される傾向がますます強くなっている。確かに、不良債権化した高額年俸の選手を抱える球団は少なくない。しかし、スター選手を引き留めたり、よそから引き抜いたりするのには、高額な年俸を払う必要がある。そんな露骨なマネーゲームを見させられると、うんざりして興ざめしてしまう。実力以上の年俸格差は、現在のアメリカ、そして日本の実社会を反映、というよりは先導するもののように見える。

・もう一つ気になるのは、故障する選手が多いことである。投手のトミー・ジョン手術は当たり前だし、野手もあちこち損傷させている。投手の球速競争やフライボールの流行で、ホームランばかり狙う傾向が怪我を増やしているのではないかと危惧している。やたら筋肉をつければいいというものではないだろう。イチローは大きな怪我をせずに選手生活を終えた。日頃の体調管理や試合前の入念なストレッチなどは他の選手が驚き、あきれるほどだったようだ。体格もほとんど変わらなかった。記録などより見習って欲しいところだと思う。

2018年10月1日月曜日

大谷君で久しぶりのMLB三昧

 

・NHKが中継した今年のメジャー・リーグは、ほとんどが大谷翔平だった。特に期待をしていたわけではなかったが、開幕早々の活躍にすっかり魅了されて、その後現在まで、中継した試合のほとんどを見てきた。投げて打って走る。そのどれもが一流だから、アメリカでも大きな話題になった。野茂にはじまり、イチローや松井が活躍してきたが、今までメジャー・リーグでプレイした日本人選手のなかで、投げても打っても走っても、最高のプレイヤーであることは間違いないと思った。

・もっとも、6月には右肘の靱帯を損傷して、1ヶ月試合に出られなかったし、3ヶ月ぶりに登板した試合で再度靱帯を損傷するという事態になった。もうすぐトミー・ジョン手術をするそうだから、ピッチャーとしては来シーズンも投げられないから二刀流はしばらくお預けになってしまう。まだ24歳で、これから10年以上プレイすることを考えれば、焦らずにしっかり直して欲しいと思う。何しろこんなに才能のある選手は、日本のプロ野球の歴史で初めてで、もう出ないかも知れないからだ。

・彼の今年の成績は投手としては10試合に先発して51イニングを投げ、4勝2敗、防御率3.31で三振を63取っている。また打者としては、104試合に出場して、打率.285でホームランを22本打ち、61の打点をあげた。盗塁も10個で、俊足を飛ばして2塁打にしたことも何度もあった。日本人離れした体格とは言え、キン肉マンのような選手たちから見ると彼はスリムである。しかし、その打球速度はトップ・クラスで、センター方向に打つホームランが、大きな魅力のひとつになった。

・大谷が所属するエンジェルスは、彼の活躍に牽引されて、アメリカン・リーグの首位争いをしていたが、怪我で欠場してからは失速して、早々とプレイオフ出場の見込みがなくなった。そこには故障した選手が大谷以外に何人もいたという理由もあった。7月末には正捕手や二塁手を放出し、不振の選手を解雇して、若手中心のチームになったから、勝てない試合を見ることが多かった。何よりリリーフ陣はお粗末で、勝っている試合を逆転されることが何度もあった。

・だから見ていてうんざりすることが多かったが、マイナーから抜擢された選手が徐々に力をつけていく様子も目の当たりにした。中には28歳でやっとメジャーに上がれたキャッチャーなどもいて、マイナーに落とされないよう必死にプレイする様子は、これまであまり気にとめることがない光景だった。何しろ後半戦はレギュラーの半数が新人で占められるほどだったのである。

・そんなふうに、久しぶりにメジャー・リーグの試合につきあったが、熾烈な争いをするチームの試合はそっちのけで、エンジェルスばかり中継するNHKの姿勢はどうかとも思った。故障したダルビッシュは別にして、田中投手が投げるヤンキースの試合を中継することはあっても、前田が投げるドジャースの試合はほとんど無視された。日本人選手が出なくても、見たい試合、選手はいくらでもいるのにである。MLBを中継してもう20年以上になるのに、日本人選手ばかり追いかける姿勢は相も変わらずである。

・去年のメジャー・リーグでは青木宣親選手が気になった。ヒューストン・アストロズに所属して.280前後の打率を残していたのに、トロント・ブルージェイズにトレードされ、すぐにまた解雇されて、最後はニューヨーク・メッツに拾われた。彼の出る試合の中継はほとんどなかったから、ぼくはもっぱらネットで彼の出る試合を追いかけた。今年彼はヤクルト・スワローズに復帰して、.330に近い打率を残している。.280と.330。これがメジャーと日本の差なのかと改めて認識した。

・とは言えメジャー・リーグはフライ・ボール全盛で、ヒットよりはホームランを打つ選手がもてはやされていて、三割打者は減っている。イチローの出現によってスモール・ベースボールが見直された時期があったが、ボンズやマクガイヤーやソーサが打ちまくった時代に逆戻りしたようだ。ぼくはもちろん、そんな傾向は大味な気がして好きではない。

2018年9月3日月曜日

何より駄目な日本

 

・テレビは相変わらず、日本のここがすごいといった話題を取りあげているが、ニュースと言えば、ここも駄目、あそこも駄目といったものばかりだ。政治や経済、そしてスポーツや芸能といった文化の面でも、この国のひどさ加減が露呈している。中でもひどいと思ったのは、官公庁や自治体の障害者雇用水増し問題だ。

・日本では「身体障害者雇用促進法」として1960年に制定されたから、すでに60年近い歴史がある。この法律は87年には知的障害者も適用対象になり、2006年には精神障害者も対象になった。事業主に一定の割合で障害者を雇用する義務を課したもので、違反すれば罰金を払わなければならず、民間企業には厳しく適用されてきた経緯がある。ところが今回発覚したのは、国の行政機関や自治体で、決められた割合を障害者ではない人で埋め合わせてごまかしてきたというものだった。しかも、ごまかしは最近始めたものではなく、長期間にわたるものだったようだ。

・障害者を雇うためには働く環境をバリアフリーなどにしなければならない。どんな仕事なら働いてもらえるか、時間はどうか、補助はどの程度必要かなど、受け入れる事業所は対応しなければならない。行政は民間企業などに対して、かなり厳密に監督をしてきたのに、自分のところは適当にごまかしてきたのであるからその罪は重いと言わざるをえない。

・森友加計問題に際して各省庁は、証拠となる記録を隠したり、改竄したりして、そのひどさが明らかになっている。しかもセクハラ、パワハラ、賄賂、裏口入学などと言った不祥事も続発していて、そのひどさ加減は驚くばかりだが、責任を取ってやめた大臣が一人もいないというのもおかしな話である。首相を始め閣僚達には、責任を取る気はまったくないのだが、それを批判したり、抗議する声も強くならない。

・隠蔽や改竄は経済界でも頻発している。これまで問題になった企業名も、いちいち覚えていられないほどだ。ぼくはスバルの車を愛用するスバリストだから、検査態勢の不備やデータ改竄のニュースにはがっかりした。しかし、同じようなことはほかの自動車メーカーでもやっていて、慣行になっていたようだ。技術や品質管理の良さは日本が何より自慢にすることだったはずだが、もうメイド・イン・ジャパンだから信頼できるとは言えなくなってしまった感がある。

・スポーツ界の不祥事についてはすでにこのコラムでも取りあげた。アメフトや相撲、あるいはサッカーの日本代表にまつわるものだったが、その後でもレスリングやボクシング、そして体操などと続出している。各団体の体質の古くささや閉鎖性、あるいはワンマンさといったことが指摘されているが、犠牲になるのはいつでも若い現役の選手である。しかもその若い選手が沈黙するのではなく、公の場できちんというべきことを主張しているから、権力を握って好き勝手をやってきた年寄りの醜さが目立つばかりである。

・自民党の総裁選挙に立候補をした石破茂が、その公約に「正直と公正」をあげた。安倍政権が不正直で不公正であることは自明の理だから、あまりに素直すぎて笑ってしまったが、それを個人攻撃だからやめろと言った議員がいたようだ。安倍本人も石破との論争を避けて逃げ回っているが、これまでやってきたことにやましさを感じてというのではないだろう。自覚があればとっくに辞めているはずだからである。嘘を平気でくり返す性格は、もうサイコパスと診断してもいいほどなのだから。

・現在の日本にはプチ安部がたくさんいる。それが組織を牛耳って好き放題をやっている。下に仕える人たちは、逆らうことなど出来ずに渋々従うのみだ。自分は、自分が所属する組織は「正直で公正か」。そう問いかけて、そうだと応えることが出来る人がどれだけいるのか。出来そうもないから、他人も批判しない。そんな空気が蔓延しているように思う。

2018年8月13日月曜日

オリンピックはやっぱりやめましょう

 

・猛暑の中で行わなければならないオリンピックのために、2年限定でサマータイムを導入しようといった計画が出ています。2時間早起きしたって焼け石に水だと思いますから、策を講じたことを示したいだけなのではと勘ぐりたくなります。そのために変えなければならない事柄を考えると、たかがオリンピックのために、何を考えているのでしょうか。オリンピックが終わったらまた元に戻すというのですから、ご都合主義もいい加減にしろと言いたくなります。10月にとは言わないまでも、酷暑を理由に1ヶ月ずらして欲しいとIOCに言えばいいだけの話だと思うのですが、政権には、そんな気はまったくなさそうです。東京の夏は温暖で過ごしやすいなんて嘘をついたから、今さら言いだせないのでしょうか。

・大会中のボランティアについても、おかしな提案がいくつも出されています。ボランティアとは自発的にすることであって、ただで働くことを意味しないのですが、無給であるだけでなく、食事も交通費も宿泊費も自腹でというのですから、必要な人数を確保するのが難しいのは、わかりきったことでした。ところが文科省は大学や専門学校の学生の参加を促すために、授業や試験日程の繰り上げや祝日授業の実施を言い出しています。5月のゴールデンウィークに授業をやるなどと、いち早く対応した大学も出始めました。これでは参加を強制するようなものですから、「ボランティア」といったことばは使えないことになります。

・大学の授業は文科省の強い指導で年間30回を必ずやらなければならなくなりました。さまざまな理由で休講をすることが当たり前に認められていたのですが、今では休講したら必ず補講をすることが義務づけられています。ところがオリンピックに限っては、授業回数に読みかえても良いなどと言い出すのですから、開いた口がふさがらない話だと思いました。その文科省は入試疑惑や受託収賄容疑などが次々問題になって批判の的になっています。ひどい所だと思いますが、他方で森加計問題でリークが相次いだことに対する政権の報復だといった指摘も出されています。

・テレビのニュースは連日トップニュースで、命に関わる危険な暑さだと警鐘を鳴らしています。日中にスポーツなどもってのほかだと思いますが、高校野球では相変わらず熱戦、熱闘、そして感動などといって煽っています。視聴率や部数を気にしてのことだと思いますが、オリンピックも甲子園も、新聞やテレビはほとんど暑さを問題にしていません。メディアの多くはオリンピックを協賛する立場にいますから、開催を危惧するような問題提起は出来ないのでしょう。

olympic4.jpg・中でも、オリンピックに一番関わっているのは電通だと言われています。『電通巨大利権』(サイゾー)の著者である本間龍によれば、「招致活動からロゴの選定、スポンサーの獲得、放映中のテレビ・ラジオのCM等の広告宣伝活動、全国で開催される五輪関係行事、五輪本番での管理・進行・演出等、文字通り全部に電通が1社独占で介在」しているのです。招致活動における嘘の指南(福島原発はアンダーコントロールや東京の夏は温暖)やIOC委員への賄賂疑惑、ロゴ選定のいかがわしさや盗作問題、スポンサーの獲得(4000億円と言われているが詳細は非公開)、そして10万人のただ働きに文科省に圧力等々、この会社がオリンピックについてやってきたことには、うさんくさいことが多すぎるのです。

・電通は安倍首相や政権の演出にも深くかかわっていて、憲法改悪の国民投票が現実化する際にも、テレビや新聞等でのキャンペーン活動を任されていると聞いています。金に糸目をつけずに嘘八百のテレビCMを流されたら、投票が賛成多数になる危険性は十分にあるのです。広告料はメディアにとってのどから手が出るほど欲しいものですから、中身がどうであろうと、平気で垂れ流すことでしょう。

・オリンピックはすでにスポーツの祭典などではありません。巨額な金が動く巨大イベントで、「オリンピック憲章」に書かれていることとは似ても似つかないものに変質しています。政権は招致理由に経済効果を上げましたが、無理がたたって、開催後には経済不況がやってくると指摘する経済学者も少なくありません。オリンピックを間近に見たいなどといったナイーブな発想で期待していると、猛暑以上に恐ろしいことがやってくるかもしれません。今からでも、やっぱりやめましょう、といった声を上げる必要があると思います。大会を返上した場合の違約金は1000億円だそうです。高いと思われるかも知れませんが、役に立つかどうかわからない「イージス・アショア」1基にも満たないのです。


2018年6月4日月曜日

スポーツにまつわる不可解なこと

 

nitidai.jpg・日大アメフト部の騒ぎは森友・加計問題とそっくりだ。なのに日大ばかりが攻められている。しらを切り続ける安倍首相には、メディアは相変わらず遠慮をしているのに、日大には手厳しい。権力を持っている者が、恋々として地位にしがみついている。下の者はことの善し悪しを判断せず、唯々諾々とそれにしたがうのみ。両者は双子のように酷似している。ただ違うのは、タックルした学生の潔い会見だ。安部に仕える政治家や官僚からは、自己の良心に従って発言する者などは、出そうにない。アメフトの関東学連という第三者機関が監督やコーチを裁いたことも、森友問題を不起訴にした検察とは大違いだ。もちろん、メディアの弱い者いじめもいい加減にしろと言いたくなる。とは言え、日大が、学長よりは理事長が実権を握っていて、教員よりは職員や体育会の方が力が強いことを、改めて知らされた。こんな大学に勤めなくて良かったとつくづく思う。

honda1.jpg・スポーツにまつわるおかしな出来事は、ほかにもいくつもある。もうすぐサッカーのワールド・カップが始まるが、監督のハリル・ホジッチが更迭された。その理由は最近の敗戦ではなく、代表選手との間でコミュニケーション不足があったというものだった。選手の中には疑義を呈する者もいて、一体、誰との間にコミュニケーションが不足していたのかはっきりしないままの解任だった。監督批判をサッカー協会に直訴したのは、代表から外されがちだったベテランだったともいわれている。あるいは有名選手を外したのでは、代表試合の中継の視聴率が下がってしまうといった、メディアやスポンサーの圧力なども聞こえてきた。なるほど、名のあるベテランがそろって代表に選ばれて、成長著しい若手が外された。ブラジルでさんざんだったビッグ3だか4に今度もまた頼るのだから、これでは興ざめで、応援する気にもなれない。

ichiro1.jpg・イチロー選手が選手登録から外れて、今年はプレイできなくなった。ただし解雇ではなく生涯契約をして、来年以降は選手登録が出来るという。今年もチームに帯同して、練習には参加してロッカーも持てるが、ベンチには入れないようだ。イチローはこの契約に感謝しているが、今ひとつよくわからない。事実上の引退で、来年開幕戦を日本でやるから、その時の目玉にするつもりだとも言われている。レギュラーが故障してキャンプ中に契約したけれども、その選手が戻ってきて空きがなくなった。とは言っても、即解雇は出来ないから、それらしく格好だけつけた。そんなものではないかと思う。五十歳まで現役でという希望はどこにいったのだろうか。

iniesta.jpg・ヴィッセル神戸がバルセロナのイニエスタを獲得した。「すごい、楽しみだ」という声がメディアには溢れている。しかしこれもしっくりこない。年俸が32億円だというが、これは神戸の全選手の年俸を上回っている。しかも彼のバルセロナでの年俸は10億円だったというから、破格というほかはない。さらに、イニエスタはゲームメーカーであってストライカーではない。味方の選手を使って点を取らせることには秀でているが、それに対応できるメッシやスアレスのような選手が神戸にいるわけではない。宝の持ち腐れがいいところだろう。もっとも神戸の親会社は楽天だから、広告費と思えば高くないのかもしれない。何しろ楽天はバルセロナのユニフォームに「RAKUTEN」とつけるのに四年間で260億円も払っているのである。

tochinosin.jpg・最後は大相撲。貴乃花問題でうんざりするほどメディアを賑わしていたのに、弟子の暴力事件が発覚した途端に沈静化してしまった。横綱の引退まで引き起こしながら、あれは一体何だったのかと思う。土俵に女を上がらせないといった態度についても、その説明には釈然としないものがある。日本の国技、伝統、あるいは神事だからなどといった理由をあげるが、相撲は本来興業であって、見世物に近いものだった。スポーツとして近代化させるために、国や神や伝統を借りたのだから、今度は男女同権や性差をなくすという現代的な流れに対応するのが賢明だろうと思う。こんな不祥事が続いて、僕は大相撲を見なくなった。ただし前から好きだった栃ノ心が急に力をつけて大関になった。その一番だけはネットでチェックしている。

ohtani1.jpg・こんな不祥事や不可解な事が続発する昨今のスポーツだが、それだけに余計に大谷選手の活躍と彼の野球に対する姿勢が救いになる。開幕時の華やかな活躍に比べると落ちついてきているが、その実力は見ていても頼もしく思う。ニューヨークでは激しいブーイングを受け、さっぱり打てなかったし、登板も回避したが、メッキがはげたわけではないし、大事に使われていることが改めてわかった。浮かれたメディアに惑わされることなく、充実したシーズンを過ごして欲しいと思う。何しろ分業が当たり前になったメジャー・リーグに登場した、投げて、撃って、走れるオール・ラウンドでツー・ウェイのプレイヤーなのだから。

2018年4月16日月曜日

大谷の活躍にびっくり!

 

・大谷の活躍で日本はもちろん、アメリカのメディアも大騒ぎのようだ。何しろ、打ってはホームラン、投げては三振の山という、衝撃的なデビューをしたのである。しかも、キャンプ中は打てないし、投げては打たれる、コントロールが悪いと、さんざんな結果だったから、その変身ぶりがまた、驚きを倍加させたようだ。最初はマイナーでと言ったメディアも、手のひら返しの大絶賛になっている。僕もほとんどの試合を見ているが、まるで野球アニメを見ているような活躍で、「本当か!?」と言ってしまうことがあった。

・MLBを見始めたのは野茂の時だから、もう20年以上になる。フォーク・ボールでバッタバッタと三振を取る勇姿に魅了された。それで日本からメジャーへの道が開けて、活躍した選手がずいぶん出た。イチローも松井も松坂も最初から華々しい活躍で、日本で一流の成績が残せれば、次はメジャーという道が定着したと言える。もっともメジャーで活躍できるのは投手ばかりで、野手ではイチローと松井以外は、レギュラーを取るのも難しいといった状況だった。昨年まで在籍した青木選手は,それなりの成績だったが,メジャーは今,長距離打者優先の傾向で、今年は日本に戻っている。

・今シーズン、メジャーにいる日本人選手は、イチロー以外はすべて投手である。ローテーションを守るダルビッシュ、田中、前田の他、リリーフで田沢、牧田、平野、そして故障からリハビリ中の岩熊と、数は多い。しかし、日本のメディアは大谷一色で、他の選手の成績はほとんど話題にしていない。NHKの中継も、大谷最優先で、彼が出ない試合でもエンジェルスを中継したりしている。安倍政権の醜聞にうんざりしているなかでは、一つだけ明るいニュースだから仕方がないが、他の選手も取りあげろよと言いたくなる。

・もっともその大谷には、今更ながらに驚いている。その活躍はもちろんだが、彼は日本人離れの長身で、足が長く小顔で、まだ少年の面影が残る端正なマスクをしている。足も速いから、野球選手として、すべての能力が備わっていると言えるだろう。精神的にも冷静で謙虚、茶目っ気もあって,ダグアウトでも通訳なしで選手と雑談などしている様子も映されるから、語学の勉強もしっかりしてきたように思う。まさにデキスギ君で、欠点が見つからない。

・エンジェルスは大谷の活躍もあって、アメリカン・リーグの西地区で首位を走っている。彼がホームで投げた試合では、久しぶりに満員札止めになったようだ。ユニフォームなどのグッズの売れ行きも爆発的だといわれているから、球団としては笑いが止まらないのだと思う。しかも大谷の今季の収入はメジャー最低年俸の6000万円で、数年はこの金額で済むようだ。ダルビッシュや田中が契約した額とは比較にならないほど安いのである。

・理由は25歳に満たない外国人選手に課せられるルールにあるようだ。2年待てば数百億円にもなる額で契約できるのに、なぜ急ぐのかといった意見もあるが、お金じゃないという大谷の姿勢がまた、アメリカでは好感を持たれているようだ。何しろ野球選手のもらうお金のインフレはすさまじくて、トップは年に40億円も稼いでいて、複数年で400億円近くにもなる選手が出始めているのである。

・大谷の年俸は現在の契約では3年間は変わらないようだ。しかし、今年の成績次第では,エンジェルスは長期間保有するために,史上最高額で契約をし直すと言われている。まだ23歳だから10年以上で400億円超といった契約も大げさではないのかもしれない。すごいことだと思う。しかし、野球選手の貧富の格差はアメリカ社会を象徴するものだから、その頂点に立つのが大谷ということになるのは,あまりいい感じはしない。

2017年9月11日月曜日

再び、青木宣親選手に

 

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・青木宣親選手については、3ヶ月前のこのコラムで触れたばかりです。所属チームのヒューストン・アストロズは快進撃を続けていましたが、青木選手は準レギュラーで、思うように活躍できない状態でした。彼がMLBに行ってからずっと注目してきましたが、ここ数年は満足のいくシーズンを過ごせませんでした、で、応援のメッセージを書いたのですが、彼は7月末に、下位に低迷するトロント・ブルージェイズにトレードされてしまいました。

・準レギュラーとは言え、それなりの活躍はしていていましたから、ポスト・シーズンは間違いなしだったのです。それが、よりによってなぜトロントなのか。ニュースを聞いてがっかりしましたが、それは青木選手自身の方が何十倍も大きかったはずです。トロントは彼が移籍してすぐに、ヒューストンでアストロズと対戦しました。そこで青木選手はホームランを打って恩返し、というよりはざまーみろ!といった活躍をしたのです。

aoki3.jpg・その後風邪で休んだりもしましたが、なかなか出させてもらえない状態が続きました。三振ばかりで打てない選手を引っ込めて青木選手を使えよと腹が立ちました。とは言え、テレビでの中継はほとんどありませんから、もっぱらネットで追いかけていました。彼は今年も0.270前後の打率を残していて、それはトロントに行ってからも変わりませんでした。ホームランも出るようになって、レギュラーに定着してもおかしくない成績だったのです。

・ところが、8月末にまた、トロントは青木選手を自由契約にしました。プレイオフ進出の望みがなくなって、9月は若手の育成期間に切り替えるというのが理由でした。そのニュースがあった日の試合で、彼は4打数3安打で、ホームランを1本打っていたのです。監督は、プレイオフに出るチームと契約できるチャンスでもあると言いましたが、その期限である8月31日までに、青木選手と契約するチームは現れませんでした。

aoki4.jpg・9月に入って、ニューヨーク・メッツが青木選手と契約を結びました。メジャー・リーグは契約すればすぐ出場となるのですが、対戦相手はなんとまた、アストロズでした。ヒューストンはハリケーンによる水害で大変なことになっています。アストロズはそのために3試合ほどフロリダで球場を借りてゲームをしました。まだ町に水が溢れている中での試合でしたが、青木選手はトップバッターとして1安打しましたし、翌日には2番バッターで4打数3安打の大活躍でした。チームが決まるまでの数日間、彼は公園で、少年たちが野球をする脇で、キャッチボールなどをして、身体がなまらないようにしていたと言ってました。

・メッツの監督は以前にオリックスで指揮を執った経験のあるコリンズです。青木選手のことを知っているし、日本人選手の特徴もわかっている人です。今までと違って上位でレギュラーとして出場させるつもりのようです。青木選手は例年9月には大活躍をしてきました。あと一ヶ月頑張って、来年度のいい契約を勝ち得て欲しいと思います。どんな状況におかれても、腐らないし諦めない。そんな彼の精神的な強さに、改めて敬意を表したくなりました。

2017年8月14日月曜日

愚かすぎる東京オリンピック

 

・陸上競技の世界選手権がロンドンで開かれた。イタリアは40度を超える猛暑のようだが、ロンドンはマラソンにも適したほどの涼しさ〔寒さ?)だったようだ。他方で3年後に予定されている東京では、37度を越えた日もあったし、突発的な豪雨に見舞われたりもした。すでに亜熱帯化している東京でなぜ、真夏にオリンピックをやるのだろうか。マラソンはもちろんだが、屋外で行われるどんな競技にとっても、過酷な条件とならざるを得ないだろう。選手はもちろん観客だって、暑さに倒れ、死者だって出るかもしれない。こんな愚行が他にあるのだろうか、と思う。

・ところがマスコミからは、こんな疑問は全く聞こえてこない。テレビにとってはオリンピック中継は一大イベントだし、新聞社も協賛しているからだ。それは出版にとっても変わらない。週刊誌でオリンピック批判の記事を見かけることは滅多にないし、書籍についても、大手の出版社からは批判的な内容の本はほとんど出ていない。以前にこの書評で取りあげたオリンピック批判の本も小さな出版社だった。〔→〕

・20年の東京オリンピックは7月24日から8月9日の日程で開催される。梅雨明け前後で、一年で一番蒸し暑い時期だし、台風だって今年のようにやってくるかもしれない。そんな風に思っていたら久米宏が7月22日放送の「ラジオなんですけど」(TBS)で、「今からでも東京オリンピック・パラリンピックは返上すべきだ」と発言した。この番組では6月にも、リスナーに「今からでも返上すべき?」というテーマで投票を呼びかけていて、2000票を超えるうちの83%が返上に賛成をした。〔→)このラジオの聴取者は高齢者が多い。60歳以上が800票を超え、その9割が返上すべきと答えている。他方で20歳代は50票ほどだが、返上は57%にとどまっている。

・3年後の開催に合わせた発言は、これ以外には聞かなかったが、日刊ゲンダイが31日に「久米宏氏 日本人は“1億総オリンピック病”に蝕まれている」と題した直撃インタビュー記事を掲載した。彼が東京オリンピックに反対する理由は暑さだけではない。これ以上東京一極集中進めるべきではないこと、招致を巡る黒い金スキャンダル、エスカレートする国家間競争などがあって、至極もっともな主張だと思った。

・そもそも築地市場の移転だって東京オリンピックが絡んでいたし、「テロ等防止法」〔共謀罪)の成立理由もオリンピックのためだった。オリンピックを夢のイベントのようにイメージ操作をして、そのためと称して、やりたいことをやる。そんな薄汚い政治にオリンピックが使われている。そしてオリンピック自体も、スポーツを餌にしたグローバルな経済行為に変質してしまっている。大会の招致に手を上げる都市が少なくなって、東京の次ばかりでなくその次までも、今手を上げているパリとロサンジェルスに決めてしまうようだ。

・オリンピックを返上すると1千億円のペナルティが科されるようだ。しかし、オリンピックが終わった後に大不況がやってくると警鐘を鳴らす人は多いし、日本の財政状況は借金まみれで破綻寸前にあると指摘する人もいる。国立競技場の建設についても自殺者が出るほどひどい状況のようだ。冷静に見たら、返上についての論議がわき起こって当然だと思うが、久米宏の発言に応える動きはほとんど見られない。今、新聞社がオリンピック開催について賛否を問う世論調査をすれば、反対票がかなりの数に上ることは明らかなのに、なぜそれをやらないか。東京オリンピック開催に積極的なのは政権や東京都はもちろん、テレビや新聞社や大手出版社、それに何より電通という悪名高い広告代理店だからである。これこそ本当のイメージ〔印象〕操作に他ならない。


2017年6月19日月曜日

青木宣親選手に

 

aoki1.jpg・青木宣親選手が日米通算で2000本安打を達成しました。日米で2000本以上を打ったのは7人目です。メジャーリーグに移って6年目ですが、必ずしも順調にということではありませんでした。何より、今年所属しているヒューストン・アストロズが5球団目であることが、順風満帆でなかったことを物語っています。

・青木選手はヤクルト・スワローズに8年在籍して1284本の安打を放ち、0.329の打率を残しましたが、メジャーリーグでは5年ちょっとで720本、3割には届いていません。決して悪くはないのですが、イチローや松井ほどの派手さがありませんから、あまり注目されてこなかったと思います。試合が中継されることも少なかったのですが、僕はずっと気になっていました。

・メジャー・リーグにおける日本人選手の評価は圧倒的に投手の方が高いです。今年在籍しているのも、投手は上原、岩熊、ダルビッシュ、田中、田沢、前田と6人いますが、野手ではイチローと2人だけです。メジャー在籍17年目で、すでに3000本を越えているイチローは別格ですが、十分に活躍したと言えるのは松井秀喜選手ぐらいで、まあまあ通用したのは松井稼頭央、岩村明憲、井口資仁、福留孝介、田口壮、そして城島健司選手ぐらいです。それに比べて投手では、野茂英雄を初めとして、黒田博樹、石井一久、伊良部秀輝、大家友和、岡島秀樹、佐々木主浩、長谷川滋利、吉井理人、そして松坂大輔などが活躍しました。

・青木はパワー・ヒッターではありません。ヒットを量産できるわけでも.肩が強いわけでもありませんし。足も図抜けて早いというほどでもありません。ですから最初にメジャーと契約した時にも、ミルウォーキー・ブリュワーズは実力を調べるためのテストを行いました。レギュラーのポジションが確約されていたわけではありませんでしたが、彼はブリュワーズで外野の定位置を確保して、トップ・バッターとして活躍しました。しかし、ブリュワーズは青木をカンザスシティ・ロイヤルズにトレードしてしまいました。

・青木が所属した年にロイヤルズはアメリカン・リーグの勝者になりました。青木は途中故障したり、若手の台頭もあって出場機会が減りましたが、優勝を争う9月に4割近い打率を残し、プレイオフでも大活躍でした。しかしワールドシリーズのジャイアンツ戦ではわずか1安打で、チームも3勝4敗でチャンピオンにはなれませんでした。チームが契約延長せずにフリー・エージェントになった青木は、そのジャイアンツと契約しました。

・ジャイアンツは2010年から1年おきにワールドチャンピオンに3度もなった強豪チームでした。外野のポジションに空きがあったわけではなかったのですが、彼は頑張って、レフトの位置を奪取し、オールスターにも選ばれるのではという活躍をしました。ところが相次ぐ死球禍で、シーズンの後半を棒に振りました。脳震盪の後遺症を不安視したジャイアンツが契約しなかったのでシアトル・マリナーズに移りました。

・マリナーズでは不振からマイナー落ちを何度も経験しました。後半には調子を戻したのですが、また1年でヒューストン・アストロズに移籍ということになりました。アストロズには若くて有能な選手が大勢います。チームも好調で首位を独走しています。ですから青木選手は準レギュラーという位置づけで、左ピッチャーの時には試合に出ない状態が続いています。出たり出なかったりですから、今ひとつ調子も上がらないようです。2000本安打は彼にとっては大きな区切りになる数字でしょう。しかし、これで終わりというわけではありません。例年、後半戦の方が成績がいいですから、定位置を確保し、9番ではなく1番か2番に格上げされ、優勝してワールドチャンピオンになれるよう応援したいと思っています。

・青木選手は頑張り屋です。軽くあしらわれても、どん底に落ちても、跳ね返して這い上がってきました。それは高校生以来の彼の野球人生に一貫したことだったようです。現在35歳ですから、まだまだ何年もメジャーで活躍して欲しいと思いました。

2016年10月31日月曜日

追悼 平尾誠二

 「平尾誠二VS.松尾雄治伝説の名勝負」

・平尾誠二の死というニュースは,あまりに唐突だった。まだ50代前半の若さで、闘病中などといったことも知らなかった。ラグビーのワールド・カップで日本が活躍したのに、その指導的役割としてなぜ彼が表に出てこないのか疑問に感じていたが、体調のせいだったのかと改めて納得した。

・NHKのBSで「平尾誠二VS.松尾雄治伝説の名勝負」という番組が急遽再放送された。2011年1月2日に放送されたもので、内容は1985年1月15日に今はない国立競技場で行われた、ラグビー日本選手権の同志社大学対新日鉄釜石の試合を二人の話を交えて再現したものだった。6時から始まり9時前に終わる長い番組だったが、個人的な思い出もあわせて,いろいろ考えながら見た。

・平尾が大八木と共に同志社大学にいた当時は、大学ラグビーは同志社の天下で大学選手権を3連覇した。日本選手権では新日鉄に3連敗したのだが、その最後の試合では,前半同志社が先制して,もしかしたら勝てるかもといった期待を抱かせた。新日鉄釜石はその年まで社会人の選手権に7連覇し、日本選手権でも6連覇してきた最強のチームだったのである。

・その試合は結局、後半風上に立った新日鉄が逆転して7連覇を達成し,主将の松尾が引退をしたが、ラグビーを牽引するスターが松尾から平尾に受け継がれた試合にもなった。平尾が就職した神戸製鋼は1988年から94年までの7年間、日本選手権で優勝したが、ラグビーの人気はJリーグに押され,彼が引退した後は凋落の一途を辿ることになった。

・僕が夢中になってラグビーの試合を見たのは、松尾から平尾に続く70年代中頃から90年代初めにかけての頃だった。大学選手権や社会人選手権が暮れから正月にかけて行われて,それは年越しや新年の一番のスポーツ・イベントだった。正月の新年会に集まると、話題はラグビーのことに集中して、勝った負けたと大騒ぎになる。80年代の前半は特にそうだったなと、番組を見ながら懐かしく回想した。

・しばらくラグビーを見ない間に,ラグビーは試合の仕方もユニフォームも様変わりした。それが昨年のワールド・カップを見ての第一の印象だった。ジャパンに外国籍の選手が多かったこと、体格が一段とがっちりしたこと、ぶつかり合いが激しくなったこと、そして何より白い襟のジャージーとは似ても似つかぬユニフォームになってしまったことなどである。昔ながらのジャージーは、今では山歩きしたときに見かける服になっている。

・社会人チームに外人選手が多数入ったせいか、大学は社会人に歯が立たず、日本選手権も社会人と大学のチャンピオン同士というのではなく、それぞれの上位チームが出場するトーナメント戦になって、決勝はもう20年近く社会人チーム同士で戦われている。2014年からは国立ではなく,秩父宮球技場で行われ、テレビの花形番組ではなくなってしまった。

・僕は今でも,球技としてはサッカーよりはラグビーの方がおもしろいと思っている。その意味では日本で開催されるワールド・カップには興味がある。しかしまた、新国立競技場や周辺の再開発を巡るうさんくさい政治的な動きにはうんざりもしている。またなぜ、松尾や平尾といった人たちを前面に出して、ラグビーを再建しようとしなかったのか。平尾誠二が亡くなってから、彼を惜しんでももう仕方がないことなのである。

2016年10月10日月曜日

オリンピック批判の本

 

アンドリュー・ジンバリスト『オリンピック経済幻想論』ブックマン社

小笠原博毅・山本敦久編著『反東京オリンピック宣言』航思社
小川勝『東京オリンピック』集英社新書

olympic2.jpg・リオ五輪が終わって,次はいよいよ東京だという世論誘導が目立ちはじめている。けれどもまた、五輪にまつわる醜聞や不始末が続いている。『反東京オリンピック宣言』はスポーツやメディアをはじめ、都市や社会政策、科学技術、あるいは文芸批評を専門にする人たち16名の、オリンピック反対の声明文を集めたものである。ここには住処を追われたホームレスとして発言する人の文章もある。

・それぞれが注目する点は、タイトルやサブタイトルを列挙しただけでも多様だ。「スポーツはもはやオリンピックを必要としない」「災害資本主義の只中での忘却への圧力」「貧富の戦争が始まる」「メガ・イヴェントはメディアの祝福をうけながら空転する」「『リップ・サービス』としてのナショナリズム」等々。短文の寄せ集めだから読みごたえがあるとは言えないが、書かれている主張には僕も賛同する。

・3.11の復興が進んでいないし,福島原発は「アンダー・コントロール」どころか混迷状態だ。主会場を初めとした競技施設にまつわる不手際や醜聞にはうんざりしているし、安倍マリオには反吐が出る思いだった。最近のオリンピックにはどこでも、かなり強い反対運動が伴っていたから、本書やここに書かれている主張が多くの賛同者を得て,反対運動に盛り上がればいいのにと思う。しかしマス・メディアは例によって、そんな意見をほとんど取り上げない。何しろ読者や視聴者を増やす絶好の機会なのだから。

olympic3.jpg・『オリンピック経済幻想論』には「2020年東京五輪で日本が失うもの」という副題がついている。しかし内容は主に、商業主義に変わったロス五輪以降の各大会についての経済的な結果についての分析である。ロス五輪は、主催都市や支援する国家に多額の借金を残したモントリオールの失敗を是正するために、商業主義を前面に出して準備し開催した最初の大会だった。そこから、開催地として立候補する都市が増え、種目の増加や開・閉会式の派手さが目立つようになった。あるいは都市の再開発や、グローバル化に乗った観光都市を目指す目的が強まり、また国家が前面に出て,国威発揚といった特徴も強くなった。

・しかし、本書が指摘しているように、オリンピックを開催して残ったのは、「経済効果」ではなく、やっぱり借金であったり経済不況であったのである。唯一の例外として取り上げられているバルセロナは、開催後に世界的な観光都市として発展した。ただし、著者はそうなる資源が眠っていた例外的なケースに過ぎないという。同様に資源としては十分にあったアテネは国家の財政が破綻する状況に追い込まれたし、リオは開催前から経済成長が頓挫し、国政問題が噴出した。北京とソチは国威発揚を目的に巨額な費用を使ったが、それに伴う効果がもたらされたわけではなかった。ロンドンは市東部の再開発を目的にして、それなりの成功がもたらされたと言われている。しかし、かかった費用は当初の予算を大幅に超えたし、再開発によって貧民層が追い出されるという結果が起きている。

olympic1.jpg・『東京オリンピック』が問うのは,そもそも「オリンピック憲章」に書かれていることと、大会の現状があまりに乖離しすぎている点にある。オリンピックは都市が開催するものであって,国家が表に出るものではない。だからメダルを国単位で争う最近の風潮は憲章から逸脱しているし、そもそも、栄誉は参加し,勝利した個人に与えられるべきものであって、国の代表としてではない。憲章に従えば、表彰式で国旗を掲げ国歌を演奏することもすべきでないし、オリンピックに経済効果など求めてはいけないのである。

・このように原点に立ち返ってオリンピックの現状を見れば,その矛盾点の多さや大きさは明らかである。しかももたらされると期待されてきた経済効果が幻想に過ぎなかったこともはっきりしてしまっている。東京オリンピックは沈滞している経済の活性化や東京の再開発を目的にして実施されようとしている。しかし、そのプロセスはここまでお粗末なものだし、経済も活性化どころか大不況を招くとさえ予測されている。その点は2年後の平昌(韓国)でも同様のようだ。

・オリンピックは今、明らかに大きな曲がり角に来ている。一度は開催地に立候補をしても,反対にあって辞退する都市が続出しているし、テロに伴う警護費用の拡大や、安全性に対する不安などで,開催地が見つからない状況が現実化している。実際、2022年の冬季五輪では立候補した都市が次々辞退をして、わずか2都市が残り、北京に決定したといういきさつがある。僕は今からでも遅くないから、東京オリンピックは辞退すべきだと思う。オリンピックのあり方は今、根本から見直す必要がある。この3冊を読んで,そんな気持ちをさらに強くした。

2016年8月29日月曜日

オリンピックが終わって

・いったい開催されるのだろうか、と心配されたリオ五輪が無事終わった。日本人選手の活躍で、NHKはスポーツ・チャンネルと化し、新聞はスポーツ新聞になった。いつもながらという以上にオリンピック一辺倒だったようだ。もちろん、400Mリレーのように息詰まるレースに拍手喝采したものもあったし、卓球やバトミントンのラリーに、改めてその面白さを実感した種目もあった。50Km競歩はまるで行者の苦行のようで、見ている方も苦しくなった。けれどもやっぱり、オリンピックには問題が多いなとも感じた。

・予選や決勝の日程がアメリカのテレビ時間にあわせて行われていたのは相変わらずで、オリンピックがテレビの放映権を第一の収入源にしていて、すべてがそれを基本に仕組まれているからだった。また8月開催がアテネ(2004)からずっと続いていて、それは次の東京でも変わらないようだ。かつては64年の東京と68 年のメキシコは10月、88年のソウルと2000年のシドニーは9月だった。なぜ東京が9月や10月にできないのかというと、ヨーロッパのサッカーリーグやアメリカのバスケット・リーグのオフシーズンに合わせるからだ。

・もっともそれで、サッカーに一流選手たちが出場したわけではない。あくまで人気スポーツ・イベントを避ければ8月しかないということなのだ。それはもちろん、放映権料に関係してくる。ちなみにリオとソチあわせて日本は全部で360億円(円建て)で、東京、平昌は660億円になる。一方アメリカはリオ、ソチ、東京、そして平昌すべてで3500億円の契約をした。アマチュア・スポーツの祭典ではなくなったのはとっくの昔だが、スポーツビジネスの色彩があまりに強くなりすぎているのである。

・日本は女子レスリングの金メダルラッシュに熱狂したが、そのレスリングは廃止の危機に立たされてもいた。ギリシャ以来の伝統種目なのに、ポピュラーではないという理由で廃止されかかったのである。その代わりに今回もまた、えっと思うような種目がいくつもあった。たとえばモトクロス自転車だし、ゴルフは有名選手の多くが辞退して期待外れになったようだ。冬期のスノウボードはすでに人気種目になったが、東京ではサーフィンやスケボー、あるいはスポーツクライミングなどが追加されるらしい。

・オリンピックに新種の人気スポーツが次々追加されて、地味な種目が隅に追いやられたり消えたりしていく。それもこれも一番の理由は、観客動員数やテレビの視聴率にある。これでは商業主義化と言うよりは巨大ビジネスそのもので、オリンピック精神などはどこにいったかという姿になってしまっている。メダルを国別で競う風潮も強くなっている。そんなオリンピックの開催に、日本の政府は国の浮沈をかける覚悟のようだ。けれども思いつくのは否定的な側面ばかりだろう。

・東京の8月は猛暑だし、今年のように台風がきて荒れ模様になるかもしれない。第一直下型地震がいつ起きても不思議ではないともいわれているのである。しかも、簡素な五輪といった約束とは裏腹で、何兆円もかかるのではと言われはじめてもいる。そのお金の使い道がはっきりしないという問題もある。オリンピック景気を当て込んでいるようだが、目算通りに行くあてはないし、その後のオリンピック不況の恐ろしさを予測する人も多い。

・僕は今でも辞退すべきだと考えている。そんなことしたら世界の恥さらしだと言う人もいるだろう。しかし恥は一時だが、開催することによって生じる負債は、その後日本を長く苦しめることになる。辞める勇気が必要だが、これはまた、日本人が一番苦手な決断でもある。

2016年4月25日月曜日

内田隆三『ベースボールの夢』岩波新書

 

野球の始まり

uchida2.jpg・ベースボールはアメリカ発祥のスポーツである。フットボールやバスケットボールに押され気味という傾向にあるが,歴史からいえば、アメリカを一番に代表すると言える。内田隆三の『ベースボールの夢』は、その誕生のいきさつについて、定説に疑問を投げかけると同時に,定説が誰によってなぜ生まれ定着したかを説き明かす内容になっている。

・野球発祥の地はニューヨーク郊外のクーパーズタウンということになっている。だからここには野球博物館が作られ,殿堂入りした選手や、歴史に残るゲームと選手のユニホームやグラブ、バッド、そして写真などが飾られている。野球を考案したのはダブルデーという名の南北戦争に従軍した北軍の兵士で、野球をしたのは1839年とされている。しかしダブルデーがクーパーズタウンで本当に野球らしきものをしたかどうかについては、確証はない。

・そのことを史実として強く主張したのはアルバート・G・スポルディング(スポルディング社の創設者)で、彼は野球がイギリスに起源を持つゲームの発展したものではなく,純粋にアメリカで生まれたスポーツであると考えた。そのために、開拓時代を彷彿させるスモール・タウンや、合衆国を二分した南北戦争をいわば創世神話に取り込もうとしたのである。南北に分かれて戦っていた兵士が,共に野球に興じていたことは、アメリカという国の統一にとって欠かせない物語だったというわけである。

・メジャーリーグが始まった19世紀の末はアメリカが政治的にも経済的にも,そして社会的にも大きく変貌した時期だった。自ら開拓した農地で生きてきた農民たちにかわって農業は企業による大規模な形態に変わりはじめていた。その他の産業も起こり、多くの人びとは自営ではなく,雇用されて給料を受け取る生活に変わった。当然、田舎から都市に移り住む人たちも激増した。かつての中間層が没落し、コミュニティも衰退化した。そんな変容の中で,古き良きアメリカを体験できるスポーツとして、ベースボールが国民的なものになった。プレイするのはもちろんだが,スタンドで応援することによっても実感できた。

・「産業化と進歩の時代を生きる都市の人間が求めた『田園のアメリカ』」という「理想的なイメージ」というわけだが、このように成立したベースボールやメジャーリーグは、黒人を排除した白人だけのものになり、新興のミドルクラスが楽しむものになり、男だけに限られたマッチョなスポーツになった。

・この本はベーブ・ルースが登場するところで終わっていて、そこが、これまで書かれたベースボールやメジャーリーグの本と違うところだ。野球を通して、19世紀から20世紀にかけてのアメリカ社会の変容を描き出す。そんな試みに,新鮮さを覚えながら楽しく読んだ。

・メジャーリーグの本拠地は,全米の大都市に分散されている。カンザスシティのように50万人程度の都市でも,それはけっしてスモールタウンではない。しかし、スタジアムに入って野球を見はじめれば,見ず知らずの人たちが同郷の人間であるかのようにして,ホームチームの応援をする。桁違いの年棒を稼ぎ、頻繁に移籍を繰り返す選手が多くなったとは言え、野球はフィールド(野原)で行われるゲームであり、古き良きアメリカをノスタルジーとして体感できるスポーツとして楽しまれている。