2019年9月9日月曜日

音楽とスポーツ

 

宮入恭平『ライブカルチャーの教科書』(青弓社)
浜田幸絵『<東京オリンピック>の誕生』(吉川弘文館)

・今回紹介するのは大学院で長年一緒に勉強した、二人の若手研究者の作品である。宮入恭平さんはすでに多くの著作を公表している。ぼくと一緒に『「文化系」学生のレポート・卒論術』(青弓社)を編集したし、単独で編集した『発表会文化論』(青弓社)もある。『ライブカルチャーの教科書』は以前に出した『ライブハウス文化論』(青弓社)を大幅に改訂したものだ。もう一人の浜田幸絵さんが出した『<東京オリンピック>の誕生』は、前作の博士論文をもとにした『日本におけるメディア・オリンピックの誕生 』(ミネルヴァ書房)の続編である。

kyohei1.jpg・「ライブカルチャー」とは録音や録画されたものではない、生で行われる文化全体をさしている。この本では主に音楽を扱っていて、レコードやラジオが登場して以降に一般的になった記録され、再現されるものに代わって、最近ではライブハウスから野外フェスティバルに至るまで、音楽(産業)の主流になりつつあることに注目している。音楽はレコードやテープ、そしてCDとして購入するものではなく、ネットを介してダウンロードをしたり、課金を払って聴き放題が当たり前になっている。

・この本は、そんな現状を歴史的にさかのぼり、また理論的に裏付けて、大学の講義に使う教科書に仕立て上げている。昨今論争になった音楽と政治の関係やストリート・カルチャーと法規制、アイドルばかりが売れる傾向と音楽の産業化、そしてアニメとテーマソング等々の多様化など、時事的な問題や流行も取り入れていて、学生にとっては興味を持ちやすい内容になっていると思う。講義内容準拠のテキストは、ぼくと一緒に何冊も作ったから、お手の物だ。

sachie1.jpg・『<東京オリンピック>の誕生』はやや硬質な専門書という内容である。東京オリンピックといっても1964年に開催されたものではなく、1940年に開催が決まったが、第二次世界大戦によって中止になった「幻の東京オリンピック」が主題になっている。明治維新以降、西洋に追いつき追いこせをモットーにしてきた日本にとって、東洋でのオリンピック開催は、その国力を世界に誇示する希有の機会だった。活発な招致活動をやり、国民に一大イベントへの期待を植えつけ、もうすぐ開催というところで中止になった大会である。

・1964年のオリンピックは、この中止になった40年から敗戦を経て、経済成長が本格化した時期に行われた。高速道路や新幹線を開通させ、東京の町を整備して、敗戦からの復興を短期間で成し遂げたことを世界に向けて発信する大きな機会になった。この本は最初の招致活動から中止、そして戦後の再招致活動から開催までを、新聞記事などを丹念に調べながら追っている。

・前著の『日本におけるメディア・オリンピックの誕生 』は日本が戦前に参加したロサンジェルスやベルリン大会について、主にラジオと新聞による報道を分析したものだった。それこそライブ中継ができなかった時代に、どうやって臨場感のある中継をするか。そんなことも含めて、日本という国の盛衰や、さまざまなメディアの発達とスポーツの関係がよくわかる内容になっている。

・映像や音声の技術がデジタル化して、いつでもどこでも好きなものを楽しむことができるようになったのに、音楽にしてもスポーツにしても、ますますつまらないものになっている。ぼくはこの2冊を読みながら、そんな皮肉な現象を再認識した。来年の東京オリンピックなどは愚の骨頂だろう。


2019年9月2日月曜日

香港と韓国

 

・香港でのデモは、返還から22年の記念式典が開催された7月2日に始まった。主な理由は犯罪容疑者を中国本土に引き渡すという「逃亡犯条例」の改悪に反対するものだった。デモの参加者は最大で170万人にもなったようだが、これは香港の人口が740万人ほどだから、4人に一人が参加したことになる。これほどの数の人が反対の意思表示をする理由は、単に条例一つだけにあるのではない。それは香港の歴史そのものに関連するものである。

・香港はアヘン戦争後の1842年にイギリスの領土になって発展した都市である。それが「一国二制度」という条件で1997年に中国に返還された。つまり、香港は特別行政区として独自の法制度をもち、政治を司る「立法会」の議員を選ぶ権利があり、表現の自由も認められていて、中国本土とは大きく異なる制度を50年間は保証されたうえで返還されたのである。ところが、現在では議員選挙にしても、トップである行政長官の選び方にしても、中国の意向が強く働くようになっているし、批判的な団体や人びとが捕らえられたり、行方不明になったりもしている。香港がじわじわと中国化している。デモに参加した人には、そんな強い危機感があると言われているのである。

・香港に住む人の多くは漢民族だが、自分たちを中国人ではなく、香港人と思っている。何しろ150年間イギリスの支配下にあって、社会的にも文化的にも西欧流が根づいているのだから、共産党が支配する中国を拒絶するのは当然のことなのである。その形骸化した「一国二制度」もあと30年ほどで解消されてしまう。そうなる前に独立したい。それが香港人の世論なのである。

・2014年の「雨傘デモ」以来、抗議活動をリードしてきた黄之鋒と周庭の二人が警察に一時逮捕された。デモの沈静化を狙ったトップの逮捕だが、逆にデモの拡大や先鋭化を招くかもしれない。香港に隣接する深圳には中国の軍隊が待機していて、いつでもデモを制圧できる態勢になっている。アメリカは中国を牽制しているが、日本政府は沈黙したままだ。

・他方で、韓国で行われているデモは日本政府に対するものである。「反日」ではなく「反安部」なのだが、日本のマスコミはプラカードに書かれたハングルを「反日デモ」と偽って報道した。テレビでは連日、嫌韓を煽る番組を流している。徴用工の賠償請求や従軍慰安婦を巡る問題に反発して、安倍政権は半導体の製造に利用する材料などの輸出規制を強化した。いわゆる「ホワイト国」から除外という措置だ。テレビの嫌韓煽りの影響か、この措置を7割以上の人が支持しているという。

・対抗して韓国は日韓の軍事協定である「日韓秘密軍事情報保護協定(GSOMIA)」を破棄した。この条約は北朝鮮の核開発やミサイル問題に対応するために、日韓が協力して情報を交換し合うという趣旨で2016年に締結されたものである。ここには日韓だけでなく、米国も強く関わっている。日韓の関係は最悪の事態に陥っていると言えるのである。落としどころも見いだせない、とんでもない状況に陥ってしまっているが、日本の政権は一体何を目的としてこんな行動に出ているのか。理解に苦しむというほかはない。貿易も観光も、両国にとって大打撃にしかならないというのにである。

・しかし、日韓の間にある問題もまた、歴史的にしっかり見直す必要がある。日本が朝鮮半島を侵略して「日韓併合」をしたのは1910年のことである。ここから第二次大戦が終わる1945年まで、朝鮮半島は日本の植民地となり、朝鮮人も日本人として扱われた。このような歴史に対して1965年に「日韓基本条約」が結ばれ、戦争の賠償や戦後の補償として総額6億ドルの供与を行っている。徴用工や従軍慰安婦の問題も、この時点で解決済みだというのが安倍政権の姿勢だが、ここにはいつまでも謝ってはいられないという、韓国の人びとの気持ちを逆なでするような態度もある。

・しかし、侵略して植民地化し、多くの人が強制労働や兵隊の性欲処理の道具に使われたこと、戦中はもちろん、戦後もずっと在日韓国・朝鮮人に対する差別が横行してきたことなどを考えた時に先ず優先すべきは、いつまで謝る必要があるかは、加害者ではなく被害者である韓国や朝鮮の人びとが判断するという姿勢なのである。それを自虐史観などといって嫌韓を煽っていたのでは、関係はますます悪くなるばかりだろう。それで泥沼に陥るのは韓国ではなく日本の方なのである。

2019年8月26日月曜日

『新聞記者』を観た

 

sinbun1.jpg・『新聞記者』がやっと甲府に来た。話題になったのは参議院選挙の時で、東京まで見に行こうかどうか迷ったほどだった。もう諦めていたがマイナーの映画をよくやる「シアターセントラルB館」が上映した。我が家はもう一時ほどの暑さではなかったが、甲府に行くとさすがに暑い。駅前通も人通りは少なかったが、映画館にいたのもまた10数名で、しかもほとんどがシニアだった。この映画館いつまでつづけられるのだろうか。いつ来てもそんな心配が感じられるほど観客は少ない。

・ 映画では、政権にまつわる現実の問題を想わせるレイプ事件や大学認可が取りあげられ、原案となった東京新聞記者の望月衣塑子や元文科相事務次官の前川喜平がテレビ画面として登場するなど、きわめてシリアスに作られていた。主演女優のシム・ウンギョンの勝ち気さと、男優の松坂桃李の真面目さが対照的で、ジャーナリストと官僚の違いを人間性として際立たせてもいた。

・ しかし、ぼくがこの映画を見て一番恐ろしく思い、実際にもそうなんだろうなと感じたのは、内閣情報調査室という機関と、そこで実際にも行われているだろうと容易に想像できる光景だった。いわゆる「内調」は、この映画では政府主導のスパイ機関で、マスコミをはじめとしてありとあらゆる情報を集め、都合が悪ければもみ消したり、誤報だと触れ回ったりするし、自ら積極的にフェイク・ニュースを流して情報操作もやっているところとして描かれている。政府に批判的な官僚や政治家、ジャーナリスト等々の情報を集め、素行調査などもしてスキャンダルを作りだす。これが信憑性があるのは、伊藤詩織や前川喜平の件でも明らかである。

・ もちろん「内調」は現政権が作り出したものではない。しかし、政権を保持することを目的に、スパイ活動や情報操作に露骨なほどにエネルギーを注ぐのは、現政権が段違いに強いだろう。SNSを駆使してフェイク・ニュースを流したり、ネトウヨまがいの誹謗中傷を流しているとしたら、これはもう犯罪といってもいいのだが、そこには警察関係者も多数送り込まれているし、実態がつかめないから、やりたい放題なのだろうと思う。映画を見て、そんなことを考えたが、政権はこの映画での内調の描き方に抗議をしていない。

・ この映画が公開されたのは参議院選挙の期間中だった。ずい分話題になったが、選挙結果に何か影響があったとは思えない。何しろ投票率が50%を割って、自公はほとんど議席を減らさなかったのである。テレビでの選挙報道を抑え、選挙に対する無関心を作りだすことに成功したのだから、マイナーな映画が予想以上にヒットしたからと言って、「内調」自体が強く動く必要もなかったのかもしれない。それだけ、現政権の情報操作の効果は圧倒的なのである。

・ それにしても、官僚もジャーナリストも、今はやりたいことができず、やりたくないことばかりを半ば強制的にやらされている。不満があっても口にも出せず、ただ言いつけに従うのみ。それはもちろん、企業にしても似たようなものなのかもしれない。組織の中で働くことが、これほど、個人の思いややる気をそいでしまっている社会は、少なくとも戦後の日本では初めてのことだろう。一体、このままどこに行ってしまうのだろうか。映画を見ながら何とも憂鬱な気分になってしまった。

2019年8月19日月曜日

真夏の騒動

 

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forest160-2.jpg・河口湖も連日30度超えで、午後はじっとしていても汗が出るほどだった。当然、窓はすべて開け放っていたのだが、時折嫌な臭いが漂うようになった。最初に気づいたパートナーが家の周囲を見回ると、川の土手に埋められた下水管から汚物が吹き出していた。急いで管理会社に電話をして、状況を説明したが、清掃会社がやってきたのは4日ほど後で、下水のつまりを直したのは6日後だった。
・対応の遅さに我慢ができずに、吹き出した汚物をスコップですくいとり、川に流れるように水を大量にまいた。悪臭にもめげず、噴き出す汗をぬぐっての格闘だった。綺麗にというわけにはいかなかったが、臭いは大分軽減された。詰まった下水管は我が家のものではなく、付近の下水を集めて処理場まで流れる本管だった。道路下などと違って、隙間から土や草木が入り込んでのつまりだったようだ。もっとも、流れ出した汚泥はまだ、少し残っている。お盆を挟んでいるとは言え、対応の遅さにはうんざりした。

forest160-3.jpg・それでやれやれと思ったら、iPadのタッチパネルが突然反応しなくなった。iPadはタッチパネルが動かなければ、何も操作はできない。パソコンで調べて、強制終了を試みたが、すぐに再起動をしてオフにすることもできない。APPLEに連絡をして、電話での指示によっていろいろ試みたが治らないので、修理に出すことにした。クロネコでケースが届いて発送すれば1週間ほどで戻ってくると言われたが、お盆での高速道路の渋滞のせいか、取りに来たのが1日遅かった。

・しかし、着いたという連絡からしばらくして、交換作業が終わったので出荷しましたという連絡が入った。修理ではなく新品交換だったのかと、その時わかった。使い慣れて愛着もあった機器ではなく、新しいものがやってくる。さみしいような、嬉しいような、複雑な気持ちになった。いずれにしても、APPLEには製品を大事に使ってもらうという発想がない。60年代のカウンター・カルチャーを出発点にもつはずなのに、「もったいない」などという発想がない会社に変質してしまったことを実感した。

forest160-4.jpg・ところで、こんな時期に次男のところに2番目の子どもが生まれた。暑いさなかで大変だったと思うが、お盆の長期休暇で次男のサポートが”十分にできたようだった。驚いたのは、数日前にあった富岡八幡宮の祭りに出かけて、彼女が子どもの様子を長時間、ビデオに撮り続けていたことだった。熱い中、立ちっぱなしでよくそんなことが出来たものだと感心するやら驚くやら。赤ちゃんは男の子だから男二人だ。長男のところは女の子が二人だから、うまくいかないものだと思う。週末、病院に赤ちゃんを見に出かけた。

forest160-5.jpg ・長い梅雨の後の猛暑や台風で、自転車に乗る日がなかなかなかった。記録を見ると、去年はほぼ毎日走っているのに、今年は週に2日といった程度だ。ただ河口湖1周20kmを45分前後で、タイムは落ちていない。筋力の衰えがないのはいいが、体重がちっとも減らない。走る前に撮った写真を見て、ふっくらした姿にがっかりした。やはり食べすぎが原因だろう。しかし、食事制限してまで減らす気はないから、せめて増えないように気をつけようと思う。


2019年8月12日月曜日

猛暑はもう異常ではありません

 

・長い梅雨がやっと明けたと思ったら、いきなりの猛暑です。前回のコラムでも書きましたが、東北旅行は散々で、一日早く切り上げて帰って来ました。その河口湖も、連日30度を超えています。河口湖周辺ではエアコンをつけずに車に乗っていたのですが、去年からはつけずにはいられない温度になりました。気象台が発表する温度は、日陰で下に芝生を敷き詰めた所で測ります。ですから日なたではもっと上がりますし、アスファルトの上ではさらに上がります。先日東北の帰りに、車の温度計は何度も40度を超えました。

・テレビの気象予報では、猛烈な暑さになりますから、外出やスポーツは避けるようにと警告しています。もっともだと思います。ぼくは連日自転車に乗っていて、24、5度の朝の6,7時台と決めていますが、それでも、汗びっしょりになります。30度になる日中にはとても走れたものではないでしょう。クーラーのない我が家でも、去年からは欲しいなと思うようになりました。

・ところがテレビでは夏の甲子園野球を中継していて、相変わらず熱闘甲子園と連呼しています。35度を超える甲子園で高校生が全力で野球をやるというのは、どう考えたって異常です。日程を8月の後半にずらすとか、午前中と夜間だけにするなどの方策を考える必要があると思いますが、そんな声はどこからも聞こえてきません。そもそも甲子園野球は新聞が始め、テレビが人気にしたものですから、批判は封じ込められてしまうのかもしれません。

・投手の連投について、大船渡高校の佐々木選手をめぐって議論が起こりました。監督は準決勝で投げたので決勝では出場させなかったのですが、その事で高校には抗議の電話が殺到したようです。自分勝手もいい加減にしろと言いたくなりますが、プロ野球の解説者には相変わらず、根性論や甲子園を理想化する発言が目立ちます。しかし、高校生に連投を強いるのは日本だけの悪習で、成長過程にある高校生に過度の運動をさせては駄目だというのが、最近の健康医学の常識になっているのです。

・160kmを越える球速を出した佐々木投手は来年にはプロ野球入りし、数年後にはメジャーに行く素質を持った選手です。高校の監督はそのことを考えて、壊してはいけないと判断したようです。きわめて当たり前だと思うのですが、甲子園は高校生球児の夢だからとか、佐々木が出ないのではつまらないといった発言を平気でする神経が、信じられない気がします。

・ところで、東京オリンピックが1年後に迫りました。テレビにはその事をはやし立てる番組が目立つようになりました。もっぱらメダルが有望の日本選手に注目しています。しかしこの暑さでほんとうにできるのか。熱中症で倒れる選手が続出し、観客も含めて死人まで出たら、一体誰が責任をとるのでしょうか。すでにチケットも販売され初めていて、当たった、外れたと騒ぎになっています。またホテルの予約も行われていて、すでに大会期間中は満室となっているところが多いようです。チケットは取れたけど宿泊先がない、ボランティアに応募したけれど泊まるところがない。こんな混乱が起こるのは明らかでしょう。一体どんな「おもてなし」をするというのでしょうか。

・政府やメディアが一体となって熱く盛り上げようとしているオリンピックも、大会が終われば深刻な経済不況に襲われるという予測が出されています。米中の経済摩擦などにより、世界不況はすでに始まっているという見方も、すでに出されています。ここのところの株価の急落は、猛暑の中の寒々しい話しで、怪談話どころではないのです。このまま行けばオリンピック前に、日本は大不況に見舞われる危険性もあるのです。異常なのは猛暑ではなく、この国の政策とメディアのはしゃぎようにこそあるのです。

2019年8月5日月曜日

東北も酷暑だった!

 

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・夏には東北旅行というのが2年続いて、今年もと計画した。しかし、いつまで経っても梅雨明けしないので2週間遅らせることにした。どうせ行くなら雨ではなく天気がよくなってからと思ったのだが、とんでもない間違いだった。暑くて何もできなかったからだ。4泊5日の予定を1日切り上げて帰って来た。

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・今回はあちこち行かずに猪苗代の磐梯山の麓で過ごす予定だった。磐梯山には5年前に登った。(↑)パートナーが脳梗塞で倒れる前で、最後に登った山らしい山だった。9月だったせいもあるが。天気がよくて頂上からの眺めも素晴らしかった。山登りのベテランの義兄と一緒だったが、今回はその義兄の別荘を借りての滞在だった。

・東北に行く時にはいつも関越道を使っている。今回もそうで、まだひんやり涼しかった河口湖を出発すると、外気がみるみる上がって圏央道に入る頃には30度を超え、谷川岳下の関越トンネルを過ぎて新潟に入ると、34度、35度とみるみる上がった。PAによるとどかっとした感じでまるでサウナ風呂に入った時みたいだった。新潟から阿賀野川沿いに会津まで走ったが温度は下がらない。600Mほどの高地なのに別荘も33度で、しばらく使っていなかったせいか、家の中は猛烈な暑さで、かび臭かった。暗くなった頃にはさすがに涼しくなったが、早くも、夏ばて状態になった。

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・とは言え、少し歩こうと、安達太良山の麓にある自然植生観察園「万葉の里」と近くの「不動滝」に行った。真っ黒い岩石の滝で、水しぶきがかかって、ここは涼しかった。あとは裏磐梯の檜原湖をまわり、磐梯山をぐるっと一周した、もっていった自転車にはとても乗る気にならなかった。

・猪苗代は2泊で切り上げて那須で一泊。帰りにいきたいと思っていた足尾の銅山跡に立ち寄って、帰宅した。精錬所から出る亜硫酸ガスではげ山となった所が、今は植林活動で鬱蒼とした森になっていた。田中正造に関連した場所が見つからなかったのは残念だった。世界遺産登録を目指しているようだが、さてどうか。山の緑を復活させただけではなく、日本の反公害運動の原点であることに、もっと注力すべきだと思った。

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2019年7月29日月曜日

テレビからジャーナリズムが消えた

 


・参議院選挙の結果は各新聞がそろって予測した通りだった。つまり事前の世論調査の数字が、選挙期間中も動かなかったということだ。確か世論調査では、まだ投票先を決めていない人が5割以上いるとされていた。実際の投票率は5割に充たなかったから、結局、決めていなかった人が投票に行かなかったということになる。二週間の選挙活動期間は何だったのかと言いたくなるが、もちろん、候補者や政党は連日精一杯の活動をしてきたのだろう。しかし、選挙活動が行われている場所に行かなければ、家の近くに選挙カーが来なければ、選挙中であることを感じることもない。テレビがほとんど、選挙の動向や、争われるべき争点について、特番を組むことはもちろん、ニュースでも取りあげなかったからだ。

・テレビ局の言い分は、どこも、今度の選挙は話題に欠けるから視聴率が稼げないというものだった。しかし、今回の選挙には、実際、日本の現状や、将来の方向性を左右する大きくて複雑で、しかも深刻な問題がいくつもあった。それらを本気になって取りあげれば、視聴者の関心を集めて、選挙の重要性を自覚させるきっかけや弾みにもなったはずである。そうしなかったのは、政権の圧力に屈したか、忖度をして、争点隠しの片棒かつぎに加担したからにちがいない。テレビ局にわずかでも、ジャーナリズムの媒体でもあるという自覚があれば、そんな言い訳はできなかったはずで、すでにそのような使命や矜持は捨ててしまったと思えるからである。

・選挙期間中にテレビが好んで取りあげたのは、吉本所属のタレントが起こした反社会的集団との闇商売であったり、ジャニーズ事務所の創立者の死だったりした。テレビにとっては芸能界こそが注目すべき世界であることを如実に示すものだが、それはまた、テレビが芸能界にあまりに依存しすぎていることの結果でもある。吉本やジャニーズといったプロダクションがなければ、テレビ局は番組を作ることはできないし、電通といった広告会社がなければ、スポンサーを集めることもできない。そのどちらも現政権に強く繋がっているから、政権にとって都合の悪いこと、選挙を不利に導くようなことは、絶対にできないことになっているのである。

・久米宏がNHKの「あさイチ」に出て、NHKが「人事と予算で政府や国会に首根っこつかまれているのは絶対的に間違っている。完全に独立した放送局になるべき」と批判をした。NHKはすでに何年も前から、ニュースなどでは完全に「安部チャンネル」と化していて、北朝鮮の放送を笑うことができないほどひどいものになっている。ニュースや報道にさく時間がなまじ多いから、選挙を無視した民放テレビよりもっと罪が重いと言えるだろう、何しろ、全国津々浦々に電波を届けられるのはNHKしかないのである。「NHKから国民を守る党」が1議席をとった。NHKにとってはやっかいな存在だろうが、そのいかがわしさを知らずにNHK批判にと投じた票がかなりあったことに、NHKは自覚すべきだろう。

・そんな中で、政党要件を充たさないからと無視された「れいわ新撰組」から二人の議員が生まれた。二人とも重度の障害者で、車椅子での国会活動が避けられないから、国会が始まる前に、いろいろ直さなければいけないところがあって、大変だと思う。しかし国会が、健常者だけの世界であってはいけないことがやっと認識されるから、たった二人とは言え、大きな変化になると思う。残念ながら山本太郎は当選できなかったが、カンパを4億円も集めたことや、演説会場を人で埋めたことなど、新しい政治のやりかた、政党のあり方を提案した、大事な行動だったと思う。

・選挙に無関心だったテレビも、選挙結果には大はしゃぎで、どのチャンネルも特番を組んでいた。ぼくはネットで山本太郎の選挙事務所のライブを見ていたが、そこでテレビの取材に対して、「初めまして」と皮肉を言って話し始めたことには笑ってしまった。番組を見ていないからわからなかったが、レポーターはばつが悪かったに違いないと思う。もちろん、ばつの悪さはテレビ局自体にこそ感じて欲しいものである。ほんのわずかでもジャーナリズムの一翼を担っているという自覚があればの話だが………。