・陸上競技の世界選手権がロンドンで開かれた。イタリアは40度を超える猛暑のようだが、ロンドンはマラソンにも適したほどの涼しさ〔寒さ?)だったようだ。他方で3年後に予定されている東京では、37度を越えた日もあったし、突発的な豪雨に見舞われたりもした。すでに亜熱帯化している東京でなぜ、真夏にオリンピックをやるのだろうか。マラソンはもちろんだが、屋外で行われるどんな競技にとっても、過酷な条件とならざるを得ないだろう。選手はもちろん観客だって、暑さに倒れ、死者だって出るかもしれない。こんな愚行が他にあるのだろうか、と思う。
・ところがマスコミからは、こんな疑問は全く聞こえてこない。テレビにとってはオリンピック中継は一大イベントだし、新聞社も協賛しているからだ。それは出版にとっても変わらない。週刊誌でオリンピック批判の記事を見かけることは滅多にないし、書籍についても、大手の出版社からは批判的な内容の本はほとんど出ていない。以前にこの書評で取りあげたオリンピック批判の本も小さな出版社だった。〔→〕
・20年の東京オリンピックは7月24日から8月9日の日程で開催される。梅雨明け前後で、一年で一番蒸し暑い時期だし、台風だって今年のようにやってくるかもしれない。そんな風に思っていたら久米宏が7月22日放送の「ラジオなんですけど」(TBS)で、「今からでも東京オリンピック・パラリンピックは返上すべきだ」と発言した。この番組では6月にも、リスナーに「今からでも返上すべき?」というテーマで投票を呼びかけていて、2000票を超えるうちの83%が返上に賛成をした。〔→)このラジオの聴取者は高齢者が多い。60歳以上が800票を超え、その9割が返上すべきと答えている。他方で20歳代は50票ほどだが、返上は57%にとどまっている。
・3年後の開催に合わせた発言は、これ以外には聞かなかったが、日刊ゲンダイが31日に「久米宏氏 日本人は“1億総オリンピック病”に蝕まれている」と題した直撃インタビュー記事を掲載した。彼が東京オリンピックに反対する理由は暑さだけではない。これ以上東京一極集中進めるべきではないこと、招致を巡る黒い金スキャンダル、エスカレートする国家間競争などがあって、至極もっともな主張だと思った。
・そもそも築地市場の移転だって東京オリンピックが絡んでいたし、「テロ等防止法」〔共謀罪)の成立理由もオリンピックのためだった。オリンピックを夢のイベントのようにイメージ操作をして、そのためと称して、やりたいことをやる。そんな薄汚い政治にオリンピックが使われている。そしてオリンピック自体も、スポーツを餌にしたグローバルな経済行為に変質してしまっている。大会の招致に手を上げる都市が少なくなって、東京の次ばかりでなくその次までも、今手を上げているパリとロサンジェルスに決めてしまうようだ。
・オリンピックを返上すると1千億円のペナルティが科されるようだ。しかし、オリンピックが終わった後に大不況がやってくると警鐘を鳴らす人は多いし、日本の財政状況は借金まみれで破綻寸前にあると指摘する人もいる。国立競技場の建設についても自殺者が出るほどひどい状況のようだ。冷静に見たら、返上についての論議がわき起こって当然だと思うが、久米宏の発言に応える動きはほとんど見られない。今、新聞社がオリンピック開催について賛否を問う世論調査をすれば、反対票がかなりの数に上ることは明らかなのに、なぜそれをやらないか。東京オリンピック開催に積極的なのは政権や東京都はもちろん、テレビや新聞社や大手出版社、それに何より電通という悪名高い広告代理店だからである。これこそ本当のイメージ〔印象〕操作に他ならない。