2024年4月8日月曜日

大谷騒動とメディア

 

メジャーリーグが始まったが、今年は今一つ、楽しめていない。理由は言うまでもなく、水原一平通訳が起こした出来事だ。振りかえれば、大谷選手の移籍の動向以来、ネットもテレビも大騒ぎだった。確実な情報がほとんど出ないから、憶測記事が氾濫して、それがドジャースに決まるまで続いた。ロスからトロントに向かう飛行機に大谷が乗っているのではといった記事が出て、それが間違いだったと訂正されて、大谷獲得を狙う球団やファンを大慌てさせたりした。

このあたりのニュースはネットの方がはるかににぎやかだったが、入団会見から山本投手のドジャース移籍、そしてキャンプ開始になると、テレビのワイドショーはもちろん、ニュース番組までが、大きく取り上げたから、もういい加減にしろよと言いたくなった。で、結婚していることの突然の発表である。その日は国会で政倫審の中継があったが、NHKは放送中に大谷選手結婚のニュースをテロップで流したのである。実際、国会もすっ飛ぶ話題で、その日の報道番組は、その話で持ちきりだった。

ohtani5.jpg 結婚相手は「普通の日本人の女性」という以外明かされなかったが、ネットではすぐに、バスケットの選手ではないかといった記事が載るようになった。それがほぼ確実だとわかっても、テレビはそのことを明示しなかった。大谷選手の機嫌を損ねてはいけないという配慮だったのだろう。開幕戦は韓国のソウルでパドレスとおこなう。それに向けて飛行機に乗る画像を大谷選手がインスタグラムに載せ、そこに結婚相手も写されていた。で、田中真美子さんという名前であることが明らかになった。

ここまでは、大谷選手のメディア操作は見事だったが、初戦のダルビッシュや松井との対決で盛り上がった後、一夜明けて、大変なニュースが飛び込んできた。水原通訳がドジャースを解雇されたという目を疑うような見出しだった。ギャンブルにのめり込んでいて、大谷の口座から450万ドルあまりを盗んで返済に充てていたというのである。そこから後の騒ぎは、もう大谷の手に負えるものではなく、野球の試合そっちのけで、さまざまな憶測記事が氾濫することになった。

アメリカに戻って、大谷選手が事の経緯を自ら発表すると、日本ではそれを信じて納得するという論調が多かった。しかしアメリカでは邪推も含めて、批判的な記事が多く出た。水原元通訳についても、経歴にあった大学に在籍した記録がないといった記事が出て、実は通訳としても有能ではなかったなどとも言われるようになった。ギャンブルにのめり込んだのは大谷で、水原はスケープゴーツにさせられたのではといった憶測も出て、アメリカではもう手に負えない感じだが、日本ではメディアもネットも、大谷を批判する発言は目立っていない。

アメリカに戻ってからも、彼はすべての試合に出て、ベンチでも明るく振る舞っている。しかし、信頼していた相棒が裏切りという形でいなくなって、その一端は彼にも責任があるのだから、心中は穏やかではないだろう。ホームランが出なくたって無理もない。そう思って見ていたら、9試合目でやっと出た。するとシカゴに遠征した試合でもう一本。日本人選手4人が出るシリーズで、しかも4人とも大活躍だった。もっともっとやってほしいが、あまりに派手になると、ジャパン・バッシングが起こるかも知れないといった心配もしてしまう。大谷選手にまつわる報道には、嫉みや人種差別を感じるものが少なくないからである。


2024年4月1日月曜日

ライブの記録はいつからOKになったのか

 
ビリー・ジョエルの東京ドームでのライブについては、以前にこのコラムで書いた。忘れていたのだが、その当日にYouTubeですぐにアップされていて、あー、そうだったと思い出した。もちろん、客席からの録画で、音もこもっていて良くはなかったが、今終わったばかりのライブなのにと驚いて、その様子を最後まで見た。しかも、アップされているのは複数で、中には公認といったことばが入っているものもあった。

自分で録画したライブをYouTubeに許可なく載せることは、今でも違法だと思うが、いったいいつから、ライブでの録画が許されるようになったのだろうか。そんな疑問を感じて調べて見ると、日本では今でも、アーティストや主催者が認めた場合を除き、原則禁止になっているようだ。ただし、スマホを会場内に持ち込めないようにすることはできないから、電源を切って録画しないようアナウンスするしかないようだ。

densuke1.jpg僕が良くコンサートに出かけたのは京都に住んでいた1990年代までだった。会場の入り口で、テープレコーダーやビデオカメラを持っていないか、手荷物をチェックされたことが何度かあったと記憶している。今覚えているのは、京都の円山音楽堂で、一緒に行った友人が「ビデオでんすけ」で録画していて、係員に注意されてやめたことだった。多分70年代で、その大きくて重たいビデオカメラはあまりに目立ちすぎたのだが、それを会場に持ち込んで録画しても大丈夫だと思っていたのだ。そんな機材を持っている人はごく少数で、当時は普及しているのは、カメラを除けば、録音できるラジカセぐらいだった。もちろん、その時代には公にする手段もなかったから、あくまで個人的に楽しむために限られていた。

walkman1.jpg録音や録画が厳しく禁止されるようになったのは、レコードがCDに代わった80年代初めからだったのかもしれない。その頃にはウォークマンやハンディタイプのビデオカメラも普及して、誰もがどこでも気軽に録音や録画ができるようになった。もっとも、有名なミュージシャンのライブを無断で録音した海賊版と呼ばれたレコードは古くからあって、僕もボブ・ディランの伝説的なライブを何枚も買った。極めて悪い音が大半だったが、中にはレコード会社が録音したものが流出したと思えるようなものもあった。ディランの海賊版は、のちに正規の形でほとんど発表されていて、僕もそのほとんどを購入した。

ところで、ライブとYouTubeの関係だが、オフィシャルなものはもちろん、そうではない違法なものも多く蓄積されていて、ミュージシャンの名前で検索すると、大昔のものから最近のものまで、山のように出てくるのが珍しくない。これではライブ盤など出しても売れないだろうと思うが、ミュージシャンにとっては、それが宣伝効果として有効だと判断される場合があるのかも知れない。実際、ビリー・ジョエルについては、正規に記録されたと思えるライブがいくつもあって、東京ドームについても、すぐにアップされていたのだった。

2024年3月25日月曜日

春よ来い!

 

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forest199-2.jpg 2月が暖かかったから、去年と同じで、ストーブがいらなくなるし、桜も早く咲くだろう。と、思っていたら、2月の末から一転して、寒い日が続き、何度も雪が降った。薪割りで腕を痛めているのに、何度も雪かきをしたから、未だに痛みは消えていない。薪の備蓄は十分とは言え、買った薪を燃やすのはもったいないからと、秋に裏山で集めた倒木を燃やすことにした。そうすると乾いていて良く燃えるではないか。ただし、カビやら粘菌やらでスカスカになっているから、あっという間に燃え尽きてしまう。ストーブの脇に山のように積んでも、1日持たずにまた追加ということになった。おかげで、アルプス積みをした薪を崩して、スペースのできた家のまわりに移動させることができた。雨ざらしにすれば、カビが生えてしまうからだ。

izunagaoka01.jpg クルマが戻ってきたので、久しぶりに遠出をした。暖かい伊豆に行ったのだが高速道路の上をまたぐようにして山の上まで続くロープウエイを見つけて乗ることにした。葛城山で、頂上からは駿河湾が眺望できた。あいにく富士山は雲に隠れていたが、途中で濃い霧に出会っていたから、海が見えただけでも幸運だった。高いところが苦手な僕には乗っている時間が長くてちょっと怖かったが、久しぶりの遠出を楽しむことができた。

forest199-3.jpg クルマは戻ったが、レンタカーを3月初めまで借りていたので、しばらくは返さずに置くことにした。しかし雪がよく降るし、木の枝が落ちて危ないので、もったいないが返すことにした。軽自動車に2ヶ月乗った体験はいずれ書くつもりだが、近場で乗るにはこれで十分だと思った。甲府まで2台で行って、帰りは少し遠回りをしたが、クルマの大きさと重さを改めて実感した。これでは燃費が違うのもうなづける。次はもうちょっと小さくて軽いクルマにしよう、そんなことを感じた経験になった。

forest199-4.jpg ところで、隣地の赤松が折れたことで、家の周囲の木々がいっそう気になるようになった。で、松が折れたのとは違う隣地を買って伐採しようかと思い立って、地元の不動産屋さんに話をした。持ち主は代替わりがして子どもが三人で相続していると言う。面倒だが交渉してもらって、何とか買うことができた。買った時の4分の一の価格で驚いていたようだが、おそらく僕が買わなければ売れないだろう。契約はまだしていないが、済んだら危ない木を伐採しようと思っている。僕にしても、特にほしいわけではなく、危ないからというのが一番の理由だったのである。もっとも、原木を置いたり薪を積んだりして使っていた土地だから、黙って使うことに多少の後ろめたさもあった。

2024年3月18日月曜日

株だけが高いのはなぜ?

 



kabuka.gif 日本の株価がバブル期を超えたと大騒ぎになった。これまでの最高値は1989年の12月29日につけた3万8957円44銭で、これはバブルがはじける直前に出た値である。株価はその後急落して2003年の4月には7607円88銭まで落ち込んでいる。その後少し持ち直したものの、リーマンショックや民主党政権の成立で1万円以下で推移し、安倍政権誕生とともに急上昇を始めて、2万円を超える額になった。それが21年には2万5000円、23年5月に3万円を超え、この3月には一時4万円を超えたのである。

en.gif 株価については円と関係があって、株が上がれば円安になり、円高になれば株が下がるといった特徴がある。これは日本の経済が輸出に依存しているからで、円安になれば輸出産業の売り上げが増すと予測されるからである。その円のレートは80年代の前半は1ドル200円台で推移していたが、後半には急激な円高になって、株が最高値をつけた89年には130円前後になっている。バブルがはじけて株が急落しても、円は100円台の前半を推移して、民主党政権が成立した2010年以降には円高が進んで2013年には79円になった。それが円安に転じるのは安倍政権以降のことである。

このような経過をグラフで見ると株価と円の関係が対照的になるのは安倍政権以降であることが分かる。株価が上がったのは「アベノミクス」によるもので、そこには日銀や年金機構が株価を買い支えるといった操作が顕著であった。実際国内の最大の株主は日銀で、保有する時価は70兆円で、年金機構の額も30兆円以上だと言われている。これは日本の株式全体の6分の1にもなる額で、極めて不自然なものである。もう一つ、円安を誘導したのが日銀のゼロ金利、さらにはマイナス金利政策であったことも加えておく必要がある。

日本の経済の実態はバブル期を境に下がり続けていて、失われた30年と言われている。日本のGDPが戦後の経済復興によってアメリカに次いで世界2位になったのは1968年のことである。それが2010年には中国に抜かれ、去年の23年にはドイツに抜かれて4位に下がった。新興のインドが急速な経済成長を遂げているから、そこにも抜かれて5位になるのは時間の問題だと言われている。あるいは、一人当たりのGDPで言えば、日本はすでに先進7カ国の最低で、世界全体では37位に下がっていて、韓国と台湾にはさまれた位置にある。

このように見れば、現在の株高が経済の実態とはかけ離れたものであることがわかるだろう。最近の円安がインバウンド増の要因と言われているが、円そのものの値よりは、この30年間、物価が上がらなかったことで、日本にやって来る人には、何でも安いと感じられるからである。もちろん、その間、個人収入もほとんど増えていないし、パートやアルバイト、あるいは契約といった形で働く人が増えて、貧富の格差が大きくなっているのである。株高が外国人投資家によるとも言われているが、そこにもやはり、割安感があるのだろう。

現在の株高は、日本の経済とは関係ないものだから、いずれは暴落すると言う人もいる。ゼロ金利政策を是正したい日銀は、株価が急落しないようにして、それを改めなければいけないが、それはおそらく至難の業である。もっとも日銀は国債の5割以上を保有しているから、金利をマイナスから0、そしてプラスに上げれば、今度はその利子の支払いに苦慮することになる。それもこれも「アベノミクス」が招いたことだから、安倍元首相の罪はとんでもなく大きいのである。


2024年3月11日月曜日

「山を歩く」は意外なこと

 

miyake1.jpg 大学院の頃からの友達が、突然冊子を送ってきました。題名は『山を歩く』で、思わず、「え!どういうこと?」と口走ってしまいました。何しろ、彼が山を歩くことなどは、まったく想像がつかないことだったのです。昨年の春先のことです。で、今年も2023年の山歩きの記録が届きました。僕より三つほど若いですが、70歳の山歩き初体験ということでしょうか。しかし、月一回の割で歩いているようですから、もうすっかり板についたことだろうと思います。

友達は三宅広明さんといいます。大学院を出た後、学校の先生として淡路島や神戸で働いて、退職後に山歩きに目覚めたのですが、きっかけは山歩きの好きな友人に誘われたことだったようです。明石に住んでいますから、歩くのはもっぱら近隣の山で、僕にはほとんど馴染みがありませんでした。けれども、初めて山を歩いて、木々や花々にふれ、生き物の気配を感じ、高いところからの景色を眺めて感激している様子は、十分に想像することができました。

山歩きはいつも三人で行っているようです。気心が知れた仲間なんでしょうね。連れ立って何かをすることが苦手な僕にはできないことだと思いました。僕はいつもパートナーと一緒に山歩きをしてきましたが、彼女の体力が衰えて、前には登ったところにも行けなくなりました。誰か連れがいたら、まだまだ行きたいところはあるのにと、うらやましく思いながら読みました。

ちなみに、去年歩いたのも羽束山(三田市)、編妙の滝(神崎郡)、天下台山(相生市)。摩耶山(神戸市)など家から日帰りできるところがほとんどですが、木曽駒ケ岳に挑戦したようです。もっとも彼以外の二人はアルプスにも良く上る登山家のようで、彼だけが3000mも、山小屋泊まりも初めてだったようです。「よく歩く六甲山が931m、これまでで一番高い山が氷ノ山の1510mという具合。日本アルプスにどんな山があるのやら、どんな景色が見えるのか、全く知らず、関心も持たずにずっと生きてきたわけで」と書いていますが、千畳敷カールの高山植物や、雷鳥のひな、そして山頂に登って見える山々に、大パノラマだといって感激しています。

僕は木曽駒ケ岳はロープウエイで行ける千畳敷カールまででしたが、御嶽山には登りました。だから彼が見た周囲の山の様子は僕にもわかりました。もちろん大噴火で多くの人が命を落とす前のことでした。この冊子を読みながら、息子と登った富士山や、友達だけが登って、僕とパートナーは途中の駒津峰であきらめた甲斐駒ケ岳のこと、そして昨年亡くなった義兄と登った磐梯山などを次々と思い出しました。そのうち彼とも一緒に歩きたいものだと思いました。




2024年3月4日月曜日

深澤遊『枯木ワンダーランド』築地書館

 

kareki1.jpg 原木を買って薪にしたり、倒木を探すことが多いから、『枯木ワンダーランド』という題名は気になった。確かに、木にはいろいろな生き物が寄生している。苔や地衣類がついているし、キノコや粘菌などもある。それに雨ざらしにしておくと、さまざまな色のカビも生えてくる。それぞれの名前などほとんどわからないから、それを教えてくれるかもしれない。そんな程度のつもりで読み始めたのだが、とんでもない世界に誘い込まれることになった。

『枯木ワンダーランド』は専門家しか読まない論文ではない。あくまで一般書として書かれたものだが、全体の3割ぐらいしかわからない難物だった。けれども、途中でやめる気はなく、何とか最後まで読んだ。それはわからないなりに、一本の枯木とその周辺の世界の複雑さや多様さ、あるいはダイナミズムを教えてくれたからだ。

『枯木ワンダーランド』に登場するのはコケ、粘菌(変形菌)、キノコ、腐生ランであり、リスなどの動物と昆虫、そしてバクテリアなどである。一本の枯れ木は腐って、やがて土に帰るのだが、そこにはシロアリやナメクジがいて、キノコやコケや地衣類が生えている。ここまでは目でも見える。しかしコケには窒素固定バクテリアが共生していて、その腐朽菌には枯木を白色にするものと褐色にする2種類があるといった話になると、かなりわかりにくくなる。しかも、変形菌の種類がこの白と褐色の腐朽菌によって色分けされるというのである。ここまでくると、もう想像の世界になって、目の前にある枯れ木や倒木を見てもわからなくなる。

植物も生き物であるから、自然環境から受ける試練を乗り越えて生き延びる必要がある。そのためには経験を蓄積しておく記憶装置がいるし、仲間とコミュニケーションをする必要もある。しかし、動物のような脳や神経組織があるわけではない。たとえばキノコは外に見える姿はかりそめで、実際には地中にある菌糸が本体だと書いてあった。さらにその菌糸体はネットワークのように広がって、数ヘクタールにもなるというのである。まるで巨大な神経組織や脳そのもののようなのである。キノコには食べられるものと毒のあるものがあって、その見分けが難しい。そんな程度の知識しかなかったぼくにとっては、まさにワンダーランドを覗くような思いになった。

この本にはこんな話が次々出てくるが、後半は地球環境へと視点が向いていく。雑木の生えた森と違って人工林は杉や檜などで覆われている。それは切り出されてしまうから、倒木はあまり残らない。だからコケも粘菌も生きにくい世界になっている。そして病気や虫の害によって枯れれば、森全体がなくなってしまうことになる。あるいは山火事や台風などもあって、世界から森がなくなる危険がますます増してきているのである。

ではどうしたらいいか。この点でも、目から鱗の話が多かった。人工林を間伐した木が放置されていると、森の手入れができていないと思うが、著者は枯木や倒木を残した方がいいという。それが炭素の貯蔵庫になるからだというのである。もちろん、それに寄生する生き物の住みかを奪わないことにもなる。そうすると、倒木を集めて薪にしているぼくの行動は、森にとってはいけないことだということになる。それはバイオマスにも、よく手入れされた里山にも言えることのようだ。見栄えのいい森にしたり、木を有効活用することと、森に炭素を蓄積させることは、実際には両立しにくいことだからである。温暖化を食い止めるためには、枯れ木が作るワンダーランドこそ大事にしなければならない。それがよくわかった一冊だった。

2024年2月26日月曜日

TVにもの申す市民ネットワークを

 

テレビがひどいことについては、このコラムでも何年も前からくり返してきた。しかしますますひどくなるばかりで、もう取りあげる気にもならないのが現状だ。しかも、ジャニーズや吉本関連など、TV自体がスキャンダルに深く関わっているのに、そのことについて、まともに発言すらしないのである。ぼくはそんなテレビに絶望しているが、何とか生き返らせようとして立ち上がった人たちがいる。

「テレビ輝け!市民ネットワーク」は田中優子、前川喜平などが中心になって始めた運動である。その趣旨は、1)報道機関としてのテレビに本来の役割を果たさせることで、具体的には、2)株主提案権の行使という取り組みにあって、テレビ朝日の株を3万株(約6000万円)購入して、株主総会で株主提案を行うのである。テレビ朝日をターゲットにしたのは「報道ステーション」におけるコメンテーターやスタッフの降板を、テレビ報道の危機の典型としているからである。

テレビに対する権力の圧力は安倍政権から強くなった。批判的なキャスターやコメンテーターが降ろされ、提灯持ち的な人が大きな顔をするようになって久しい。それはもちろん、テレビ朝日に限らないし、民放よりは NHKの方がもっとひどいと言えるだろう。だから今度の動きは、テレビ朝日をとっかかりにして、他の民放、そしてNHKに広げていくという流れを狙う、その第一歩なのである。

その共同記者会見で前川氏は「経営側は番組の制作や報道の自由に余計なことをするな、外部の権力に忖度や迎合をするなと。権力には政治権力もあるが、民間もある。ジャニーズ事務所や吉本興業は民間の権力。そういうのに忖度するのもいかん。放送事業者の独立性を担保する」と発言した。この会は前川喜平を社外取締役として推薦することも予定しているが、テレビ朝日がこの動きにどう対応するかは見ものだろう。その株主総会は6月に開催される。

もちろん、これだけでは動きは単発に終わってしまう。おそらくテレビ各局は、これをニュースとして報道することをいやがるだろう。テレビ局と新聞社は「クロスオーナーシップ」(相互依存)で繋がっているから、当たり障りのない取り上げ方しかしないに違いない。だから、つづけて他の民放でも同じような動きをしていく必要がある。果たして賛同者が増えて、大きな運動になるのだろうか。

1年ほど前に会長の任期満了を控えたNHKに前川喜平を会長にという動きがあった。 NHKの会長は公選ではなく経営委員会が任命するから、現実的には不可能なことだったが、ある程度の話題にはなった。今回の市民ネットワークの動きはこれにつづくものだったのだろう。その意味では一時的なものではなく、これからも持続する動きを狙っているはずである。テレビが輝きを取り戻すことなど期待しないが、せめて膿を出すぐらいの力にはなって欲しいと思う。