・西武の松坂が60億円でボストン・レッドソックスに落札された。年俸とあわせると総額で100億円を越えると言われている。驚き、というよりはあきれる数字だが、例によってメディアはその額だけに注目して、すごいすごいと囃したてている。で、来期のメジャーの注目は松坂対松井、松坂対イチローだということになる。観戦旅行、広告、グッズでの波及効果が何百億円と見積もりを立てたりしているが、そのお金を出すのはもちろん、日本人だ。
・こんな高額になった理由は何なのだろうか。松坂のヤンキース入りをレッドソックスが阻止したかったから、WBCのMVPになったから、野茂と同程度に活躍できるからといろいろいわれているが、納得できる説明はほとんど聞こえてこない。西武球団に支払われる60億円は、フリーエージェント前に譲渡してもらうための補償金だが、西武が被る損害期間はたった2年なのである。つまり、松坂がもう2年我慢すれば、西武には一銭も入らずに手放すほかはないわけで、この額を知らされた西武球団自体が、その信じられない額に驚き、慌ててしまったようである。
・60億円は日本の球団はもちろん、メジャーの弱小球団では選手全員の総年俸をまかなってしまう額である。ボストンは、そんなお金をどうやって回収するつもりなのだろうか。レッドソックスのホームはフェーンウェイ・パークという現存するもっとも古い球場である。ぼくは外側からぐるっと一周しただけだったが、小さくて汚いという印象だった。けれども、他球団が続々改修や新球場をつくっているのに、ボストンにはその気がない。収容人員はわずか
35000人に過ぎないから、全試合満員にしても年間で200万人をちょっと越える程度にしかならない。しかも、人気球団だから、何年間も満員が続いていて、チケットがとりにくい球場の一つだと言われている。
・メジャー・リーグが好景気に沸いている一番の原因は、テレビ放映権から得る収入にある。ネットワークの全国放送だけでなく、地域のケーブルテレビにお金を払って試合を見る人が増えているのである。野球への関心の復活といわれているが、逆に言えば入場料が高くて気楽に見に行けないと感じる人が多いということでもある。おそらく、日本で中継するための放映権も大幅にアップするのだろう。視聴料不払いに苦慮するNHKは来年以降も払い続けることができるのだろうか。あまりの高額になると、野球に関心のない視聴者の新たな不払いの理由になるかもしれない。
・松井やイチローの試合を見ていると、球場のバックネットに日本語の広告が乗っていることに気づく。フェーンウェイ・パークもそうなるのだろうか。イチローはいくつもCMに出ていて、オーナーの任天堂はもちろん、ユンケルやとんがりコーンなどの広告に奇妙な感じを覚えることが少なくないが、これから企業間でも松坂の争奪戦が始まって、球場のフェンスを賑わすことになるのだろうか。まさに、金、金、金という印象で、来シーズンが楽しみなどと脳天気に話す気が知れないという感じである。
・もっとも、ぼくは今年のメジャー・リーグの試合はあまり見ていない。松井がケガをしてイチローばかりだったせいもあるが、野茂がいないメジャーは本当に興味も半減で、見はじめてもすぐにやめてしまうことが多かった。井口や大塚や斉藤が活躍しても中継はないから、ネットで確認するだけで、プレイオフになってからやっと、田口のプレイを楽しむことができた。
・その野茂は、今年は一度もメジャーで投げなかった。右肩の故障だが、3年ほど前に手術をして以来ずっとかんばしくないようだ。もうすぐ
40歳で功成り名もあげたのだから引退してもいいのではと思うけれども、来年も現役を続けるつもりのようだ。回復して投げられるようになれば、もちろんできるかぎり試合を見て応援したいと思うが、どうだろうか。
・野茂は95年にドジャーズで新人王をとって、11年間メジャーで投げ続けた。好不調の波があり6球団を渡り歩いたが、その間に稼いだお金はもちろん、 60億円には届かない。たぶんその半分にもならないだろう。日米通算200勝をあげた去年はデヴィルレイズで1億円以下の年棒だった。松坂の年俸は15億円かそれ以上の複数年契約だと言われている。実際にやる前から、すでに野茂の生涯年棒を越える契約をするわけで、時代が変わったことを感じざるを得ない。
・来年は松坂のほかにも、岩村や井川など多くの選手がメジャーに行くようだ。野茂が切りひらいた道が踏み固められ、今や高速道路になった。そのことを自覚している選手や球団経営者がどのくらいいるのだろうか。野茂は日本の野球環境の悪化のために私財を使ってチームを作っている。それも都市対抗で活躍できるほどのレベルにまであがっている。野茂よりはるかに稼いでいるイチローや松井はそのお金を何かに還元しているのだろうか。たかが野球で一年に10億も20億円も稼ぐというのは、どう考えたって異常なことで、松坂にはそういう感覚を麻痺させないように願うばかりである。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。