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2023年5月15日月曜日

最近見た映画

このコラムは「メディア」がテーマだが、最近は映画を取り上げることが多い。と言って取り上げるべき映画が多いというわけではない。新聞にしてもテレビにしても、面白いものが少ないし、もう批判する気にもならないほど堕落したと思うからだ。そこにいくと映画には、権力に対して正面から立ち向かって、その悪を告発するといった作品が少なくない。今回はそんな作品を取り上げてみた。ただしどれもAmazonビデオであって、映画館で見たわけではない。

mauritanian.jpg" 『モーリタニアン・黒塗りの記録』は、ニューヨークで起きた同時多発テロに関わった疑いをかけられ、モーリタニアの自宅で警察に連行されて、キューバのグアンタナモ収容所に捕らえられたモハメドゥ・ウルド・スラヒの手記をもとにしている。厳しい訊問や拷問が繰り返されるが、主人公は決して関与を認めない。しかも起訴されたわけではないから裁判もなく14年も収監され続けたのである。

その不当さに気づいた弁護士のナンシー・ホランダーがさまざまな妨害にも屈せずに、無実であることと、不当な扱いを受けていることを告発する。開示された記録文書は黒塗りだが、スラヒ自身に収監中に受けた拷問や虐待を手記させて、裁判にまで持ち込むのである。裁判は2009年に始まり、2010年には勝訴するのだが、控訴されて2016年まで収用され続ける。で、アメリカ政府からの謝罪は結局行われなかった。

これはもちろん実際にあったことで、映画の最後は本人がディランの "The Man in Me" を「これは俺のことだ」と言って歌うシーンで締めくくられている。グアンタナモ収容所はオバマ大統領が閉鎖を決め、収容者の多くが釈放されたが、トランプが中断したためにまだ閉鎖されていない。

spotlight.jpg" 『スポットライト・世紀のスクープ』はボストンの新聞社で働く記者たちがチームを作って、カトリック教会内で行われた少年に対する性的暴行を取材し、記事として公開する話である。もちろんこれも実話で「ボストン・グローブ」紙は2003年に公益報道部門でピューリッツァー賞を受賞している。

始めは一人の神父を追ったのだが、やがて類似したケースが次々と見つかり、マサチューセッツ州だけで90人程度の神父が浮かび上がってくる。被害を受けた人たちから、その真相を聞きだすシーンは極めてリアルだが、一方でカトリック教会の圧力があり、記事にする最後の段階で同時多発テロが起こり、いくつもの壁にぶち当たることになる。最後には記事は公開されて、世界的な反響を呼ぶことになった。

こういう映画を見て、しかもそれが事実に基づくものであることを知ると、いっそう、今のメディアのだらしなさや権力への追従に腹が立ってくる。もちろん、例外的な事例だからこそ映画になるんだとも言えるだろう。権力に押しつぶされ、闇に葬られてしまうことがほとんどなのかも知れないとも思う。しかし日本では、こんな話はついぞ聞いたことがない。何しろ、「ジャニーズ」の件のように、外国のメディアに取り上げられても、国内のメディアは沈黙したままなのである。

2023年5月8日月曜日

一角獣とユニコーン

 

unicorn.jpg" 「ユニコーン」は角の生えた馬のような伝説上の生き物です。力強く勇敢で足が速いということから、一昨年以来、大谷翔平選手の活躍を讚える時の敬称として使われています。ヨーロッパに伝わる伝説上の生き物で,もちろん,実在したわけではありません。しかし、ギリシャの古典文学や旧約聖書、あるいはケルトの民話などに登場する,極めてポピュラーなものでもあるのです。確かに打って,投げて,走ると何役もこなして、しかもすべてが超一流という大谷選手にはふさわしい呼び名かも知れません。とはいえ、日本では馴染みのあるものではなかったので、「ユニコーン」だと言われても,あまりピンと来ませんでした。

その大谷選手は,WBCでの躍動以降、今年も投打にわたって絶好調です。4月の月間MVPは取れませんでしたが、それは投手と打者の二部門に別れているためで、両方で活躍しているのは彼だけですから、総合すれば毎月MVPをとってしまうのだろうと思います。まさに「ユニコーン」ですが、今年も彼のような二刀流の選手が現れてこないところを見ると、これは彼にしかできないことなのかもしれません。フリー・エージェントになってどこに行くのかといったことが連日騒がれていますが、ケガをしないで,このまま元気で活躍してほしいものです。

ところで「ユニコーン」は日本語では「一角獣」と訳されます。それに見合う伝説や物語はありませんが、先週紹介した村上春樹の『街とその不確かな壁』や『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』には壁に囲まれた「世界の終わり」という名の街に住む生き物として登場します。決して強くはなく,むしろ穏やかで弱く,冬には寒さと食べ物の不足で多くが死んでしまうのです。この街に住むためには、街の入り口で影を切り離さなければなりません。その影はやがて衰弱して死んでしまうのですが、「一角獣」がしているのは、その影が持っていた「心」を吸い取ることなのです。

この本を読みながら思ったのは,今の日本の社会そのものではないかということでした。「日本の終わり」という街では、徐々に衰えているのが事実なのに,人々はそのことに無関心です。もちろん,落日の経済大国で、生活が苦しくなっているのは明らかですが、そのことに目を向けないようにすることが、暗黙の了解事項であるかのようなのです。まるで「心」を「一角獣」に吸い取られてしまったかのように見えるのです。

他方で,この「日本の終わり」という街を支配する人たちは強欲で、壁の外に対する敵対心も強烈です。まさにやりたい放題ですが、それを批判する声は挙がりませんし、行動も起きません。こんな状況を見た時に思い当たるのは,「一角獣」とはメディアと教育システムではないかということでした。校則を厳しくして、自由な発言を制限する教育制度や、政権に忖度して、現実を見えないようにしているメディアこそが、人々の「心」を育てないように、失わせるように働いている。「ユニコーン」と「一角獣」が似て非なるものであることに、改めて気づかされた思いです。

2023年3月27日月曜日

WBCが終わって思ったこと

 

wbc1.jpg" WBCで日本が優勝しました。大谷対トラウトで終わるというマンガのような展開でした。まさに大谷の、大谷による、大谷のためのWBCだったと思いました。自分が望むヒリヒリするゲームを経験したでしょうが、見ている者にとっても、ハラハラドキドキや感嘆の連続で、見ていてぐったり疲れてしまいました。このままシーズンに入って、今年こそはポスト・シーズンでも活躍できるよう望むばかりです。

WBCはMLB(メジャー・リーグ機構)が主催する大会ですが、メジャーの各球団はこれまで決して積極的ではありませんでした。チームの看板選手を出して、ケガでもされたらかなわない。そんな考えで、これまでは一流選手の出場はかぎられてきました。しかし、今回はトラウト選手がいち早く参加を宣言して呼びかけたこともあって、多くの選手が参加する大会になりました。その意味では、日本の優勝は今回こそが真の世界一だといえるかも知れません。

そんな大活躍の日本チームの表の主役は大谷選手でしたが、裏で支えたダルビッシュの献身的な努力があったからこそ、というのも間違いないと思います。彼はパドレスのキャンプに参加せずに、宮崎キャンプに最初から参加しました。そして若い選手たちに投球の仕方はもちろん、練習の仕方や食事のとり方など、質問されれば丁寧に答えることを繰り返しました。国の代表であることに緊張する選手たちに、そんなことなど気にせず楽しくやろうと呼びかけ、食事会を何度も催したようです。

しかし、ダルビッシュ選手は最初からWBCに積極的だったわけではありません。彼は再婚ですが、オフシーズンには子供の世話やら家事をパートナーと五分五分でやっているようです。しかもその生活に十分満足しているのだとも言いました。それを犠牲にして参加を決めたのは大谷選手の強い誘いだったようです。参加するなら最初からとことんつきあってやる。そんな決断は決して簡単ではなかったと思います。栗山監督は、でき上がったチームを「ダルビッシュ・ジャパンだ」と言いました。

予選から決勝戦まで十分すぎるくらい楽しみましたが、中継をアマゾンがやってくれたのは大助かりでした。テレビはテレ朝とTBSが中継しましたが、我が家ではどちらのチャンネルも見られなかったのです。なぜメジャー中継をやるABEMAではなくアマゾンだったのか。理由は分かりませんが金銭的なものだったことは推測できるでしょう。ただ、スマホやパソコンからテレビに繋ぐと音声だけしか聞こえなかったのは残念でした。番組によってそうなるのはよくありますが、どういう規制が働いているのでしょうか。

WBCの収益金はすべてMLBに入ります。どれだけのお金かは発表されていませんが、その大部分がMLBに行って、満員の東京ドームで予選を行った日本にはわずかしか返ってこないようです。収益金の多くを野球の世界振興のために使うといった大義名分があるとも聞いていませんから、このことははっきりするよう、日本のプロ野球機構は問いただすべきだと思います。日本チームの選手は強いメジャー選手にも気後れすることなく立ち向かって王者になりました。プロ野球機構の従順さはもちろんですが、日本の政治家や官僚たちにも、今回の日本チームの頑張りを見習って、アメポチといった屈辱的な姿勢を改めるきっかけにしてほしいと強く思いました。もちろん、そんなふうに思う政治家や官僚はほとんど皆無だろうと思っての願いです。

2023年2月20日月曜日

4K、4Kってうるさいぞ!

 


4k1.jpg"去年の暮れ頃から、急にテレビが4k、4kとうるさく連呼しはじめた。4kの番組を見るためには、それに対応した受像機が必要だが、我が家のテレビはまだ元気だから買い替えるつもりなどない。あまりに繰り返されるから腹が立ってチャンネルを変えることもしばしばだ。

4kテレビとは現行のハイビジョン画像が2kだから、その2倍の解像度ということになる。現物を見たことがないが、興味がないから電気屋に見に行こうとも思わない。第一、今のテレビだって画像は十分にきれいで、それが2倍になったからといって見違えるほどになるとは思えないからだ。もちろん、より大きな画面でもきれいに見えることはあるだろうが、今以上に大きな画面にしたいとも思わない。

4kの番組は今のところ衛星放送だけで、地上波はまだのようだ。NHKのBS放送は現在の2チャンネルのうち、ひとつが来年の4月から4k対応になるようだ。テレビはあまり見ないが、それでも BSの3チャンネルはよく見るから、これがなくなったら、見るものがますます少なくなってしまうだろうと思う。それで不便さを感じても、買い替えるほどのことではないだろうと思っている。

そもそも我が家は難視聴地域にあって、地デジの民放が2局しかない山梨県なのに、見えるはずの4局だってまともに見ることができないのである。以前にそれについて苦情を言ったら1年だけBSで地デジの全局を見ることができた。ただし1年だけで、あとはケーブルテレビに加入しろと言われてしまったが、今さらばからしいからと、ケーブルテレビに加入などしていない。

地上波のテレビがつまらないものばかりなのは、番組表を見ればすぐわかる。よくもまあ、こんなバカ番組ばかり、毎日やるものだと思うことが少なくない。政府に偏ったニュース番組を見ても腹が立つだけだ。駅伝やマラソンなどのスポーツ番組もCMで中断されてばかりで、あきれて途中でやめてしまうことが多い。だから地上波が4kになったからといって、テレビを買い替える気にもならないだろうと思う。

振りかえれば、テレビも何台も買い替えてきた。最初に買った14インチの白黒テレビの宣伝文句が「一生のお買い物です」というほど高価だったことは今でも良く覚えている。しかし数年後には画面の大きいものになり、また数年後にはカラーになった。家を出てアパート住まいの部屋に買ったテレビ、結婚して買い替えたテレビ、そしてハイビジョン対応に合わせて買ったテレビ。それが壊れて買った液晶のテレビが今見ているものである。

今ではもちろん、テレビは家の主役ではない。はるかに長い時間をパソコンを眺めて過ごしているし、他にタブレットもスマホもある。実際僕がテレビを見るのは昼と夜の食事前後の数時間だけで、それも何かやりながらとか、居眠り半分にというのが現状だ。テレビには将来性がない。だからこその4kかと思うと、妙に納得した気分になった。

2023年1月16日月曜日

新しいmacBookを買った



imac1.jpg" 今使っているiMacは2012年製だから、もう10年以上になる。もちろん、まだ十分に使えているが、昨年からシステムの更新ができなくなって、いまでも"Catalina"のままである。マッキントッシュのシステムはその後3回も変わっていて、最新のものはMacOS13の"Ventura"になっている。そろそろ買い替えたほうがいいかなと思って、MacBookを購入することにした。さて何にしようかと大いに迷った。

何度も書いているが、僕が1989年に最初に勝ったMacはSE30で、それ以来ずっと、Macばかりを使っている。おそらく4、5年ごとに買い替えてきたから10年も使ったのは今のiMacが初めてである。熟成したということか進化の速度が鈍化したということか。もっともiMacは当時最速のものでメモリーも32MBでハードディスクも3TBもある。

imac2.jpg" で、選んだのは14inchのMacBookProである。iMacにしなかったのはThunderboltのディスプレイがあって、古いiMacも使うとすると大きな画面を三つ並べなければならなかったからだ。ディスプレイはMacBookと繋いで使うことにして、iMacは主に映画を見たり、音楽を聴いたりする時に使おうと思っている。

新しいMacBookProはメモリーが16MBでストレージは2TBだ。10年前のiMacよりは落としているが、もうハードな仕事はしないからこれで十分だと思った。そう言えばソフトもAdobeもマイクロソフトも買うのをやめてしまったし、必需品だったプリンターもほとんど使わなくなって、壊れたあと買っていないのである。

例によってだが、初期設定やデーターの転送には苦労した。「移行アシスタント」を使えば簡単だろうと思ったのだが、これがあまりに遅い。12時間かかると出たから朝までつけっぱなしにしたがまだ終わらない。やっと終わったと思ったら、言語がフランス語しかない。どうしようもないからシステムを再インストールすることにした。そうすると半日かかって移行したデータがすべて消えている。もう泣けてきたが、バックアップしたハードディスクを接続させて、一つ一つデータの移行をやった。それでまた一日。

ところで、円安のためにAppleがずいぶん値上げをした。その意味ではもっと早くに買っておけばと後悔したが、たまたま年始のセールでギフトカードがプレゼントされて、値上げされた分だけ安くなった。それにしても、パソコンはずっと研究費で買ってきたから、退職後の身としては、ずいぶん高い買い物をしたという気持ちになった。仮にこれが10年持つとして、次もまだパソコンを買う気になるだろうか。などと考えたりもした。そういう歳になったとつくづく思う。

2022年12月19日月曜日

矢崎泰久・和田誠『夢の砦』

 

yume1.jpg 『話の特集』は一時期必ず買った月刊誌だった。和田誠や横尾忠則のイラストがあり、篠山紀信や立木義浩の写真が載って、野坂昭如や永六輔のエッセイがあった。その過激な政治批判に賛同し、鋭い社会風刺にわが意を得、公序良俗への挑戦に拍手した。おそらく1960年代の終わりから70年代の中頃のことだったと記憶している。『夢の砦』は編集者だった矢崎泰久がまとめたその『話の特集』の思い出話である。

『話の特集』が創刊されたのは1965年で、95年に廃刊になるまで30年続いた。僕が読んだのは10年ほどで、『話の特集』が一番元気な時期だったと思う。何しろ売り出し中の作家やタレント、イラストレーターや写真家が毎号登場して、その技や芸を競っていたのだから、発行日が待ち遠しいと感じるほどだった。大手の出版社が出す雑誌とは違っていたのになぜ、これほど多種多様な人々を登場させることができたのか。この本を読んで、そんな疑問の答えを見つけることができた。

「話の特集」をつくったのは矢崎泰久三二歳と和田誠二九歳。二人が追い求めたのは<自分たちが読みたい雑誌>だった。二人を中心に気づかれたその砦にはあちこちから個性的な才能が集まった。
創刊時にはほとんど無名だった若者たちが好き勝手なことをやり、それを面白がってまた新たな人たちが参加する。その斬新さはすぐに週刊誌や月刊誌のモデルになって、雑誌ブームの先導役にもなった。『夢の砦』にはそんな創刊時の逸話を語り合う記事がたくさん載っているが、また、この雑誌の中身を一貫して支えてきたのが和田誠だったことも強調されている。たとえばその一例は、川端康成の『雪国』を作家や評論家、あるいはタレントの似顔絵とともに、文体や口調をまねて書いたパロディが36編も再録されていることである。これは今読んでもおもしろい。

『話の特集』が創刊時から持ち続けた姿勢は「反権力・反体制・反権威をエンターテインメントで包み込む」だった。60年代の後半には大学紛争があり、ベトナム反戦活動やアメリカから世界に波及した対抗文化の波もあった。そんな時代を反映しながら、大まじめにではなく遊び心を持って雑誌を作ってきた。『夢の砦』を読むと、そのことがよくわかる。70年代の中頃になって、僕がこの雑誌を読まなくなったのは、似たような雑誌が乱立したせいなのか、雑誌そのものに興味をなくしたからなのか。今となってはよくわからない。

しかしそれにしても、今の時代には「反権力・反体制・反権威をエンターテインメントで包み込む」といった姿勢は、どこにも見当たらない。それどころか「権力・体制・権威にすりよってエンターテインメントで吹聴する」といった人がいかに多いことか。インターネットの初期には、面白く感じられる一時期があったが、今はそれも失われている。昔を懐かしむのは年寄りの悪癖だが、それにしても今はひどすぎる。

2022年11月28日月曜日

新聞購読やめようかな?

 

毎朝、新聞をトイレで読む。もう何十年も続けてきた習慣だが、読みたい記事がほとんどないと感じることが多くなった。安倍政権に押さえつけられ、忖度してろくな批判もしない。そんな態度に見切りをつけて、長年購読してきた朝日新聞をやめて毎日新聞に変えたのは3年ほど前だった。少しはましな記事があるかなと思っていたのだが、やっぱり物足りない。

大臣を務める政治家の不祥事が続いているが、それを記事にしたのはほとんどが週刊誌だ。新聞は国会で問題になってから後追いする。記者の数が桁違いに多い新聞は一体何をやってるんだ、と言うことが多くなった。おそらく記者が取材をしても、記事にならないことが多いのだと思う。で、優秀な記者が次々辞めていく。僕はそんな経過でフリーになったジャーナリストの発言や記事をネットで聞いたり読んだりすることが多くなった。(→「ニュースはネットで」

たとえば、オリンピックにまつわる疑惑は、安倍元首相が凶弾に倒れ、重石がとれたことによって活発化した。その検察の捜査について、新聞は大きく取り上げようとはしなかった。それは新聞大手がこぞってオリンピックのスポンサーになったからだった。これはもちろん前代未聞のことで、そんなことをすれば、問題が起きても批判しにくくなるのは明らかだった。「オリンピックは電通の、電通による、電通のためのイベントである。」これは本間龍が書いた『東京五輪の大罪』の結論だが、どの新聞も電通批判などまったくしていない。もうぐるになっているとしか思えないのである。その電通にやっと検察が入った。どこまで行くのか楽しみが増えたが、新聞には期待していない。

実際、新聞社はどこも購読者数を減らしているようだ。当然、経費削減を実行しているわけだが、購読している毎日新聞では、今年から地方面が山梨単独から長野・静岡と一緒になった。おそらく支社の規模を小さくして、記者も減らしたのだろうと思う。隣接県とは言え、馴染みのなさは否めないから、読み飛ばすことが多くなった。とは言え、県域紙に変えようとは思わない。

もちろん、紙媒体としての新聞が凋落傾向にあるのは地方紙も一緒だし、世界的な現象でもある。アメリカでは大手の新聞社がネットに乗り換えて成功しているようだが、日本では、その点でも遅れている。毎日新聞は購読していればネット版も読むことができるが、特にアクセスしようとは思わない。ネットでなければできないものがほとんどないからだ。

僕は一応、メディア論を研究テーマの一つにして、大学で講義などもしてきたから、新聞とは最後までつきあわなければいけないかな、と思っている。しかし、読みごたえのなさがあまりにひどいから、こんな気持ちもいつまで続くのやらと考えてしまう。


2022年10月10日月曜日

大谷選手のMLBが終わった

 

コロナ禍でどこにも行けなかったから、一日の中心は大谷選手の試合を見ることだった。期待以上の活躍で、投手としては166イニング投げて15勝9敗(4位)、防御率2.33(4位)、219三振(3位)、奪三振率11.87(1位)であり、打者としては打率.273(25位)、35本塁打(4位)、95打点(7位)、ops.875(5位)であった。今年もMVPをもらって当然という成績だが、62本のホームランを撃ったジャッジ選手の方だという声が大きいようだ。

打者としての規定打席数はもちろん、投手としても規定投球回数をクリアしたのは20世紀以降のMLBの歴史上初めてのことである。ホームランのアメリカンリーグ新記録よりはるかに価値のある成績だと思うが、アメリカの世論はジャッジにMVPを取らせようとしている。代わりに別の賞を作ったらという意見もあるが、それなら投手にサイヤング賞があるのだから、打者の方に新設したらいいのだと思う。もっとも、今年もMVPが大谷なら、これからしばらくは大谷ということになってしまうから、今年は避けたいと言う人が多いのかもしれない。

エンジェルスは今年も負け越しでプレイオフには行けなかった。高給取りがケガで出場できなくて、マイナーから挙がった選手や未契約のベテラン選手を獲ってやりくりしたのだから、勝てるわけはなかったのである。腹が立って途中で見るのを止めたこともあったが、必死にプレイしても、成績が悪ければ落とされたり、首になったりする厳しさはよくわかった。

メジャーに初登場した選手の多くは親や兄弟等々を呼ぶが、そのプレイに一喜一憂する様子が映されたのはほほ笑ましかった。もちろん、最初は頼りなかった選手が徐々に活躍して、メジャーに定着したというケースもあって、来年のエンジェルスは、今までよりはかなりましになるのでは、と思ったりしたが、去年の今頃もそんなことを思ったような気がする。

ところで、大谷選手は3000万ドルで来年度1年だけの契約をエンゼルスと交わした。今年が550万ドルだから445%増ということになる。ソフトバンクの選手全員に匹敵するというからすごい額だと思う。ただし、これでも安くて実質価値は5000万ドルを超えるという人もいる。他方で大谷がそうだったように、メジャーに挙がった選手は、どれほど活躍しても6年間は低い額でおさえられてしまうという現状がある。そしてマイナーの選手は、家を持つことはもちろん、食事も十分とれないほどの低賃金でプレイしなければならない。格差社会の露骨な見本と言えるだろう。

エンジェルスはオーナーが売却することを発表した。現オーナーがディズニー社から買った時の額は1億8400万ドルで、現在の価値は30億ドルを超えると言われている。所有しているだけで15倍以上に膨れ上がったのだが、スタンドが満員になることが稀だったのになぜ儲かるのか、不思議な感じがした。テレビの放映権が大きいと言われているが、エンジェルスの試合をほぼ毎試合中継したNHKやABEMAは一体いくら払ったんだろう。お金にまつわる話は、気分のいいものではなかった。

ともあれMLBが終わって、これから来年の春まで、一日をどう過ごすか。僕にとっては小さくない問題である。

2022年9月5日月曜日

最近見た映画

 

journal3-210-1.jpg"どこにも出かけないから映画をよく見ている。もちろん、映画館ではなくAmazonでだ。自分が歳取ったせいもあるが、長年見てきた俳優が同じように高齢化していることもある。で、老人ホームをテーマにした作品を何本か見た。ダイアン・キートンはウッディ・アレンの作品に出ていた頃からのファンだが、『チア・アップ』は老人ホームに入ってチアリーディング・チームを作るという話である。余命のかぎられた癌を宣告されて、最後はホームで過ごそうと思ったところから話は始まる。いくつもの難局を乗り越えて、大会に出場して大喝采を得た後で死ぬという話だが、彼女のチャーミングさは健在だった。




journal3-210-3.jpg" 『43年後のアイ・ラブ・ユー』は、演劇評論家の主人公が、昔恋人だった舞台女優がアルツハイマーになって老人ホームに入ったというニュースを見て、自分も同じホームに入るという設定である。もちろん、病気を装ってだが、彼の家族はそれを鵜呑みにしてしまう。彼の目的は、女優の病状を何とか回復させようとすることで、いろいろ昔話を持ちかけるが、彼女にはまったく届かない。しかし、そんな目的を理解した孫娘の協力で、女優がかつて演じた芝居を老人ホームで上演して、彼女の記憶を呼び覚ますことに成功するのである。





journal3-210-2.jpg"『チア・アップ』で共演していた女優が主演する映画をAmazonが勧めていたので『Stage Mother』を続けて見た。ゲイの息子が薬物依存で死んだという連絡を受けとるところから始まる。葬式に参列するためにテキサスからサンフランシスコに出かけるが、ゲイばかりの異様さに、途中で退出してしまう。しかし、息子が主役で出ていたゲイ・バーの仲間たちと親しくなり、観光客を対象にしたショー・ホールとして再建させて成功するのである。そのジャッキー・ウィーヴァーはオーストラリア出身で、『世界にひとつのプレイブック』でアカデミー助演女優賞を得ている。この映画もAmazonで見ていたのだが、まったく印象に残っていなかった。

こんなふうにAmazonでの映画鑑賞が半ば習慣化している。最近見て面白いと思ったのは他にもたくさんある。聾唖の家族の中で一人だけ耳が聞こえて歌もうまい娘が、いくつもの難局を乗り越えて音楽大学に進学する『コーダ・あいのうた』、デブでいじめられっ子だった少年が、やはり歌の才能を生かしてオペラ歌手になるという『ワン、チャンス』、イギリスで捕虜になったナチスの兵士が、サッカーのゴールキーパとして「マンチェスター・シティ」に入り、やがて国民的英雄となる実話に基づいた『キーパー』、自分の不注意で家が火事になり子どもを死なせた主人公の再生物語である『マンチェスター・バイ・ザ・シー』、年老いた美術商が最後に、名前がなくて価値の定まらなかった肖像画を描いた画家を突き止めるという『ラスト・ディール』などである。

映画三昧と言いたいところだが、出かけることができないかわりに仕方なくといったところでもある。ジョニ・デップがユージン・スミス役になった『MINAMATA ミナマタ』も見たが、これは次回のコラムで書くつもりだ。


2022年8月29日月曜日

安倍の蓋が取れて出た汚物

 

安倍元首相がいなくなって自民党が大混乱に陥っている。岸田首相は打開策として内閣改造をしたが、いつもなら上がる支持率が逆に急落してしまった。それもこれも、安倍によって隠されてきた汚物がどっと噴き出してしまっているからだ。中でも特に醜悪なのは旧統一教会との関係である。内閣改造は旧統一教会と関係ある議員を外したはずなのに、新しい閣僚にもまた多くの関係者がいて、かえって逆効果になったのである。

しかしそれにしても、自民党と旧統一教会の関係の根深さには驚かされる。この教会の信者は公称では50万人を超えているが、選挙での組織票では10万票程度だと言われている。それほど多くはないが、当落線上にいる議員に集中的に集めれば、当選が可能になる数ではある。今回の参議院選挙では比例では井上義之、東京地方区では生稲晃子に集めて二人とも当選したと言われている。で、それを指示したのが安倍だったというのである。

このような手法については、安倍が最初に首相になった時にも使われたようだ。小泉純一郎が5年務めた後の首相の座をめぐって戦われた自民党総裁選挙で、当時は本命でなかった安倍が勝ったのは、自民党員による票が大きかったと言われている。党員になるためには年額4000円を納めるだけで、それを2年続ければ選挙資格が得られるから、安倍は統一教会の信者を多数党員にして総裁選に臨んだというのである。だとすれば、統一教会との関係はすでに15年以上にもなる。しかし第一次政権は短命だったから、「世界平和統一家庭連合」に名称変更が認められたのは、第二次安倍内閣発足後の2015年になった。

安倍が倒れて蓋が外れた影響は、検察にも及んでいる。オリンピックの組織委理事だった高橋治之が、スポンサー契約をめぐって衣服メーカーAOKIとの間にあった贈収賄容疑で逮捕された。しかしこれは入り口に過ぎず、オリンピック招致でアフリカに提供された賄賂や、さらには神宮再開発計画などについて検察は自民党の現職議員、それも大臣や首相経験者にも捜査の手を向けはじめているといった情報もある。オリンピック招致に積極的に動いた安倍や石原元東京都知事はすでに故人だが、まだ元気な人たちは戦々恐々の思いだろう。

嘘を平気でついた安倍はまた、国の統計数字をも改竄していたようである。国土交通省は2013年度から20年度にかけて34.5兆円統計不正を行っていたことが報じられた。アベノミクスによるGDPの拡大を政策に揚げた手前、それが実現したかのように見せかけようとした疑いが持たれている。これはもちろん安倍本人がというのではなく、官僚の忖度によるものである。果たして同じことが他の省庁ではなかったのか。疑念は尽きることがない。

記録や書類の改竄はすでに森友加計桜問題でも明らかである。都合の悪いことは隠せ、直せ、騙せ、知らんぷりをしろといったやり方や態度が、安倍政権下では日常化していたと言わざるを得ない。旧統一教会と政治家の関係もまたその一つだが、これから一体何が出てくるのか。安倍が溜め、蓋をして隠していたことが次々明るみに出ているのに、岸田首相はまだ国葬をやるつもりでいる。手遅れにならないうちに中止の宣言をしないと、政権が倒れる事態になるのは目に見えている。

2022年8月15日月曜日

国葬なんてとんでもない

 

安倍元首相が亡くなってすぐに、岸田首相が国葬にすると言いました。耳を疑うことばでしたが、今のところ行われる予定のようです。戦後の国葬は吉田茂以来ですが、安倍晋三に一体どんな功績があったと言うのでしょうか。功などはなくて罪、それも大罪ばかりだったと言えるでしょう。そのことを確認するために、この場で書いたものを挙げてみました。(ブログで安倍アベと検索すれば、すべてを読むことが出来ます。)
・厳冬の時代へ(2014/1/2) ・NHKはAHK(2014/2/3) ・自滅解散に追い込まねば(2014/12/8) ・こんな選挙は無効にすべきだ!(2014/12/15)
・メディアの翼賛体制構築を批判する声(2015/2/16) ・メディアの自由度(2015/4/6) ・「ダブル・スピーク」乱発と無関心(2015/5/18)
・空恐ろしい「アベ」の時代(2015/5/25) ・無責任体制の極み(2015/8/17) ・世論操作の露骨さ(2015/12/7) ・2015という年(2015/12/28)
・2016という年(2016/2/8) ・中立公正とは政府に従うこと(2016/2/15) ・桝添イジメで隠されたもの(2016/6/20) ・NHKは大罪(2017/5/29) ・卑劣な解散に怒りを(2017/9/25) ・立憲民主党に(2017/10/30)
・政権が倒れない不思議(2018/3/12) ・最後まで嘘の安倍政権(2020/9/14) ・テレビは政権の広報機関になった(2020/10/5) ・拝啓菅総理大臣様 (2021/9/6)
・安倍元首相の死で見えてきた闇 (2022/7/18) ・ニュースはネットで(2022/7/25)
安倍の功績として言われるのはアベノミクスと外交ですが、日本の経済がこの10年にどれほど落ち込んだかは、円安と賃金安、GDPの低下、それに日銀の政策破綻で明らかです。彼は国会で100回以上の嘘をつきましたが、その間におきた森友加計や桜問題などで政治を大混乱させました。国会の軽視や官僚の堕落、そしてメディアへの圧力など、あげたらきりがないほどです。

頻繁な外遊でばらまいたお金は途方もない額になっています。防衛費の倍増の多くは、アメリカの言いなりで約束した武器の購入費に当てられます。その武器の多くは実際に役に立つのかどうか、わからないものが多いのです。プーチンとも何度も会いましたが、北方領土は結局帰ることがない状態になってしまいました。台湾有事は日本有事などと発言して、中国の脅威を煽っていましたが、中国や韓国との関係を悪化させたのも、彼の外交政策が原因でした。

「今だけ金だけ自分だけ」といった風潮を招き、浸透させたのも彼の言動によるところが多かったでしょう。結局は地位や金がモノを言う。社会や他人がどうなろうと自分さえよければそれでいい。これこそ安倍政治が招いた風潮で、そんな態度が政治や経済、そして社会のトップにいる人たちに共有され、それに忖度する下の人たちに蔓延してしまっているのです。

ですから、彼が凶弾に倒れたのは自業自得だと言えるかもしれません。銃を自作してまで殺そうと思った山上容疑者の思いは、その成長過程で味わった苦悩で十分に理解できるものでした。その後に発覚した安倍と旧統一教会の関係、多数の自民党議員との癒着と、それに対する言い逃れを聞いていると、日本の政治も落ちたものだとあきれるばかりです。岸田首相は慌てて内閣改造をやりました。統一教会に関連する議員を排除するといいましたが、新しい閣僚の中にもごろごろいます。

世論調査では国葬に対する支持は半数を割って反対より少ない状況です。おそらく支持の数はもっと減ることでしょう。それでも国葬を強行すれば、それは日本という国自体の葬儀になるでしょう。旧統一教会が韓国で集会を開き、安倍の追悼をやりました。各国から要人も出席し、トランプのメッセージもあったようです。もうこれで十分ではないかと思いました。

2022年7月25日月曜日

ニュースはネットで

 
安倍元首相が銃弾に倒れてから、テレビはもちろん、新聞の論調に強い違和感を持つようになった。一番大きかったのは旧統一教会の名称である「世界平和統一家庭連合」を伏せていたことだった。ネットではとっくに明らかにされているのになぜ匿名のままで報じているのか。安倍や自民党に忖度しているとしか思えない情けない姿勢にうんざりした。

ネットではその間に、山上容疑者がフリーのジャーナリストに送った手紙や、彼自身のTwitterの書き込みなどが紹介され、その分析を詳しくする人も現れた。たとえばYouTubeでよく視聴している「一月万冊」というサイトでは、管理者の清水有高と元朝日新聞記者の佐藤章が、Twitterに書き込まれた山上の長大な文章を読んで分析していた。

彼が育つ中で経験した父や母、そして祖父との関係、そして母親が入信した旧統一教会のこと。そこから「世界平和統一家庭連合」教祖の暗殺を決意し、その狙いが安倍に代わったことなどが詳細に紹介されていて、この出来事が一時の思いや狂気の仕業などではなかったことが、よくわかった。ちなみに山上は自分がネトウヨで自民党支持であることを明言している。

山上の手紙は共同通信から配信されたが、すぐに削除されたし、Twitterヘの書き込みも凍結されてしまったようだが、マスメディアはほとんど言及していない。山上容疑者の精神鑑定をやるという警察発表がそのままコメントなしに新聞記事になっていたが、彼が正気で、極めて冷静に熟慮した上で犯行に及んだことは、Twitterの書き込みを読めば明らかである。

ネットでは旧統一教会から続く自民党を中心にした国会議員との関係が指摘されている。安倍、麻生、菅といった歴代首相はもちろん、高市、下村、稲田、高村等々の要職経験者が数多く挙げられていて、自民党はまるでカルト党かと疑いたくなるほどである。もちろん一部のメディア、たとえば週刊誌やタブロイド紙も追求しはじめているが、新聞やテレビは未だにここへの追求にはしり込みしたままである。

他方で、安倍の国葬についてもネットでは批判や反対運動の報道が目立っている。世論調査が得意な新聞社はなぜ安倍の国葬について是非を問う調査をしないのだろうか。安倍と統一教会との関係が祖父の岸から続くものであること、その思想の中に統一教会や日本会議と共通する部分があまりに多いことなどについて、大新聞は書く気がないようである。そして国葬自体を問題化するキャンペーンなども見受けられない。

このように、最近では、マスメディアよりはネット・ジャーナリズムの方が、はるかに信頼できるようになっている。ここで取り上げた「一月万冊」の他に、「デモクラシー・タイムズ」や鮫島浩の「Samejima Times」など、毎日のようにチェックしているものが少なくない。これらのサイトに共通しているのは、新聞社を辞めてフリーで仕事をしている人が多いことだ。その辞めた理由を聞くと、新聞社がいかにダメになっているかがよくわかる。

2022年6月13日月曜日

エンゼルスと大谷の浮き沈み

 
今年のエンジェルスは出だしから快調だった。昨年ほどというわけには行かないが、大谷もそれなりに投げ、また打った。それが5月の後半からおかしくなり14連敗ということになった。それまで機能していた勝ちパターンが崩れ、勝っていても逆転される、点を取ればそれ以上に取られる、投手が好投している時は点が取れないというゲームが続いた。何しろ連敗中に1点差で負けた試合が半分もあったのである。

見ていてがっかりしたり、腹を立てたりの連続で、だんだん見る気もなくなったが、選手たちの焦りやいらだちは大変なものだっただろうと思う。もちろん、その理由には主力の故障やスランプがあった。去年もほとんど休んだレンドーンや、絶好調だったウォードが故障し、トラウトは30打席もヒットが出ないほど落ち込んだ。大谷も打ち込まれて防御率を1点以上落とし、ホームランもさっぱりという状態だった。でマドン監督の解任である。

実績のある名監督も手の施しようがないといった様子だったが、僕は連敗の責任のひとつに監督の采配、とりわけ投手交代があったと思った。勝ちパターンが崩れても、打たれた投手をくり返し勝ちゲームで使って失敗した。好投している若手の先発投手をピンチになったからといってすぐ交代させた。その度に、「何で?」と呟いた。もっともこのような投手起用は去年も感じていて、ダグアウトから出て行く時に、「誰か後ろからおさえろよ!」と言いたくなったことが何度もあった。

大谷選手が去年ほどホームランを撃っていないことについて、不振だとかスランプだと言う意見が多い。しかし、僕は去年の前半ができ過ぎであって、最近の調子は去年の後半と同程度だし、このまま行けば30本以上のホームランを撃つことになるのだから、それで十分じゃないかと思っている。投手としては、とんでもなくすごい投球で相手をねじ伏せたかと思うと、四球やホームランで早々点を取られる試合もある。差し引きすれば去年並のできだから、不満を口にするのは期待のかけすぎというものだ。

大谷選手はプレイオフに進出して、ワールドシリーズにも出たいと考えている。エンゼルスの今年の出だしは、その期待に応えたものだったが、これからはどうなるのだろうか。連敗阻止のために力投し、ホームランも撃って久しぶりにチームに勝利をもたらした。まだ3分の1を過ぎたところだから14連敗したら、14連勝したらいい。試合後のインタビューで彼は、そんなふうに応えていた。そうまで言わなくても、5割を回復させれば、後は終盤まで、食らいついていければと思う。

こんなわけで、最近の僕の一日は大谷選手の試合を見ることを基本にしている。昼前からの開始で晴れていれば、試合が始まる前に自転車に乗るし、試合が早朝なら、自転車は午後ということになる。梅雨になって、自転車も山歩きもできない日が増えたから、試合を見る以外することもない日もある。負けてばかりでは、そんなテレビも見る気がしなくなってくる。

2022年5月30日月曜日

バイデンは横田から日本に入った

 

バイデン米大統領が横田から日本に入った。首都東京に迎える外国の要人が使うのは、通常では羽田か成田だが、トランプ前大統領に続いて今度もまた、米軍基地の横田からだった。メディアの多くはそのことに批判を向けることもせず、歓迎のメッセージを並べ立てた。日本の中にある米軍基地とは言え、そこから大統領が日本に入るのは、ずいぶん失礼なことだと思う。玄関からではなく、専用の裏口からというのだから。占領時にマッカーサーが厚木に降りたのと変わらないのである。

同様のやり方で基地のある自治体、とりわけ沖縄が大きな被害を受けたことが、あったばかりなのである。米軍基地に配属される米兵等が、コロナの検査を受けずにやってきて、基地と町を自由に行き来したために、沖縄の感染者数が激増した。それが明らかだったのに、日本の政府はアメリカに対して、強い態度を示せなかった。日米間の地位協定を理由に挙げたが、これを機に改訂しようとする動きも起こらなかった。アメリカには何も言えない。そんな卑屈な態度があからさまになったが、たいして議論にもならなかった。

バイデン大統領と岸田首相との会談で、日本の防衛費を増額することを認めてもらったといった趣旨の報道があった。倍増せよといった主張が出たのはロシアのウクライナ侵攻があって以降で、安倍元首相がしきりに強調し、自民党内から賛同者が出て,首相も前向きに検討することにしたのだが、それがアメリカからの要請であることも明らかだった。台湾を守るために対中包囲網を敷くというアメリカの戦略に、日本政府はしっぽを振って賛成してきたのである。

日本は中国との国交回復の際に,台湾を中国の領土だと認めている。だから中国と台湾の関係は内政問題なのだが、政府の対応はこれを無視しているかのようだ。また、現在日本の経済関係を見れば、貿易相手国の一番は中国であって、対アメリカの1.4倍にもなっている。しかも輸入についてはアメリカの2倍以上になっている。何を買っても中国製といった現状からみれば、関係がこじれて貿易が止まれば、困るのは日本の方なのである。

仮に、中国が台湾に侵攻して、アメリカが台湾に加勢し、日本も参戦したとしたら、一体どうなるのか。戦場になるのは台湾だけではなく、中国本土と朝鮮半島、そして日本ということになるだろう。敵基地攻撃の必要性などといった発言が目立つが、日本がウクライナのようになることを想定しているとはとても思えない。国が焦土と化し、多くの人々が傷つき、死に、飢える様子が、なぜ想像できないのだろうか。

安倍政権以降の政府の姿勢が、アメリカの傘の下で、戦前回帰と思われるほどのナショナリズムをあからさまにしていることは言うまでもない。憲法を変え、核兵器を持ち、中国に対抗できる国にする。今回のバイデン訪日は、それが何よりアメリカにとって好都合な戦略であり、属国である日本が当然受け入れるものであることを、あからさまにした機会だった。しかし、こんな声が野党からもメディアからも聞こえてこないのは、何とも恐ろしい限りだ。

2022年4月25日月曜日

SNSは誰のものか

 
Twitterの株をテスラ社CEOのイーロン・マスクが買い占めて、買収を提案したようだ。Twitter社は拒否したからマスクは敵対的買収に乗り出すと言われている。その目的はTwitterをもっと自由な表現の場にして、「世界各地で言論の自由のためのプラットフォームになる可能性」を実現させることだとしている。もっともらしい言い分だが、どこまで信じられるだろうか。彼はこれまで表現や言論についてほとんど発言をしてこなかった人である。ただし彼の発言は主としてTwitterでなされてきたから、不満を感じていたのだろう。

Twitterのアクティブユーザーは2億人程度だから、20億人も持つFacebookやYouTubeに比べたら、規模の小さなものである。時価総額でもFacebookやInstagramを有するメタ・プラットフォームズ社の約70兆円の一割以下の約5兆円でしかない。ただし、Twitterには影響力のある政治家やジャーナリスト,あるいは学者の発言の場という性格があって、国内はもちろん,世界的に世論を動かす力にもなっている。トランプ前アメリカ大統領は,自らの政策をまずTwitterで発表したりもしていたのである。

そのトランプは現在Twitterを追放されているが、マスクはトランプと懇意だというから、表現の自由を理由に,復帰を認めさせるかもしれない。制限を大幅に緩和して、誤報もフェイクも差別発言もありということになれば、Twitterの信頼感は地に落ちるということになりかねない。

もっともマスクの資産の多くはテスラ社の株だから、それを売らなければツイッターを買収する資金は得られないようだ。現実的には無理なことを,話題作りにぶち上げただけだと批判する人もいる。あるいは仮に、時価より高い買収提示額で買おうとしても、Twitter社の株主は,容易には売らないだろうとも言われている。Twitterをマネーゲームに巻き込むことで,かえって大きな反感を買うことになるかもしれないのである。

個人が友達の輪を広げるために使うFacebookや、高収入を得ることを目的にした人が活躍するYouTubeには巨額の広告収入が得られるメリットがある。しかし言論の場という性格が強いTwitterは広告も少ないから、経営的に決して儲かる会社ではない。実際これまでに倒産の危機を迎えたこともあった。その意味では。世界的に重要なメディアになっても、常に収入確保に苦心しているWikipediaと似たものだと言えるかもしれない。

僕は時折やってくるWikipediaの要請に応えて少額の寄付をしている。スポンサーや広告収入に頼らずに,非営利の財団を作って運営しているものを利用するからには,それなりの対価を払うのが当然だと思うからである。すでに世界中の人が利用して,政治や経済,そして社会に大きな影響を持つ場になったTwitterも、個人が所有するものではなく、利用者の代表によって管理運営されるべきものになっていると思う。もちろんその仕方は世界共通のものではなく、国ごとに異なるものになる。そんな面倒なことにいちいちつきあうほどイーロン・マスクは暇ではないはずである。


P.S.Twitter社が一転,イーロン・マスクの買収提案を受け入れたようだ。一部の大株主の意向のようだが、すべて買い占めるのに年内はかかると言う。世界的な言論の場が一人の所有物になったらどうなるか。株主の中には,このTwitterの持つ社会的・政治的意味を考えて,高値だって売らないという人がいないのだろうか。 

2022年1月31日月曜日

メディアの劣化が止まらない

 メディア、とりわけテレビの劣化が止まらない。大阪の毎日放送が正月番組に大阪維新の会の吉村知事、松井市長、そして橋下徹を出演させた番組を放映したようだ。これを視聴した人はもちろん、毎日放送内からも「中立性を欠くのではないか」といった声があがったようだ。もちろん、番組自体はバラエティのジャンルに入るものだから、政治的中立を守る必要はないといった意見もあった。しかし、吉本の芸人が司会する番組に維新の主要人物が顔をそろえて出演するといった番組は、やっぱり異常としか言いようがないように思えた。

ちょっと前に「維新とタイガース」というコラムを書いて、その類似性を指摘したが、ここにはもう一つ、「維新と吉本」の繋がりや共通性も指摘するべきだったと感じた。大阪のテレビ局は毎日放送にかぎらず、どこも維新の三人の出演を大歓迎していて、吉本の芸人たちとの放談を人気番組にしているようだ。おそらく視聴率も上がって、視聴者からの反応も悪くないのだろうと思う。しかし、これが維新の躍進の原動力になっているとしたら、テレビ局の姿勢は罪深いことである。

そうは言っても、民放は視聴率が命だから、人気のある人はたとえ政治家だって、タレントとして使うのは当たり前だとする意見もあるだろう。しかし視聴率やそれにともなう収益を最優先するのならば、メディアとしての公共性は放棄していると言わざるを得ない。実際そうとしか思えないような民放テレビ局が大阪にかぎらず、東京だって大半なのである。

そんなふうに思っていたら、NHKが東京オリンピックの記録映画を監督している河瀬直美を取材した番組で、問題が持ち上がった。僕は見ていないが、指摘されたのは、オリンピックに反対する運動に参加をして、その報酬として金をもらったという人をインタビューした場面だった。インタビューをしているのは助監督でNHKはその様子を後ろから映している。インタビューされている人の顔は隠され、声も聞こえないが、字幕には「お金をもらって動員されている」と出たのである。しかし、このシーンをめぐって視聴者から批判や疑問が起こると、そういうふうに話したかどうかをめぐって河瀬サイドとNHKとの間でズレが生じ、結局 NHKが全面的に謝罪をするという結果になった。

東京オリンピックは中止や延期の声が圧倒的に多かったにもかかわらず、強行開催され、そのためにコロナの感染を爆発的に増加させた。そんなオリンピックの記録映画をどうまとめるのか。それは極めて難しい課題だが、反対運動が金で集められたものだといった主張を、記録映画に入れようとしていたとしたら、この映画が政府の宣伝のためでしかないことは明らかだろう。実際デモの様子なども記録していたようだが、主催者にインタビューすることもなく、遠巻きに映しただけだったらしい。

NHKはすでにニュースの姿勢などから安倍チャンネルなどとレッテル貼りされて批判を受けてきた。しかしドキュメントなどではまだ良心的な番組作りをしていると思われてきた。ところがそれもなくなってしまっているとしたら、もうNHKは完全に権力の宣伝機関となってしまったといわざるを得ない。強制的に受信料を払わせる根拠は、NHKにはすでにないといっていいだろう。

2021年12月20日月曜日

維新とタイガース

 衆議院選挙における維新の躍進は驚きだった。コロナの第4波の時の大阪はひどかったし、それが保健所や病院の削減を行ってきた大阪府や市の失政に原因があったことは明らかだったからだ。それ以外にも知事や市長は雨合羽やイソジンといったしょうもない発言や行動で失笑をかっていた。少なくとも大阪や関西以外の人たちには、そんなふうに見えていた。なのに、大阪では1選挙区を除いて維新が勝利した。一体全体、大阪市民や府民は何を評価して維新に投票しただのだろうか。そんな疑問を感じてもおかしくない結果だった。

理由としてあげられたのは吉村知事や松井市長、それに橋下徹が毎日のようにテレビに出ていたことや、府議会や市議会、そして府下の首長の多くが維新で占められてきている実情だった。維新は少なくとも大阪では自治体の多くを治めていて、テレビもその勢いを後押しする役割を果たしている。どんなにダメでもがんばっている姿を連日テレビで流せば、人びとも応援したくなる。何しろ維新は大阪で生まれた、まじりっけなしの浪速っ子の集まりなのである。

こんな様子を見ていて思ったのは、関西における阪神タイガースの人気との共通性だった。僕は25年ほど京都に住んで大阪の大学で教えた経験がある。そこで感じたことの一つに強烈な阪神びいきがあった。いつも弱くて内紛を起こしてばかりの球団に、なぜ人びとは惹かれるのか。在阪のパリーグには南海や近鉄、そして阪急といった球団があって、どこもペナントを制した強い時期があった。しかし人気は阪神には全くかなわなかった。

それはもちろん、日本のプロ野球がセリーグ偏重で、東京の巨人が圧倒的に強かったことに原因があった。何しろ関西人は東京に対するライバル意識が強く、とりわけ大阪人はその傾向が顕著だった。だから東京を代表する巨人をやっつける試合を見たい。それが時々でも、勝ってくれれば溜飲を下げることができる。端で見ていて半ば呆れ、うんざりしながら感じたのは、そんな印象だった。

当然、テレビも他の在阪球団の試合は無視して阪神ばかりを中継したし、スポーツ新聞の一面は、いつも阪神のことばかりだった。そんなテレビや新聞の現状は、おそらく今でも変わらないのだろう。そして、もう一つの目玉が維新なのだ。僕はもちろん、関西のテレビや新聞には接していないが、おおよその見当はつく。アンチ東京が関西、とりわけ大阪のアイデンティティの基盤にあるのは決して悪いことではないが、阪神はともかく維新はアカン。そんな感想を強く持った。

維新は山犬集団だ。東京の批評家には、そんなことを公言する人もいる。実際僕もそう思う。トップの人たちは誰もが吠え立てるように、ドスを利かせるように発言するし、犯罪事件を起こした政治家も多党に比べて桁違いに多い。関西の中心である大阪が経済的に発展するなのならば、カジノでも万博でも何でも誘致したらいい。市をなくして大阪都にする政策は失敗したが、公共の場に使う金を極力減らそうとする政策も次々と実行されている。その結果がコロナ禍における悲惨な状況だったのである。

維新は今回の選挙での躍進に勢いを得て、全国的な制覇をもくろんでいるようだ。はたして阪神タイガース程度に人気が浸透していくのだろうか。僕は難しいと思うが、そうなったらもういよいよ、日本は終わりなのだと思う。維新はコロナ以上に悪い疫病神なのである。

2021年12月13日月曜日

品格と矜持

 政治や経済、そして社会を見渡してみて感じるのは、「品格」とか「矜持」といったことばが全く通用しなくなったことである。典型的には「今だけ金だけ自分だけ」といった風潮がある。何より利権によって動く政治家ばかりだし、大企業は内部留保を貯めこむことに精出している。そして人びとの中からも「相互扶助」の気持ちが見えてこない。こんな風潮に対して新聞やテレビといったメディアは何も問題にしない。それどころか、権力に忖度し、スポンサーの顔色を窺うことばかりをしている。

マスメディアは「ウォッチドッグ」であるべきだ。権力や社会を監視して、何か不正があれば吠えたてる。マスメディアの存在価値が何よりジャーナリズムにあるとすれば、「ウォッチドッグ」として仕事をすることが、ジャーナリストとしての矜持になるはずである。大学の「マスコミ論」には当たり前のように、こんな姿勢が強調されてきた。ところが最近のマスメディアは吠えることをほとんどしなくなった。そうなってしまった理由はいろいろあるだろう。

一つは安倍政権誕生以降続いているメディアに対する締めつけや圧力だろう。しかしここには、新聞社やテレビ局のトップが進んで首相と会食するといった擦りよりもあった。二つめには新聞の発行部数減やテレビのCM料の低減があって、何より営業利益を優先するといった方針変更がある。今メディアのトップにはジャーナリストではなく営業出身の人が就いていることが少なくない。そして三つめとしては、ジャーナリストの質の低下があげられる。権力者に対して厳しい質問を浴びせることが出来ないのは、官邸での会見の様子を見れば明らかである。

この三つの理由は経済、つまり企業の姿勢にも共通する。内部留保を増やすことばかりに精出して、社員の給料は据え置いたまま、というよりは正規を減らして派遣を増やしている。そして新たな可能性を求めて積極的に投資をすることもない。こんな経営者の姿勢に組合が抵抗どころか擦りよっているのは「連合」を見れば明らかだろう。

品格や矜持は自らの使命や理想を持っているところから生まれてくる。それがないのは、現状の日本にはどの分野にしても、使命や理想が失われていることに原因がある。経済の落ち込みや人口の減少は止めることが出来ず、国の借金ばかりが増加する。それがわかっていながら、いや、わかっているからこその、「今だけ金だけ自分だけ」の風潮なのだと思う。

そんな中で一人だけ、「品格」を口にする人がいる。メジャー・リーグでMVPをとった大谷選手だ。一流の選手には、記録や能力だけでなく「品格」がある。それを目指したいといった発言で、久しぶりにそんなことばを聞いたと思った。彼は今、日本に帰っているが、ほとんどテレビに出ることもない。タレントたちにちやほやされて浮かれてもいいはずだが、毎日トレーニングに励んでいるようだ。国民や県民栄誉賞なども断ったようだ。

メジャー・リーグはオーナーと選手会が対立して、オーナー側がロックアウトという強行手段を実行した。来春のキャンプまでには解決するだろうと言われているが、下手をすれば開幕に間に合わないかもしれないと危惧する声もある。金をめぐる対立だから、多くのファンはどちらも支持していないようだ。一人の選手が何十億も稼ぐのに、マイナーには食事や住居に苦労する選手がたくさんいる。超高額の契約更新が約束されている大谷選手は、そんな現状をどう思っているのだろうか。そんなことをふと考えた。

2021年11月22日月曜日

批判は必要なことです

 衆議院選挙の後、立憲民主党や共産党の議席減の原因として、いつも反対ばかり、批判ばかりしているからという声が聞こえてきます。大阪維新がえげつなくののしるので、それが本当のように思われるかもしれませんが、政府が出す法案について、立憲も共産も多少の修正要求はあっても8割ほどには賛成しているのです。事実でないことでも大きな声を上げれば、それが本当であるかのようになっています。メディアがそれを大きく取り上げれば、否定し難いものにもなってしまいます。そんなことが多すぎるのです。

とは言え、問題なのは反対や批判をしてはなぜいけないのか、それは悪いことなのかといった方にあると思います。そもそも第二次安倍政権以降の特徴は、嘘と誤魔化し、隠蔽と無視に終始してきたといっていいでしょう。それを野党がいくら批判しても、メディアが忖度して取り上げなければ大きな声にはなりませんし、なってもすぐに鎮静化してしまいます。世論はすぐに忘れるから、放っておけばいい。ここ10年ほど、政府はそんな傲慢な態度を取り続けているのです。

今回の衆議院選挙で10代から40代にかけての層は、自公や維新に多く投票したようです。理由はいろいろあるでしょうが、それも当然と思える理由がひとつあります。大学で40年ほど教員をしていて感じてきた学生の変化として、ゼミで議論をしにくくなったという傾向がありました。特に最後の10年ほどはそれが顕著で、テーマを与えて学生に発言させても、それに対する反対や批判が出てこなくなってしまっていたのです。最後の頃には「批判してもいいんですか?」などと質問する学生が出るようになりましたから、もう呆れるやらうんざりするやらで、すっかりやる気を無くしてしまいました。定年前にやめた理由のひとつでした。

議論はスポーツとともに、近代社会の中で生まれた闘いの場です。ルールにのっとってやれば、互いの地位や立場や属性などは関係ないですから、勝負がつくまで全力で戦えばいいし、終われば「ノーサイド」で互いを讚えればいい。そんな話をしても全く通じなくなりましたし、そもそも、世の中のことについてほとんど関心を示さない学生が大勢を占めるようにもなっていました。彼や彼女たちにとって何よりの関心は、友達関係を表面上うまくやり過ごすことにありましたし、思い通りの就職をするためには、それに役立つこと以外はやる気にならないという態度でした。

今の政権に批判的なのは高齢者層だけで、中年から若者層にかけては、現状維持派が大勢のようです。世の中がどうなろうと自分のことが一番。それは理解できる考えですが、日本の現状はすでに、維持することが難しいところに陥っているのです。もちろん危機的状況にあるのは環境問題などでも明らかなように地球規模のことでもあるのですが、この点についても日本の政府の態度に対する若い人たちの批判や反対の声はほとんど聞こえてこないのです。

と書いていたら、福井の高校生が行った演劇について、原発などを話題にしたという理由で、テレビでの放送が中止されたというニュースが目につきました。「明日のハナコ」という題名の創作劇ですが、こんなふうにして表現の芽を摘むことが当たり前に行われているのですから、言いたいことがあっても言えないと思うのは、無理もないことだとも感じました。

ちなみに、日本の学校教育が世界の中でかけ離れて、批判的思考を促す教育をしていないかについて、次のようなデータがありました。批判精神を育てる重要性を無視した教育をしているのが日本だけであることがよくわかる数字です。

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2021年9月13日月曜日

オリパラの後は自民総裁選ばかり

・オリンピックが始まると、NHKはもちろん、民放までが中継一色になった。そうなったらもう見るものがまるでない。当然、パソコンでネットを見る時間が多くなった。Amazonで映画を見ることが増えたし、大谷の出る試合もAbemaで楽しむようになった。どちらもスマホとテレビをつなげて大画面で見ることができたから、放送局の提供する番組など、ほとんど見る必要もなかった。ついでに言えば、この間の新聞もまるでスポーツ新聞のようで、ほとんど読むものがない日が続いた。

 ・ところが、やっとパラリンピックが終わると思ったら、菅首相が突然、総裁選に出ないと発言して、テレビは自民党の総裁選一辺倒になった。これは政権をとった民主党が次の衆議院選挙で負けた時の再現で、不人気の菅に代わる総裁を選ぶことで、自民党の支持率を大きく挽回させるだろうと思った。これが政権に対するテレビメディアの忖度だということはできるだろう。けれども、誰が総裁になり、選挙で勝って首相になるのかは、視聴率のとれる話題であることも間違いないのである。 

・僕はもちろん、そんなテレビ番組は見ていない。しかし、政治問題に特化したYouTubeのサイトでも、批判的とは言え、やはり総裁選で盛り上がっている。そして以前にも増して、視聴者数が増えている。いち早く立候補して、幹事長の任期を限定して注目された岸田。世論調査では一番支持されている河野、二番目の石破。そしてウルトラ右翼の高市等々、候補者の顔ぶれにはバラエティがあるし、裏で安倍や麻生が暗躍しているようだから、政策などそっちのけで、まるで競馬の予想をするようににぎわっている。 

・それに比べて、野党はほとんど無視されたままだ。菅再選が順当とされていた時には、衆議院選挙で与党が大敗し、政権交代もありうるのではと言われていたのに、あっという間の政局の反転である。とは言え、野党も選挙に向けて体制を整えてきたようだ。立憲、共産、社民、そしてれいわが共闘して、政策協定も結んだ。コロナ対策、消費税、原発など、自公政権とは違う施策を盛り込んで、対決姿勢を鮮明にしたと言えるだろう。ただしメディアの扱いを見ていると、政策の違いを検討して投票に行くという人がどれだけいるのか、といった疑問は残る。

 ・自民党総裁選挙は変人の河野とウルトラ右翼の高市が注目されて、テレビはもちろん、週刊誌やネットで盛り上がっている。不人気の高市のイメージ作りをして、人気のある河野にスキャンダル攻勢をかけているのは電通だと言われている。仕掛けの張本人は河野を総裁にしたくない安倍のようだ。権力闘争をむき出しにした醜悪なドラマだが、物語として興味をそそられるのは間違いないだろう。コロナそっちのけでこんなことをやっていることに、テレビはほとんど批判の目を向けない。 

・衆議院選挙が行われるのは11月になるようだ。コロナの感染者が減少傾向にあるが、冬には第六波がやって来ると警告されている。おそらく、それに備えて対処しようとする動きを政府はほとんどやらないだろう。それどころか、また「Go to」や「ワクチンパスポート」をなどと言い始めている。だから第五波以上のひどい状況になるのは容易に推測できるが、その時にはまた、何とか選挙で過半数をとった自公政権に任せるほかはないのかもしれない。オリパラ、総裁選、そして衆議院選挙と、ただ囃し立てるだけのテレビの責任は重いのである。