・たまたまBSで見た『イントゥ・ザ・ワイルド』という映画でまず気になったのは挿入される歌だった。pearl jamのようなと思ってiPadでAmazonで検索すると、確かにメンバーの一人エディー・ヴェダーで、その歌声に惹かれて映画そのものにも深く吸い込まれた。
・あらすじは大学を卒業した主人公が就職も進学もせず、アラスカを目指して旅に出るというものだ。ただしまっすぐ向かうのではなく、あちこちに行き、場所が気に入ればしばらくとどまり、資金稼ぎのバイトをしたりする。そこで出会った人たちとの関係の持ち方ややりとりが、いろいろ考えさせるものになっている。
・同じ年頃の息子が行方知らずになっている女性は主人公に母親の視線を向け、あれこれと忠告をする。家族を亡くして一人暮らしている老人は、若者に心を開いたばかりに、彼との別れがたまらなくつらいものになる。で、若者はそんないくつもできた関係をあっさり断ち切って、アラスカに向かう。何もない原野で動物を捕まえ、植物を採取して100日間暮らすという目標を立てるが、思うように食べ物は手に入らず、けがもして動けなくなり、廃車になって放置されたバスで飢え死にする。
・青年の無謀な冒険話と言えばそれまでだが、物語に挿入されているヴェダーの歌には、旅に出ざるを得なかった若者の思いが代弁されている。
社会は本当に狂っている
僕がいなくたって寂しがらないように社会は、やれやれだ
僕が同意しないからと言って怒らないでほしい
"Society"
・青年をアラスカに駆り立てたのは、一つは親の期待に対する拒絶の意思表示だ。しかし、そこには彼が憧れた生き方、マーク・トウェイン、ヘンリー・デヴィッド・ソロー、そしてジャック・ロンドンなどが描き出した世界もある。この物語は実話に基づくもので、映画の原作(ジョン・クラカウワー『荒野へ』集英社文庫)を読むと、この主人公がなぜ、自分の人生を社会から離脱することに求めたかがよくわかる。
・よりよき人生は、信頼できる親密な人間関係と物質的な豊かさを基盤にしてこそ可能になる。これこそアメリカン・ライフの基本だが、しかしまたアメリカには、建国時以来ずっと、それとは正反対の生き方も存在し続けてきた。つまり、孤独と自然への憧れだ。若者の遺品にあったソローの本には「愛よりも、金銭よりも、名声よりも、むしろ真理を与えてほしい」という一節に、「真理」ということばが書き加えられていたとある。
・エディー・ヴェダーのCDをアマゾンで探したら、彼がウクレレだけを伴奏にして作ったアルバムも見つけた。その
"Ukulele Songs"
もまたなかなかいい。どの曲も静かで単調で時間も短いが、それだけに一言一言に耳を傾けたくなって、繰り返して聴きたくなってくる。
僕は愛と災難の両方を信じている
それらは時に、全く同じものだ
"Sleeping by Myself"