2021年8月2日月曜日

自転車ロードレースだけ観た

 

・ テレビがオリンピック一色になって、見るものがなくなった。毎日楽しみにしていたMLBの試合をNHKは中継しないから、スマホをテレビに接続してAbemaTVやYouTubeで見ている。今日はどっちで見るか、見られるか。試合が始まるとあれこれ試さなければならないから、オリンピックが邪魔で仕方がない。もともと興味のない種目で日本がいくら金メダルを取っても、そんなことには興味も関心もない。大騒ぎしているだろうテレビなどは、見る気にもならない。それにしても、エンジェルスは弱いが、大谷は打って、投げて、走ってと孤軍奮闘の活躍だ。このまま行けば間違いなくMVPだろう。試合中も大谷が出ると「MVP!、MVP!」の大合唱になる。

roadbike2.jpg ・ オリンピックは観ないと書いたが、一種目だけ観たものがある。男女の自転車ロードレースで、両方とも、ネットで長時間つきあった。レース自体は単調だが、マラソンとは違って面白いシーンもあった。何よりスタート地点の武蔵の森公園は実家の近くで、周囲の道は熟知しているし、道志から山中湖、篭坂峠を下って富士山に登り、富士スピードウェイに至るコースも、車では何度も走っていて、わかっていた。山中湖は自転車で1周したこともあった。

・コースの全長は男子が244kmで女子が147km、獲得標高は男子が4865mで女子は2692m。この距離と大半が登り坂のコースを男子は6時間、女子は4時間ほどで走った。僕は平坦な道をおよそ30km弱で1時間ほど走るのを日課にしているから、レースがどれほどの早さで走っているかがよく分かった。平坦な道なら50km、登り坂でも30km、下り坂になると80kmを超えるスピードを出すのだから驚いてしまう。しかも連日の酷暑で山中湖だって30度近くあったはずだ。熱中症になって倒れる選手がいなかったのが不思議なくらいの過酷なレースだったと思う。

roadbike1.jpg・ロードレースは個人競技だが、複数の選手が参加する国では、それぞれに役割が与えられている。強い国は最高5人まで参加できるから、一人は、水や食料の調達と配布役になって、集団の中を行ったり来たりする。あるいはエースに何かあって遅れたりすれば、風よけになって先導して集団に追いつけるようにする選手もいる。オランダは、そうやってサポートされた女子選手が銀メダルを獲得した。ツールド・フランスでもそうだが、ロードレースには役割分担を徹底させた団体競技という性格が強くある。

・もうひとつ、6時間も休まずに走り続けていれば生理的欲求もあるはずだ。今回代表で参加し、35位で完走した新城選手が、走りながらしちゃうんだという話をしていたことがある。タイツの脇からちょっと出してするから、自分だけでなく周りの選手にも飛沫がかかる。皆やるから気にしないんだと笑っていたのが印象的だった。さて今回はどうか。そんなことも気にしながら観ていたのだが、そういう行為に及んでいる選手は見つからなかった。さて女子は………。いや、やめておこう。

・ところで、今回のコースの最大の難所は富士スピードウェイから三国峠に登る道で、平均斜度が10%で最大では20%を超えるところもある。7キロほどの道で500mも上がるから、車で走ってもアクセルを強く踏む必要があるし、下る時にはエンジンブレーキを利かせないと危なく感じる道でもある。道路にはすべり止めのドーナツ状の穴があいている。そんな道を先頭の選手は平地でも走るように登っていった。すでに東京から200km近く走ってきて、なおこの元気さは人間離れしていると思ったが、多くの選手は3週間に及んだツールド・フランスを終えて、すぐに日本に来ているのだった。

・プロ選手の強靭さと過酷なスケジュールを改めて知ることになったが、女子は数学を専門にする研究者でもあるオーストリアのアマ選手が優勝した。スタートしてすぐに飛び出して、そのままゴールまで先行したのだが、プロのレースでは、ありえないことのようだった。彼女にはもちろん、サポート役もついていなかった。2位になったオランダの選手はゴールするまで優勝したと思っていたようだ。他の大きなレースでは使われるコーチからの無線連絡が禁止されていた結果で、それも面白いと思った。

・テレビ中継がなかったせいか、沿道には大勢の観客がいた。特に府中の大国魂神社周辺は大混雑だったようだ。テレビや新聞には批判の声が多く上がったようだが、オリンピックを強行しておいて、見に行くなというのは、主催者の身勝手というものだろう。それで感染者が増えるのなら、それは主催者にこそ責任がある。メディアから聞こえる批判は、責任逃れの言い分でしかないのである。もっとも僕は、ワクチン接種をしていないから、人混みには出かけない。

2021年7月26日月曜日

榛名富士と軽井沢

 

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photo92-2.jpg・いつもなら、夏休みは長期の海外旅行をとなるはずなのに、去年も今年もできないでいる。代わりに、去年は車で北海道に行き、都市部は避けて10日間ほど旅したのだが、さすがに今年は無理だと判断した。もちろんコロナ禍が理由で、効き目や副作用がはっきりしないワクチンを打っていないということもある。とは言え、どこにも行かないというのもつまらない。と言うわけで、榛名山に行って軽井沢に1泊しようということになった。榛名山にしたのは榛名神社の奇岩をちょっと前にテレビで観て、興味をもったからだ。

・早朝、まだ涼しい時間に出発して、中央道から圏央道、関越道と乗り継いで3時間ほどで着いた。車を降りると海抜は高いのに、榛名神社はむっとする暑さで、湿度がものすごく高かった。奇岩をめぐって神社まで歩くと、もう汗びっしょりになって、ぐったり疲れてしまった。奇岩や巨岩を御神体にする神社としては熊野の新宮にある神倉神社に行ったことがある。その時は圧倒されたが、今回はテレビで見たほどではなかったと思った。道々にある七福神の像は余計なもののように思ったが、何か理由があるのだろうか。

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・神社から榛名湖へ移動。ロープウェイに乗って山頂に登った。湿気が多く、かすんでいたから、遠くにあるはずの山々はほとんど見えなかった。榛名湖は富士五湖の西湖よりも小さい円形の湖で、もう少し涼しければ、自転車やカヤックを持ってきたのだが、何しろ暑い。標高が高いのに30度を超えている。長居をせずに軽井沢に向かった。途中で妙義山の山容に出くわして麓の神社に行くことにした。急坂の上にあって行きたかったが、あまりに暑くて諦めた。碓氷峠のつづら折りを登って軽井沢へ。車が多いし、人も多い。どこにも寄らずに万平ホテルに着いた。一休みして付近を散策すると、旧軽井沢だから、瀟洒な別荘が並んでいた。

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・万平ホテルはジョン・レノンが滞在したことで有名で、一度泊まりたいと思っていた。レノンゆかりのものはなかったが、居心地の良さはわかった。ただし高額だから何日も滞在というわけには行かない。翌日は佐久から清里を走り、八ケ岳や甲斐駒ケ岳を眺め、道の駅で野菜をたくさん買って家路に着いた。甲府は35度超えのようだったが、家に近づくと気温がどんどん下がって、家に着くと25度ほどだった。涼しくてほっとした。

2021年7月19日月曜日

大谷選手の活躍の裏で


ohtani2.jpg・今年のメジャーリーグは、大谷選手の活躍でにぎやかです。暗い話が多い中で、メディアでは彼のホームランが清涼剤のように扱われています。僕もほとんど毎試合見て、またホームラン撃った、三振取ったと興奮しています。しかし、彼が所属するエンジェルスというチームについては、初年度から疑問を持ち続けていて、最近特に問題だと思っていることがあります。

・エンジェルスはトラウトのチームです。MLB最高の選手と言われ、毎年40億円を超える年俸をもらっています。これまでの成績を見れば、うなずける評価だと思います。けれども残念なことに、今年は5月中旬にけがをして前半戦の多くを欠場しました。エンジェルスには他にも高額年俸をもらっているのに、トラウト同様、ケガや故障で欠場する選手が大勢います。たとえば3塁手のアンソニー・レンドンは年俸31億円ですし、ジャスティン・アップトン外野手は27億円でした。ここにもう一人、アルバート・プーホルス一塁手の33億円をあげる必要があるでしょう。彼は途中で解雇されてドジャースに移りましたが、今年の年俸はエンジェルスが払っています。

・これらの選手に払っている年俸の総額は130億円ほどで、チームの年俸総額の70%近くを占めています。そして、エンジェルスは前半の試合の多くを、残り30%をもらう選手たちで戦ってきました。それをよくあったオーダーで見てみましょう。この先発野手の合計年俸は15億円ですから、トラウトはもちろんアップトン一人にも遠く及びません。このメンバーで5割を維持したのは驚きと言っていいでしょう。

1番 デビッド・フレッチャー:2.2億円
2番 大谷翔平:3.3億円
3番 ジャレッド・ウォルシュ:6500万円
4番 フィル・ゴスリン:6500万円
5番 マックス・スタッシ:1.8億円
6番 ホゼ・イグレシアス:3.8億円
7番 テイラー・ウォード:6500万円
8番 フアン・ラガレス:1.5億円
9番 ルイス・レンフィーフォ:6500万円

・実は同様のことは投手陣にも言えます。先発陣は大谷の影響もあって6人体制で、当初はディラン・バンディ(9.1億円)、ホセ・キンタナ(8.8億円)、アレックス・コブ(5.5億円)、アンドルー・ヒーニー(7.4億円)、グリフィン・キャニング(6500万円)、それに大谷でしたが、成績不振でバンディとキンタナが外れ、パトリック・サンドバルとホセ・スアレスの二人がマイナーから呼ばれて参加しました。この二人は6500万円以下かもしれません。

・もちろん、ケガや故障は選手につきものですから、仕方がないでしょう。けれどもエンジェルスにはプーホルス以来、おかしな契約が多すぎます。プーホルスは2012年から10年契約でエンジェルスに所属しました。1980年生まれで今年で40歳ですから、不良債券化することは予測できたはずです。実際ここ数年の成績は淋しいものでした。ところがエンジェルスは、2019年にトラウトと12年で総額4億2000万ドルの契約を結びました。この契約が満了する時、トラウトは40歳を超えますから、最後の数年は不良債券化するかもしれません。というより、今年のケガをみれば、既にその兆候が現れはじめていると言えるでしょう。昨年7年契約をしたレンドンも実力の過大評価であったことは言わずもがなだと思います。

・ドジャースやヤンキースに負けないお金を使っているのに、プレイオフには出られない弱いチームというのが、エンジェルスの現状です。この責任の多くはGMを始めとしたフロントにあるでしょう。実際去年までのGMは解雇されて、今シーズンからはペリー・ミナシアンに代わりました。しかし、彼が今シーズンに向けて新たに獲った選手の多くは故障や不振で活躍できていません。また、大谷選手は今年、2年で850万ドルの契約を結びましたが、当初はもっと低額で、大谷側の要求に対して、GMは年俸調停交渉も辞さないと強気でした。去年の不振が理由だと思いますから、今年の活躍はとんでもなく想定外のことだったでしょう。おそらく、今後の契約について頭を悩ましているはずです。

・メジャー・リーグのチームには高額になった選手は放出して、有望な若手と交換して育てるチームが少なくありません。低予算で毎年プレイオフに進出するチームとしては、タンパベイ・レイズやオークランド・アスレチックスが有名です。レイズは筒香選手を成績不振を理由に解雇しましたが、7.6億円という彼の年俸がこのチームの最高額でした。レイズは今年もア・リーグ東地区でボストン・レッドソックスと首位争いをして、金満球団のヤンキースを下位におとしめています。アスレチックスは、同じベイエリアにあるサンフランシスコ・ジャイアンツとは対照的に人気のない球団です。しかしGMだったビリー・ビーンが『マネー・ボール』で映画の主人公になったように、金を使わず、スター選手を作らずに強豪チームにすることを球団の方針にし続けています。

・エンジェルスはけが人続出のおかげで、マイナーから抜擢された若手選手が成長してきています。昨年の終盤に開花したジャレッド・ウォルシュ一塁手はその典型ですが、投手のサンドバルやスアレスなどがあげられます。他にも、今年メジャーで経験を積んで成長しそうな選手がいますし、マイナーには有望な選手も見受けられます。GMやマッドン監督はそんな状況を見据えて、選手を高額で引き抜くのではなく、若手を育てる方針に変更するでしょうか。解雇したプーホルス選手や来年で契約が切れるアップトン選手、それに不振の高額年俸の選手を放出すれば、大谷選手を始めとした若手選手の年俸アップに十分応えられるお金が用意できると思います。

・そんなチームに対して、大谷選手はどう考えているのでしょうか。彼とエンジェルスの契約は今年を含めて後3年です。その後もエンジェルスが引き止めようと思えば、今年のシーズンオフにも、高額な年俸で再契約をしようとするでしょう。自分が思う通りにやらせてくれるチームは多くはないですから、ずっとエンジェルスでと考えているかもしれません。あるいはワールドシリーズに出られるチームに移ろうとするでしょうか。いずれにしても、お金に左右されることだけはないように、と願うばかりです。

2021年7月12日月曜日

追悼 中山ラビ


rabi1.jpg・中山ラビが死んだ。その不意に訪れた古川豪さんからのメールを読んで、まさかと思い動転した。彼女とは長いつきあいだが、ここ数年は会うことも、連絡を取り合うこともなかった。その後の新聞報道では去年から癌で入退院を繰り返していたようだ。元気で店を切り盛りし、音楽活動をしているとばかり思っていたから、一度ぐらいは店を訪ねておくべきだったと後悔した。

・中山ラビは、自分で作った歌を自分で歌う日本のミュージシャンの草分け的存在だった。そのデビュー・アルバムの『私ってこんな』は1972年に出されている。その後『ラビひらひら』(1974年)、『ラビ女です』(1975年)、『ラビもうすぐ』(1976年)、『なかのあなた』(1977年)、『はだ絵』(1978年)、『会えば最高』(1980年)、『MUZAN』(1982年)、『SUKI』(1983年)、『甘い薬を口に含んで』(1983年)、『BALANCIN』(1987年)と70年代から80年代にかけて精力的にレコードを出し続けた。

rabi2.jpg・僕はこの時期に京都にいて、彼女のパートナーだった中山容さんと親しかったこともあって、彼女のライブに頻繁に出かけ、歌作りを間近で見た。彼女の作る歌のレベルの高さはもちろん、歌唱力も当時の女性ミュージシャンの中では傑出した存在だと思っていた。ビッグヒットがあってスターになるということはなかったが、その音楽的評価は高く、その歌や生き方に共感するファンは少なくなかった。

・彼女が東京に移り、母親になって音楽活動を休止したこともあって疎遠になったが、彼女が営む「ほんやら洞」の近くにある大学に僕が職場を移したこともあって、時折会うようになった。「ほんやら洞」は癖のある人たちがたむろする場で、学生たちには敷き居が高い所だったが、時折、学部や院の学生たちと飲み会をした。彼女は音楽活動を再開していたから、コンサートにも出かけた。ベスト盤やライブ盤、そして自主製作盤のCDやDVDなども出していて、その度にプレゼントされた。お返しに僕の書いた本を進呈しようと思ったが、いつも興味ないとそっけなかった。

・彼女の歌は車に仕掛けたiPodで時折流れてくる。で、この追悼文を書きながら、またiMacで聴いている。どの歌を聴いても、当時の情景が走馬灯のように浮かんでは消えていく。どれも思い出深い歌だと、改めて感じた。「私ってこんな」「私の望むのは」「いい暮らし」「あてのない一日」「一年がおわる」「どうしますか」「そのままのまま」「さわれますか」「ノスタルジー」………。くり返し聴いて、ぼくは『ラビひらひら』にある「人は少しづつ変わる」が一番好きだと改めて思った。高田渡や南正人、忌野清志郎、加川良、そしてリリーや浅川マキと死んでしまったミュージシャンは多い。ラビちゃんは、あの世で再会して一緒に歌っているんだろうか。

人は少しづつ変わる これは確かでしょう
ひとつの時代がやがて過ぎるよに
とりのこしの年令 とき告げる一番鳥
一夜の夢さめやらず うかつな10年一昔
そして あなたも変わったね
忍ぶ面影 色あせたのです(「人は少しづつ変わる」)

・彼女に最後に会ったのは、僕の退職パーティの2次会で「ほんやら洞」を訪れた時だったから、もう4年以上前になる。ライブの知らせを伝える手紙が届いたりしたが、東京まで出かけるのが面倒で、一度も行かなかった。彼女がいなくなれば、「ほんやら洞」もなくなるのだろうか。「ほんやら洞」は京都にもあったが、これも数年前に火事でなくなってしまっている。「うかつな10年一昔、あなたも変わったね」と言われたら、返すことばもない。

2021年7月5日月曜日

宮沢孝幸『京大おどろきのウィルス講義』


corona1.jpg・新聞の書評欄で見つけて、読みたくなった。欧米ではワクチン接種が進んで、鎮静化しつつあるが、変種のウィルスによってまた、感染者が増えたりもしている。この新型コロナ・ウィルスとは一体何者なのか。そんな疑問を持ち続けていたからだ。読みはじめて感じたのは、ウィルスというものの複雑さや深遠さで、克明にメモを取って読まなければ理解もしにくいし、頭にも残らないということだった。しかし、久しぶりにノートを取りながら読んで、新たな世界が開けたような気になった。

・当たり前だがウィルスは人類の誕生よりはるか昔から地球に存在してきた。生物でも無生物でもなく、他の生物に寄生して生き長らえてきた。著者は獣医学の専門家で、ウィルスの研究者だが、ヒトに比べて動物に寄生するウィルスについては、これまであまり研究されてこなかったと言う。エイズ・ウィルスやSARSコロナウィルスが登場してヒトに危害を及ぼすまでは、動物に寄生するウィルスは、研究対象としてはほとんど無視されてきたというのである。

・今、世界中を襲っている新型コロナ・ウィルスに研究者はもちろん、世界中の人びとが恐れ、翻弄されているわけだが、獣医学の分野でウィルスを研究してきた著者にとっては、それほど驚くことではなかったようである。そもそも、人に感染するウィルスは、動物に寄生しているウィルスのごく一部にすぎない。ウィルスは野生のあらゆる生き物はもちろん、牛や馬といった家畜や犬や猫などのペットにも寄生している。それが、突然変異をおこしたり、他の生物に感染した時に、悪さをするようになるのである。

・新型コロナウィルスは正式には"SARS-Cov-2"と名付けられている。コウモリ由来で、2002年に流行したSARSコロナウィルスに近く、その弱毒型のバリエーションにすぎないようである。しかし、弱毒型である故に多くの人に感染し、世界中に広まってしまっているというのである。確かにスプレッダーと言われる人の多くは無症状で、自分が感染していることに無自覚だったりするのである。感染集積地を特定したらできる限り多くの人にPCR検査をして、感染の広がりを防ぐようにする。その感染防止のイロハが、日本では未だに行われていないのである。

・生物の細胞内にはDNAという身体の設計図があり、これがコピーされてRNAという手続き書になり、それをもとにたんぱく質が作られるという仕組みがある。それによって細胞が絶えず作られ、成長したり、新陳代謝をおこしたりするのだが、ウィルスにはRNAの遺伝情報を持って生き物の細胞に入り込み、そのRNA情報をDNAに変換させて、寄生した細胞のDNAに付け加えさせてしまう種類があって、「レトロウィルス」と名付けられている。このウィルスの目的は、進入した細胞を使って自らを再生産することにあるのだが、感染した細胞にはこのウィルスのRNAがDNAとして残ってしまい、悪さをされることがあるのである。

・典型的には「成人T細胞白血病」を引き起こす「ヒトTリンパ好性ウィルス」(HTLV)やエイズを起こす「ヒト免疫不全ウィルス1型」(HIV-1)があって、どちらも感染すれば死の危険があって恐れられたものである。しかし、生物には「レトロウィルス」が入り込むことを利用して、新しい臓器を作り出すという進化の仕組みも見られるのである。この本で紹介しているのは著者の研究テーマでもある哺乳類の胎盤と「レトロウィルス」の関係である。卵子と精子が結合して受精卵となり、それが胎盤に着床して子宮の中で成長していく。この時母胎が受精卵を異物として攻撃しないよう制御するのが、ウィルス由来のDNAだというのである。

・この本ではさらにiPS細胞と「レトロウィルス」の関係にも話を進めている。読んでいて、ウィルスと生物の関係の複雑さと深遠さを、改めて教えられた気がした。コロナ禍は個人にとっても、国や世界にとっても大変深刻な問題だが、地球やそこで生きる生物が辿ってきた長い歴史という視点にたてば、ウィルスが欠かせない存在だったことがよくわかる1冊である。

2021年6月28日月曜日

梅雨とリフォーム

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・異常に早い梅雨入りかと思ったら、その後、晴れの日が続いた。いつもの通り、篭坂峠に山椒バラを見に2度でかけた。最初は蕾がちらほらだったが、1週間後に行くと満開で、散りかけた木もあった。富士山をバックにと撮ったが、花の色が白く映りすぎてしまった。実際は左下の色で、開きかけは鮮やかなピンクだ。このあたりは噴火で降ったスコリアが堆積していて、道は雨が降るとすぐに深くえぐれてしまう。今回も、最初はきれいにならされていたのに、1週間後に行った時には、深くえぐれていた。植物にとっては厳しい環境だが、近くの三国山には大きなブナが密集する森もある。この時期には何度も出かけて歩きたくなる地域である。


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・先月の中旬から始まった家のリフォームは、屋根の張り替えが終わって、外壁の修理とペンキ塗り、それに隙間のコーキングと続いている。もう少しで終わるから、足場の解体も今月中か、来月の初めには行われるだろう。リフォームとは言っても外だけで、中は行わない。それが済んだら、後は工房の補修だけになる。梅雨時に始まったから長くかかるかも、と思ったが、晴れの日が続いて、順調に行われた。


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forest176-6.jpg ・作業をする人たちの朝は早い。8時には来て仕事を始めるから、時には突然、屋根で足音がして驚くこともあった。古い屋根や外壁の掃除は水をかけてやるから、わざわざ雨の日にやってきたりもした。もちろん、鋼板をはる作業ではすさまじい音がしたし、窓の外に不意に現れることもあったから、昼間中ずっとカーテンを締めてという日も多かった。一日の作業が済んで帰った後に、毎日、足場から屋根に上って、その日の進み具合をチェックした。なるほどこんなふうにやるのかと思うところも多かったが、既存の板壁にペンキを塗って、それで終わりかと思ったら、新しい板を貼って、またペンキ塗をするといった無駄に思える作業もあった。

・工事が終わったら、バルコニーの補修とペンキ塗は自分でやるつもりだ。ログは4年前にペンキを塗っているから、秋にストーブを燃やしはじめたら、積んである薪をどかしながらやろうと思っている。さて、屋根は緑色で2階は焦げ茶にしたから、ログはどうしようか。少し赤味にするか、濃い茶色にするか。工事が済んだら、じっくり考えようと思っている。

2021年6月21日月曜日

「原子力村」から「五輪村」まで


・国内の世論はもちろん、世界中から中止せよと言われているのに、オリンピックは強行開催されるようだ。そのために東京都などに出ていた「緊急事態宣言」が解除され「蔓延防止等重点措置」に変わった。そうまでしてなぜ、オリンピックを開催したいのか。その理由が全くわからないが、一度始めたことはやめられないという、日本の権力組織が繰り返す愚行の一つだと思えば、それなりに納得がいく。

・一度始めたらやめられない理由としてよく指摘されるのは、日本の集団や組織に共通して見られる「村」という特徴である。「村」とは日本に伝統的にあった「有力者を中心に厳しい秩序を保ち、しきたりを守りながら、よそ者を受け入れようとしない排他的な社会」で、現在でも「同類が集まって序列をつくり、頂点に立つ者の指示や判断に従って行動したり、利益の分配を図ったりするような閉鎖的な組織・社会」として、よく見受けられるものである。

・福島の原発事故から10年過ぎてもなお、原発を電源の基本に据えようとするのが「原発村」の政策である。古今未曾有の大惨事を起こしながら、なおやめようとしない体質は、第二次世界大戦に突き進み、原爆を投下されるまで負けを認めなかった愚行のくり返しそのものである。そしてこの「村」体質は、「五輪」にも共通している。

・五輪を強行すればコロナの感染者や死亡者が増えることは分かりきっている。その規模がこれまで以上のものになるのはもちろん、日本発のコロナ株となって世界中に広まる危険性も指摘されている。しかし、そうならないための対策はお粗末で、ただ「安全・安心」と呪文のように繰り返すだけである。菅首相はG7で各国首脳からの支持を得たと言ったが、その多くは、おそらく、開会式にやって来ないだろう。

・危険であることや、行動制限が厳しいことを嫌って、多くの選手が参加をやめると予測される。それで無観客ではあまりにお粗末と思っているのか、日本人の観客を入れ、地味な種目には小中学生の動員も考えているようだ。参加する各国選手には、夏の猛暑や多湿に慣れる時間もないから、日本人のメダル・ラッシュになると言う人もいる。何しろ観客も日本人だけなのである。

・それで国中が熱狂すれば、感染者や死者が増えても、選挙に勝てるようになる。そのためにはオリンピック終了と同時にパラリンピックを中止にして、衆議院を解散して選挙に突入する。政権の本心がこんなことにあるとすれば、あまりに利己的だが、政権自体もまた「村」組織なのだから、十分ありそうなことである。それを批判すべきメディアもまた、村社会なのだから救いようがない。

・とは言え、オリンピックの開会までにはまだ1ヶ月ある。その間に感染者が増えはじめて、中止の声が国の内外から起こったらどうするのか。始めたけれども途中でやめる。一番やってはいけないが、また一番ありそうなこと。その時「政権村」や「マスコミ村」はどんな対応をとるのだろうか。