・四半世紀は25年だから厳密には、この本が分析対象にするのは1993年から2018年までということになる。しかし1993年はブラウザのモザイクや、そこにホームページなどを作成するHTML1.0が公開されたばかりの年である。だからもちろん「ソーシャルメディア」といったことばも存在しなかった。一般に使われるようになったのは2006年だと言われている。
・実際本書が扱う「ソーシャルメディア」は2001年からで、5年刻みで五部構成になっている。500ページを超える大著で、主にビジネスとして成立することを目指したユーザー・サイトについて、その設立者や運営者にインタビューをしながら、長い時間をかけてまとめたものである。25年ではなく18年ほどだが、インターネットとそれに関連する世界の急速な変容が整理された好著だと思う。
・ぼくがインターネットに接したのは1995年で、大学の研究室からだった。電子メールという新しい通信手段を使い、ネットスケープ(ブラウザー)によって国内はもちろん世界中のサイトを訪ね歩いた時の驚きや興奮は、今でも良く覚えている。サイトを探す時に使う検索エンジンはYahooで、できたばかりのAmazonで洋書を購入するようになった。書店を通すのとは段違いに早く、低額だったから、一時は研究費の多くを洋書に費やすほどだった。海外のサイトでものを買ったり、ニュースに直接アクセスするという経験は、それほどに新鮮なものだった。
・またHTMLを覚えて、1997年からこのサイトを作り始めた。もう21年になるが週一回の更新を一回も休まず続けている。始めて数年経つと一日100前後のアクセスがあり、その数は多少の増減はあったが、今でもほとんど変わらない。1999年に勤務校を変えたが、そこから数えてアクセス数はもうすぐ78万になる。単純に割ると1年のアクセス数はおよそ4000ということになる。増えもしないが減りもしない。見捨てられるのはさみしいが、やたら増えすぎても対処できなくなる。だからぼくはこの数に安心し、満足している。
・この新しい通信手段にどんな新しい世界が作り出せるか。そしてどうしたらビジネスとして成り立つか。インターネットの四半世紀は、そういう夢や野望を持った人たちの戦場という一面も持っている。万単位の人を集めるために考えられた一つが、ユーザーに積極的な参加を求めるものだった。アクセス数が増えれば、そこに広告を載せることが可能になる。あるいは参加者に課金することも出来るようになる。しかし、対処すべき課題は魅力的なサイトにしてアクセス数を増やすことだけではない。インターネットはただで利用できるメディアだという通念を、どうしたら変えることが出来るか。広告の内容とアクセス者のマッチングはどうしたら可能か。ビジネスサイトの創設者や運営者は、絶えず、このような難問と取り組むことになった。
・この本に登場するのは商品や店について、消費者どうしの情報交換の場を提供した「カカクコム」や化粧品の口コミサイトの「@cosme」、「食べログ」、質問と応答の場である「はてな」、電子掲示板の「2ちゃんねる」、ネットワーキング・サービスの「mixi」「GREE」「LINE」、そしてオンラインやソーシャル・ゲームを提供する場等々である。この中には年商が数百億円になったものも少なくない。あるいは「LINE」や「メルカリ」のように、公開した株価が総額で1000億円を超えるといった規模になっているものもある。
・ここにはもちろん、インターネットを支えるインフラの進歩や変化もあった。「ブロードバンド」が普及したのは2000年代で、それによって動画などの大容量のデータがやりとりできるようになった。2010年代になると、ネット利用にスマートフォンが加わり、パソコン以外で大量の人がアクセスするようになった。それに合わせて広告の仕方も代わり、またその規模も飛躍的に拡大した。
・いつでもどこでもスマホでネット。今はもうこういう時代になっている。「思想を持ったスモールメディア」(第一部)が「ユーザーサイト・アズ・ビッグ・ビジネス」(第二部)になり、「ユーザーサイトの黄金期」(第三部)を迎え、「メディアから仕組みへの助走」(第四部)を始めるようになった。世界中の人が多様な使い方や接触の仕方をすることを可能にしたメディアが、いくつかの巨大な企業によってコントロールされ、アクセスする人たちの自発的な行動から、簡単で便利な受け身的なそれに変わってきた。
・実はこの本の著者は、大学で同僚だった人である、広告やネットビジネスが専門領域だったから、ビジネスにも広告にも批判的で無関心だったぼくは、どんな研究をしているのか、ほとんど知らなかった。実際この本でも、ネットビジネスの可能性を追求する人たちに対するたくさんのインタビューについては、こういう人たちがネットを変容させてしまったんだと思いながら読んだ。何しろぼくはインターネットは今でも、「思想を持ったスモールメディア」であるべきだと思って実践しているのである。
・もっとも著者の佐々木さんは、大学では教務主任などの激職を長期間やり、学部の運営を支えてきた人である。こういった職に就くと研究自体を忘れてしまう人が多いのだが、彼は研究者としての自分の仕事を続け、大著をものにした。この本を贈られ、手にして読み始めた時に感じたのは、校務に負けずに頑張った、その努力や熱意に対する敬服の念だった。ご苦労様、そしてこれからもいい仕事を。
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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。