2007年7月23日月曜日

Ry Cooder "My Name Is Buddy"

 

ry1.jpg・ライ・クーダーの"My Name is Buddy"はジャケットが絵本になっている。猫のバディが住み慣れた村を離れて旅に出る話だ。相棒はネズミのレフティで、二匹は村を通る線路で待って、貨物列車に乗り込む。旅が、アルバムに収められた曲の順番で進んでいく。20世紀初頭のアメリカの話である。
・炭坑町で下車すると、坑夫たちがストライキをやっている。安全と賃上げを求めて歌う人たち。そこに警官がやってきて、みんなを牢屋にいれてしまう。だけど歌声はやまない。歌うことが危険だったときで、ジョー・ヒルが殺人罪で不当に処刑された。
・二匹はそんな出会いをしながら旅を続ける。誰もが貧しく、不条理な生活を強いられている。「団結」がみんなを鼓舞する新しいことばとして登場し、集まりにはかならず歌があった。アメリカにフォーク・ソングが生まれた時代である。

・ディランやスプリングスティーンを初めとして、アメリカのミュージシャンにポピュラー音楽を原点に帰って見直そうという流れがある。ライ・クーダーのこのアルバムにも、そんな志向が強くうかがえる。それを猫の物語にして、絵本のような装幀にしたのは、なかなかしゃれた発想だと思う。ピートとマイクのシーガー兄弟も参加して、サウンドも原点そのまま、きわめてシンプルである。

ry4.jpg ・ぼくがライ・クーダーを知ったのは喜納昌吉の「ブラッドライン」が最初だった。デビュー作の「ハイサイおじさん」とは違って、ハワイで録音されたせいかアメリカ的なサウンドになっていて、そのギターが小気味よかった。
・録音は80年で、ぼくはLPレコードでしか持っていない。久しぶりにかけるとざらざらとかなり痛んでいる。たぶんよく聞いた一枚なんだと、あらためて思った。ライ・クーダーの参加に特に興味を覚えたわけではないが、今にして思えば、ライが昔からさまざまな音楽に興味をもっていたことがわかる。そういえば、"My Name is Buddy"のなかには、沖縄を感じさせるメロディの歌がある。バンジョーを蛇皮線のように鳴らして、ホームレスが住む「段ボール通り」を歌っている。

ry2.jpg・ライ・クーダーについての印象は、ヴィム・ヴェンダースが監督した『パリ・テキサス』(1984)のサウンドトラックが強烈だ。放浪癖のある男と失踪した妻、そして置き去りにされた幼児。売春宿かストリップ小屋のマジックミラー越しに話をする二人。パリとは名ばかりの、乾いて荒れたテキサスの風景に、独特のスライド・ギターの音が鳴り響く。僕は今でも、時々、このギターの音が聴きたくなる。
・ただし、ライ・クーダーといえばスライド・ギターという印象が僕の中にはずっとあって、何枚か買ったアルバムにそのサウンドがなくてがっかりしたことが何度かあった。で、半ば忘れていたのだが、ヴェンダースと一緒に作った『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』で、また驚かされた。

ry3.jpg・『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は全編、キューバの音楽で溢れている。キューバ以外ではほとんど無名の老ミュージシャンたちが作り出す、生き生きとして熱い音楽で、ライ・クーダーが旅行した際に出会った人たちだ。それをヴェンダースがドキュメンタリー映画にした。
・「音楽は国籍や言語を越える」とはきわめて安直につかわれるセリフだが、ライ・クーダーには、あらゆるボーダーを超えていいものをみつける音楽的嗅覚がある。"My Name is Buddy"が越えるのは、時の経過と音楽状況の変化がつくったコマーシャリズムという壁だ。そこには、虚飾を取り去った時に聞こえてくる音とことばがある。

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unknownさんではなく、何か名前があるとうれしいです。