2022年3月14日月曜日

戦争報道とSNS

 
ロシアのウクライナ侵攻がますます激化している。攻撃対象が民間施設や住居に及び、逃げ惑う人に銃弾が浴びせられる。ウクライナ軍の抵抗が強くて、思うように進撃できていないと言われているが、伝えられてくる戦況は、攻撃されるウクライナの惨状や地下室に避難する人々、あるいは隣国に逃れた人々の悲嘆に暮れた表情ばかりである。

また、ロシアを非難するデモや、ウクライナを支援する動きが世界中に広まっていることも大きく報じられている。デモはロシア国内でも起こっていて、多くの逮捕者が出ているが、プーチンはロシア国内での外国の報道機関の取材に強い制限を課して、ロシア国内の状況が外に伝えられないようにした。もちろん、ロシア国内では外と通じるSNSも封鎖されているから、ロシアの人々にはウクライナの現状はよくわからないだろう。その効果か、支持率が10%も上がって7割を超えたようだ。

このような情勢に伴って、ロシア国内で営業をする外資系の企業が、店を閉じたり、製品の出荷を止めたりするケースが相次いでいる。SWATによって通貨の交換も停止されて、ルーブルのレートも暴落した。ロシア国民にとっては買いたいモノがない、買いたくても値段が暴騰して手が出ない、といった状況になっているのだろう。侵攻が長引けばますますひどいことになるから、ロシア国内での不満が爆発することになるかもしれない。プーチンはそれへの対応に、撤退企業の資産を国営化したり、リースで使用している飛行機を返さないつもりだという。

戦争そのものはロシアの一方的な攻撃だが、こと情報戦争ではウクライナの方がはるかに攻勢に見える。ゼレンスキー大統領はキエフに留まって世界中にウクライナへの支援を呼びかけている。自撮りのビデオがSNSに載せられ、それが各国のテレビでも報じられる。ロシアはもちろん、ウクライナのIT環境にも攻撃して、一時はインターネットが使えない状況に陥ったが、すぐに普及して、多くのところで使える状態になっているようだ。

このような情報発信を指揮する副首相のミハイロ・フェドロフは31歳で、SNSへの広告サービス会社を起業し、大統領選ではゼレンスキーのアドバイザーを務めた。GAFAとも積極的に関係して、VISAやMasterCardのロシアからの撤退をツイートして実現させた。おそらく、ネットの管理やウクライナから発信される情報について、うまくコントロールしているのだろうと思う。その意味では、ロシアの原発占拠は電力を切ってインターネットを遮断することにあるのかもしれない。

戦争が長引けば、ウクライナ人の死傷者はますます増えるだろう。だから早くやめて欲しいと思う。けれども、ウクライナはソ連はもちろん、それ以前にも占領された歴史を持ち、多くの人々が殺された戦争を経験している。それだけに、やっと勝ち得た独立を手放すことなど望まないはずだと言われている。

プーチンは同様の戦術で、これまでにもチェチェンやジョージア(グルジア)、シリア、あるいはクリミア半島に侵攻してそれなりの成果を挙げてきた。その度にロシア国民はプーチンの成果を讚えたのだが、今回は様相が異なっている。戦況の悲惨さを当事者がネットに載せれば、それがリアルタイムで世界中に拡散されていく。ネットとSNSの力を今さらながらに実感した。

2022年3月7日月曜日

ロシアのウクライナ侵攻に乗ずるな!

・まさかと思っていたロシア軍のウクライナ侵攻が始まった。プーチンがやっているのは許されない暴挙だと思うし、世界中の非難に応えて、すぐにでも軍を撤退させるべきだと思う。ただし、なぜプーチンがこんな決断をしたのかについては、ことの善悪とは別に考えておくべき事態だと感じた。 

・プーチンが進攻の一番の理由としてあげたのは、ウクライナが「NATO(北大西洋条約機構)」に入る希望を持っているという点にあった。「NATO」はソ連と旧東欧諸国が’結んでいた「ワルシャワ条約機構」に対する西側諸国の軍事的同盟だが、ソ連が崩壊して「ワルシャワ条約機構」が解消されても、残り続けてきた。しかも、ソ連崩壊によって共産党政権を倒した東欧諸国や、新たに独立した国々の多くが(EU)と同時に{NATO}に加盟することを望んだのだ。

 ・ソ連崩壊後のロシアには政治的にも経済的にも、そして軍事的にも周辺諸国に影響を及ぼす力はなくなっていて、「ワルシャワ条約機構」も解消したのだが、「NATO」は解消どころか拡大した。さらにウクライナが加盟すれば、ロシアにとっては緩衝地域がなくなるわけで、それは絶対に許されないというのがプーチンの主張だった。 

・プーチンにはもう一つ、ソ連崩壊時に独立したウクライナ(小ロシア)とベラルーシ(白ロシア)を一つに戻したいという「大ロシア主義」の考えがある。実際二つの国にはロシア人が多く住む地域があって、ウクライナの東部にあるドネツクとルガンスクはロシアから国家承認された。しかしウクライナやベラルーシの側から見れば、必ずしも一体のものではない。そもそもウクライナには帝政ロシアの時代における抑圧や、ナポレオンやヒトラーが行ったロシア遠征の戦場になって膨大な戦死者がでたという歴史もある。

 ・このように、ロシアのウクライナ侵攻の裏には複雑な問題がある。しかし、そんなことなどお構いなしに、ロシアを中国に置き換えて、日本の危機を訴え、軍備の増強や、アメリカとの連携をさらに強化せよといった主張をする人たちがいる。安倍前首相はアメリカ軍が所有する核を日本が独自に使えるようにすべきだとする「核共有」を唱えはじめている。まるで火事場泥棒のような発言で、台湾問題と併せて、中国をイライラさせるだけのばかげた発言だと思う。 

・こういう時には強気の発言が共感を呼びやすい。しかし、一部にはロシアと長い国境で接しているのに「NATO」には加盟していないフィンランドを見習うべきといった指摘もある。アメリカが言う対中包囲網に積極的な同調をせず、アメリカと中国に対してうまくバランスをとってつきあう外交努力が大事だとするものだが、日本の貿易相手国の1位が中国で、2位がアメリカであることを考えれば、極めて当たり前のやり方だと思う。

 ・ロシアがチェルノブイリを占拠しただけでなく、ウクライナ最大のザポリージャ原発を攻撃して占拠したのには恐怖を感じた。原発が攻撃目標や占拠の場所になることが現実化したわけで、日本海沿いにずらりとある日本の原発をどうすべきか。まったく無防備なこちらの方こそ現実的な問題で、核共有などという戦争ごっこに興じている場合ではないのである。

2022年2月28日月曜日

MLBが始まらない!

 MLBは昨年12月にロックアウトをしたまま、未だに解除をしていない。選手会との交渉が暗礁に乗り上げたまま、解決の見通しが立たないからだ。MLBと選手会はいくつもの取り決めをしていて、それを5年おきに改訂する決まりになっている。それがうまく妥結できないのだが、こんな状況は1995年以来のようだ。ただしこの時は選手会によるストライキで、今回のMLB側のロックアウトとは違っていた。

野茂投手がドジャースと契約して、開幕が1ヶ月遅れてデビューをしたのがこの年だった。ファンの批判が強くて、観客減が大きかったが、それを食い止めたのはトルネード旋風を起こした野茂投手の活躍が大きかったと言われている。野茂はこの年、オールスターの先発投手になり、新人王を獲得した。最初は批判ばかりを浴びせていた日本のメディアも、大活躍に手のひらを返して、称賛の声をあげるようになった。

そこから27年経って、メジャーリーガーも通算で70名ほどになり、今年も多くの選手が開幕を待っている。しかしキャンプができないままであり、今年からメジャーをめざす鈴木誠也選手は、まだ所属球団が決まっていない。このままでは開幕が遅れ、試合数が減ってしまうと危惧されているが、何よりファンからの批判が大きいようである。

両者の隔たりは大きく二つある。一つは選手の年俸総額に対するもので、たくさん払う球団に課せられる贅沢税の制限額に関している。年俸を抑えたいMLBともっとあげろという選手会の対立だが、ファンの批判は、この金持ち同士のマネー・ゲームに集中している。何しろ一年で数十億円も稼ぐ選手が続出して、大谷選手は50億円にもなるのではと噂されているのである。

もう一つはマイナーからメジャーに上がった選手に課されている6年間縛る契約で、どんなに活躍しても、この間の年俸があまり上がらないという点である。大谷選手は今年5年目だが、年俸は6億円ほどで、フリーエージェントになるのは来期後である。同様の扱いを受けている選手にはゲレーロJr.やファン・ソトといった選手がいる。確かに成績に見合う報酬を得るまでにかかる時間が長いと思うが、そもそもスター選手の報酬が高すぎるし、球団が儲かっているのだとしたら、入場券などが高すぎるのである。

他方で、MLB はマイナーチームの削減を実施して、多くの選手を解雇している。マイナー選手の報酬や待遇を少し良くしたという面はあっても、現実には経費の削減を実施していて、マイナー球団の減少は、小さな町にある「おらがチーム」を奪っているのである。MLBはテレビの放映権収入が増えているのに、その資金をマイナー・リーグに使う気はないようだ。これでは砂上の楼閣になってしまうが、目先の利益に目がくらんでいるのだろうか。

僕は今年も大活躍するだろう大谷選手の動向が気になっている。おそらく早く始まってくれとウズウズ、イライラしていることだろうと思う。試合数が減れば勝利数もホームラン数も減ってしまう。オフに帰国してもテレビ番組にはほとんど出ず、トレーニングに明け暮れていたという。試合数が15試合以上減れば、彼がフリーエージェントになるのが一年遅れて、30歳になるから長期の高額契約が取れなくなるだろうと心配する記事がある。しかしそんなことは、彼にとってはどうでもいいことで、マネーゲームを面白がるメディアの発想でしかないのである。

2022年2月21日月曜日

本間龍『東京五輪の大罪』(ちくま新書)

 
ryu1.jpg 東京オリンピックにうんざりした思いがまだ残っているのに、今度は冬季の北京オリンピックである。NHKは国会中継を無視してまで、全競技を放映しているし、民放のアナウンサーは相も変わらずメダルばかりにこだわって絶叫している。スポーツが金もうけや政治や国威発揚の道具となっていることをこれほどあからさまに見せられると、オリンピックはもうやめるべきだと、声を大にして言いたくなる。

本間龍の『東京五輪の大罪』は、東京五輪が「電通の電通による電通のためのオリンピックだった」と結論づけている。何しろ電通は「招致活動からロゴ選定、スポンサー獲得」から始まってテレビCMなどの広報活動、聖火リレー、パブリックビューイング、さらに開閉会式に至るまで、すべてを取り仕切っていたのである。そしてその多くで不祥事が発覚して大きな問題になった。

ryu2.jpgそれを列挙してみると、まず招致活動における2億円の賄賂疑惑があり、五輪エンブレムの盗作問題があり、開会式をめぐるスキャンダルや放言などによる担当者の解任があった。おかしなことは電通関連以外でもいくつもあった。招致活動における安倍首相の、福島原発はアンダーコントロールや、夏の東京は温暖で、スポーツに適しているといった大嘘発言や、森喜朗の差別発言など、枚挙にいとまがないほどだったのである。

著者はこれまでにも一貫して東京五輪には反対して、『ブラックボランティア』(角川新書)では、酷暑の中で無給で食事も宿泊も自腹でというボランティアの募り方に異議を唱えてきた。そもそもボランティアは無給を意味するわけではないのだが、それを当然視する五輪の組織委員会の主要メンバーには、高額の報酬が払われていたのである。で、その酷暑対策のお粗末さに加え、コロナ対策も不十分のままに、五輪は強行された。

genpatu.jpg著者はまた『原発広告』(亜紀書房)の中で、福島原発事故以前に電力会社がテレビや新聞で原発の安全性を唱える広告を出してきたことを指摘しているが、五輪が全く同じ構図で、全国紙やテレビ局がスポンサーになって、五輪批判をほとんどしてこなかったことを糾弾している。不祥事や酷暑、さらにはコロナ禍と続いても、メディアが問題視しなかったのは、まさに政治と経済とメディアが一体化した「大政翼賛」の体制にほかならなかったというのである。

読んでいて改めて、五輪にまつわるいかがわしさにうんざりしてしまうが、組織委員会はきちっとした総括などする気はないようである。7000億円で既存の施設を使ったコンパクトな五輪にするといったのに、国立競技場を始め多くの施設を新設し、総額で3兆円とか4兆円になるといった結果をもたらしている。おそらくメディアも本気になって検証したりはしないだろう。日本人選手が活躍したからよかったんじゃないか、などといってうやむやにしてはいけないことなのにである。

2022年2月14日月曜日

国産品はどこへ行った?

・毎週買っていた熊本産アサリが、実は輸入品だったことがTBSの「報道特集」で放送されて、スーパーでの表記が中国産に変わった。小さくて食べにくいからと敬遠気味だったシジミに変えたが、これって本当に島根県産だろうかという疑問が湧いた。宍道湖だけで日本中に出回るシジミが取れるとは考えにくいからだ。そんなふうに考えると、あれもこれもと怪しくなるものが浮かんできた。 

・多少値段が高くても、できれば国産品がいい。そう思うのは、国産品に対する信頼感があるからだが、それが信用できないなら、何を基準に買い物をしたらいいのだろうか。アサリの産地偽装は、そんな疑問や不信感を募らせたニュースだった。それはともかく、食料品だけでなく他の商品でも、国産品が目立たなくなったなと思うことがしばしばある。

 ・冬の寒さをしのぐために、僕の家では薪ストーブと灯油のファンヒーターを一日中使っている。ストーブの上には大きな鍋を二つ置いて湯気を出し、その他に加湿器を2台つけっぱなしにしている。しかし今年の室内の乾燥があまりにひどいので、加湿器をもう1台追加することにした。そうすると、日立や東芝あるいは三菱といったメーカーのものはほとんどない。これがよさそうだと買ったのは中国製だった。 

・ 僕の家にある家電はほとんど国産メーカーのものだが、そう思って、アマゾンで調べると、もし壊れて新しく買い替えるとしても、大手の家電メーカーが作っていないものが多くなったことに気がついた。そう言えば、サンヨーはパナソニックに吸収されたし、シャープは台湾に身売りした。東芝は解体作業中だし、三菱や日立の業績もよくはないようだ。日本の経済成長を牽引した家電メーカーが総崩れだから、製品がないのも当然だと認識を新たにした。

 ・国産はよくて輸入品は粗悪だ。それが今でも一般的かもしれないが、実態はかなり違っている。スマホからはすでに撤退しているし、半導体も台湾のメーカーにお金を払って日本に工場をつくるようだ。先端技術から家電などの普及品まで、日本はすべてダメになってしまっている。これでは経済成長もしないわけだとまたまた納得をした。

 ・残るは自動車メーカーだが、これもEV開発に乗り遅れていて、斜陽産業になる危険性は十分にある。中国では廉価のEVが売れていて、すでに4割に達しているというニュースがあった。アメリカのテスラの時価総額がトヨタよりもはるかに高くなっているようだ。スバリストの僕は30年以上水平対向エンジンの車に乗ってきたが、次に乗り換える時にはやっぱりEVにしようと思っている。数年後にスバルが気に入ったEVを出しているのだろうか。そんなことまで考えてしまった。

 ・アサリから始まってあれこれ見渡した時に感じたのは、そんな日本の落日の様相だった。どう考えたって、もう経済成長する力はなくなっている。日本の底力などというテレビに騙されてはいけないのである。

2022年2月7日月曜日

厳冬とオミクロンの中

 

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秩父の三十槌の氷柱

forest181-2.jpg 12月から寒い日が続いている。薪がどんどん減って、とても春まで持ちそうもなくなった。ログハウスの周りに空きができてペンキを塗ったのだが、その後に、新たに割った薪を並べ、さらに年末に4立方メートルの原木を注文した。正月明けまでにそれを積み上げたところで、雪が少し降った。これで何とか来年の冬の準備はできた。それにしてもこの冬は寒いが雪は少ない。


forest181-3.jpg しかしこの冬はどうするか。昨年5月から乾している薪は、表面は乾燥していても、割って中を計ると湿気が30%以上もある。そこで思いついたのが、ストーブに載せて乾燥させるという方法だった。上に乗せれば当然焦げる。家中に香ばしい臭いが立ちこめる。時には水分が破裂してパーンといった音をたてたりもした。それで数時間経つときれいに燃えるようになった。これで何とか寒さはしのげそうだ。


forest181-4.jpg 母屋の化粧直しをしたら。工房がシャビーに見えるようになった。そこで続けて工房のペンキ塗りもやることにした。焦げ茶と緑の油性ペンキを買って、ほぼ全面を塗ることにした。2階の壁や玄関前の庇の上など、はしごで高く上がったり、足場が悪いところなど、こわい思いをしながら塗ったところも多かった。ついでに窓の汚れも落として、すっかり見違えるようになった。ペンキ代はログと合わせても数万円だが、職人さんに頼んだら、おそらく数十万円かかったはずである。その後デッキと玄関前のエントランスも塗ったが寒かった。


forest181-5.jpg こんな具合に、厳冬とオミクロン株感染の中で、家でせっせと働いている。寒くて自転車に乗ったのは数回だけだし、出かけるのは週一回の買い物だけだったが、たまには遠出もしたくなって、秩父の三十槌の氷柱と沼津の千本浜に出かけた。どちらも車での移動で人もまばらだったので感染の心配はなかったが、感染者数の増え方を見ると、しばらくは閉じこもるほうがいいと思っている。

テレビは相変わらず今日の感染者数はと言っているけれど、検査数については何も言わない。検査キットの不足もあって、感染者の実数は数十倍だと指摘する専門家もいる。1日10万人を超えたと大騒ぎしているが、実数は毎日百万人を超えるということになって、このままいけば、日本人の半数以上が感染するということになる。まさかと思うが、欧米の数を見れば、あり得ないことではない。くわばらくわばらである。

2022年1月31日月曜日

メディアの劣化が止まらない

 メディア、とりわけテレビの劣化が止まらない。大阪の毎日放送が正月番組に大阪維新の会の吉村知事、松井市長、そして橋下徹を出演させた番組を放映したようだ。これを視聴した人はもちろん、毎日放送内からも「中立性を欠くのではないか」といった声があがったようだ。もちろん、番組自体はバラエティのジャンルに入るものだから、政治的中立を守る必要はないといった意見もあった。しかし、吉本の芸人が司会する番組に維新の主要人物が顔をそろえて出演するといった番組は、やっぱり異常としか言いようがないように思えた。

ちょっと前に「維新とタイガース」というコラムを書いて、その類似性を指摘したが、ここにはもう一つ、「維新と吉本」の繋がりや共通性も指摘するべきだったと感じた。大阪のテレビ局は毎日放送にかぎらず、どこも維新の三人の出演を大歓迎していて、吉本の芸人たちとの放談を人気番組にしているようだ。おそらく視聴率も上がって、視聴者からの反応も悪くないのだろうと思う。しかし、これが維新の躍進の原動力になっているとしたら、テレビ局の姿勢は罪深いことである。

そうは言っても、民放は視聴率が命だから、人気のある人はたとえ政治家だって、タレントとして使うのは当たり前だとする意見もあるだろう。しかし視聴率やそれにともなう収益を最優先するのならば、メディアとしての公共性は放棄していると言わざるを得ない。実際そうとしか思えないような民放テレビ局が大阪にかぎらず、東京だって大半なのである。

そんなふうに思っていたら、NHKが東京オリンピックの記録映画を監督している河瀬直美を取材した番組で、問題が持ち上がった。僕は見ていないが、指摘されたのは、オリンピックに反対する運動に参加をして、その報酬として金をもらったという人をインタビューした場面だった。インタビューをしているのは助監督でNHKはその様子を後ろから映している。インタビューされている人の顔は隠され、声も聞こえないが、字幕には「お金をもらって動員されている」と出たのである。しかし、このシーンをめぐって視聴者から批判や疑問が起こると、そういうふうに話したかどうかをめぐって河瀬サイドとNHKとの間でズレが生じ、結局 NHKが全面的に謝罪をするという結果になった。

東京オリンピックは中止や延期の声が圧倒的に多かったにもかかわらず、強行開催され、そのためにコロナの感染を爆発的に増加させた。そんなオリンピックの記録映画をどうまとめるのか。それは極めて難しい課題だが、反対運動が金で集められたものだといった主張を、記録映画に入れようとしていたとしたら、この映画が政府の宣伝のためでしかないことは明らかだろう。実際デモの様子なども記録していたようだが、主催者にインタビューすることもなく、遠巻きに映しただけだったらしい。

NHKはすでにニュースの姿勢などから安倍チャンネルなどとレッテル貼りされて批判を受けてきた。しかしドキュメントなどではまだ良心的な番組作りをしていると思われてきた。ところがそれもなくなってしまっているとしたら、もうNHKは完全に権力の宣伝機関となってしまったといわざるを得ない。強制的に受信料を払わせる根拠は、NHKにはすでにないといっていいだろう。