・戸井十月がユーラシア大陸をバイクで横断した記録をNHKのBSで見た。4回に渡る放送だったが、おもしろかった。30年間バイクに乗ってきた者としては、夢のようなツーリングだが、彼はすでに南北アメリカ、アフリカ、そしてオーストラリアを走っていて、今回が五大陸を走破する、締めくくりの走りだった。はじめたのが1997年で、彼はその時49歳、走破した去年の秋には61歳になっていたようだ。
・僕は彼と同年齢で、白髪頭や走行中に見せた疲れた顔には親近感を持ったが、僕はバイクを、すでに50歳を過ぎた頃にやめている。寒さや暑さが応えるし、肩もこる。バランス感覚や一瞬の判断力にも自信がなくなったのが、やめた理由だった。だから、50歳近くになって5大陸の走破を目指したことに、驚き、憧れ、そしてあきれもしたのだが、還暦を過ぎて走破したことには、もう、ただただ敬服するしかない思いがした。
・ユーラシア大陸をポルトガルから出発して、ロシアのウラジオストックまで、その距離は3万キロで旅程はおよそ4ヶ月だ。飛行機で飛べば 12時間ほどで、それでも長いと感じる時間だが、3万キロというのは実際走ってみなければ、その距離の長さはわからない。しかも、いくつもの国を走るのだから、国境を越える手続きや、ことばや食べ物の違いなど、苦労することはいくつもある。
・ 横断した国はポルトガル、スペイン、フランス、イタリア、スロベニア、クロアチア、モンテネグロ、アルバニア、ギリシャ、マケドニア、トルコ、イラン、トルクメニスタン、ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、中国、モンゴル、そしてロシアの19カ国で、緊張状態の地域ははずすとはいえ危険なところは少なくないから、ルート選びは大変だったろうと思う。バイクと伴走車はホンダ、ウエアはヘンリー・ビギンズの提供で、全行程をサポートするスタッフが3人で、その他に各地で同行者が何人もいた。当然だが、相当の費用がかかったはずだ。
・放送は4回で計6時間にもなったが、通過した土地それぞれにさく時間は多くはない。大きな都市でも一瞬だったりするし、通ったのにまったくふれないところもあった。その代わりに、国境の通過、宿探しと値段の交渉、通りすがりの人に道をたずねることやガソリンスタンドで出会ったツーリング・グループとのおしゃべりなどに時間を割き、これまでに走った他の大陸でのさまざまな経験や出会いを挟み込んだりした。だから、番組は、戸井十月がユーラシア大陸をバイクで駆け抜けるロード・ムービーで、これはこれで焦点をはっきりさせたものに仕上がっていたと感じた。
・番組を見た後ネットで検索して、戸井十月のサイト越境者通信を見つけた。ここには出発前から走破後までの毎日の日記や計画概要やルート、装備などに渡る細かな記事が載っている。もちろん、過去にした4つの大陸走破についても、同様の記録が残されている。テレビ番組には登場しなかった出来事や人物についての記述も多くて、これはこれでいくつもの頁を次から次へと読んでしまった。彼のような大胆で大がかりな旅はとてもできそうにないし、する気もないが、ほんのちょっとでも、似たような経験をしてみたい。そんな気持ちをかき立てる番組とサイトである。