2017年1月23日月曜日

トランプ就任と「世界の片隅」

 

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・トランプがアメリカ大統領になった。ワシントンに集まった人の少なさや「女たちの行進」などの反対行動をする人の多さが報じられた。その違いは、8年前のオバマの就任式と比較すれば一目瞭然だろう。オバマの就任式には、90歳を超えたピート・シーガーやブルース・スプリングスティーンが登場して「This Land is Your Land」を大合唱したが、トランプの就任式には何の歌も歌われなかった。

・オバマ人気は、9.11後のブッシュ政権のひどさに対する米国民の期待の反映だった。オバマはイラクのフセイン政権を倒したことに始まる中東の混乱や、リーマンショックの後始末を任され、健康保険制度(オバマケア)の設立などを目指したが、何より黒人初の大統領であり、人種や宗教、あるいは性別に関する多様性を積極的に進めてきた。最後になって改めて、その成果が評価されて支持率が上がったが、8年間の支持率は不支持率と拮抗するようなものだった。

・トランプはオバマが掲げ実行した政策のほとんどに反対し、古き良き時代のアメリカを取り戻すと宣言した。アメリカ第一という傲慢さはもちろんだが、ホワイトハウスのホームページからは、環境問題やLGBTについての頁が削除されたようだ。彼の主張はアメリカさえよければ、地球のこと、世界のことなどはどうでもいいというものだし、そのアメリカも白人の男だけのことしか眼中にないというものである。彼の言う「偉大な国」の復活とは人種差別や性差別が当たり前だった時代にほかならないのである。

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・主人公のすずの家は、広島の海岸近くにあって板海苔を作っている。その生活は質素で食べるものも着るものの多くも自給でまかなっている。すずには心に秘めた人がいたが、結婚話を受け入れて呉に嫁いでいく。そこでの生活は度重なる空襲にあって困窮し、右手を失って絵が描けなくなり、広島の実家が原爆にあう。

・戦後生まれとは言え、僕はそんな戦時下における日本人の暮らしや生き様については、いろいろ知っていることがあったから、特に目新しく思うことはなかった。しかし、若い人たちには、すずを通して描かれた当時の暮らしや生き方には、現在の自分とは大きく違う一面を見た驚きがあったのかもしれないと思った。学生たちとそんな話もしてみたいと思ったが、残念ながら今年度のゼミがちょうど終わったところだった。

・トランプが大統領になって一番怖いのは、世界の一層の混迷と、戦争の勃発の危険性だろう。そうなれば確実に日本は巻きこまれる。世界の片隅に生きる僕たちにどんな災難や不幸がもたらされるか。この映画が予想を超えて多くの人に見られている背景には、若い人たちのなかにも、そんな不安があるのかもしれないと思った。

2017年1月16日月曜日

祝!!50周年 NGDB

 

Nitty Gritty Dirt Band "Circlin' Back - Celebrating 50 Years"
John Prine "For Better or Worse"

ngdb1.jpg・「ニッティ・グリッティー・ダート・バンド」は1966年にデビューしている。その50周年を祝うコンサートが2015年にナッシュビルの「ライマン・オーディトリアム」で行われた。このCDはそのライブ盤である。

・50年の間にメンバーはずいぶん入れかわったが、ジェフ・ハンナとジミー・ファッデンは代わらない。初期にはソロ・デビュー前のジャクソン・ブラウンが参加していたし、オールマン・ブラザースと活動を共にしていたこともある。他にもケニー・ロギンズやイーグルス、あるいはジェリー・ジェフ・ウォーカーなどとも一緒だったこともある。実際彼らの最大のヒットはジェリー・ジェフ・ウォーカーが作った「ミスター・ボージャングル」だし、ケニー・ロギンズの「プー横丁の家」だった。

ngdb2.jpg・カントリーやフォーク、あるいはロックミュージシャンと幅広い関係を持ち続けてきたバンドで、1972年には「このサークルは壊れないだろう」というタイトルのアルバムを出し、さらに89年に同名のタイトルで「Vol.2」を出している。どちらも、大勢のミュージシャンが参加したライブ盤だった。地味なバンドだが、誰かとの共演やバックバンドとしてよく名前が出てきてもいた。同じような役割を担ってきたバンドとして、ロックなら「ポール・バター・フィールド・ブルース・バンド」があった。残念ながらポール・バター・フィールドは1987年に死んでいる。

・この50周年を祝うアルバムにも「サークリン’ バック」とついているように、大勢のミュージシャンが参加しているし、最初の曲はボブ・ディランの「ユー・エイント ゴーイング・ノーホエア」で最後は「ウィル・ザ・サークル・アンブロークン」だ。ジャクソン・ブラウンは「ジーズ・デイズ」など2曲を歌っているし、ジェリー・ジェフ・ウォーカーが「ミスター・ボージャングル」、ジョン・プラインが「パラダイス」などを歌っている。

prine1.jpg・そのジョン・プラインが新しいアルバムを出した。タイトルは「フォー・ベター・オア・ワース」(どんなことになろうと永遠に)で、結婚式の宣誓式で使われることばである。ジャケットも表は結婚式の二人で、裏は海を眺める老夫婦の後ろ姿になってる。彼もまたデビューしてから50年近くなる。地味だが多くの人に歌われてヒットした曲も少なくない。アル・クーパー、ボニー・レイト、ベット・ミドラーなどで、ベットが歌った「ハロー・イン・ゼア」は大ヒットをしている。

・「ハロー・イン・ゼア」は子どもが家を出たり戦死して、夫婦二人だけになった老人を語った歌だ。年月が経てば木は大木になるし、川も大河になる。なのに人間は孤独になっていく。そんな内容だ。今になってしみじみわかる歌だが、彼がこれを作ったのは、まだ30歳にもならない時だった。

prine2.jpg・「フォー・ベター・オア・ワース」はカントリー調のサウンドで、全曲女性とのデュエットだ。誰一人知らない人ばかりだが、「マイ・ハッピネス」をパートナーのフィオナ・プラインと歌っている。結婚は三度目のようで、フィオナとプラインは親子ほど歳が違う。子どもも3人いるようだ。「ハロー・イン・ゼア」の主人公の歳になってもけっして孤独ではない。そんな彼の気持ちが、アルバム全体に溢れている。

・同世代のミュージシャンがずいぶん死んでしまっているが、元気に新しいアルバムを出し、コンサート活動をしている人もいる。僕もこのサークルを遠巻きにして、いつまでも聴いていたいと思う。

2017年1月9日月曜日

今年の卒論

 

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・ 今年の4年生は7名です。国内研究で2年生のゼミを持たなかったために、全員3年生からの参加になりました。2年次のゼミから追い出された人、どこかに入らなければ卒論の指導をしてもらえないからといった消極的な理由の人、先輩からのすすめで3年次まで待った人、そして休学から復帰してやってきた人など、不揃いのリンゴたちでした。

・3年次のゼミが始まるとすぐに、一人が「飲み会」をやりたいと言いました。お互いに距離を近づけるチャンスですからOKを出しましたが、全員出席とはいかず2名が欠席でした。続いて夏休みの合宿もやりたいというのでこれも承諾しましたが、出席者は3名だけで、他のゼミの学生が2名参加をしました。合宿とは言え、勉強らしきものは何もやりませんでした。

・ゼミは本当に初歩の初歩からで、論文というよりは文章の書き方からはじめ、そもそもコミュニケーション学部で何も勉強していないことを自覚させたり、本を読んで、その内容をまとめてレジュメを作らせたり、ゼミで発表させたりと、それこそ1年生並の授業で半年が終わりました。

・3年生の夏休みに卒論に向けたレポートを書かせ、その発表や修正に後半を費やし、何とか卒論の準備ができたと思いました。で、春休みの宿題として続きを5000字書いて4月のゼミまでに提出することを課しました。ところが提出したのは1人だけ。出さなければゼミへの出席は認めない。こんな通告をいいことに、前期もまるで出席してこない学生もいて、ゼミはほとんど開店休業状態でした。

・そんな状態は夏休み明けの後期になっても変わらずで、卒論の最終提出1ヶ月前に設定した提出とその後の修正作業にも、2人が反応せずで、わずか7人なのに2人も落第か、とうんざりしてしまいました。その2人は最終提出日にやっと論文を持ってきましたが、できは推して知るべしで、まあまあがんばった学生も含めて、今年は一言、「おそまつさん」というほかないものになりました。


今の若い世代について ……………………………………………………………中島 啓太

お酒とコミュニケーション ………………………………………………………福原 涼祐

遊びとスポーツの境界線にあるスケートボード ………………………三ツ橋海州

大学長距離ランナーの栄養管理 ………………………………………………堀田 将純

聖飢魔IIが日本の音楽界に与えた影響………………………………………向井 陽也

フリースタイルフットボールというカルチャーとその起源…………伊藤 在生

「ファストファッション」の成長と裏側…………………………………志村由香里

2017年1月2日月曜日

はじまりの日

 

ボブ・ディラン『はじまりの日』岩崎書店
『ボブ・ディラン全詩302篇』晶文社

bobdylan1.jpg・今日は2017年のはじまりの日。2016年は嫌なことがいっぱいあった。で、2017年も良くなるとはとても思えない。とは言え、去年はディランに20年ぶりに会った。70代の半ばにもかかわらず、2時間たっぷりのステージで、いつまでも若いな、と感心した。ここのところ、同世代のミュージシャンが相次いで亡くなっているから、そんな気持ちが後々一層強くなった。さらに、ノーベル賞の受賞と、それに伴う彼の言動についての騒ぎで、ディランのことをあれこれ考えるようにもなった。

・ボブ・ディランの『はじまりの日』は彼の "Forever Young" をポール・ロジャーズが絵本にして、それをアーサー・ビナードが日本語に翻訳したものである。この歌は1974年に発表されていて、当時はまだ20代の半ばだった僕は、自分に対する励ましや戒めの歌として、この歌を聴き、口ずさんだ。1962年のデビューから1985年のアルバムまでを集めた『ボブ・ディラン全詩302篇』(晶文社)では「いつまでも若く」というタイトルで、次のような出だしで訳されている。
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神の祝福がいつもあなたにありますように
ねがいごとがすべてかないますように
いつもひとのためになりますように
ひとがあなたのためにありますように
星までとどくはしごをつくり
ひとつひとつの段をのぼり
あなたがいつまでも若くありますように(片桐ユズル、中山容訳)

・ところがビナード訳は題名が「はじまりの日」で、次のような出だしになっている。

きみが手をのばせば しあわせに とどきますように
きみのゆめが いつか ほんとうに なりますように
まわりの 人びとと たすけあって いけますように
星空へ のぼる はしごを 見つけますように
毎日が きみの はじまりの日
きょうも あしたも あたらしい きみの はじまりの日

・なぜ、 "Forever Young" を「いつまでも若く」ではなく、「はじまりの日」と訳したのか。そんな疑問を持ったが、この絵本の裏表紙には、「ぼくはひとりアリゾナに行って、そこで息子のことを思いながら『フォーエバー・ヤング』という歌をつくった。べつに作詞作曲をやろうと意気込んだわけじゃなく、自然にうかんできて、そのまま出来上がった。なるべく感傷的にならないようにと、ちょっと努力しただけだ。」というディランのことばが載っていた。

・それで納得、と思っていたのだが、ビナードが「デモクラTV」の「ウッチーのデモくらジオ」で、「『いつまでも若く』なんて訳すのはおかしい」といった発言をした。辞書で直訳ではダメなんだとも。しかし、それはディランが息子の誕生に際して作った歌であったことがわからなければ、「はじまりの日」とは訳せないだろうし、オフィシャルな訳詞をしたのは実績のある二人の詩人でもあった。ビナードは詩人なのに彼らを知らないのだろうか。逆にそんな反論をしたくなった。実際僕は、この歌を20代の僕に向けられたものとして聴いたのだし、原詩と照らし合わせても、忠実でなおかつ適切なことば選びをしていると思っていたからだった。

・ところでこの絵本は2010年に出されていて、すでに3万部売れていたのだが、ディランがノーベル賞を取った途端に5000部の注文が来たようだ。出版元の岩崎書店は増刷した本に「ノーベル文学賞」を強調した帯をつけようとしたようだが、ビナードは反対して、「ノーベル文学賞だって」で妥協したといった話もした。帯は所詮チンドン屋だからとも。売れることにはあえて逆らわないが、チンドン屋を出して売り出すこともない。それはビナードの主張だが、ディランの気持ちを代弁するものでもあったはずだ。

・僕はこの本を孫の誕生日にプレゼントしようかと思っている。一番伝えたいのは次の歌詞だ。絵本では反戦デモが描かれている。

May you have a strong foundation when the winds of changes shift.

つよい基盤をもち 変化の風向きがかわろうとも(『全詩篇』)

流されることなく 流れを つくりますように(『はじまりの日』)

2016年12月31日土曜日

目次 2016年

12月

26日:区切りの年の終わり

19日:世界が壊れはじめている

12日:「ボブ・ディラン ノーベル賞詩人 魔法の言葉」

05日:Sting、Morrison、and Greenday

11月

28日:車の運転について思うこと

21日:ソローをまた読みたくなった

14日:あらら、トランプだ!?

07日:紅葉と薪割り

10月

31日:追悼 平尾誠二

24日:ハロウィンって何ですか?

17日:ディランとノーベル賞

10日:オリンピック批判の本

03日:雨、雨、雨

9月

26日:最近買ったCD

19日:さよなら、Docomo

12日:久しぶりの映画館

05日:文化としての食

8月

29日:オリンピックが終わって

22日:コロンブスは世界をどう変えたか

15日:また祭日が増えた

08日:経済、メディア、そして教育

01日:感情と勘定が世界を劣化させている

7月

25日:テレビをおもしろくした人たちの死

18日:『<オトコの育児>の社会学』

11日:アイルランドの若い歌手たち

04日:休日の散歩と自転車

6月

27日:EU を壊してはいけない

20日:桝添イジメで隠されたもの

13日:Apple のバッテリー

06日:『日本政治とメディア』

5月

30日:まだやるぞ

23日:日々のあれこれ

16日:おかしな世の中ですね

09日:「ブラタモリ」と熊本地震

02日:斜陽の国と認めなければ

4月

25日:野球の始まり

18日:春が来た

11日:Bob Dylan at Orchard Hall

04日:がんばれサンダース

3月

28日:本棚ができた

21日:高校生の政治意識

14日:ホームレスと難民

07日:室井尚『文系学部解体

2月

29日:壁一面の書架作り

22日:最近買ったCD

15日:公正中立とは政府に従うこと

08日:2016 という年

01日:『職業としての小説家』ほか

1月 

25日:ミステリーとファンタジー

18日:暖かい冬だけど

11日:今年の卒論

04日:ディラン前夜のグリニッジ・ヴィレッジ

2016年12月26日月曜日

区切りの年の終わり

 

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forest95-1.jpg ・2016年ももうすぐ終わる。歳を取るごとに1年が早く過ぎると感じるようになった。そして、あと3ヶ月で退職になる。定年よりは2年早い退職だが、もう十分働いたと思う。大学の専任になったのは40歳だったが、その前に30歳前から非常勤で働いてきたから、もう40年ほどになった。長かったなーと思うけれども、あっという間だったと言えなくもない。

・河口湖に住んで東京に車で通う。こんな生活も17年が過ぎた。片道100kmを1時間半ほどかけて運転して、いったいどれほど走ったのだろうか。車の走行距離から言うと、おそらく40万kmぐらいにはなるだろうと思う。地球から月までの距離とほぼ同じだし、地球の円周は4万kmだから10周したことになる。これはやっぱりすごい距離だと思う。

thesis.jpg・ゼミで教え、卒論の指導をした学生は、ざっと400名弱ぐらいだろうか。年ごとに並はあったが、大学生が本を読まなくなったこと、満足な文章が書けなくなったことは確かだと言える。手書きからワープロになり、パソコンになって今はスマホで書いている者もいる。ネットでの検索が簡単でコピペが当たり前になったせいだと思う。それに大学を就職予備校のように考える学生が多くなって、興味のあることに時間を費やすことをしなくなったということもある。当然だが、話の通じるおもしろい学生が少なくなった。

 

book.jpg・東経大での仕事は僕にとっては大学院が中心だった。コミュニケーション学部が大学院を作ったときに着任して、最初の10年ほどは毎年複数の学生を担当してきた。博士課程まで進んだ学生も10人近くいて、週一回のゼミには数年前まで毎回大勢の参加者があった。そのメンバーを中心に『コミュニケーション・スタディーズ』『レジャー・スタディーズ』(共に世界思想社)、『「文化系」学生のレポート・卒論術』(青弓社)といった本を出してきた。ただ勉強するだけでなく、一緒に生産しよう。そんなポリシーで続けてきた。

forest125-1.jpg ・ところで肝心の森の生活だが、できることは専門家に任せず自分でやる、といった信条はまだ続けることができている。ストーブの薪、家のメンテナンス、買い物などなどだ。山歩きはパートナーの病気で中断気味だが、数年前から自転車に乗るようになって、昨年ロードバイクに乗り換えてからは、天気のいい休みの日にはほとんど乗っている。退職したら準備をして富士山周辺を一回りしたり、五合目までのヒルクライムにも挑戦したいと思っている。
・研究室の本はもう8割以上、家に持ち帰った。春休みに作った書架はほぼ満杯になったから、いらない本や書類の整理もしなければならない。書斎や寝室は本でいっぱいだが、さて、晴走(工)雨読となるのだろうか。大学を辞めたら研究も辞め。今はそんな気分だから、本は積読状態になってしまうかもしれない。もっとも、ずらっと並んだ背表紙を眺めるだけでもいいかも、なんてことも思っている。

2016年12月19日月曜日

世界が壊れはじめている

 

・オバマ米大統領が広島を訪問したお返しなのか、安倍首相もハワイの真珠湾を訪問するという。日本軍が真珠湾を奇襲攻撃して太平洋戦争を始めたのは、75年前の12月8日だった。その戦争にいたる過程と現在の状況に、どこか似ているところがあるような、そんな恐ろしさを感じるようになった。

・アメリカはトランプが大統領になれば、「アメリカズ・ファースト」で対外的には政治的にも経済的にも強硬姿勢になると言われている。ヨーロッパでも極右政党が勢力を増して、政権を取る国が出るのではと不安視されている。オーストリアではきわどい形で緑の党が勝ったが、フランスやイタリアでは現実化するかもしれない。

・そんな傾向が強まってきた原因は、一つはシリアなどからの移民の流入に対する社会不安だし、もう一つはグローバル化による経済的な不安だろう。だから、どの国の人たちも外国人を排除し、国内の経済を活性化させ、自国の力を建て直すことに、ときに熱狂的なほどに賛同するようになってきた。協調や融和ではなく、対立と競争が前面に出れば、いつどこでどんな紛争や戦争が起きても不思議ではない状況になるかもしれない。

・そのシリアは政府軍が反政府軍が支配していたアレッポを制圧して、民間人を大量に虐殺しているといったニュースがあった。政府軍の後ろ盾はロシアで、空爆が激しく行われたようだ。現地はまるで地獄のようで、さらなる難民がトルコやギリシャに押し寄せるかもしれない。プーチンが来日した日ロ首脳会談では、その惨事は議題にならなかったようだ。もっとも4島どころか2島変換の話もなかったから、いったい何のための首脳会談だったのかと思う。

・第二次世界大戦の反省から生まれたEUが崩壊の危機に陥りはじめている。貧富の格差や人種や性、そして障害者に対する差別といった問題は、長い時間をかけて少しずつ改善されてきたものだが、これらに対する批判や逆行をあからさまに発言する声が強くなっている。ここにあるのは、何より理想の崩壊だし、建前が持つ節度の無意味化だろう。トランプの勝利はまさに、そんな立場の正当化にほかならない。

・その大統領選挙では票の集計に対する疑問や、民主党に対するロシアのサイバー攻撃が取りざたされている。Facebookを使った誹謗中傷や嘘の記事の拡散もあったと言われている。「正しさ」「真実」「事実」「正義」といったことばがほとんど無意味化し無力化しつつある。

・もちろん、理想を掲げ、その現実化に向かうためには、その正当さに異議を差し挟みにくい「余裕」の意識が必要だ。その「余裕」が大戦後に経済成長を遂げた先進国を先頭にして、さまざまな問題を是正しようとする動きを作り出してきた。そして今、その成果をことごとく否定する声や動きが強まりはじめている。「世界が壊れはじめている」と思うのは何より、そんな戦後の流れを否定して逆行させようとする動きが勢いを増していると感じるからだ。

・ところで日本はどうか。もう政治的にも経済的にも崩壊しかかっているのに、そんなことはないかのようにふるまっている。トランプ政権に反応してアメリカの株価が急騰している。日本の株価もそれに反応して去年の数字を回復した。「理想」ではなく「金」。そんな風潮が露骨に現れている。

・安倍首相は就任前のトランプに尻尾を振ったのに反故にされ、プーチンには馬鹿にされた。オバマは真珠湾でどんな態度を取るのだろうか。反対に天皇の要望には、手持ちの有識者を並べて冷たくあしらおうとしている。それこそ恥の上塗りだが、支持率は少しも下がらない。日本はとっくに壊れかけているのに、政治家もメディアも知らぬふりだ。