・トランプ米政権がスタートして、さっそく選挙中の公約を実行しはじめている。メキシコ国境に壁を作る、TPPの永久不参加、日本の自動車メーカーへの攻撃、入国審査の厳格化、オバマケア撤廃、原油パイプラインの建設認可などなどで、ホワイトハウスのホームページからは環境問題やLGBTに関する項目が削除されたようだ。オバマ大統領が進めてきたこと、制限してきたことの全てに「ノー」を突きつけていて、まさに破壊行為とでもいうほかはない振る舞いである。
・悪役プロレスラーの反則行為、と言うよりは善玉がリングを去った後の雄叫びと言った方がいいのかもしれない。しかし、それが世界中を慌てさせているのだから、トランプはさぞやご満悦のことだろうと思う。ところが、彼は少しの批判にも逐一ツイッターで反論し、罵倒を浴びせている。ウイメンズ・マーチで演説したマドンナに対して、ゴールデングローブ賞でのメリル・ストリープのスピーチに対して等々である。就任式に訪れた人びとの数の少なさについては、マスコミの意図的な操作だと批判をした。
・こういう思慮のない、肝っ玉の小さい人が権力の座についたら、何をしでかすかわからない。そんな心配が世界中に蔓延しているが、日本ではすでに似たような権力者が4年も居座っていて、さらに東京オリンピックまで続けてやろうとしている。「アメリカを偉大な国として復活させる」というスローガンは、「日本を取り戻す」という公約とそっくりだし、そのために感情に訴えて論理や倫理を無視する姿勢も共通している。
・アメリカのアマゾンではジョージ・オーウェルの『1984年』がベストセラーになったと言う。リベラルなアメリカ人にとってトランプはまさに独裁者「ビッグ・ブラザー」と二重になって認識されているのだと思う。その独裁国のスローガンは「無知は力、戦争は平和、自由は奴隷」で、全ての情報は「真理省」が統制していた。そんな世界が現実になろうとしているが、その方がいいと思う人がアメリカには4割もいる。僕はそのことの方に、一層の怖さを感じている。
・オックスフォード英語辞典が2016年を象徴する単語として「ポスト・トゥルース(脱真理)を選んだ。「真理」「真実」「事実」がないがしろにされる時代になったということだが、もちろん、ないがしろにする精力もまた「真理」「真実」「事実」を使う。「真理省」が発することだけが「真実」であり、それだけを信じることが力になるし、戦争状態こそが平和の証しであり、自由に囚われた状態からは解放されるべきだ。そんな虚構の世界が、オーウェルが『1984年』を書いてから70年後に世界の現実になったのである。
・トランプ政権の報道官が就任式の参加者は150万人にもいたとして、それが「オルタナティブ・ファクト」だと言った。「もう一つの事実」あるいは「別の事実」といった意味だが、こういう使い方をすれば、何でも自分の都合の良い判断をして、それこそが事実だと主張できる。そう言えば安倍首相は、自分の政策の失敗を認めずに別のことばで言いかえて、それが「新しい判断だ」と言った。
・こんな状況に対して抗するのは何よりメディアの仕事で、アメリカでは大統領とメディアの関係が険悪になっている。ハリウッドの俳優やミュージシャンの多くも公然と、トランプ批判をしている。ところが日本では、テレビはもちろん新聞も、政権の批判をほとんどしない。俳優もタレントもミュージシャンも、批判を公言する人はほとんどいない。実は日本の方がずっとひどいことになっているのだが、最近目につくのはトランプの暴言に対する驚きや不安ばかりである。
・就任前にトランプ詣でをした安倍は電話会談をして、「トランプ氏の指導力によって、米国がよりいっそう偉大な国になることを期待しており、信頼できる同盟国として役割を果たしていきたい」と語ったようだ。アメポチそのもので、言いなり外交を最初から宣言してしまっている。もちろんアベポチのメディアは何も言わない。