・今年の冬から春にかけては、なじみのミュージシャンがずいぶんやってきてコンサートをやるようだ。ボブ・ディランのほかに、ジャクソン・ブラウンとシェリル・クロウ、キャロル・キングとジェームズ・テイラーはジョイントでやる。どれにも出かけたいのだが、夜遅くなって家まで帰ることを考えると、やっぱり躊躇してしまう。第一に、会場近くに車を停めることができるかどうかも不確かだ。いつでも、「行きたいな」と思い、「どうしようか」と悩み、「やっぱり、やめとこう」となる。この繰りかえしで、もう何年も東京でのコンサートに出かけていない。けれどもやっぱり、ライブの魅力は捨てがたい。
・僻地に住んでいてネットは未だにISDNだから、YouTubeもほとんど見ることはなかったのだが、講義で使いたい材料を探しながら、好きなミュージシャンのライブ映像が結構あることを、今さらながらに発見した。ダウンロードはもっぱら大学の研究室だが、今年度の授業が終わり、成績もつけたから、これから、しばらくはじっくり検索できる時間がとれそうだ。もっとも、探したいのは、なじみのミュージシャンばかりではない。狙いをつけているのはロックンロールが登場する以前に活躍した伝説的なブルース・シンガー、中南米のフォルクローレ、ヨーロッパのシャンソンやフラメンコ、そしてアフリカの音楽だ。ここにはもちろん、現在のものだけでなく、歴史的なものが含まれる。
・来年度に新しくはじめる講義で数回、「ロマ」の音楽をインドからヨーロッパまで辿って、その民族の歴史的変遷と現状を話そうと思っている。集めたCDと画像を使ってと考えていたが、動画が見つかれば、もっといい。あるいは、ポピュラー音楽が現在のようなサウンドや楽器編成になったプロセスには、数十年、数百年の時間の経過があり、世界中を移動する空間的な経過もある。音楽のグローバル化は今に始まったことではないのである。
・ハイチの地震で大きな被害が出ている。世界でもっとも貧しい国の一つで、ストリート・チルドレンが多数いる街が一瞬にして瓦礫の山と化した。その惨状にアメリカのミュージシャンたちが立ち上がっている。アフリカの飢饉に援助の手をと呼びかけられた「Live Aid」の再現だと言われている。「Live Aid」は、アメリカのフィラデルフィアとイギリスのロンドンを拠点にして、1985年に世界中で同時に開かれたライブだが、その記録は数年前にDVDで発売された。僕はテレビの生中継を見て、ビデオにも録画して、授業で何度か学生に見せてきた。DVDになったライブは他にもたくさんあって、 YouTubeとあわせて、ずいぶん便利になったものだと、つくづく感じてしまう。
・マドンナのライブ"I'm Going To Tell You A Secret
'を買った。CDとDVDのセットで、ついでに彼女のビデオクリップを集めたDVDも購入した。ライブもビデオクリップもよくできていると再認識した。マイケル・ジャクソンとほぼ同時期に大ブレイクして、どちらも音楽とダンスの関係を決定的にした。マイケル・ジャクソンが死んで、今は彼のCDやDVDが売れているが、この四半世紀、とりわけ21世紀になってからの仕事としては、マドンナのほうが圧倒的に勝っている。
・マドンナのビデオクリップを見ていてあらためて、ダンスはセックスなのだと再認識した。彼女の踊りはセクシーだが、同時にマッチョでもある。見ながら、虚と実、静と動、中心と周縁、露骨さと洗練さといったことばが浮かんできた。
・とは言え、基本的に音楽は耳だけでいい。そういう思いは変わらない。だから、DVDやYouTubeで探すのは、主に記録として価値のあるものになる。音楽を楽しむのは、圧倒的に何かをしながらの聴取で、映像もという時には、集中的な視聴が必要になる。だから録画したビデオや購入した DVDは、そのほとんどが一回限りの視聴で、後はほこりをかぶっている。DVDを買う気にならない理由の一つである。