2014年1月2日木曜日

厳冬の時代へ

 

forest112.jpg
この冬はいつになく寒い日が続きます
しかし、寒々しいのは天気よりは、政治や社会の情勢でしょう
安倍自民党の暴走は、時間を逆行して
戦前の時代にまっしぐらのように思えます
新年に際して、とてもおめでとうなどと言えない時代になりました

もっとも、そう感じない人たちが多いのも事実です
安倍内閣の支持率は「特定秘密保護法」の強行採決で下がりましたが
それも一時的で、すぐに回復したと言われています
本当にそうでしょうか

マスメディアが信用できないことは3.11以降、自明のことですが
最近の、特にNHKの報道姿勢には、世論の操作という意図があからさまです
天皇陛下が誕生日に際しておこなった「平和憲法の大切さ」についての発言を
NHKはカットしてしまいました
反対に、安倍の靖国参拝は突然だったにもかかわらず、長々と報じました
こんなあからさまな情報操作が、平然と行われているのです

4月には消費税があがります
増税の理由は、国の財政の改善と社会保険制度の充実だったはすですが
国の予算は借金上積みのばらまきの復活ですし
社会保険は充実どころか削減されるものばかりです

財政の破綻、民主主義の崩壊、放射能による汚染
そして近隣諸国との緊張関係等々
一触即発の危うい状況が現実味を帯びてきています
日本政府はアメポチと言われるほどにアメリカの言うなりですが
安倍の言動を、アメリカは「失望」と批判しました
まるで、買い主の言うことを聞かずに吠えまくる「バカ犬」扱いです

日本は厳冬の時代に向かって加速するばかりです
景気回復を唱えるアベノミクスや東京オリンピックの開催など
暖かくて明るいイメージが一方にありますが
それは氷山にぶつかる直前のタイタニック号の船内のようにも思えます
その豪華客船の船底には、飢饉を逃れてアメリカに向かう
多くのアイルランド難民の人たちがいました

冬はこれから厳しくなります
厳冬の時代には
春ははるかかなたに遠ざかるばかりです

2013年12月31日火曜日

目次 2013年

12月

23日:義父の死

16日:最近買ったCD

9日:「特定秘密保護法案」の強行採決に思う

2日:JFK暗殺から50年

11月

25日:古典を読もう

18日:紅葉と冬支度

11日:「ソロモン流:上原浩治」

4日:秘密・嘘・謝罪

10月

29日:Danny O'Keefe" O'Keefe"

21日:秋の山歩き

14日:「大丈夫です」って何?

7日:エリック・ホッファー『波止場日記』他

9月

30日:メジャーリーグと日本人選手

23日:千客万来の夏

16日:Bob Dylan "Another Self Portrait"

9日:福島、シリア、そしてオリンピック

2日:北海道の旅

8月

26日:利尻・礼文から

19日:幸福について

12日:山歩きと自転車

5日:夏休み

7月

29日:音楽と政治

22日:戦前の日本に戻っていいのだろうか?

15日:「カルチュラル・タイフーン2013」報告

8日:「カルチュラル・タイフーン2013」にお越しください!

1日:アルンダティ・ロイ『民主主義のあとに生き残るものは』

6月

24日:車の進化

17日:「カルチュラル・タイフーン2013」準備中です

10日:テデモクラTVを見よう

3日:大工仕事

5月

27日:漠と渡とグッドマン

20日:春の山歩き

13日:もう醜悪と言うしかない

6日:長田弘『アメリカの心の歌』

4月

29日:テレビを買い換えた

22日:新刊案内『「文化系」学生のレポート・論文術』

15日:薪割りと山歩き

8日:suzumoku"キュビズム"他

1日:京都と成明さん

3月

25日:ポール・オースター『ブルックリン・フォリーズ』

18日:ヴェトナムで考えたこと

11日:ヴェトナムからの手紙

4日:K's工房個展案

2月

25日:雪かきと薪割り

18日:演説と講義

11日:テレビの60年

4日: クリス・アンダーソン『Makers』他

1月

28日:パティ・スミスのコンサート

21日:今年の卒論

14日:When I'm Sixty Four

7日:モリソンとノップラー

1日:新年に思うこと

2013年12月23日月曜日

義父の死

・今年で93歳になった義父が亡くなった。3年ほど前から老人ホームに入っていて、時折訪ねると元気な様子で、笑顔で迎えてくれていた。しかし、今年になって肺炎にかかり、病院の入退院をくり返していて、先月お見舞いに行った時には、ずっと眠ったままだった。

・彼が老人ホームに入るまでは、僕の両親と年一回、那須にある義兄の別荘に泊まり込んで歓談の時を過ごしてきた。それができなくなって両親は残念がっていたが、僕の父も3年前に体調を崩し、昨年の母の病気を契機に二人そろって老人ホームに入った。二人とも今は元気だが、ほとんど外に出ることもない。義父の死を伝えるのはちょっとつらかった。

・義父は学徒出陣でフィリピンに送られた。アメリカ軍との戦争に負けて、セブ島を何日もさまよって捕虜になった。その体験について、彼はあまり話したがらなかったが、一緒に食事をしている時に口にした「上タン」ということばをきっかけに話をし出したことがあった。「上タン」とは上質のタンパクという意味で、セブ島をさまよっている時に食べるために捕まえた動物の中で、おいしくて栄養価のあるものを、こう呼んでいたというのだった。現地の人が飼っていたニワトリを盗んだこともあったようだ。

・その話を聞いて、もっといろいろ聞いてみたいと思ったのだが、彼はそれ以上には話したがらなかった。何しろフィリピンに送られた兵隊達の1割程度しか生き残って帰国できなかったのである。戦後も長い間、その体験に苦しめられてきて、自分なりの整理はできなかったようである。

・亡くなったという知らせがあったのは朝1時限目の授業のために早起きをして出かける用意をしているときだった。帰りがけに父母のいる老人ホームを訪ねて、クリスマスと正月用にと買ったシクラメンを届けるつもりでいたから、授業を終えるとまず、老人ホームに寄ることにした。母は一緒に那須に行ったときの話をして、気落ちした様子だった。

・通夜も告別式もせず、翌朝子どもたちだけで見送って、お骨にして義兄の家に持ち帰った。義母はすでに8年前になくなっている。親戚もそのほとんどは他界しているから、連絡も孫のところだけにした。人生の最後を老人ホームで過ごし、長生きをすれば、最後はこんなふうに静かなものになる。超高齢化社会では、都会で生活する者にとって、大がかりな通夜や葬式は不要のものになる。そんなことを実感した。

・それが寂しいとか冷たいなどとはまったく思わなかった。人の死は本人よりは、残った者の問題である。関係の記憶を強く持つ者だけが見送ればいい。僕の父母にそんな話をしたら、二人は何と言うだろうか。父はまだ、形式を気にするかもしれない。そうだとしたら、強制はしないが、説得しなければならない。帰りの車を運転しながら、そんなことを考えていた。家が近づくと風景が雪景色に変わっていた。

2013年12月16日月曜日

●最近買ったCD

Pearl Jam "Lightning Bolt" "Riot Act"
Travis "Where You Stand"
Stereophonics "graffiti on the train" "Keep Calm and Carry on"

jam1.jpg・エディ・ヴェダーはいいけどパール・ジャムはちょっとうるさい。そんな印象があって、最近のパール・ジャムのアルバムは買わなかったのだが、ヴェダーの"Into the Wild"と"Ukulele Songs"がよかったから、新しく出た"Lightning Bolt" を買ってみた。やっぱりグランジだからうるさい曲が多いけど、じっくり聞かせる落ち着いた曲もある。「サイレン」は夜サイレンが鳴り響くアメリカの都会をイメージさせる。「ペンデュラム」は振り子という意味だが、落ちるところまで落ちて高さがわかるとか、火の中にいるのに寒い、あるいは未来の明るさが照らすのは行くべき場所がないということ、といったことが歌われている。

jam2.jpg・パールジャムのアルバムはデビュー後の3枚だけしか持っていなかったから、ほかにも何枚か買った。"Riot Act"は2002年に出たアルバムだ。タイトルは9.11の1年後ということが関係しているのかもしれないが、アルバムと同名の曲はない。「アイ アム マイン」には次のような歌詞がある。

海は泣き叫ぶ人たちの涙で溢れている
満月が高潮に被る人たちを探している
悲しみが否定される時こそ、悲しみが大きく膨らむ
俺の気持ちを知っているのは俺だけ
俺は俺

travis1.jpg・トラヴィスの"Where You Stand"は5年ぶりのアルバムだ。しばらく出てないと思ったが、5年とは久しぶり。ただし、相変わらずのトラヴィス節で、以前のアルバムと続けて聴いたら、どれがどれやらわからないほどだ。と言って批判しているわけではない。コールドプレイはすっかり飽きて、もう聴く気がしないが、トラヴィスとはまだまだつきあい続けたい。そんな気持ちになった。地味で、それほどメッセージ性もないけれども、いつも曲が美しい。そう言えば、同じスコットランドのグラスゴー出身のスノウパトロールも最近聴いていない。アルバムが出ているようだから、買うことにしようか。

stereophonics5.jpg ・ステレオフォニックスはうるさいけれども曲がきれいだから、僕の基準では、パールジャムとトラヴィスの中間に位置する。ウェールズ出身のバンドで、このコラムでも幾度か取り上げたことがある。しかし、調べてみると2008年だから、このバンドも5年ぶりとなる。もっとも、"graffiti on the train" の前に"Keep Calm and Carry on"が2010年に出ていて、これは気づかなかったからあわせて購入した。

・アルバム・タイトルになっている「列車の落書き」は、彼女に見せようと列車に「結婚しよう」と落書きをして、足を滑らせて死んでしまった男の物語だ。ストーリー・テラーであるのもこのバンドの魅力で、この歌は、翌日彼女が朝駅で待っていると、その列車がホームにやってくると続く。乗ろうとしたドアに「結婚しよう、愛してる」と書いてあって、彼女は彼に電話をするが、ベルは鳴りっぱなしのままだ。

stereophonics4.jpg ・"Keep Calm and Carry on"は第二次大戦中にイギリス政府が発行したポスターの標語だ。「冷静に、続けよ」といった意味で、爆弾が降る中でも紅茶を飲む冷静さと、しかしあくまで戦い続ける不屈の精神をもったイギリス人を表す標語として、戦後も使われたようだ。タイトルと同じ曲はないから、なぜこんな題名をつけたのかはわからない。しかし、以前のアルバムに比べて穏やかで、じっくり聴かせるサウンドになっている。二枚ともものすごくいいできで、改めてこのバンドの実力を確認した。

2013年12月9日月曜日

「特定秘密保護法案」の強行採決に思う

 ・「特定秘密保護法案」が自民公明の強行採決で、衆議院、そして参議院で可決された。とんでもない悪法で、世論の反対はもちろんだが、さまざまな人たちが反対の声をあげ、デモや集会がいくつも開かれた。安倍政権は、そんな反対の声を無視して採決を強行したのだが、そんな姿勢が選挙での大勝と支持率の高さによることは間違いない。とんでもない政権を誕生させてしまったと後悔しても、後の祭りというものである

・なぜ今、こんな法律を急いで可決する必要があるのか。それを考えた時に思うのは、この法律が、安倍政権になって突然現れてきたものではないということである。古くは1987年に「スパイ防止法」が議員立法として提出され、廃案になっている。その後も、国家秘密の管理体制を強めようとする動きは各省庁の中で続いていて、それは民主党が政権を取った期間も行われていた。つまり、この法案は、政治家や政党よりも、官僚たちが作りたくてしょうがなかったものだということだ。さらに言えば、アメリカの要請だろう。

・「特定秘密保護法案は、第一号「防衛に関する事項」、第二号「外交に関する事項」、第三号「特定有害活動の防止に関する事項」、第四号「テロ活動防止に関する事項」から成り立っている。これは特定秘密の業務を行うことができる者に限定された法律だといった弁解もなされているが、第三号の「特定有害活動」は「有害」であることを誰が決めるのか、第四号の「テロ活動」も何を指して「テロ」というのかが曖昧なままにされているのが問題だと言われている。

・その点の怖さがあからさまになったのが、石破自民党幹事長がブログに書いた、国会議事堂周辺で行われていたこの法案に対する反対行動をさして、「単なる絶叫戦術のテロ行為」と批判したことである。この時期にデモをテロと言ったことは、この法案の目的がどこにあるのかを明確にしたと言えるが、反対の声に対して「聞く耳を持たぬ」といった態度にも底知れる怖さを感じさせた。

・国家が重要な秘密を守るための法律は多くの国が持っている。「特定秘密保護法案」の必要性を説く大きな理由だが、それはまた、「情報公開」や個人の「表現の自由」と両立させなければ、国家による国民の一方的な押さえつけになってしまうものである。しかし、「情報公開法」が施行された時に、各省庁で都合の悪い文書を事前に廃棄してしまったり、重要な会議の議事録がなかったりといった不祥事が露呈したのは記憶に新しいことで、「情報公開法」は不整備のままである。

・「特定秘密保護法」は実際に機能させることよりは、秘密の漏洩や国家批判を事前に押さえつける役割の方が強いという指摘がある。疑いをかけて捜査をしやすくすることができるし、公務員はもちろん、国民を萎縮させる働きがある。橋下市政の大阪では、すでにそのような空気が蔓延しているという指摘もあった。

・マスコミの動きが遅かったのも怪しいが、民主党政権の時には頻繁にしていた内閣支持率の調査が、最近ではあまり行われていないのも何とも不思議な気がする。安倍内閣の支持率は大きく下がるだろうが、法案が通ってしまった後では何の役にも立たないだろう。消費増税が決まり、社会保険制度が改悪された。しかし諦めずに、この政権を倒すために大きな声をあげ続けることが大事で、そうしなければますます、息苦しい世の中になるばかりだと思う。

2013年12月2日月曜日

JFK暗殺から50年

・アメリカ大統領だったケネディが暗殺されて50年になる。アメリカではその記念行事がおこなわれ、日本ではちょうど娘のキャロライン・ケネディが駐日大使になったことで、いろいろ話題にされた。NHKのBSが放送した、J.F.ケネディをテーマにしたドキュメントを続けて見て、僕も改めて50年前のことを振り返ってみた。

・ケネディがテキサス州のダラスを遊説中にライフル銃で狙撃されたのは1963年11月22日午後1時のことである。僕はそのニュースを23日の朝刊で知った。なぜ覚えているかというと、勤労感謝の日の朝で高校受験のための公開模試を受けるために家族より早く起きて、最初に新聞を読んで、驚いて家族を起こしたからだった。このニュースに対する驚きはもう一つ、日米間の衛星中継の最初の放送が、この暗殺というニュースだったことにある。事件が起きたのは日本時間の午前3時で、実験放送は午前5時から20分間、午前8時58分から17分間行われ、ケネディの暗殺が報じられたのは2回目だったようだ。

・僕がテレビでこのニュースを見たのは模試を終えて帰宅した後の夜のニュースだったと思う。大統領暗殺というのもショックだが、それが瞬時に衛星中継によって狙撃シーンまでが放送されたのも驚きだった。ケネディ大統領に対しては、その格好の良さや説得力のある演説、そしてキューバ危機をめぐるソ連のフルシチョフ首相との緊迫したやりとりと、第三次世界大戦が始まるのではといった不安について、中学生ながら関心を持っていた。米ソは保有する核爆弾の量で競い、有人宇宙ロケットで争っていたが、僕は断然ケネディ支持だった。

・BSでは「ダラスより速報 午後1時ケネディ死す」からはじまり、「ケネディ大統領への背信 強硬派との対立」「ケネディ大統領への背信 キューバ危機 そして反転攻勢へ」「リンドン・ジョンソン〜ケネディの後を継いだ男〜」「秘密映像 忘れ得ぬJFK 」「ケネディ家 宿命の子どもたち(前・後編)」「コールド・ケース "JFK"〜暗殺の真相に迫る〜」といった題名のドキュメントが2週間にわたって放送された。

・1963年は日本では東京オリンピックの1年前で、名神高速道路が一部開通し、東海道新幹線もオリンピック開催に合わせて開業するという状況だった。年10%を超える経済成長で所得が倍増すると言われた時代だが、世界では、米ソが衝突する一触即発の危険状態にあったし、米ソに中国そしてフランスなどが行った核実験は福島第一原発事故以上の放射能を世界中にまき散らしてもいた。あるいはヴェトナムに介入したのもケネディで、その戦争を拡大したのは副大統領から大統領になったジョンソンだが、彼はまたケネディのもとではなかなか進展しなかったアメリカの黒人達が主張する公民権法を成立させた人でもある。

・自分の記憶と、これまでに読んだ何冊かの本を思い出しながらドキュメントを興味深く見た。ケネディを英雄視する見方は今でもアメリカでは強いようだ。暗殺についてのCIA陰謀説やマフィアの関与は今のところ否定されているということだった。放送されたドキュメントの中ではケネディ家に続いた悲劇を扱った「ケネディ家 宿命の子どもたち(前・後編)」が、フランス製作ということもあって、距離を置いた描き方をしていて一番おもしろかった。

・その生き残りとも言えるキャロラインがこの時期に駐日大使として日本にやってきた。日本では歓迎ムード一色だが、日米間に生じている問題にどう取り組もうとしているのか。彼女の言動からはまったく読み取れない。TPPや秘密保護法、そして沖縄の基地問題などが、彼女の笑顔でうやむやにされたのではたまらないという気になった。

2013年11月25日月曜日

古典を読もう

・大学生が本を読まなくなった。こんな感想はもう珍しくないが、大学での勉強が本を読むことを基本にしているのは今でも変わらない。講義を聞くだけでは、その時理解できたとしても、身につかずに右から左に流れていってしまう。だから、講義内容に準拠した教科書を作って、予習と復習の必要を毎回くり返して話すのだが、さてどのくらいの人たちが、自覚をしているのだろうか、と思う。

・そんな思いは多くの教員に共有されていて、何とか学生に本を読ませようとそれぞれ工夫をしているのだが、なかなかうまくいかない。で、学部の教員が集まって「コミュニケーション」に関連する書籍を集めた「ブックガイド」を作ろうということになった。一冊を見開き2ページほどで紹介するもので全部で100冊ほど、僕はその中の四冊を受け持った。どれも出版されてから、年月のたった、いわば古典と言われるものばかりだった。

classic1.jpg・D.リースマンの『孤独な群衆』は大学生の時に買って読んだ本である。個々人ではなく一つの社会に生きる人たちに共通して見られる性格(社会的性格)を「近代」を中心に「前近代」「現代」と分けて、その違いを詳説した内容は、読んだ当時も目から鱗といった感じだったが、今でも必要な概念だと思って、講義でも話題にし続けている。

・現代人に共通した「社会的性格」をリースマンは「他人指向型」と名づけた。自分の良心や信念に従って行動するのではなく、他人の言動に注意を向け、他人の反応に自覚的になる。そんな特徴は、リースマンが指摘した時代以上に、現代では顕著になっている。その一番の理由はパソコンやケータイ、そしてインターネットといった情報機器の発達とそれに頼る人の増加だが、僕は最近の分析よりははるかにおもしろいし有益だと思っている。もっとも日本人にとっては「内部指向型」の時期はほとんどなかったから、「伝統指向型」から「他人指向型」への変化ということになる。

・その『孤独な群衆』が最近復刊されていることを知って、買い直すことにした。上下二冊本になって、それぞれ3300円と高額で学生に買えとはとても言えないが、図書館で借りて読んで欲しいと思う。トッド・ギトリンが解説していて、僕はこの文章だけでも、買い直す価値があったと思っている。

classic4.jpg・D.ヘブディジの『サブカルチャー』はカルチュラル・スタディーズ初期の代表作と言えるものだ。70年代にイギリスで台頭したパンクやレゲエは、労働者階級や植民地からの移民の中から生まれた若者文化だった。70年代のイギリスは、英国病と言われて不況にあえいでいたが、パンクとレゲエは一方では、社会の最下層で争う関係でありながら、他方では音楽的に影響しあってもいた。
・社会に対する不満や反抗の叫びとして生まれる「サブカルチャー」は時に、大きな支持を得て、世界的な広がりを見せることがある。二つの音楽はその好例だが、それはまた路地裏の悪魔が大通りの天使に変身する過程でもある。音楽を社会や政治、そして経済の関係から読み解くことのおもしろさを教えてくれる一冊である。

classic2.jpg・J.メイロウィッツの『場所感の喪失』は、以前にこのコラムで取り上げたことがある。メディアを送り手の側からでなく、受け手の側からとらえるとすれば、どうしたらいいか。ケータイやパソコンの利用が普及した現在では、当たり前の視点だが、それらが登場する以前の時代には、気づきにくい発想だった。メイロウィッツはそれをマクルーハンとゴフマンを統合することで試みた。
・テレビはまるで目の前にいる人と直接対面しているかのようにして視聴する。だから活字メディアとは受け取り方が違ってくるし、今自分がいる場所の実感が怪しくもなってくる。ケータイやパソコンは、そんな無場所感を桁違いに増殖させるメディアだが、今では、そんな感覚も当たり前になって、誰も不思議だと思わない。だからこそ、原点に立ち返って考え直すために読む価値がある本である。