2015年1月5日月曜日

基地と原発

 

若杉冽『東京ブラックアウト』講談社

矢部宏治『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』集英社インターナショナル

・沖縄県民が辺野古基地建設に"No"を突きつけているのになぜ、政府は聞く耳持たない姿勢でいられるのか。国民の大多数が原発に反対しているのに、政府はなぜ再稼働を強行しようとするのか。ここ数年ずっと感じていて、昨年暮れの選挙でさらに強く思った疑問だが、正月休みに読んだ2冊の本には、その疑問に答えるヒントが書かれていた。

journal1-172-2.jpg・若杉冽の『東京ブラックアウト』は『原発ホワイトアウト』の続編である。僕はこの本をちょうど去年の正月休みに読んだ。暮れに続編が出たから今年も正月休みに読もうと買い求めた。内容は前作とは違ってずいぶん退屈だと思った。続編とは言っても、前作で起きたはずの福島に続く2度目の原発事故がテーマで、時間だけが1年後になっている。で、前半の話は、政府の中枢にいる政治家と官僚との間で練られ、仕組まれていく原発再稼働のシナリオ作りである。慣例や既得権が何より大事だと考える連中の本当に汚いやりとりが前作以上にうんざりするほど綴られている。

・話は再稼働が実施された2015年の大晦日に新潟の原発がメルトダウンを起こすところから急展開する。東京はもちろん関東一円が放射能に侵され、皇室は京都の御所に移り、政府も京都に移動する。そんな事態の中で数千万人の人たちがどうなったかは、ほとんど描かれない。この小説の視線はあくまで政治家と官僚の対応にあって、それは2度目の事故の後でも少しも変わらない。それに対して大きな役割を演じるのが平成天皇だが、にもかかわらず政治家と官僚は、原発の存続を画策する。

・陛下は誕生日に続いて正月にも、戦後70年にあたるのを機会に「満州事変に始まるこの戦争の歴史を十分に学び、今後の日本のあり方を考えていくことが、今、極めて大切なことだと思っています」と発言し、震災や原発事故の被災者に対しても「かつて住んだ土地に戻れずにいる人々や仮設住宅で厳しい冬を過ごす人々もいまだ多いことも案じられます」と思いやられた。これを精一杯の政府批判と受け止めた人は多かっただろうと思う。憲法を護持すべきという発言もたびたびおこなわれている。

journal1-172-1.jpg・矢部宏治の『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』は基地がなくならない理由を、敗戦直後に昭和天皇とマッカーサーとの間になされた交渉に見つけ出している。そこでおこなわれたのは、日本軍の解体とそれに代わるアメリカ軍の駐留、沖縄の放棄、そして日本国憲法の制定である。天皇制の存続は、日本の社会の混乱を避けることと、天皇の人間性に対するマッカーサーの信頼が大きかった。そこから戦後の日本は、国防はアメリカに任せて経済復興に邁進する道を歩むことになった。

・そして米軍の駐留は日本が国として落ち着いてもずっと70年間継続され続けてきている。その理由は、在日米軍が持つ特権を定めた「日米地位協定」が憲法の上位に置かれたものであることを日本の裁判所が認めたこと(砂川裁判)、日米安保条約が日本の希望として存続し続けてきたことにある。そもそも理想的と思われる日本国憲法は自衛隊が作られたとはいえ、米軍が駐留しつづけてこそ意味を持つものとして制定されたのである。それは日本が軍事大国となり世界の脅威にならないための防波堤だが、同時に日本にとっても経済大国として存在感を示すために欠かせないものだったのである。

・戦後70年経っても日本は被占領状態にある。本書が「基地」をなくせない理由としてあげるのは上記した理由にある。それはアメリカの意向だが、それ以上に日本の希望でもある。そう考える人たちを著者は「安保村」と名づけている。そしてその住人の意識は、「原発村」の住人とほとんど同じものである。だから、大事故を起こしてもやっぱり原発をやめられない。

・この2冊を読んで感じたのは、日本にとって独立とは何で、それはどうしたら可能かということを考える難しさだった。安保条約を破棄して米軍を撤退させれば、自衛隊を軍隊にして軍事大国を目指す動きが出てくるのは明らかだ。ドイツがEUの一員になったように、中国や韓国、そして東南アジアとの間に、共同体とはいかないまでも友好な関係を築くことが不可欠だが、それはまた簡単なことではない。そんな難問について議論を戦わす必要があるという世論はどうやったら盛り上げることができるのだろうか。ほとんど絶望的な思いに囚われたが、ほんの少しだけ未来への道と明かりを見つけた気がした。

2015年1月1日木曜日

人生下り坂最高!

 

forest121.jpg

火野正平が自転車で全国各地を走る番組のなかで
下り坂を突っ走りながら
「人生下り坂最高!」と叫んだ時に
「そうだ!」と同調してしまいました
登りがあれば降りがある
当たり前の話ですが
自転車は降りが楽しいのです
それは山歩きをしていても同様です
そして人生だって、下り坂の方がおもしろくて楽しい
そんなことを負け惜しみではなく実感し始めてきた自分を感じます
仕事からリタイアするのはまだ数年先ですが
そろそろ準備をし始めよう
今年の目標をそんなところに決めました

思えば日本だって、そんなサイクルにあるはずです
何と言っても戦後の日本は団塊の世代と共に成長し、成熟してきたのです
であれば、さらに経済成長などではなく
下り坂をどううまく乗りこなしていくか
国の指導者にはそんな哲学が必要ではないでしょうか
ところが
10年、20年先を見通して現在の政策を考える
そんな主張をする政治家は皆無です
多額の借金を抱えた財政や処分できない放射能のゴミ
広がるばかりの貧富の格差等々……
子孫に残してしまう負債は増えるばかりです

そして、そのことを見ないようにしようとする
そんな空気が蔓延しています
戦前回帰の首相の政策と併せて
何とも行きにくい時代になったと実感しています
こんな空気はどうしたら払拭できるのか
絶望的ですが、一縷の可能性を見つけ出したいものだと思います

今年もよろしくお願いします

2014年12月31日水曜日

目次 2014年

12月

22日:イタリアについて

15日:こんな選挙は無効にすべきだ!

8日:自然解散に追い込まねば

1日:日本百名山一筆書

11月

24日:紅葉とストーブ

17日:ブラウン、U2、そしてディラン

10日:オバマの不人気はなぜ?

4日:老人力とは言うけれど

10月

27日:二人の信頼できる外国人

20日:去年は上原、今年は青木

13日:東京オリンピックと新幹線

6日:山登りの怖さ

9月

29日:拝啓、ガラパゴス島の皆様

22日:朝日叩きに与するなかれ

15日:今度はテニスで大はしゃぎ

8日:ニール・ヤング、エリック・クラプトン、そしてジャクソン・ブラウン

1日:アーサー・ミラー『るつぼ』「セールスマンの死

8月

25日:旅から戻って

18日:ガリシアに来た

11日:バスクをフランスからスペインへ

4日:久しぶりのロンドンとパリ

7月

28日:自転車に乗って

21日:CM出演は金目でしょう

14日:南アフリカのジャズ

7日:拝啓安倍総理大臣様

6月

30日:スペイン再び

23日:雨にも負けず

16日:この国の行き先

9日:MLBの日本人選手

2日:ガリシアのケルト

5月

26日:音楽の変遷

19日:K's工房個展案内

12日:薪割り完了

5日:テレビよりラジオ

4月

28日:リニアと原発

21日:消費税と高速道路

14日:春が来た

7日:ニュージーランドの旅

3月

31日:ニュージーランドから

24日:ジェフ・ブリッジ

17日:エイモリー・ロビンス『新しい火の創造』ほか

10日:大雪騒動で考えたこと

3日:『竹内成明先生追想集』

2月

24日:熊野古道を歩く

17日:どか雪2連発

10日:都知事選が終わって

3日:NHKはAHK

1月

27日:都知事選に期待?

20日:今年の卒論

13日:アムネスティ『Human Rights Concerts 1986-1998』

6日:正月休みに読んだ本

1日:厳冬の時代へ

 

2014年12月22日月曜日

イタリアについて

川高志『新・ローマ帝国衰亡史』岩波新書
岡田温司『グランドツアー』岩波新書
井上ひさし『ボローニャ紀行』文春文庫

・イタリアと言えばまず、パスタやピザで、我が家でも欠かせないメニューになっている。あるいは映画にも記憶に残るものが少なくない。しかし、それ以外にはあまり知らないし、関心がない国だった。そんな国に興味を持ったのは、ヨーロッパに行ったときに、水道橋や城壁、あるいは闘技場といったローマ帝国の遺跡が各地にあることだった。その多くの町は、そもそもローマ帝国が作ったところから始まっていて、その歴史について知りたいと思った。

italy1.jpg・ローマ帝国は紀元前三世紀の初めに半島を統一し、その領域を地中海周辺から北はイギリスまで広げ、五世紀まで続いた大国である。その長い歴史の中で君臨した皇帝の名前すら、覚えることはできないが、『新・ローマ帝国衰亡史』は、歴史を追ってどのように推移し消滅したかがよくわかる本である。「新」とついているのは古典であるギボンの『ローマ帝国衰亡史』を意識しているからだ。

・アルプスを越えた遠征はカエサルの時代からだが、たとえばライン川に沿ってある町の多くは、その時に作られたものが多いようだ。その代表はドイツのケルンで、この地名の語源は「コロニア」(植民市)である。ローマ帝国が作った町はロンドンが有名だが、パリもまた先住民の集落に過ぎなかったものがローマ帝国によって町として整備された。

・整備された町に住むのはローマ人だけでなく、むしろ占領された人びとの方が圧倒的に多かった。その人達はローマ人であると自認すれば、ローマ帝国の市民になり、ローマ軍の兵士になることもできた。ローマ市民であれば、上下水道の整備された町で生活し、浴場や闘技場で娯楽の時を持ち、ローマ風の衣服を着ることが当たり前とされた。ローマ帝国がたえず戦争状態にありながら、長く大国を維持できたのはこんな政策によるのだというのが本書の主張である。

italy2.jpg・ローマ帝国が滅亡すると、イタリア半島は近隣の諸国にくりかえし占領されることになる。次に勢いを再生させるのは1000年近くも過ぎた時代で、フィレンツェやヴェネツィアに代表される都市で起こった「ルネサンス」とその動きを支えた豪族である。ミケランジェロやレオナルド・ダ・ビンチといった巨人が登場し、絵画や彫刻、あるいは建築物が多く作られた。

・岡田温司の『グランドツアー』は18世紀に盛んにおこなわれたイギリスやフランス、そしてドイツからイタリアを訪れる貴族の子弟や文学者や哲学者、そして芸術家達を取り上げたものである。この時代にはまたイタリアは国としてはもちろん、都市としても勢いがあったわけではない。しかし、ヨーロッパの文化的源流として、一度は訪れてじかに触れる必要がある場所として認識され、また流行現象にもなった。

・この本が力説するのは、現在のツーリズムの基本になっている名所旧跡や景勝地の誕生と、それが何より「絵になる(ピクチャーレスク)」ものとして定着したことにある。活躍したのは画家達で、訪れる価値のある風景や旧跡を背景にして、注文した人物を描き入れる。今では記念写真として旅行には当たり前の行為も、このグランドツアーから始まっているというのである。そもそも、一つの風景に対する注目と絶賛も、ゲーテやルソーなどによって発見されたことで、「風景」という発想自体がきわめて新しいものなのである。

italy3.jpg・イタリアは現在でも有数の観光立国で、世界遺産の数も世界一位である。日本人の訪問数は年間30万人前後で、ドイツやフランスの半分ほどだが、イギリスやスペインとは肩を並べている。人気の旅行先の一つだと言えるだろう。ただし、盗難や詐欺の被害に遭ったという話が多いから、その分敬遠されているということがあるのかもしれない。

・たとえば井上ひさしの『ボローニャ紀行』も、ミラノの空港で一万ドルと百万円の現金が入った鞄を、煙草を吸っている間に盗まれたという話から始まっている。こんな事件は日常茶飯のようだが、実はこの種の話は18世紀のグランドツアーの時代にもあったようだ。そして、イタリア人の一般的な感覚は、犯罪を悪として考えるよりは、被害に遭わないよう自衛することが大事というものらしい。

・この考え方はもっと社会的、政治的な考えにも通底していて、政府がダメでも都市がしっかりと自治をしていけばいいという発想に繋がっている。それはまた、井上ひさしがボローニャに滞在して、一番印象に残ったことでもあった。国よりは都市、そして都市よりは個人。さて、もう少ししたらイタリアに出かける者としては、そんなふうに何があっても自己責任と心得ることができるかどうか。

2014年12月15日月曜日

こんな選挙は無効にすべきだ!

 ・何ともひどい選挙だったと思う。大義名分がないというのは選挙を仕掛けた安倍首相に対するものだが、だったらこの政権に「ノー」をつきつけるチャンスになったはずなのに、ほとんど批判するような風も吹かなかった。何しろ投票率が50%をちょっと超えた程度だったのだから、安倍首相にとっては思うつぼというものだろう。

・この選挙は日本の将来を大きく左右する。もちろん悪い方向に向かって歩を進めるはずだから、若い人たちほど、その影響を受けるのは間違いない。「集団的自衛権」は戦争のできる国になることを目指したものだし、「秘密保護法」は上からの管理や監視を強化した息苦しい国に変えるだろうし、「アベノミクス」の行き着く先は経済破綻への道だろう。もちろん「原発再稼働」や「年金の破綻」「TPP」など、ほかにも日本の未来を左右する重要な問題はたくさんある。

・こんな大事な選挙なのに、棄権した人が一番多いのは20代だったようだ。若い世代を中心にした政治不信、というよりは政治嫌悪だと言った人もいたが、身近な大学生達を見ていると、無関心と言った方がいいのではないかと思った。自分にはあまり関係ないからと言うのだが、そこには自分のためにはあまり関心を持たない方がいいといった計算が働いているようにも感じられた。

・就職をして無難な人生を歩むためには、政治に関心など持たない方がいい。彼や彼女たちはそんな空気を感じ取っているのである。けれども、そんな空気は、若い人たちの間だけではなく、他の世代の中にも淀んでいるし、何よりメディアの中にこそ顕著にある。しかもそれをいいことに自民党は、選挙の公示前にテレビ局に圧力をかけたりもした。

・その選挙報道は中立公正になどといった脅しがきいたのか、期間中のテレビ放送では前回に比べて選挙を取り上げることが半減したようである。そのくせネットではYoutubeなどを見るたびに安倍の広告が登場したりして、資金の有無が露骨に見えたりもした。やってることがとにかく汚いとしか言いようがなかったのである。

・そもそも今度の選挙はいくつもの理由で違憲だと言われている。国会で内閣不信任の決議がなされたとき以外に、首相の裁量で解散ができるという規定が憲法に書かれているわけではないし、一票の格差が違憲状態だとする判決が出ているにもかかわらず、今回も2倍を超えた選挙になっているのである。この裁判については必ず訴訟が起こるはずで、もし「違憲状態」ではなく「違憲」という判決が出れば、選挙は無効になって議員は辞職してやりなおすことになるのである。

・もちろん、三権分立のはずの司法に、そんな判決を出す勇気があるとは思えないから、今度もまた「違憲状態」などというよくわからない裁定を下すのと思う。これではもうはっきり言って独裁政治のはじまりだと思う。暗澹たる思いに囚われてしまっているが、たった一つだけ光明が見えた。それは沖縄の全選挙区で自民が負けたことである。沖縄が蟻の一穴になって、安倍政権が崩壊することを願うのみである。

2014年12月8日月曜日

自滅解散に追い込まねば

・衆議院の選挙が14日におこなわれます。何のための解散で、争点は何か。よくわからない選挙だと言われています。だから、投票率は低くなって、固定票の多い与党が優位になるだろうと予測されてもいるようです。しかし、何のためも、争点も、これほどはっきりした選挙はないと思います。

・選挙を仕掛けた安倍政権は「アベノミクス」の信を問う選挙だと宣言しています。しかし首相がこの2年の間にやったのは「集団的自衛権」「秘密保護法」「TPP」「消費税増税」「年金の減額」「介護保険制度の改悪」「残業手当の廃止」、「憲法の軽視」、そして「原発再稼働」などたくさんあって、その多くは前回の選挙公約にはなかったのです。ですから、今度の選挙が、その政策全体に対して国民が「イエス」か「ノー」の意思表示をする機会でなくて何なのかと思います。

・「大義がない」「争点がない」選挙だから選挙に行ってもしょうがない。そう考えて棄権する人が多いのかもしれません。争点を明確にしてくれたら選挙に行くといった言い訳も聞こえてきます。しかし、争点は政党やマスコミが作るものではなく、有権者が自ら判断して決めるものではないでしょうか。現在の日本は、政治を他人事にしておけるほど、平和でも平穏でもない状況にあります。その元凶である安倍政権が、批判の多い政策は隠して選挙をして、あと4年の延命を図ろうとしているのが今回の選挙なのです。

・前回の衆議院選挙で自民党が大勝したのは、民主党の他に第三極と呼ばれた小さな新政党が乱立したせいだと分析されています。自民党の投票総数自体は、その前の民主党政権を誕生させた選挙と変わらなかったのです。おそらく、自民党票は、今回もやっぱり同数程度になるでしょうから、対立候補の乱立を避けて一本化すれば、多くの選挙区で逆転現象が起きるかもしれません。実際いくつもの選挙区で、一本化が実現されたようです。であればなおさら、安倍政権を支持しない人たちは棄権ではなく投票に行くべきだと思います。

・僕は雪崩現象が起きて、安倍政権が自滅することを期待しています。アナクロで強権的で情緒不安定な人がまた4年も首相を続けたのでは、この国はどうしようもないところまで落ちてしまうと思うからです。マスコミは彼の提灯持ちに徹するか、仕打ちを恐れて怖々(こわごわ)批判するかの2極に分かれています。ですから、安倍政権がこの2年間でやったことについて、正面から批判的な論陣を張る新聞社はほとんどないようです。テレビ局はもっと弱腰ですが、自民党からは「中立公正に徹せよ」という要請が各局に押しつけられたと報じられました。「中立公正」が政権批判をするなという意味の「ダブルスピーク(二重語法)」であることは言うまでもないでしょう。

・もうひとつ、衆議院選挙時には、同時に最高裁裁判官の国民審査がおこなわれます。罷免したい人に×をつけるのですが、いったい誰が罷免すべき人なのか、よくわからないのが多くの人にとっての感想だろうと思います、しかし、今回はこれも違うようです。日本の選挙の現状は衆参共に一票の格差を理由に「違憲状態」という判決が続いています。その最高裁での裁定が11月26日にやはり「違憲状態」との判断を下しました。しかし、裁判官の中で、より明確に「違憲」で選挙は無効だと宣言した人が2人いたようです。

・違憲であることを訴えて選挙をしてきた弁護士グループが、国民審査でその2人以外の裁判官に×をつけるよう主張しています。違憲と言ったのは山本庸幸と鬼丸かおるの両裁判官です。この二人には何もつけず、残りにxをつけるという要請で、僕はそれを実行するつもりです。

2014年12月1日月曜日

日本百名山一筆書き

・日本の山から名山を百座選んだのは、作家で登山家の深田久弥だった。一人の判断で選ばれた山々だが、今ではそれがすっかり定着して、日本の山の価値基準になっている。一般的には高い山が多いから、ぼくはあまり登りたいと思わないし、実際、登れそうもない山が多い。その百名山を一気に登り、しかも山と山の間を歩いて移動するという試みに挑戦した人がいた。最南端の屋久島と鹿児島、紀伊水道、津軽海峡、そして最北端の利尻島にはカヤックで渡ったというから、恐れ入った冒険だと思った。

・冒険の主は田中陽希という名のプロのアドベンチャーレーサーで、その行程がNHKのBSで「グレイトトラバース・日本百名山一筆書き」というタイトルで放送された。屋久島の宮之浦岳に登ったのが今年の4月1日で、百座目の利尻山に登ったのが10月26日だから、ほぼ7ヶ月かかったことになる。その間の移動距離は7800kmで累積の標高差は10万mにもなったようだ。僕はその1回目の放送(5月24日)をたまたま見て、ずっと注目し続けてきた。

・山のガイドブックには行程にかかる時間が書かれている。僕はその時間通りに歩くことを目安にしているが、彼は大体、その倍の早さで登り、歩いている。だから一日のうちに2つ、あるいは3つの山を走破することもあった。その体力にはただただ感心するばかりだが、山登りではなく、移動のためのアスファルト歩きの方がつらそうで、体の変調が出ることが多かったようだ。

・たとえば大分県の九重山の後は鳥取の大山で、その後は愛媛県の石鎚山だった。この間半月以上を移動に使っている。アスファルトの道歩きは自転車にした方がもっと楽で早かっただろうに、どうしてそうしなかったのだろうと呟きながら見た。もっとも山に入ると元気になって、いかにも楽しそうな様子が伝わってきた。

・見ていて気になることは他にもあった、全行程を記録するために同行しているスタッフは、一緒に歩き、登っているのだろうか。いったい何人がついているのかといったことである。いい画像を撮るためには、いつも後ろから追っかけるだけではだめで、時には前から撮り、あるいは遠くから望遠でとらえることも必要になる。小型のヘリにカメラを乗せて上空から俯瞰するシーンもあったが、先回りをしたり、小走りで追い抜いたりして撮ったはずだから、撮影スタッフの方が大変だったのではと思った。

・この行程は田中自身が"twitter"や"facebook" に書き込んでいたから、山の頂上などで待ち構える人が徐々に増えていった。一番ひどかったのは関東周辺に来たときで、丹沢山では麓から頂上まで大勢の人がいて、彼自身が戸惑いを見せるシーンも映し出されていた。その多くの人たちが握手を求め、「がんばって」と声をかけ、サインをねだっていた。応援というよりは偉業に立ち会いたい。できればテレビにも映りたい。そんな自分勝手な人が多いことに、田中本人も時にストレスを感じていた。

・とは言え、テレビで放送されるからには、そういうことも予測されたはずである。装備や衣服、携帯食、サプリメント、カメラ、地図などといった必需品にはすべてスポンサーがついていたし、他にも医療関係や通信会社、それに警備会社などのサポートも受けていたようだ。おそらく、NHKからもそれなりの報酬を受け取っているはずである。プロのアドベンチャーなら当然だが、メディアイベントならファン・サービスもしなければならない。今回の挑戦で彼が勉強したのは、何よりそのことなのかもしれない。

・このドキュメントは4回に分けて放送され、最後は11月の23日だった。東北から北海道の利尻山までの行程を2時間にわたって放送する予定だったのだが、羊蹄山に登ったところで長野北部の地震で中断してしまった。田中が震源近くの白馬岳を歩いたのは6月の末だったし、噴火で死傷者を多数出した御嶽山の登頂は6月11日だった。長期間の行程であれば何が起こるかわからない。中断した後の地震速報を見ながら、僕は改めて、そんなことを実感した。

・最終回は29日に放送されなおした。御嶽山の噴火の時、彼は北海道富良野の実家にいた。蓄積された疲労がどっと出て、歩けなくなって1週間ほど休養した。だから雪の季節が間近に迫っている中を羅臼岳に登り、オホーツク沿いに稚内まで歩いて、カヤックで利尻島に渡ることになった。向かい風が最大で20mも吹き、3mの荒波で転覆もした。利尻山登頂も、強風で一度引き返している。彼の体力と意志の強さに感心したが、幸運と強いサポートがなければ達成できなかった偉業だとも思った。