・50
年代というのは若い世代の主張が激しかった60年代に比べて、話題になることが少ない。けれども、考えてみれば60年代の若者たちを育てたのは、50年代なのである。だから、60年代がなぜあのような時代だったのか知りたければ、むしろ、50年代を調べる方が近道なのかもしれない。
・D.ハルバースタムの『ザ・フィフティーズ』を読んで、再認識させられたことがいくつかある。戦後育ちのぼくにとってアメリカは最初から豊かな国だった。最初からということは、ぼくにとってはずっと昔からということを意味していた。自動車、カラー・テレビ、大型冷蔵庫、ハンバーガー、コーラ、高速道路に大きなスーパー・マーケット、あるいはホリデイ・イン..........。
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ところが、この本を読むと、そういった現在でもアメリカのイメージを代表するもののほとんどが、50年代に生まれたことがよくわかる。例えば、マクドナルドのハンバーガーはロサンジェルスに近いサンバナディーノに1940年に開店した店が出発点になっている。店は繁盛したが、これを全国チェーンにしたのは、マクドナルド兄弟から1954年にフランチャイズ・エージェントを引き受けたレイ・クロックだった。そしてケンタッキー・フライド・チキンやさまざまなファミリー・レストランのチェーン店が生まれる。
・アメリカは40年代に全国の高速道路網を整備した。そこにいち早く着目して、全国チェーンのモーテル「ホリデイ・イン」を作ったのはケモンズ・ウィルソンである。あるいは、郊外に新興住宅(レヴィット・タウン)を量産したビル・レヴィット、ディスカウント・ショップ「コーヴェッツ」をニューヨークではじめたユージン・ファーコフ。そのアイデアを借りて作られたオモチャのチェーン店「トイザラス」。
・50年代を象徴するのは他にもたくさんある。テレビの普及と映画の変容、あるいは、LPやドーナツ盤によって生まれた新しい音楽市場。マーロン・ブランド、ジェームズ・ディーン、マリリン・モンロー、エルビス・プレスリー、そして「アイ・ラブ・ルーシー」のルシル・ポール.............。もちろんタレントやスターの出現は芸能界に限らず、政治、経済、社会のあらゆる分野から出現する。というよりは、注目される人、されたい人はタレント的な才能をもたなければならなくなった。
・ハルバースタムはアメリカの豊かさを大衆化した時代が50年代であることを詳細に展開する。それは、一方で水爆や冷戦といった緊張をはらみつつも、個々の人にさまざまな欲望を自覚させ、それが実現可能だと思わせはじめた時代だった。郊外にもったマイ・ホームとテレビ、買い物はスーパー、自動車をつかった高速道路の旅。宿泊はどこでも安心なモーテル。大事に育てられる子供、魅力的な妻や懸命な母になろうとする女性たち。キンゼー・レポートとピル、『プレイ・ボーイ』の創刊。
・けれども、その豊かさの大衆化が、また、さまざまな不満や批判を自覚させる原因になる。60年代の若者の反乱の出発点がすでに、ディーンの映画やプレスリーのロックンロールに見つけられるように、フェミニズムや黒人(アフリカ系アメリカ人)による公民権運動の出発点も50年代にある。もちろん、ヴェトナム戦争が米ソの対立する冷戦構造から生まれたものであったことはいうまでもない。
・このように見ると、もうすぐ20世紀が終わろうとしている現在について考えようとするときにまず見つめなければいけないのは、50年代という時代であるような気がする。
1998年2月1日日曜日
D.ハルバースタム『ザ・フィフティーズ』上下(新潮社)
1998年1月25日日曜日
世間体とゴミ
井上忠司の『世間体の構造』(NHK出版)には村と村の境目にゴミの山ができる習慣が古くからあって、それが顔見知りの他人の目を気にする日本人独特の風習であることが書かれている。環境問題に自覚的になって、ゴミの選別にやかましい自治体が増えているが、「世間とは顔見知りだけの狭い世界なり」といった日本人の感覚は、まだまだ健在である。それは例えば、道路のグリーンベルトに散乱する空き缶などをみてもわかる。さすがに町中でのタバコの吸いがらのポイ捨ては減ったが、人の目が及ばないところ、自分が匿名のままでいられるところでは、ついつい昔の癖が出てしまうようだ。 |
1998年1月19日月曜日
『ザ・ファン』(1996) 監督:トニー・スコット、主演:ロバート・デ・ニーロ 、ピーター・エイブラハムズ(原作)早川書房
1998年1月12日月曜日
"The Bridge School Concerts"
1998年1月5日月曜日
鶴見俊輔『期待と回想』上下(晶文社)
・鶴見俊輔は17歳でハーバード大学に入学し、20歳で卒業している。太平洋戦争が始まって投獄され、日本に強制送還されたから、実質的には2年半、その間に、ウィリアム・ジェームズやパース、G.H.ミード、そしてJ.デューイを読み込んでいる。シンガポールでの戦争経験の後、27歳で京大の助教授になった。プラグマティズム、転向研究、そしてさまざまな大衆文化論、そして『思想の科学』の編集とベ平連。
・ぼくにとってはもう30年ほど、とにかく、すごい人、偉い人、それに何より信頼できる人としてありつづけてきた。そんな鶴見さんが、インタビューを受ける形で、自伝的な本を出した。この本は改めて、彼の思考のスタイルとその発想の原点を垣間みさせてくれる。
・彼の父は鶴見祐輔、母方の祖父は後藤新平。その「日本の上位1%」の家系の中で育ったという生い立ちが彼の発想の原点にはある。もちろん、その後ろめたさを自覚するのはある程度成長してからだが、しつけの厳しい母親との関係が彼の性格や思考に与えた影響は恐ろしく大きかったようだ。「何でもかんでも叱ったね。わたしの存在自体が気にくわない。しかもそれは過剰な愛のためなんだ。」
そんな、行き場のない気持ちの向けどころはフィクションの世界だった。彼は3、4歳の頃から本を読み始めるが、その大半はエロ本だと言う。「和田邦坊の『女可愛や』や宮尾しげをの『軽飛軽助』は女を裸にするところがあって、『いやあ、いいなあ』と感激したのを覚えていますよ。」
・飛び抜けた秀才がなぜ漫才やマンガにあれほど肩入れをするんだろう。ぼくは正直言って今一つしっくりしない疑問のようなものを持ち続けてきた。実際大衆文化の研究家には、自分の本当の趣味はもっと高尚なものに向けられているといった人たちが少なくない。けれども、この本を読んでいるうちに、そんな疑問がすっきり解消したような気分になった。彼にとってマンガや大衆文学は、何より自分が自分でいられる場をかろうじて提供してくれるものとしてあったのである。
・権威や権力、原理原則、体系だった思想、純粋で高級な文化。鶴見俊輔にはこのようなものに危うさ、胡散臭さを感じとる姿勢が貫かれている。彼はそのようなものの対極にあって希望の託せる存在として大衆やその文化に期待する。「無関心に依拠して戦う。それがわたしの望みなんですね。『がきデカ』に期待する、というのはそういう意味なんですよ。」
・もちろん彼は、自分が大衆そのものだなどと思っているわけではない。「私のポジションは、サンチョ・パンサに憧れるドン・キホーテだったと思う。ドン・キホーテそのものでもない。またサンチョ・パンサそのものでもない。ドン・キホーテから学ぶサンチョ・パンサでもないんだ。」
・鶴見は吉本隆明とは違って知識人と大衆とをまったく異なる存在としてはとらえない。「私は連続体として考える。そういうふうに切れないというのが私の考えです。知識人は大衆と相互乗り入れをしている。」ぼくは鶴見俊輔を、そのことを身をもって感じとり、一つの思想に仕立て上げた人だと思うが、この本は、そのことをつくづくと実感させてくれるような気がした。
1997年12月31日水曜日
目次 1997年
12月
30日:目次
25日:山崎
2日:やっと見つけた!!
11月
24日:Patti Smith "peace and noise"
17日: 中野不二男『メモの技術 パソコンで知的生産』(新潮選書)
11日:永沢光雄『風俗の人たち』筑摩書房,『AV女優』ビレッジセンター
11日:京都の秋
10日:ホームページ公開1年
3日:B.バーグマン、R.ホーン『実験的ポップミュージックの軌跡』勁草書房
10月
20日:『デッド・マン・ウォーキング』
12日:"Kerouac kicks joy darkness"
1日:ジョン・フィスク『テレビジョン・カルチャー』(梓出版社)
9月
15日:『NIXON』オリヴァー・ストーン(監) アンソニー・ホプキンス(主)
3日:高校野球について
8月
26日:ぼくの夏休み 白川郷、五箇山
17日:ミッシェル・シオン『映画にとって音とは何か』(勁草書房)
5日:The Wall Flowers "Bringing Down The Horse"
7月
22日:富田・岡田・高広他『ポケベル・ケータイ主義!!』(ジャスト・システム)
15日:大学生とメール
8日:Neil Young "Broken Arrow""Dead Man"
5日:リービング・ラスベガス』マイク・フィッギス(監)ニコラス・ケイジ(主)
1日:ガンバレ野茂!!
6月
23日:『ブルー・イン・ザ・フェイス』 ポール・オースター、ウェイン・ウォン
16日: 津野海太郎『本はどのように消えてゆくのか』(晶文社),中西秀彦『印刷はどこへ行くのか』(晶文社)
10日:学生の論文が読みたい!!
7日:『恋人までの距離』Before Sunrise、『Picture Bride』
5月
31日:Van Morrison "The Healing Game"
27日: ジョゼフ・ランザ『エレベーター・ミュージック』(白水社)
25日:「矢谷さんと中嶋さん」
7日:連休中に見た映画
4月
30日:Tom Waits "Big Time""Bone Machine""Nighthawks at the Dinner"
25日:村上春樹『村上春樹、河合隼雄に会いにいく』(岩波書店)『アンダーグラウンド』(講談社)
3月
30日:Bruce Springsteen "the ghost of tom joad",U2 "Pop"
15日:『ファイル・アンダーポピュラー』クリス・トラー(水声社)ほか
10日:Beck "One Foot in the Grave",The Smashing Pumpkins "Mellon Collie and the Infinite Sadness"
10日:ミネソタから舞い込んだメール
8日:容さんが死んだ
4日:知人の病気
2月
26日:Marianne Faithfull(バナナ・ホール、97/2/25)
20日:Bob Dylan(大阪フェスティバル・ホール、97/2/17)
1月
1997年12月25日木曜日
山崎
館内には、陶器(河井寛次郎、濱田庄司、バーナード・リーチ、ルーシー・リー)、絵画(モネ)、そのほか彫刻などが展示されています。ぼくはここのベランダで珈琲を飲むのを楽しみに、ときどき出かけます。この日は町民には無料で入館できる日でした。なお隣には快楽の神様「聖天さん」があって、おもしろい幟がはためいていました。 |
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12月 26日: Sinéad O'Connor "How about I be Me (And You be You)" 19日: 矢崎泰久・和田誠『夢の砦』 12日: いつもながらの冬の始まり 5日: 円安とインバウンド ...
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